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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第七部:殺戮
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なんだか随分久し振りに喫煙描写が入った……。


大体の確率ですが、作中で誰かが喫煙してる描写が入る時は作者も喫煙しながら書いていた可能性大ですね。




〜和樹 side〜


それは執務中の事だった−−


<−−隊長!!今すぐ駐屯地に急行して−−こっち来んなぁぁぁぁ!!!!>


<大尉も今すぐ来て下さい。…なんというか…自分達の手には負えない状況なので>


「……済まん、要領を得ないんだが…」


「相棒に同じく」


<…まぁ…来て貰えば判りますんで。それじゃ>


「「?」」


こちらの状況を考慮せず、唐突に掛かって来た通信は駐屯地からだった。


俺のトランシーバーには歩兵の中尉、相棒にはヘリの中尉からである。


「……なぁ相棒。なんだったんだろうな?」


「俺に聞くな」


相棒へ悪態を吐き、互いにトランシーバーを腰に巻いた弾帯へ戻す。


「……あの…和樹様、行かなくて宜しいのですか?」


「……執務中に抜ける程の用事ではないでしょう。本当に非常時ならもっと簡潔かつ緊迫しています」


イヤホンを繋げていなかった為、周囲に漏れていた通信を聞いていたのだろう子明殿が俺達へ視線を交互に送りつつ問い掛けて来るモノの、それには当然の答えを返す。


「いや…私には充分すぎるほど緊迫して聞こえたんだが…」


「そう思うか?」


「あぁ」


「…なら相棒に一度、耳を診てもらうと良い」


「Welcome、安価で診察するぜ♪分割払いは要相談だけどな♪」


「い…いや、大丈夫だ。大丈夫だから…ニコニコ笑いながら私を見ないでくれ…頼む」


皮肉と冗談混じりの台詞を吐けば相棒がそれに乗っかり、華雄は−−−小刻みに震えつつ相棒から顔を背けた。


「…まぁ、本日の執務が終わったら……駐屯地へ顔は出しますがね」


「あっ俺も俺も♪烹炊長が今晩はカレーだって言ってたし♪」


「…飯目的か。というか…お前、カレー好きだったか?」


「ん?…まぁケバブには劣るけど割とな。…それと飯目的で何が悪い。お前と違って俺は屋敷で独り暮らしなんだよ」


「「……?」」










そんなこんながあって、仕事帰りに駐屯地へ寄ったのだが−−−


「……中尉、大丈夫か?」



「……………はい…」


「…脈拍…105だな。典型的な頻脈……この場合は極度のストレスって所か。お大事に」


「……済みません…」


「…こう言うのは酷かも知れんが……治した方が良いんじゃないか?」


「つ−か、軍用犬とかはどうだったんだよ?」


「…善処します……軍用犬ですか?…近付かないようにしていました…」


「ってか、元々の要因って何よ?」


「…子供の頃、近所で飼われてたバーナードに顔を“ガブッ!!”と…」


「“かぷっ♪”の間違いじゃねぇの?」


「…いえ、間違いなく“ガブッ!!”でした…」


「「………」」


テント内部にいくつも設置した野戦ベッドの上に息も絶え絶えで寝そべる中尉から相棒が呆れた溜息を吐き出しつつ離れる。


「…取り敢えず、煙草でも吸って落ち着いたらどうよ?」


「…それは医者としてどうなんだ?」


ほとんど投げ遣りに中尉へ言い捨てつつ空いているベッドに腰掛ける相棒へツッコミを入れるが……野郎は肩を竦めながら煙草を銜えるだけだった。



「……面目ありません」


「ほんっとーにな。…まさか“アレ”が原因で、こっちへ急行しろって通信したのかよ?」


「……はい」


「…お前、マジで士官学校次席卒だったの?」


「…マジです。…卒業後はキャリアの為に陸大を受けようと思ってたぐらいです…」



「…犬が大嫌いの陸軍士官って滅多に居ねぇと思うぞ?」


「…ふむ…高所恐怖症のパイロットと同じぐらいレアだな」


「うっ…」


俺達−−上官二人に冗談半分、皮肉半分の言葉を投げ掛けられ、中尉はすっかり萎縮してしまった。


「……なぁ相棒」


「あん?」


「まだ聞いてなかったんだけどさ……“アイツら”何処からお前を追って来たんだ?」


「…おそらく益州からだろう。なにせ成都で別れたからな」


「……マジか?」


「おそらくな。…しかし…どうやって追って来たのか…」


「……隊長の匂いを…手掛かりにして、ではないかと…」


中尉がくぐもった言葉を発しつつベッド上で身体を起こす。


「相棒の−−ってか、起きて大丈夫か?」


「大分、楽になりました。…益州からこちらまでの帰還中、何度か整備と給油、馬達の休憩に着陸したのは覚えていますよね?」


「あぁ」


「おそらく点々と残った隊長の匂いを辿って、ここまで遥々、追って来たんでしょう」


「はぁ〜……本当にそうならスゲェわ。……そんで少佐殿?」


「…あん?」


ベッド上で顔だけを俺へ向けつつ相変わらず煙草を吸っている相棒を見遣る。


「飼うの?」


「…ふむ…」


「−−−ッ!!!!」


顎を撫でながら黙考していると相棒が座るベッドの奥で身体を起こしている中尉が激しく頭を振る。


是が非でも拒否したいのだろうが……お生憎様だな。


「…まぁ…ここまで遥々来たってのに、また何処ぞへ捨てるのもな…」


「ヘタすると、どっかの誰かに駆逐されるかもだし」


「うむ。中尉−−−」


「反対です俺は反対します誰が何と言おうと反対します断固反対です受け入れてくれないとストライキ起こしますそれでも良いんですか!!!!!!?」


……息継ぎもせず長々と良く喋れるモノだ。


巷で自分の旦那の悪口を言う奥様方と同じレベルだろう。


「…まだ何も言ってないだろう」


「長い付き合いなので判ります!!どうせ“中尉、犬小屋と飼育スペースを確保しろ”とでも言うつもりだったんでしょうが!!?」


「良く判ったな」


「…ってか俺も簡単に想像できちまった」


……付き合いが長いというのも考えモノだな。


「−−なら、俺が部隊長に就いた時と同じく多数決で決めるか」


「……それなら……」


「俺も別に良いぜ」


承諾を聞き、身を翻すとテントを出た。


もうすぐ太陽が西へ沈む。


降り注ぐ赤い西日を受けながら、部下共が屯している場所まで近付−−


「−−総員退避ぃぃぃぃ!!!」


−−き声を掛けようと思った矢先、部下共がバッと散開し周囲が開けた。


その瞬間−−生暖かい水滴が俺の顔に掛かる。


「……………」


無言でスラックスのポケットからハンカチを取り出すと顔面を拭き、それを仕舞う。


視線を足下へ送れば、五頭の狼達が尻尾を振りつつ俺を見上げていた。


…部下達にすっかり毛並が汚れた狼の洗浄を任せていたのだが……これがその礼なのだろうか。


「……まぁ良い」


気にしたら負けだ、と自分へ言い聞かせ、周囲で俺を心配気に見詰めている部下共へ向き直る。


「−−さて、貴様等に尋ねたい事がひとつある。なに簡単な事だ、難しく考えなくて良い」


そう切り出し、おもむろに足下で相変わらず尻尾を振る狼達を指差す。


「−−この狼達は遥々、益州から俺達を追って来た可能性が非常に高い。知っている者も居るだろうが、俺は一度、コイツらを成都で置き去りにした。……ここまでやって来た者達−−喩え、それが畜生でも再びそんな境遇へ落とすのは個人的には不本意極まりない」


一旦、口を閉ざし呼吸を整えていると……テントから近付いて来る相棒と中尉が視界に入った。


……中尉の奴は相棒の背中に隠れつつ、だが。


「−−しかし俺個人と貴様等とでは考え方に相違があるのは当然だ。だからこそ問いたい。この五頭の狼達を駐屯地で飼育−−いや、俺達の仲間として受け入れるか、それを貴様等に問いたい」


そう述べると居並ぶ部下達を見遣り、口を開く。


「−−では多数決を取る。賛成の者?」


大多数の部下達−−この場にいる中尉以外の奴等が挙手する。


それらを確認し、俺も軽く挙手すると、手を下ろした。


「……賛成過半数で可決だが……一応、聞こう。反対の者?」


「−−−ッ!!!!」


素晴らしいほど胸を張り挙手するのは中尉ただ一人のみ。


……相棒の背中に隠れながらだが。


「…では、可決だ。寝床を準備してやれ」


『イエ〜〜〜イ♪』


次々と笑顔でハイタッチを決める部下達とは対照的に中尉は………世界の終末を通り越して審判の日を迎えた人間のような表情だ。


「中尉諦めろって。…それに良い機会だぜ?」


「…ストライキ起こすのにですか?」


「いや違うから。ってか、お前にストされると困る。トラウマ克服するのに、だよ」


「………」


「失敗しても良いからアイツらの世話とかしてみろ。その内、克服できるかもだし」


「はっ……頑張ってみます……」



……相棒と中尉がなにやら顔を見合わせ、話しているが……どんな内容なのかは窺い知る事は叶わない。


…まぁ、奴のトラウマ云々に関する事だろう。


俺へ寄って来る狼達を順番に撫でつつ、腰からトランシーバーを取り、チャンネルを開く。


<−−へ〜〜イ♪毎度ありがとうございま〜す♪こちら神様宅急便で〜〜す♪>


「どうも」


<お客様…大分、弊社の後払いシステムをご利用してますねぇ…。費用が溜まってますよぉ?>


「金取るのか?それは初耳だな」


<…いや冗談だから。で、なに?今ちょうど、カラオケで初の90点台に届きそうだったんだけど>


……この神の現在のマイブームはカラオケのようだ。


以前はどっかの奴とチェスをしてたな……負けていたようだったが。


「狼用のドッグフードってあるか?」


<…一応、犬だし普通のドッグフードでも大丈夫だと思うけどなぁ…。…じゃあ狼専用のヤツを作って送るわ。…名前は…ウルフフードかな?>


……ネーミングセンスの酷さは俺もだが……コイツも大概だな。


<……今、ネーミングセンスの酷さは俺も大概って思ったろ?>


「あぁ、悪いか?」」


<……まぁ良いや。で、他には?>


「あ〜…狂犬病のワクチンと色違いの首輪を頭数分だ」


<あいよ〜。注文は以上?>


「あぁ取り敢えずは」


<んじゃ送るわ。−−本日は宅急便をご利用ありがとうございました〜♪またのご利用お待ちしてま〜す♪>


通信が切れた途端、眼前に木箱が現れる。


それを見た狼達が警戒して唸りをあげるモノの軽く撫でてやれば簡単に落ち着いた。


蓋を開けると−−中には注文通りの品が入っている。


色違いの首輪は……赤、青、黄、緑、桃の五種類。


餌の入った袋には御丁寧に“WOLF FOOD”と書かれていた。


そして−−−


「−−相棒!!」


未だに中尉と話し込んでいる相棒を呼べば、気付いた奴は駆け寄って来た。


「なに?」


「これを頼む」


「……あのさ…俺、獣医資格は持ってないんだけど…」


「なら勉強しろ」


「…簡単に言ってくれるねぇ…」


ワクチンが入っているだろう紙箱を相棒を手渡すと、次いで木箱の底にあった分厚い一冊の本も手渡した。


「なにそれ?」


「…“救いようのないバカでも判る獣医学入門”だとさ」


「……なんじゃそりゃ?」


「たぶんサービスだろう」


「いや俺が言ってんのは……ハァ…まぁ良いや。…おっ、注射器と消毒液も入ってるぜ。……なになに……」


紙箱の中身を確認した相棒はおもむろに分厚い本を片手で器用に捲り、内容を読み始めた。


「……へぇ……ふ〜ん……あっそうなってんだ……なるほどねぇ…」


ブツブツと呟きながら相棒は尚も読み進め−−ややあって本を閉じ、それを小脇へ抱えた。


「大体、判ったぜ」


「そうか…。“救いようのないバカ”じゃなくて良かったな」


「余計な御世話だ。……さぁて……始めようか?」


相棒は獰猛な微笑を浮かべると狼達へ視線を向ける。


それに反応してか狼達の身体が跳ね上がり、微かだが小刻みに震え始めた。








オオカミに狂犬病の予防接種が必要なのかは判りませんm(__)m


まぁ一応は犬ですしねぇ…。




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