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以前(無印時代)から朱里の事で“個人的”に我慢できない事がひとつだけあります…!!
>誤字報告があり改訂。
<−−よっ俺、俺♪おひさ〜〜♪>
<…用件は?>
<……お前、相変わらずだなぁ…。…ったく、そんな性格だから、あそこの軍で特務少佐止まりだったんだよ>
<お前もその軽口さえなければ少佐も有り得た。…俺の場合は中佐への昇進の話もあったぞ>
<えっマジ!!?>
<冗談だ>
<………まぁ良いや。…士燮は全面降伏。交州は完全に孫呉の軍門へ下ったぜ>
<そうか。…こっちの損害は?>
<部隊に関しては問題なし、軽傷ばかりだ。……ただ華雄の隊がなぁ…>
<どうかしたのか?>
<軍内でも突出した活躍だったんだけどよ……とうとう組織的戦闘の継続は不可能なくらいヤられちまった。生存者は21名だ>
<再編の目処は?>
<あぁ、大丈夫。アイツは俺達と違って正規の武将だからな。兵員の補充があるとよ>
<そうか…。…それで迎えは?>
<あぁ。明日の早朝に迎えを出す。編制はMi-26、UH-1を一機ずつ。第二歩兵の一個分隊を送るぜ>
<了解>
<あっそうそう。ヘリの中尉がな“葉巻はいりますか?”だってよ>
<……好きにしろ>
<ヘ−ヘ−。んじゃ−−>
<待て>
<−−?>
<…華雄の奴に宜しく言っておいてくれ>
<……あいよ、必ず言っておく。OVER>
<OUT>
成都郊外のだだっ広い平野へ二人の部下が円筒形の手榴弾−−発煙手榴弾を空へ放り投げた。
重力に導かれつつ緑色のスモークが尾を引いて地表へ落ちる。
米粒の如く小さな二つの点を朝焼けの空に捉え、微かな爆音が耳を打つのを感じつつ首へ巻いたマイクを押さえ付ける。
「スモークを展開した。見えるか?」
<こちらWOLF1−−見えた。グリーンのスモークを視認>
「それだ。着陸せよ。…御苦労だった」
<そちらもお疲れ様でした、隊長。これより着陸します>
<ヘリ01より少佐へ。葉巻、箱ごと持ってきましたよ。そちらに燃料補給は必要ですか?>
「整備、燃料の補給も済ませた。直ぐに出発できる」
<了解。…先に言われちまいましたが…お疲れ様です>
「あぁ。直掩を頼む」
通信を切り、周囲を見渡せば−−装備を整え、自らの愛馬の手綱を握りつつ整列する部下達の姿が眼に入った。
そして−−……見送りのつもりなのか、劉備軍の主だった武将達までもが視界に入ってしまう。
銜えた煙草を口元から取り、紫煙と溜息を同時に吐き出しつつ携帯灰皿へ放り込むと、黒馗の手綱を引きながら彼等の下へ向かう。
向かってくる俺を認めたのか、彼等(一部)の顔が強張り、背筋が伸びる。
それを意に介さず、近くまで辿り着くとラフに敬礼した後、口を開く。
「これより呉へ還ります。…世話になった」
「い、いえ!!こっこちらこそ、大変お世話になりまひた!!!」
「ちょ桃香、噛んでる噛んでるよ!!」
「あぅ〜〜…」
「あの…えっと…韓甲さん、お世話になりました」
表情を硬くしながら少年が慇懃に礼をすると、周りの武将達もそれへ追従する。
「何か伯符殿へ言伝があれば伝えるが」
「あっ、あの…!!」
小さく手を挙げたベレー帽を被った少女−−孔明が近付いてくると、彼女が一通の書状を手渡してきた。
……しかしなぁ……
「こっこれを周瑜さんへ渡してくらひゃ…下さい!」
「……承知した」
手渡された書状を一瞥し、それをコートのポケットへ捩じ込むと……孔明の姿を見る。
「…………むぅ…」
「ふぇ!!?…あっあっあの…なんでひゅ−−はわわっ!!?」
−−我慢が出来なくなり、孔明のリボンで装飾されたベレー帽を剥ぎ取る。
真横を向いた時にバインディングは真っ直ぐ、前髪を出さない、そしてベレー帽は“被る”のではなく“嵌める”もしくは“乗せる”−−こんなのは常識だろう。
「…チッ…」
しかもこのベレー帽、湯で型作りしてないのか…。
…無頓着にも程がある。これはベレー帽に対する冒涜と言って良い。
帽子を元の形へ戻し、孔明の前髪を掻き上げてから頭頂部を真上から強く押さえてクラウンの膨らみを潰す。
そして真横を平手で強く押さえたまま、天頂部を押さえている手をスライドさせるように反対側へ平手のまま押しつけて引っ張り、形を軽く整えれば……完成。
「……うむ」
「はわわっ……あっあの…!?」
「…しっかり被れ、馬鹿者…」
「はっはひ!!申し訳ありましぇんでひ−−…あうぅ…」
孔明は慌てた様子で謝罪するが……やはりベレー帽に長髪は似合わんな。
「はははっ、孔明ちゃん。その帽子、俺達の世界だと主に軍人が被るヤツなんだよ」
「そっそうなんれひゅ−−そうなんですか!?」
「そ−そ−。ちゃんと被らないと恥だし、相手にも失礼だから気を付けてね?」
「はわわ…きっ気を付けまひゅ!!」
彼等の傍らでケラケラと笑いながら一曹が軽く警告する。
−−爆音が大きくなり、振り向きつつ空を見上げれば、UH-1の倍以上ある機体がギアを降ろし着陸態勢へ入っている。
「一曹、隊へ戻れ」
「っと、了解です」
命令に頷いた一曹が、Mi-26を見て声も出ぬほど呆気に取られている彼等へ身体を向け、姿勢を整えると最敬礼をする。
「では、お元気で。一刀君、世話になったね」
敬礼から直った一曹が少年へ右手を差し出し−−少年と握手をした。
「いえ、こちらこそ。…前田さんもお元気で。また会いましょう」
「だね……生きていればの話だけど。…それじゃ」
握手を済ませた一曹は手を離し、愛馬の手綱を引きつつ部隊へ加わるべく歩き出す。
「……おじちゃん……」
爆音に掻き消される程の小さな声が耳を打ち、視線を下へ向ければ−−
「…ほんとうに…かえっちゃうの…?」
何故かうっすらと涙を浮かべる璃々嬢が近付いてくる。
黒馗の手綱を握りつつ腰を落とし、璃々嬢の目線へ自分のそれを合わせた。
「あぁ、迎えが来たからな。それに…本来ならもっと早く来る筈だったんだ」
「…もっと…いられないの…?」
「ふむ……無理だな」
何より嫌われているだろうし、俺自身もこれ以上、ストレスが溜まる職場は嫌だ。
胃潰瘍へ繋がる職場とは一刻も早くサヨナラしたい。
「……また、会える…?」
「……それは判らんな」
「え、なんで!!?」
「俺は、いつ死んでもおかしくないからだ。次に会えるかどうかの約束は出来ん」
「そんな…やだよ!!おじちゃん、しんじゃだめ−−!!!」
涙声で絶叫した璃々嬢が首元へしがみついて来たと思うと、微かな嗚咽が耳朶を打った。
「璃々、和樹殿を困らせてはダメ。お家へ帰れなくなっちゃうでしょう?」
「やなの!!おじちゃんは、ずっと璃々といっしょに暮らすの!!」
母親の漢升殿が璃々嬢の小さな肩へ手を置くモノのそれに拒絶反応を示し、頭を激しく振る。
「−−そうですわ!!韓甲様は呉へ帰らず“私と”この“私と”一緒に暮らすのです!!呉に戻れば必ず戦場へ赴く事になってしまいますわ!!!」
……いや、本初殿。別にこっちで暮らすつもりは更々−−というか、傭兵の俺に戦場へ出るなと言うのか?
それは死刑宣告に等しいぞ。
溜息を吐き出し、しがみついている璃々嬢を身体から剥がすと、再び視線を合わせる。
「……判った。もう一度、会えるように努力しよう」
「…ほんとうに…?」
涙と鼻水でみっともない顔をグローブを嵌めた手で拭う。
それに頷くと黒馗の手綱を離す。
首からドッグタグを取るとボールチェーンを外し、タグの片割れを璃々嬢の小さな掌へ乗せて握らせた。
「約束だ。次に会う時までコイツを失くさず持っていろ」
「……うん…やくそく、だよ?」
「あぁ、約束だ」
叶うかどうか判らぬ小さな約束を交わし、幾分か軽くなったドッグタグを首へ通す。
−−背後を振り向くとMi-26のギアが接地し、二枚貝を思わせる後部ハッチが開き、次いで昇降ランプが地面に着いた。
間髪入れず、ランプを駆け降りた分隊が機体の周囲へ散らばり、手にした小銃を構える。
「−−総員搭乗!!!」
「了解!!総員搭乗、総員搭乗!!!」
「搭乗だ搭乗!!野郎共、グズグズすんな!!!」
立ち上がりつつ命令を下せば、部下達がそれぞれの愛馬を連れ、機体へ乗り込んで行く。
それを確認すると姿勢を正し、居並ぶ彼等へ敬礼。
「では、我々はこれで失礼する」
敬礼を済ませ黒馗の手綱を握ると、璃々嬢の頭を掻き混ぜるように撫でる。
改めて手綱を握り直し、駆け足でハッチを開け放つ機体へ向かう。
その途上で離陸準備を済ませ、メインローターが激しく回るUH-1へハンドサインを送ると−−敬礼が返って来る。
それがされるか否かでUH-1は直掩に参加すべく離陸した。
「全員、乗り込んだか!!?」
「はっ!!後は隊長と我々だけです!!!」
部下達の搭乗を確認し、ランプの前で警戒に当たる隊員のヘルメットを叩く。
「−−搭乗!!」
キャビンへ黒馗を連れ込んだ瞬間、機外で警戒に当たっていた部下達が雪崩れ込んで来た。
「総員の搭乗を確認!!ハッチ閉めろ!!!」
ロードマスター役の部下が無線でコックピットへ報告すると、ランプが持ち上がり、次いで両側面へ開いていたハッチが閉まる。
完全にハッチが閉まる刹那の瞬間、彼方で見送りをしている彼等を一瞥すれば−−璃々嬢が千切れんばかりに腕を振っていた。
−−ハッチが閉まり、エンジン音の轟きが大きくなる。
「−−離陸します!!」
機体が微かな振動と共に浮かび上がる感覚が身体を襲う。
それにいまだ慣れていない愛馬達が嘶きを上げるが……安心させるように軽く撫でてやれば、直ぐに大人しくなる。
手摺へ手綱を結び、黒馗の鞍から荷物を降ろす。
簡易のベンチに外した弾帯と愛刀を置き、小銃を立て掛け、ベンチに座り込む。
「……ハァ……疲れた」
−−その呟きへ黒馗が同意するかのように嘶いた。
はい、やっとこさ入蜀支援の任務が終わりっす。
作中で朱里のベレー帽の被り方云々の講釈がありましたが……和樹のやった被り方はミリタリーベレーの場合ですので悪しからず。(でも個人的には我慢できない)
ネタ……なのかどうかは判りませんが、和樹が璃々へドッグタグの片方を渡すシーン。
アレって、ワンピースの冒頭でシャンクスが麦わら帽をルフィへ渡すシーンに似てるな〜〜と、この後書きを書いている最中に思いました。
その内、新キャラ:張燕の事も書かないと……。
あぁ、あと他の誤字とか表現も直さないと……やる事いっぱいだなぁ…。