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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第五部:狼の帰還と元服
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和樹と将司、そして一曹達が所持している日本刀は打刀ではなく太刀です(何を今更)





「−−ここか…」


今日−−復帰早々に登城した次の日の昼頃、俺は建業城下の一画にある鍛冶屋の前で足を止めた。


昨日の事だが、刃毀れした愛刀の修理をする為、俺達と同様(?)の刀剣を使用する幼平殿へ贔屓にしている刀鍛冶はいないかを相談した訳だ。


遠方だったらどうしようかと悩んだが……杞憂で済んだらしい。


彼女が得物としている野太刀は、眼前の鍛治屋が鍛えた物だとか。


鍛治屋の中から聞こえる金属音を聴覚で捉えつつ、腰に差し込んだ愛刀の柄へ腕を乗せながら暖簾をくぐる。


「−−頼もう」


「−−は〜い、少々お待ち下さ〜い!!」


作業場だろう奥の部屋から声が聞こえるが……当然と言うべきか、店内は熱気で満ちている。


自慢ではないが…それなりに様々な気候へ対応できる身体ではあるモノの……流石に暑い。


というか、何故こっちまで熱が届くのか不思議だ。


普通はここまで暑くないだろう。


少しだけ襟を開き、帯から抜いた護身用の鉄扇で風を送ってみるが……熱風が来るだけ。


溜息を零していると、奥の方から青年が顔面の汗を手拭いで拭いつつ出て来た。


それを認め、鉄扇を閉じて帯へ戻し、襟を正す。


「お待たせ致しました。手前は李鋼(りこう)の倅の李遜(りそん)と申します。…お客様は…ウチは初めての方ですよね?」


「っと…丁寧に痛み入る。申し遅れたが自分は韓甲−−」


「えぇぇ!!?えっ、あっあっあの韓甲将軍でございますか!!?」


「−−……どの、かは存ぜぬが…自分は黒狼隊を率いている韓甲だ」


「しっししし…失礼しました!!そっそれで御用件は!!?」


……なんなのだ、この狼狽っぷりは。


ここまでの反応は……記憶にある限りでは初めてだな。


「ここの刀匠の事を幼平殿から聞いてな。申し訳ないが得物を研いで貰いたい」


帯から愛刀の一本を鞘ごと抜き、眼前で直立不動の姿勢を取る李遜と名乗った青年へそれを手渡す。


「でっでは…拝見させて頂きます……」


それに頷いて承諾する。


青年は刀を鞘から払い、刀身を見た瞬間−−眼を見開いた。


「なっ…こっこれは…!!?おっ親父、ちょっと来てくれ!!!」


「……?」


その様子に疑問を覚えていると、青年が奥の作業場へ声を掛ける。


「−−大声だすんじゃねぇ!!接客はお前の仕事だろうが!!!」


「良いから、早く来てくれよ!!!」


「…なんでぇいったい…」


大声の応酬が終わると、金属音が途切れた。


ついで奥から現れたのは−−下っ腹が出た……よく言えば恰幅が良く、悪く言えば少々メタボ気味の壮年の男性。


「親父、こちらは韓甲将軍だ。あの噂になってる」


「なに!?…いや、こいつは大変な失礼を。手前は刀匠の李鋼、この愚息の親父をしとります。…あの…本当に韓甲将軍であらせられる?」


「…まぁ…一応は」


先刻、自分の息子が俺の姓名を絶叫したのに改めて聞く必要はあるのか?


万が一、アレで聞こえていなかったとしたら……難聴を疑ってしまう。


「それで御用件は−−」


「…親父、これを…」


「ん?−−−ッ!?」


青年が父親へ刀を見せると、彼は同様に眼を見開き−−言葉を失った。


「…こっ…こりゃ…!?李遜、刀をこっちに!!」


「あっあぁ!!」


息子の手から刀を奪い取った刀匠は食い入るように見詰める。


双眸は異常なほど見開かれ、ただ黙々と刀を観察している。


「凄ェ……まさか生きてる内に、こんな業物を拝めるなんて…!!」


「…業物?」


刀匠が漏らした単語に疑問を覚えた。


彼は確かに俺の太刀を業物と呼んだが……無銘の筈だ。


……まぁ、注文の際は“日本刀を二振り”とだけ言ったのだが。


「この造りを見ろ!!…俺も同じ発想で刀を鍛えたが…アレで満足してたなんて、恥ずかしいったらねぇ…!!」


「そんな事ないって親父!!親父は孫呉一の刀鍛冶だって言われてるじゃないか!!それに周泰様に打った魂切だって、凄く良い出来だと誉められてたろ!!」


「阿呆抜かすな李遜!!…コレを見ろ…!!…俺なんか…この刀を鍛えた刀匠の足下にも及ばねぇ!!!…天下は広いんだなぁ…こんな作を打てる刀匠が居るなんてよ…」


「親父!!!」


「……………」


所在無く指先で頬を掻く。


…親子揃って、随分とヒートアップしてるな…。


俺は…入る店を間違えたのだろうか?


仕方なく、いまだ喧々囂々と煩い親子へ声を掛ける為、口を開く


「……あ〜…それでなんだが…」


「−−っ!!こっこりゃ申し訳ねぇ!!」


「親父、言葉遣い言葉遣い!!」


「おぉっ!!?」


客を放置し、白熱したトークを繰り広げていたのに気付いた刀匠と息子が慌てて頭を下げる。


「んんっ!!…あまり目立ちませんが、刃毀れ……御所望は刃の研磨で?」


刀匠からの問い掛けに頷く。


「精錬から研ぎまでを行っていると幼平殿から伺ったが…」


「…確かに…やっておりますが…」


「……なにか問題でも?」


歯切れの悪い刀匠を訝しみ、腕を組みつつ尋ねると、彼はバツが悪そうに頭を掻く。


「…これほどの刀を研ぐとなると、下手に研げば切れ味が落ちてしまう可能性が−−」


「御託は良い。自分が聞きたいのは二者択一。出来るか、それとも出来ないかだ」


有無を言わせぬ−−やや脅迫じみた口調を使うと二人は顔を強張らせ、次いで刃毀れした刀を見遣る。


「……判りました。時間が掛かるかもしれませんが…御期待に添えるよう誠心誠意、頑張らせて頂きます」


「…安堵した。…それで如何ほど−−」


「要りやせん!!」


「−−……なに?」


着物の袂から財布の巾着を取ろうと突っ込んだが、刀匠からの返答は“代金は必要ない”というモノ。


訝しみ、彼を見遣ると刀匠は慌てた様子で片手を振る。


「いっいや誤解しねぇで下せぇ!!代金を頂かなったから半端な仕事をしたり、研ぎに失敗した時に備えてる訳じゃありやせんって!!」


「……では、何故?」


代金は要らない、と聞くと−−特に武器関係の場合は相手を疑う事がすっかり染み付いてしまっている。


やや殺気を滲ませつつ問い掛けると彼は真剣な表情をし、瞳は揺らぐ事なく俺を見詰めてくる。


「…物心ついた時から手前−−いや俺は、ずっと親父の仕事を見て来やした。15の頃にはそれなりの剣を打つ事が出来るようになって…縁あって周泰様の魂切を鍛えさせて頂けた…。アレが完成した時は…苦節続きの長年の成果がやっと出たと涙が零れたモンです」


独白する刀匠は太刀を鞘へ納めると、それを羨望の眼差しで見詰める。


「…ですが…今日、俺はまだまだだと−−この作を鍛えた刀匠の足下にも及ばない半端者だと気付かされたんでさぁ。…コレを研ぐ事は俺にとって最高の授業料。その切っ掛けをくれた御仁の得物に代金は必要ありやせん!!」


「……ふむ…」


「韓甲様!!どうか…どうかこの李鋼に免じて、どうかお願い致しやす!!!」


「親父!!」


頭を下げる刀匠の姿に驚いたのか息子が声を荒げる。


おそらく、そう簡単に頭は下げない人物なのだろう。


…しかし……


「……ククッ…」


損を覚悟で仕事を請け負うとは……


「……実に面白い。気に入った」


そう呟くと店内を見渡す。


戦場で良く眼にする直刀や両刃の剣、槍、戟−−まぁ色々あるが、その中でも特異なのは……やはり日本刀に酷似した武器だろう。


それらが陳列されている棚へ近付き、一振りを選び取る。


「……ふむ」



鞘は黒漆塗、拵えは打刀か……。


鯉口を切り、鞘から払うと乱刃の刀身が現れた。


「……見事な作だ……」


素直に刀匠の腕前を称賛し、打刀を鞘へ納め、棚へ戻す。


倭寇や輸出入が原因で日本刀を模倣した刀が大陸、朝鮮半島で挙って造られるようになったとは聞くが……それよりも遥かに早く、ここまでの刀を打てるとはな…。


「…ひとつ頼みがある」


陳列棚に整然と並ぶ刀を見遣りつつ、声だけを親子へ向けて言い放った。


「なっなんでしょうか?」


「お代なら−−」


「代金の事は諦めた。おそらく拷問に掛けられても首は振るまい。…頼みは至極簡単だ。短刀を二振り鍛えてもらいたい。得物の研磨も合わせ、期限は……年明けまでだ。出来るだろ?」







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