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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第五部:狼の帰還と元服
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…膝を痛めたというのに…何故か筆は進む。




「…118…119…120…よっ…」


庭に生えている樹木の枝に片手でぶら下がり、身体を屋敷へ向ける格好での片腕懸垂。


目標回数に達した所で腕を交換し−−カウントを元へ戻す。


「…1…2…3…4…」


懸垂で重要なポイントは顎をポールの所まで持ち上げること。


反動を利用して懸垂をするなど言語道断。腕は完全に伸ばさなければならない。


少なくとも軍事訓練ではそうだ。


「−−朝から感心だな、韓甲」


「…15…おはよう…16…」


「うむ」


客室から顔を出して来たのは、俺が貸した寝間着に袖を通した華雄だ。


丈の方は帯で調節したのだろうが……それでも大き過ぎるようだ。


「毎朝やっているのか?」


「…21…あぁ、平時は毎日だ。やらないと調子が悪くなる…22…」


縁側の敷石に置いた自身の靴を穿き、近寄って来た彼女が俺を見上げる。


「…24…眠れたか?」


「あぁ。お陰様でな」


「…25…そいつは重畳」


結局、彼女は昨夜、屋敷へ泊まる事になった。


ひとつしかない客室。しかも満足な準備をしていなかったが……コイツの性格なら気にしないだろう。


−−不意にただ一人の使用人が使う寝室の障子が開け放たれた。


「おはようございます旦那さ−−」


「…28…早いな徐哉」


「うむ、感心感心」


「−−ま…………え?」


普段着で姿を現した徐哉が華雄を見て、口をだらしなく開ける。


そして……彼女を指差し、水中で酸素を求める魚よろしく口をパクパクと動かしている。


「…え…あ…あの……旦那様…?」


「…30…どうした?」


「なっななな…何故、華雄様が…」


「泊まったからに決まっているだろう」


「……何か…不都合でもあったか?」


「あっいえ!!かっ華雄様もおはようございます!!」


「あぁ、おはよう。元気が良いな」


華雄は腕を組みつつ、歳に似合わず早起きの徐哉を誉める。


「…32…華雄」


「む?」


「朝飯も食っていくと良い…33…」


「…良いのか?」


「…34…あぁ。徐哉、大丈夫だろう?」


「はっはい!!萌々と黒馗に餌をやった後、朝餉を作らせて頂きます!!」


「あぁ。では、私も手伝うとしよう」


徐哉は俺達へ礼をすると廊下をバタバタと走って行く。


「…36…なぁ、華雄」


「どうした?」


「…37…お前、飯作れるのか?ついでに馬は?」


「“それなりに”な。馬の方は屋敷の細作がやってくれるだろう」


「…38…まさか細作も警護対象の馬の餌やりをやらされるとは思わないだろうな…39…」


「フフッ…違いない。…さて…顔を洗って、着替えるとするか。井戸を借りるぞ?」


「…40…あぁ…」


その後、三人で朝飯を食った訳だが……華雄が作ったという野菜の炒め物は……良く言えば“豪快”で“男らしい”物だった。


味の方は……まぁ“悪くは”無かったな。










「…そういえば言い忘れてたな。長坂で張遼に会ったぞ」


「…霞にか?」


「あぁ、殺り合ったよ」


「…で?」


「あん?」


「どうなった?」


「…もう少しで頸を獲れたんだが…曹操の邪魔が入った」


「…そうか…」


互いに愛馬へ跨がって登城の最中に思い出した事を華雄へ告げれば、彼女は溜息を零した。


「−−お〜い、待てよ〜!!」


「あん?」


「む?」


背後から聞き覚えのある声に呼び止められる。


騎乗したまま後ろを振り向くと−−大通りを相棒が愛馬に跨がって駆けてくるのが見えた。


「睦まじい御両人、オッハー♪」


「…色々と抗議したいが…まぁ良い。よう相棒」


「おはよう呂猛。…お前も朝から元気だな」


「へっへ〜♪俺様はいつも元気だぜ♪」


そんな事は長い付き合いだから嫌なほど判る。


真横に馬を寄せる相棒を含めた三人で轡を並べ、城を目指す。


「…にしても、お前等が一緒に登城なんて珍しいな」


「あぁ、昨夜は−−」


「韓甲の屋敷に泊まったのだ」


「………………え?」


「まぁ、そういう事だ」


「…相棒の屋敷に…泊まった…だと…!?」


「あぁ……どうした相棒?」


眼を見開き、俺と華雄を凝視する相棒は何やらブツブツと呟いている。


そしてややあって−−何故か瞳にうっすらと涙を浮かべつつ、俺の眼を見詰めて来た。


「相棒…いや、和樹」


「…どうした?」


「俺…嬉しいぜ。やっと……やっとだな…その報告を何年、待った事やら…」


器用に俺の肩を叩く相棒は……途方もなく気色悪い。


何か悪い物でも食べたのではないかと心配になってきた。


だが、俺の様子を余所に相棒は自身の愛馬の腹を蹴って俺達よりも抜きん出て−−


「邪魔して悪かったな。俺、先に行ってっから。ごゆっくり〜♪」


−−訳の判らない台詞を吐きつつ先へと進んで行ってしまう。


「……なんだったんだ?」


思わず首を傾げてしまった。










「−−和樹、お疲れ様。元気そうでなによりだわ」


「はっ。伯符殿と公瑾殿も御元気そうで安堵致しました」


城の玉座の間へ通された俺の眼前には、玉座に腰掛ける伯符殿と傍らへ控える公瑾殿が待っていた。


「早速で悪いが報告を聞かせてくれ」


「はっ。我が隊は劉備軍と行動を共にし、長坂坡で同軍を追撃してくる曹操軍を撤退させ、益州へ進撃。その後、同州を平定。以上の報告で支援任務一切の終了を報告させて頂く。…それと、公瑾殿宛の書状を諸葛孔明より預かって参りました…どうぞ」


簡潔に報告を済ませると、コートのポケットへ差し込んでいた書状を取り出し、玉座へ続く階段を降りてきた公瑾殿へ手渡す。


それを広げた彼女は一通り内容を読み−−階段を昇ると今度は伯符殿へ書状を手渡した。


「…ふんふん……なるほどねぇ……」


「うむ…流石は諸葛孔明といった所か。こちらの思惑を良く心得ている」


彼女達が話し合う姿を見ていると、不意に伯符殿が俺へ視線を向け、手にした書状をヒラヒラと振って来る。


「内容、気になる?」


「いえ。手前が知っても意味の無い事ですので」


「まぁまぁ、そう言わない。…んっとね…まぁ要約すると…曹魏と決戦に臨む際は協同で立ち向かう事と益州平定における和樹達の助力に感謝するって所かな」


「そうですか」


前半はともかく後半は、どうでも良い事だな。


別に感謝される程ではない。


「用事は…うん、これくらいね。じゃあ和樹、忙しい所ありがとう。下がって良いわよ」


「はっ。では御前を−−…っと」


「ん?どうかした?」


つい忘れていた事を思い出し、公瑾殿へ視線を向ける。


「公瑾殿、将司からの報告で聞きましたが……その後の体調は?」


「あぁ…その事か。心配させて済まなかった。“腕の良い主治医”のお陰で、あれ以来、喀血はない。大丈夫だ」


「それは重畳……では」


彼女達への報告を済ませたのを確認し、最敬礼すると回れ右をして扉へ向かい、それをくぐり抜けた。


背後で扉が閉まる音を聞きつつ腋へ挟んでいた軍帽を被り、腰に下げた愛刀二本の鞘を押さえながら歩き始める。


執務室へ向かう最中、何故か擦れ違う文官・武官に関わりなく挨拶されたが……一体なんなのだろうか。


やっとこさ自分達の執務室に辿り着くと、扉を開けつつ被っていた軍帽を脱ぐ。


「−−はっははは、亞莎ちゃんと明命ちゃんは可愛いな〜♪」


「かっからかわないで下さい将司様!!」


「かっ可愛いだなんて…あうぅ…」


「あぁ勿論、思春ちゃんも充分すぎるほど可愛いよ♪」


「なっ…何を藪から棒に言われるのです!?…からかわないで頂きたい」


「照れない照れない♪−−よっ、お疲れ相棒♪」


「…お前は何をやってるんだ」


扉を開けて室内を見てみれば……相棒が美少女三人と談笑していた。


その様子に呆れつつ扉を閉め、俺の姿を認めたのか礼を取る三人へ返礼する。


「和樹様、お帰りなさいませです!!」


「和樹殿、お疲れ様でした」


「ただいま−−もとい昨日、戻りました。二人には挨拶が遅れて申し訳ない」


自分の机へ近付き、刀掛台へ愛刀を置こうとした瞬間−−“嫌な物”が眼に入った。


「…………」


“それ”を一瞥すると刀掛台へ愛刀を二本とも置き、机の前に鎮座している椅子へ腰掛け、軍帽を机上へ放り投げる。


「………ハァ……」


「…和樹殿?」


「和樹様…雪蓮様から何か言われたのですか?」


思わず溜息を吐くと、それを心配に感じたのか彼女が問い掛けてくる。


それを無視し−−床へ積まれた“それ”を持ち上げると机上へ置く。


「……ハァ……なんだこりゃ…?」


目頭を揉みつつ、再び溜息を吐き出す。


床に積まれていたのは……おそらく俺が処理すべき竹簡、木簡の山。


復帰早々でコレとは……段々と億劫になって来たな。


「…あのな相棒。つい最近まで俺に亞莎ちゃん、あと華雄とで山のような書簡を処理したんだぜ。次に地獄を味わうのは……お前だよ」


「それは御苦労だったな。……参考までに聞きたいんだが…どのくらいあった?」


「エベレストとマッキンリーを合わせたくらい」


「…そうか…」


比喩は適当だろうが……相当数の書簡があった事は間違いない。


むしろこの……フジヤマ程度の量で済むと思えば、まだやる気は出るモノだ。


「−−ほいっ、墨汁と筆。準備しといたぜ♪」


「……どうも」


「俺達はノルマこなしたから。しばらく皆と楽しくトークやってるわ♪」


「……あぁ判った、判ったよ」


コートを脱いで椅子へ掛けると、山から取ったひとつの書簡を広げ、小筆へ墨汁を染み込ませた。








彼女のお父さん曰く−−


「自衛隊の懸垂って反動とか使っちゃ駄目なんだよね。しかも腕は伸び切らないといけないし、ポールに顎が届かないとカウントされないんだ」



なんて平然と仰りましたが……体力徽章を付けていただけあって現在でも素晴らしい肉体を保持。


過日に彼女のお父さん参戦でサバゲ(フラッグマッチ)をやりましたが……化け物&あそこまで89式が似合う人間を初めて見た。




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