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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第六部:張燕という男
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あと、もう少しで侵攻戦…!!







「ハアァァァハッハッハ!!」


「楽しいなぁ、惇ちゃん!!」


「霞!!貴様、以前より太刀筋にキレが出て来たな!!?」


「判るか!!?長坂の時みたいに二度と不覚は取らへん!!次、戦り合う時はウチが和樹を下したるで!!」


「応、その意気だ!!!」


城の中庭で激しく斬り結ぶのは春蘭と霞。


その剣戟はまるで暴風雨のようだ。


「………アレ、大丈夫なのですか?」


「む?…あぁ、放って置け。その内、飽きるだろうさ」


「……はぁ」


「…手持ち無沙汰なら戦って来ても良いのだぞ?」


「……それは冗談と受け取っておきましょう」


「フフッ」


その場から離れた東屋で茶を啜るのは秋蘭と飛燕だ。


“また”昼休みにも関わらず“まだ”仕事を続けていた彼を咎めた秋蘭が茶へ誘った訳である。


−−こんな暴風雨の側で茶を飲むとは思いもよらなかっただろうが。


「−−10人ほどの新兵を纏めて相手にするのとは訳が違います」


「ほぅ?新兵とはいえ、10人を相手に出来るのか……良い事を聞いた」


「どうか今すぐにお忘れ頂きたい」


「フフッ…さぁて、どうしようか…」


「お願い申し上げる。…そもそも訓練での話です」


「現在は連携して交戦する訓練か?」


「えぇ。…技量と経験で劣るなら、単純に複数で一人の精兵へ当てた方が良いに決まっていますから」


「何人一組の編制だ?」


「基本、二人一組ですね。場合によっては三人一組」


「まぁ確実に敵兵を屠るには適当だろうな」


「はっ。…ですが、敵がこちらより多勢だと…。あくまでも小勢へ立ち向かう場合のみでしか使えない」


「うむ−−茶はどうだ?」


「…頂きます」


一頻り会話が終わったのを見て、秋蘭が茶の代わりが必要かを尋ねて来た。


乾いている湯呑を飛燕は彼女へ渡し、しなやかな腕によって新たに注がれる茶を見詰める。


秋蘭が差し出した湯呑を受け取り、その縁へ口を付け啜る。


「酒でなくて済まんな」


「……いくら自分でも昼日中から酒を呑む真似はしませんよ」


「それもそうか」


悪戯っぽく微笑む秋蘭とは対照的に飛燕は眉を寄せ、僅かながら不快感の表情を浮かべる。


「……張燕」


唐突に微笑を引っ込めた秋蘭が彼の名を呼ぶと背筋を伸ばした。


「…はっ」


それを受け、飛燕も湯呑を卓へ置き、姿勢を正す。


「良い話と悪い話がある。どちらから聞きたい?」


「……将軍のお好きな方からどうぞ」


「そうか…。では、良い話からにしよう」


「はっ」


飛燕はやけに勿体ぶる彼女の様子を訝しむが、気にせず秋蘭の瞳を見詰める。


「まずひとつは、新兵隊に新しく兵員が追加される。約100名だ」


「……個人的には悪い話ですな。やっと連携が様になってきたと言うのに…」


「まぁ、そう言うな。…それで悪い話なのだが−−」


「?」


言葉を途中で止めた彼女は、飛燕へ手招きをし、暗に顔を近付けるよう促して来た。


それを疑問に思いつつ彼が秋蘭へ顔を近付ければ、彼女は飛燕の耳元に唇を寄せる。


「−−済まんな。盗み聞きされるのは避けたい」


「いえ、構いません。…なんでしょう?」


互いに小声で会話を続けつつも、周囲の気配を探る−−が特に異常はない。


彼が僅かに視線を落とすと、秋蘭の細く白い首筋が見えたモノの特に意識せず会話へ集中する。


「悪い話なのだが……近々−−この一ヶ月以内に華琳様は軍を進めるお考えのようだ」


「ほぅ……自分にとっては良い話だ。…また戦場に出られるとは僥倖。…それで何処です?」


「孫呉だ。あそこを治める孫策を攻める」


「……孫呉を、ですか?」


「うむ……どう思う?」


「どう、とは?」


「言葉通りだ。お前は華琳様に認められた数少ない男。意見を聞いてみたい」


そう言われ、彼はしばし黙考すると……ややあって口を開く。


「我等の御大将を批判する訳ではない事は御理解下さい」


「うむ」


「…この時期に孫呉を攻めるというのは…どうも腑に落ちない」


「…続けろ」


「もし攻めるならば…最近、益州を支配したばかりの劉備が妥当でありましょう。まだ地盤が固まっておらず、軍の再編もおそらく終わっていない」


「…ふむ…」


「逆に孫呉は地盤が揺るぎなく、少数とはいえ精鋭が揃っている。しかも水軍は脅威だ」


「加えれば……傭われている黒狼隊の存在も大きいな」


「…こくろう…?」


秋蘭が漏らした言葉に疑問を覚えたのか飛燕の眉が寄り、眉間へ縦皺が刻まれる。


「む?知らないか?」


「…少々、お待ち下さい…」


眉間へ皺を作りつつ彼は記憶のデータベースを漁り、彼女が漏らした言葉に該当する単語を思い起こす。


「……黒き狼の部隊と書いて黒狼隊でしょうか?それなら聞いた事があります」


「うむ。我々は反董卓連合の虎牢関、劉備追討における荊州の長坂で交戦し損害を受けた」


「…当然、向こうにも損害は−−」


「無い、皆無だ」


「……では一方的な戦闘だったと?」


「うむ。長坂で彼の部隊を率いる韓甲に一度だけ会った事がある。……素直に恐ろしいと感じてしまった」


「…妙才将軍ほどの方が…それほどまでに…」


「以前、華琳様が漏らしていた。“韓甲は自分と同類の人間かも知れない”とな」


「……つまり、天下に覇を唱える事が可能な人物…と?」


「あぁ。…だが、現在は孫策の庇護下−−というよりは“契約”を結んでいるのだろう」


「契約?」


「傭兵だからな。まぁ私より霞の方が詳しいだろう。なにせ二人とも元は董卓軍の武将だ」


「傭兵、ですか…」


ポツリと飛燕は秋蘭が放った言葉を小さく反芻する。


「…傭兵は個人的にあまり好きではありません」


「む?」


「袁紹へ叛旗を翻した際、一度だけ傭った経験があります。…前金を払うんじゃなかった…」


「…戦いもせず逃げた、か」


「えぇ−−関係ない事で申し訳ありませんでした。……話を戻しますが、動員される兵力は?」


「ふむ……当然だが支配下の州や各郡から兵を出させる。……まぁ大凡、20万といった所だろうな」


「…物量で押し潰す……確かに有効ではあります。しかし…それだけの大軍では敵の眼に付く可能性がある」


「うむ。…その点については華琳様や桂花に考えがあるようだ」


「…なるほど−−そろそろ離れても宜しいでしょうか?」


「む?……あぁ、そうだな」


耳元での会話が終わり、互いに顔を離し、元の格好へ戻ると飛燕は飲み掛けの茶を啜る。


「………新兵訓練を急がせましょう。少なくとも…友軍の邪魔にならない程度までには」


「頼む−−終わったようだな」


秋蘭の視線が飛燕の背後へ送られる。


既に剣戟の音はなく、中庭には静寂が戻っていた。


「お疲れ、姉者」


「文遠将軍もお疲れ様です」


「応……」

「オー、ひえ〜ん♪ウチの勇姿どうやったー?」


七星餓狼を肩へ担いだ春蘭は東屋に座る飛燕を一瞥すると不機嫌そうに妹の傍らへ腰掛けた。


彼女とは真逆に霞は飛燕へ気安く声を掛けると新調した飛龍偃月刀を柵へ立て掛けつつ彼の隣に腰を落とす。


「二人とも茶で良いか?」


「…あぁ、別に構わんぞ」


「ウチも大丈夫やで」


「判った。張燕はどうだ?」


「自分は結構です。…そろそろ仕事に戻らなくては」


「もうそんな刻限か?」


「いえ…後、半刻ほどありますが…纏めなければならぬ書類があります故、自分は失礼させて頂きます。では」


卓へ立て掛けて置いた剣を持ち、飛燕は一礼すると、そのまま東屋を後にした。


−−その背中へ約一名の睨みを受けながら−−










一方その頃−−−


「………暇だ」


「……暇っすね〜」


「…暇だな」


「…暇なら突っ立ってないで今晩の仕込み、手伝って下さいよ」


「烹炊長、今晩の飯なに〜?」


「見て判りませんか?」


「…ニンジン、ジャガイモ、肉、その他諸々」


「この白い粘土みてぇのなに?」


「ナン。この後、焼くんだ」


「へ〜…んじゃ、カレーか?」


呉の建業付近の黒狼隊駐屯地では暇を持て余した士官達が厨房テントに屯していた。


「暇なら中尉達は−−−っと、こいつらの皮剥きでもして下さい」


鬼の烹炊長は大量の野菜が入った籠を盛大に机上へ置き、やや恨みを込めた視線を送る。


『…へ〜い』


籠を抱えつつ彼等は厨房を出ると、直ぐ側に置かれた長椅子へ腰掛け、おもむろに弾帯から銃剣を引き抜いた。


「……なんか面白い事ないかな〜」


「……戦いてぇな〜」


「……女抱くのも飽きたしな〜」


「……誰かイジりてぇな〜」


「……彼女欲しいな〜」


『……ハアァァァ……』


銃剣で器用に野菜の皮を剥きつつ、一斉の溜息。


「……なぁ誰でも良いから俺と戦ってくれないか?」


「嫌ですよ、歯茎と鼻から血を出すのは」


「朴よ。欲求不満なら少佐あたりに頼んだらどうだ?」


「……阿呆、隊長達にお手数を掛けられるか」


「…変な所で堅物だな−−おい、黄。厚く剥き過ぎだ」


「あぁ済みません−−って、中尉は薄すぎじゃありませんか?」


「はぁ?普通は1mm以下だろうが」


「食材を無駄にするな。学校で習わなかったか?」


不平不満から一転、今度は野菜の皮の話に話題は変わってしまった。


−−それを話す前に、彼等は口に銜えている煙草をどうにかすべきだ。


しかし、そんな遣り取りをしつつも与えられた仕事を熟す姿は流石はプロというべきだろうか。


「…でもホント…なんか面白い事ねぇかな…」


「…気持ちは判りますが、流石に−−」


そんな話を先程から続けていたのが悪かったのだろうか。


唐突に彼等−−いや、駐屯地全体の動きが止まった。


彼等の耳を打ったのは−−


「……なんだ?」


「…聞こえましたか?」


「…あぁ、微かだがな…」


「…しかし…ここは一応、人里ですよ?」


−−それは狼の遠吠えだ。



「−−−−……え?」


「中尉?」


「おい、朴?」


同僚の異常に気付いた士官達が彼へ視線を向ける。


第一歩兵小隊を預かる中尉の身体は−−小刻みに震えていた。


「…おっ狼だと…!?」


「お、おい朴!?」


皮剥きの途中だったジャガイモが地面に落ちた。


「まさか…アイツら…こっここまで隊長を追って…!!?」


<見張りより各員へ通達!!北の方角、約2kmの地点に…確認出来るだけで…五頭の狼らしき群れを視認した!!こっちへ向かってくる!!>


<……どっかで見た覚えあるなぁ…先頭の頭に白い毛があるの>


<俺も。……やっぱしアレって…アイツらか?>


片耳へ差し込んでいるイヤホンから流れる会話を聞いた中尉は−−


「−−中尉ぃぃぃぃ!!?」


「−−ちょ、オイ!!」


−−その場でぶっ倒れた。





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