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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第六部:張燕という男
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今月最後の投稿。


しばらくは魏軍寄りの描写になりますので御了承下さいm(__)m






「−−半歩たりとも退くな、曹魏の精兵よ!!一気呵成に踏み潰せぇぇぇ!!!」


最前線で声を張り、友軍将兵の戦意を高めるのは曹魏の大将軍である夏侯元譲だ。


それに触発され、数多の将兵が鬨を上げ、敵陣へ遮二無二突撃する。



「−−伝令!!後軍より敵大将麾下部隊が押し出しました!!!」


「前軍諸将へ伝令を出しなさい!!敵部隊を殲滅し、敵大将の頸を上げよ!!」


「はっ!!!」


曹魏の君主である曹操こと華琳は決然たる命令を下し、伝令を前軍へと送る。


今回の戦は叛旗を翻した豪族の討伐。


その程度の事で君主たる彼女が出張るのは考えモノだが、華琳に服従する豪族達へ示唆するには充分だ。


−−裏切り者には死しか道はない−−


それを教え込むのだ。


まるで−−犬猫を躾けるが如く。


「桂花。凪達へ押し出すよう伝えなさい」


「は?…という事は……新兵隊を投入すると仰せで?」


「二度も言わせる気?これは良い機会よ。新兵達に実戦を経験させるのも悪くはないわ」


その言葉に荀文若こと桂花が思案顔をするが……それも尤もと思い至る。


「御意のままに、華琳様」


「良い娘ね…許昌に戻ったら閨へ来なさい。…たっぷり可愛がってあげるわ」


「はい…華琳様…仰せのままに…」










「なっなぁ飛燕…まさか俺達まで戦に出るんじゃ…」


「だから?」


「だからってお前…恐くねぇのかよ?」


「恐くないように見えるか?見ろよ、今にも脚が震えそうだ」


新兵隊−−楽進、于禁、李典率いる総勢約600名は中軍で隊列を組み、待機していた。


“状況如何によっては戦闘も有り得る”


出陣前に自分達を率いる指揮官兼教官の三人からそう告げられた彼等だが……恐怖で顔面を蒼白とさせている者も少なくない。


「いっそ、このまま二人で逃げねぇか?」


「…今のは聞かなかった事にしておこう。敵前逃亡は重罰。斬首刑だ」


「…俺は邑に歳取ったおっ母がいるんだ」


「知ってる、何度も聞いた」


「こんな所で死にたくねぇ…」


「俺だって死にたくない」


「……お前、なんでそんなに落ち着いてんだよ?」


「落ち着いてるか?…普段よりは口数が多いと思うんだが…」


二人の新兵が隊列の中で囁くように会話する。


その一方は、支給された兜から長い黒髪が流れている青年−−張燕だ。


「于禁隊の蛆虫共、こっちを見るの−−!!!」


『さーいえっさー!!!』


「楽進隊総員注目!!!」


『応ッ!!』


「李典隊も注目や、グズグスせんとこっち見ぃや!!!」


『はっ!!!』


突如、新兵隊の指揮官達が声を張り上げた。


それを受け、新兵達は直立不動の姿勢を取り、戦闘の怒声で指揮官達の声を聞き逃さぬよう傾注する。


「これより我が楽進隊を始め、于禁、李典の各隊は前進する!!」


「敵大将が率いる部隊の殲滅なの−!蛆虫共、遠慮はいらないの!!奴等を一人残らず地獄へ送ってやるの−!!!!」


「野郎共、聞こえたな!!?今から前進や!!今から参戦や!!尻の穴しっかり閉じときや!!!」


その命令で新兵隊を一瞬だけ沈黙が支配したが、自棄糞気味に鬨を張り上げる。


「隊伍を整えよ、前進する!!!」


「于禁隊!!沙和が貴様等の不快なさで泣かないよう、しっかり戦うの−−!!!」


「李典隊も前進や!!敵大将の素っ首刎ねてやりぃ!!!」


怒号と共に統率された新兵隊が前進を開始。


それぞれが身に付けた武具が前進の度、けたたましい金属音を奏で上げる。


「…おっ母……おっ母…!!」


「お袋さんはここには居ないぞ。そんな事しても無駄だ。死にたくないなら戦え」


「判ってるよ!!判ってるけど……こうでもしなきゃ狂いそうなんだ!!!」


「自覚してるだけマシだな。…なに、戦って敵兵を殺しまくれば生き残れる」


ブツブツと自身の母親を呼ぶ同僚へ張燕は素っ気ない−−それこそ非情とも言える言葉を突き付ける。


「そこ!!私語をするんじゃない!!」


「はっ、申し訳ありません!!!」


「そこの蛆虫、戦の前に私語なんて見所があるの−!!」


「さー、恐縮であります、さー!!!」


「別に誉めてないの−!!」


「さ−、申し訳ありません、さー!!!」


私語が教官達の耳に届いてしまい、張燕は凪と沙和の二人から注意を受けてしまう。


−−戦場は既に目と鼻の先にある。


「総員、戦闘準備!!」


「前列、槍構え!!突撃の用意なの−−!!」


「弓隊は射ち方用意、手が空いてる連中は飛礫の投げ方用意や!!!突撃の前に敵さん達ビビらせたれ!!!」


指揮官達の命令に応え、良く訓練された新兵隊はその通りに行動を開始する。


「弓隊……放てぇぇ!!!!」


「続けて、飛礫……放てぇぇぇ!!!」


曇空に100本近くの矢と多数の飛礫が放たれた。


それらは緩い弧を描きつつ重力に従い、敵部隊の真上へ落ちて行く。


矢は敵兵が装具する鎧の継ぎ目から肉体を貫き、飛礫を喰らった者はその場に倒れた。


「敵が怯んだぞ!!前列……突撃ぃぃぃ!!!」


穂先を揃え、槍を持った新兵達が突撃を敢行する。


敵部隊も敵大将の檄を受け、槍隊を繰り出して来た。


「沙和、真桜!!二人は両側面を突いてくれ!!!」


「判ったの!!于禁隊、沙和に続けなの−!!!」


「合点!!李典隊、ウチに続きや!!!」


「楽進隊は応戦!!半歩も退くな!!!」


指揮官の檄に新兵達が鬨を上げる事で応じる。


両側面へ回り込まれた敵部隊は徐々に押され始める。


「槍隊は進路を切り開け!!後列総員抜刀!!突入するぞ!!!」


『応ッ!!!』


「押せぇぇぇ!!!」


前列の槍隊が怒号と共に相対する敵槍隊を押し上げ、後続の為に道を切り開いた。


「突入せよ!!!」


『オオォォォォ!!!!』


腰に差した直刀を払い、切り開かれた道を新兵達が駆け抜ける。


「良し、征くぞ!!恐いなら俺の尻に着いて来い!!!」


「あ、あぁ!!」


直刀を片手に敵部隊へ突入した張燕の後に同僚が続く。


直ぐ様、張燕は二名の敵兵に襲い掛かられた。


直刀を振るう手と槍の柄を掴み、足を踏ん張り耐える。


「今だ、殺れ!!!!」


「ううっ……!!」


「殺れ、早く殺れ!!殺れ殺れ殺れ殺れぇぇえ!!!!」


「うわぁぁぁぁぁ!!!!」


同僚は絶叫と共に直刀を振るい、同じ武器を持つ敵兵の露となっている首筋を斬り裂いた。


途端、頸動脈から血が吹き出し、兵士の顔を朱く染め上げる。


片手が自由になった張燕は敵の槍兵の懐深くへ入り込み、地面に押し倒すと、その首へ何度も直刀を突き立てた。


絶命を確認した張燕は同僚の様子を見る為、振り返り−−その心配が杞憂であった事に気付く。


彼は立ち上がると同僚に馬乗りとなっている敵兵へ肉薄し、鎧の継ぎ目から直刀を突き刺した。


そのまま継ぎ目に沿い、直刀で肉体を斬り裂いて行けば、敵兵が倒れ伏す。


同僚に覆い被さる格好で倒れた敵兵を無造作に退ける。


「……あばよ」


同僚の双眸は濁り、喉に直刀が突き刺さったままの格好で絶命していた。


果てる瞬間、何かを呟いたのか口は僅かに開いている。


その同僚に永久の別れを告げ、張燕は直刀を構え直すと乱戦の渦中へと再び身を投じる。


兵力や士気の高さは新兵隊に軍配が上がるが、如何せん経験が足りない。


−−早く敵将を討たねばならない−−


それが指揮官である凪、沙和、真桜の三人の心中である。


戦場の異様な雰囲気に新兵達が呑まれる前に討たねば勝機はないのだ。


−−何処だ、敵大将は何処にいる−−


焦りつつも凪は襲い掛かる敵兵を蹴り飛ばし、周囲を見遣り−−見付けた。


騎乗で怒声を張り上げる将の姿を。


それが敵大将である事は判らないが、将には違いないだろう。


彼女が敵将発見を部隊へ告げようとした瞬間−−その将が突然、落馬した。


そして−−−−


「敵将、討ち取ったぁぁぁぁぁ!!!!」


その怒声に戦場の将兵達が注目する。


「−−ッ!!伝令!!」


呆気に取られていた凪だが、再び気を引き締め伝令を呼び付ける。


「大声で叫べ、敵大将を討ち取ったと!!!!」


「はっ!!!」


凪はこれで敵軍の士気低下と混乱の助長を狙ったのだが……それが流布されるよりも早く敵軍は瓦解を始める。


「楽進隊、私に続け!!追撃−−」


「ちょっ!!凪、待ちぃや!!」


「真桜!?……あぁ…そうか…そうだったな…」


凪は華琳から受けた命令を思い出し、追撃の命令を取り消した。


新兵隊の目的はあくまで敵大将の殺害であり、敵軍の追撃は霞や春蘭が率いる騎兵隊の役目だ。


歩兵しかいない新兵隊では迅速な追撃など不可能に近く、また新兵達は実戦の洗礼を受けて疲労困憊している。


「凪ちゃん、落ち着くの−」


「あぁ……済まない、沙和」


「気にしないの−。…それにしても…」


「あぁ……」


三人は率いる部隊を見詰め−−パッと見で戦死者が多い事に気付いた。


おそらく重軽傷者を合わせれば100名に及ぶだろう。


「集合を掛けて、手当てしないとな」


「判ったの−。蛆虫共−ッ、その使い物にならない一物みたいな身体に鞭打って、さっさと集まるの−!!!」


「李典隊、隊伍組め!!集合や!!」


「楽進隊も集合!!」


負傷した仲間に肩を貸し、歩けない者を引き摺り、新兵達がゾロゾロと各隊毎に集結する。


「敵将を討ち取った者はここに居るか!!?」


先程の怒声を思い出した凪が問い掛けると、人垣を割って、彼女へ近寄る新兵が現れた。


「自分が討ち取りました。…これが頸です」


申告する新兵は討ち取った敵将の髪を掴みつつ、彼女へ見せ付ける。


「…そうか…良くやった」


「蛆虫のクセにやるじゃないかなの………あれ…?」


「お前はさっきの…」


「はっ。先刻は失礼しました」


「なぁ、あんさん名前は?」


「姓名は…張燕と申します」






この作品における張燕は、魏ルートの一刀……をシリアス(?)にした感じの人間になります。




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