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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第六部:張燕という男
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本作における張燕の設定はこんな感じです。


個人的に華琳は描き易い(こんなの華琳様じゃない!!と言われる方は多いと思いますが)


まるで女版和樹を描いている感じ。



>この話だけに改訂×3回

やっぱり1時間やそこらで書き上げたのには穴がありすぎる。





「−−以上が報告です、華琳様」


「ありがとう、春蘭。皆も御苦労だったわね」


曹操軍本陣で交わされる報告の数々が一通り、終了した。


戦後の処理は何処も変わりなく、この陣営でも今回の戦における戦果および自軍の損害の確認をしていたのだ。


「…それで凪。…敵大将を討った新兵は貴女の部隊の者で間違いないのね?」


「はっ。姓名を張燕と申します。どうやら字は無いようで…親しい仲間からは飛燕と呼ばれている模様です」


「そう…。……それにしても…変ね…」


「…と、仰いますと?」


綺麗な柳眉を寄せつつ、顎に手を遣り、疑問の声を発した華琳へ凪が問い掛ける。


「…その張燕とかいう新兵…本当に初陣なのかしら?」


「…私もそれは疑問を感じていました」


「というと?」


「あの新兵は……非常に落ち着いていました。…“非常”…というよりは“異常”が正しいかも知れません」


「続けなさい」


興味が湧いたのか華琳が凪へ説明の続きを促す。


「戦闘の直前まで、あの新兵は私語をしていました。私達もそれを聞き、一度注意を」


「私語…ね。でも、それだけでは貴女の言う“異常なほど落ち着いていた”という事にはならないわ。単にお喋り好きなだけの可能性が高い」


「仰る通りです。…しかし私達が知る限り、張燕が調練中や兵舎で同期の新兵達と進んで雑談をしていた等の姿は見た事がありません」


「調練が終わった後も一人残って自主練してたくらいなの−」


「あぁ…そうやったそうやった。…物好きやなぁとは思っとったけど…」


新兵教育の教官である三人は、調練後も自主練を続けていた張燕を思い出し、その旨を華琳へ告げる。


「…そう。…なら戦闘直前の私語は戦意が昂揚したと見るべきね」


「だと思います。…それともうひとつ気になる点が…」


「言ってごらんなさい」


「はっ。…敵大将を討つ瞬間を目撃した新兵がいるのですが、その者の証言によると……“とても手慣れた様子だった”と」


「手慣れた…ね」


椅子の上で脚を組み直した華琳は実に面白気に顔を綻ばせる。


「実に興味深いわ。…凪」


「はっ」


「その張燕とやら、ここへ呼びなさい。今直ぐによ」










「−−張燕、御召しにより参上仕まつりました」


本陣に呼び付けられた張燕は跪きざま被っていた兜を脱ぎつつ傍らへ置き、頭を垂れると口上を述べる。


「張燕ね」


「はっ」


「面を上げなさい」


「…はっ」


片膝を付きつつ彼は面を上げ−−あろう事か華琳へ視線を向けた。


「ぶっ無礼者!!許可なく華琳様−−曹操様の御尊顔を拝すとは何事か!!」


間髪入れず、華琳の傍らに控えていた春蘭が吠えるモノの張燕は、さして慌てる様子や改める様子もない。


「…しかし…曹操様は自分に“面を上げよ”と命じられました。それ即ち、“顔を見せろ”との仰せ。顔を見せるには相手を見なければなりません」


「詭弁を申すな狼藉者め!!」


怒りで顔を紅潮させた春蘭が張燕へ近付き、無理矢理にでも頭を下げさせようとする。


「春蘭、待ちなさい」


「は!?しっしかし華琳様!!」


「私は“待て”と言ったのよ、春蘭。二度も同じ事を言わせるつもりかしら?」


「…もっ申し訳ありません…」


華琳は少しばかり語気を厳しいモノとして春蘭を窘めた。


すると彼女は良く調教された犬のような従順さで華琳の傍らへ戻って行く。


「…確かに作法としては誤り。でも私は確かに張燕の顔を見たかったからこそ、面を上げよと命じたのよ。彼に咎はないわ。命令に応じただけなのだからね」


華琳は実に面白気に−−新しい玩具を与えられた子供のような笑顔を浮かべつつ張燕を見遣る。


「…張燕、供をなさい。春蘭と凪もよ」


『御意』


「…はっ」


椅子から立ち上がり本陣である天幕を抜け出た華琳を三人が追従する。


外に広がる曹操軍の野営地は将兵達が忙しなく駆け回っている。


「張燕」


「はっ」


自分の後を追っているであろう張燕へ向け、華琳が声を掛ける。


その張燕は三人が歩く数歩の後から追いつつ、彼女へ視線を向けた。


「生まれは何処かしら?」


「冀州は常山にございます」


「冀州……となると麗羽−−袁紹の領土だったわね」


「…相違ございません……が、現在は曹操様の領土にて」


「えぇ、そうね。故郷に親兄弟は?」


「兄弟は居りません。父母は……黄巾の動乱の折に二人とも命を落としました」


「……冥福を祈らせて貰うわ」


「恐縮にございます」


頭を下げる張燕へ振り向く事なく、華琳は丘を登り始める。


やがて彼等は、野営地を見下ろす事が出来る頂上へと辿り着いた。


「…どうやら袁紹に並々ならぬ想いがあるようね?」


「…と仰いますと?」


「また返答が一呼吸遅れたわ。それが何よりの証拠よ」


控える為、片膝を付いている張燕を見遣り、華琳は更に疑問をぶつける。


「今日、貴方は敵大将を見事に討ち取った。それも“新兵なのに”ね。…本当に貴方は新兵かしら?」


「…………」


「華琳様が尋ねておいでだ。お答えせよ」


春蘭は少しばかり苛立っている様子だが、華琳の手前、激情せぬよう努めつつ畏まる張燕へ声を掛ける。


「……お答え致します」


「聞きましょう」


声を絞り出した張燕を見下ろしつつ、華琳は彼へ向き直り、腕を組む。


「まず…自分は確かに新兵ではありません−−正確には、これが初陣ではありませぬ」


「そう」


「次に何処で戦を経験したかという事については……袁紹が関係致しております」


「……なんとなく予想が出来たわ。話してくれるかしら?」


「…はっ。曹操様は袁紹が統治していた頃の河北一帯の状況を御存知でありますか?」


「一通りは。無謀なまでの重税、兵役年齢の底上げ、官吏の横暴……言い出したらキリがないわね」


「左様にございます」


声に出さず話の続きを促せば、張燕は一呼吸入れてから口を開く。


「私は…以前、冀州で袁紹へ叛旗を翻しました」


「という事は……官吏だった?」


「いえ。ごく普通の農民でございます」


「続けなさい」


「はっ。…きっかけは反董卓連合が終わった後の更なる課税です。袁紹は連合が結成される折に戦費を調達する為、税を徴集致しました。…だというのに…今度は国庫の立て直しの為に更なる課税が申し渡され…河北一帯では多くの餓死者が…」


「……だから叛旗を翻した、と?」


「はっ。…想いを同じくする者達も集まり、なんとか戦って参りました。…袁紹が幽州へ攻め入る際、我々は公孫賛様へお味方致しましたが……大軍には勝てず…」


「…そう…。貴方以外に生き残りは?」


「…判りません。幽州で敗残した後は散り散りになったので…」


「…ありがとう、良く判ったわ」


その後は僅かながらの沈黙が彼等の間に落ち、風が通り抜ける音が虚しく響く。


「華琳様…」


「えぇそうね…。そろそろ天幕へ戻りましょう」


寒風を受ける華琳を気遣い、春蘭が声を掛けると彼女は頷いて元来た道を戻り始める。


彼女達が脇を通ったのを見届けると張燕も立ち上がり、兜を小脇へ抱えつつ歩き出した。


「…何故、我が軍へ志願しようと思ったのかしら?」


「…食事や職に有り付く為……失礼ながら生きる為でございます」


「貴様…!!」


「春蘭、止めなさい」


「しかし…!!………はっ、承知しました」


「張燕…貴方は正直ね」


「…申し訳ありません」


「謝罪は必要ないわ。むしろ感謝したいくらいよ。貴方は取り繕う事なく真実を私に話した。しかも春蘭−−夏侯元譲の前でね」


張燕に華琳の表情は見えない。


だが、その声音は心底、楽しんでいる様子だ。


本陣である天幕へ辿り着き、警護の兵達が礼を取るのを横目に捉えつつ彼等は内部へと入って行く。


「……さて…張燕」


「はっ」


椅子へ腰掛けつつ華琳が張燕を見遣ると、既に彼は跪いていた。


「貴方には恩賞を与えなくてはならないわね。望みの物はなにかしら?」


「…恩賞…」


「そう。功績を出した貴方には受け取る権利があるわ」


持ち掛けられた張燕は黙考し、その姿を内部にいる彼女達が見詰める。


ややあって彼は軽く呼吸を整え、口を開いた。


「……自分は何も要りません」


「……それは困るわ。信賞必罰は指導者の基本。それを曲げるとなると……」


「…曹操様の御顔へ泥を塗る事になる…」


「そういう事ね」


「………では、ひとつだけ」


迫られた張燕は声を絞り出しつつ、椅子に腰掛ける華琳へ視線を向けた。


「…賜りたき恩賞は……一言、兵達に労いの御言葉を」


「……それだけ?」


「はっ。それでも自分には過ぎ足る恩賞にございます」


頭を垂れ、“恩賞”を希望する張燕を見遣る。


「……それだけでは足りないわね」


溜息を零した華琳は立ち上がり、自身の荷物が置かれている場所まで歩くと一冊の本を取り出した。


「…張燕、恩賞の件は確かに聞き届けたわ。ただちに行いましょう」


「ありがとうございます」


「しかし…貴方個人に報いるには足りない。…これを与えるわ」


跪く張燕の傍まで歩み寄った華琳は手にした一冊の本を差し出した。


「文字の読み書きは?」


「一通りは…ですが」


「そう。…なら、この本の題名は読めるかしら?」


張燕は頭を上げ、差し出された本に視線を送る。


「…孟徳…新書…でしょうか?」


張燕が呟いた言葉に、その本を知る側近達が息を飲んだ。


「えぇ。私なりに孫子を独自解釈し所々を注釈、改めた物」


「孫子を……」


「そうよ。…孫子謀攻篇に曰く、凡そ用兵の法は、国を全うするを上となし、国を破るはこれに次ぐ−−この続きは判るかしら?」


挑戦的な眼差しを張燕へ向ける。


それに彼は一呼吸入れ−−


「−−軍を全うするを上となし、軍を破るはこれに次ぐ。旅を全うするを上となし、旅を破るはこれに次ぐ−−」


「−−卒を全うするを上となし、卒を破るはこれに次ぐ−−」


「−−伍を全うするを上となし、伍を破るはこれに次ぐ」


交互に交わされる孫子謀攻篇の一節。


無表情で諳んじる張燕とは対照的に華琳は極上の笑顔を浮かべた。


「…素晴らしいわ。何処で孫子を?」


「叛旗を翻した際、有効な戦術を学ぶ為に」


「そう……良い拾い物をしたわ」


「恐縮です」


「貴方を一兵卒で終わらせるのは天下の損失ね。…張燕」


「はっ」


「貴方には然るべき地位へ就いて貰います。異論は認めないわ」


「……御心のままに、我が主」


「結構よ。…さぁ、立ちなさい」


乞われた張燕はそれに応える為、兜を抱えつつ立ち上がる。


「まずは貴方の恩賞を叶えなければならないわね。付いて来なさい」


「御意、曹操様」


「…あぁ…それと…」


「…なにか?」


先頭切って歩き出した華琳は唐突に立ち止まり、背後の張燕を見上げる。


「これからは私の事を華琳と呼びなさい。この曹孟徳が許すわ」


「…それは……」


「異論は認めないわよ……飛燕」


「……はっ」


頭を垂れつつも了承の声を発した張燕−−飛燕を見て、華琳は忍び笑いをしてしまう。


「…さぁ来なさい、飛燕。貴方に見せてあげましょう−−」


−−この曹孟徳が創る、天下をね−−





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