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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第四部:劉備軍支援
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今更になって気付く。


この外史を書き始めて一年経っとる!!?



>単純な誤字と脱字を発見したので改訂。






「−−ご主人様、お茶は…?」


「あっうん、貰うよ。お二人は−−」


「結構、お構い無く」


「右に同じ」


少年の問い掛けに間髪入れず首を横へ振る。


庭の東屋には俺や一曹を始め、少年、メイド服を着た月殿と詠殿が居る。


彼女達は手早く茶を淹れると、それを少年の眼前へ差し出した。


「ほら、お茶よ」


「ありがとう。…じゃあ、二人は−−」


「判ってます。桃香様達の所で待ってますので、御用があれば御呼び下さい」


片や恭しく、片やぶっきらぼうに会釈した二人はそのまま東屋から離れた位置で俺達を見守る武将達の所へと去って行く。


それを見届け、ポケットから煙草を取り出し、卓を挟んだ向こうの席に座る少年へ“吸っても良いか?”とジェスチャーする。


頷かれたのを確認し、それを銜えるとジッポで火を点け、肺へ吸い込んだ紫煙を吐き出した。


「……話とは?」


開口一番にそう尋ねると、眼前の少年が心持ち居住まいを正す。


…少年の言う“これからの事”というのは……まぁなんとなく察しは付くが、聞いてみない事にはなんとも言えない。


……しかし…大丈夫なのか?


いくら武器を漢升殿達へ預けて会見に臨んだとは言え……警戒が緩いのではなかろうか。


「……この乱世…これから、どのように動くとお二人は思いますか?」


「どのように……ふむ…それは、どんな戦いが勃発するか、という問いで間違いない?」


「あ、はい。…史実よりも早い入蜀……いやそれ以前に黄巾の乱から反董卓連合が結成されるまでの早さ…。俺が知ってる三国志の動きとは全く違います」


「う〜ん……まぁそりゃあ俺も疑問だったよ?一番は、有名な武将が女って事だけど」


「ですよね?」


「うん」


……武将だけでなく、董卓軍に居た頃に聞いた話だが、献帝も女性だとか。


まぁそれはそうと……少し話が逸れて来たな。


「…黄巾の乱、反董卓連合、官渡、長坂、入蜀が終わったが……ぽっかり空いている大規模で有名な戦いがある」


「え、あっ…えっと…赤壁ですよね…?」


軌道修正すれば少年が慌てた様子で口にした言葉に紫煙を吐き出しつつ頷く。


赤壁の戦い−−おそらくは最大の激戦であり、三国志を知らない者でも赤壁だけは知っているという大規模戦闘の事だ。


かの戦いは知名度の高さから映画化、あるいはドラマ化される程である。


「赤壁かぁ…。…長江に曹魏の軍船が山ほど浮かぶんだろうねぇ…」


「曹操が相手ですし……何万−−いや何十万の兵力を掻き集めてくるのか…」


「さてな。史実通りなら20万やそこら。万が一、演義だとすると……軽く80万は越えるだろう」


正史と演義では曹魏が動員したとされる総兵力には雲泥の差がある。


なんとも言えんが…どうせなら圧倒的兵力差の敵軍を打ち破ったという結末が面白いとかの理由だろう。


「すっばらしい兵力ですね和樹さん」


「…普通に戦り合ったら敗北は眼に見えてる。黄蓋の苦肉や火計、諜報がなければ勝てなかっただろうな」


「この場合−−あぁ、銃砲火器を保有していない場合ですよ。和樹さんだったら…どうします?」


「あん?…尻尾巻いて逃げ出すに決まってるだろう」


「惚れ惚れするぐらい断言しましたね」


隣に座る一曹は苦笑いし−−何時の間に煙草を銜えていたのか紫煙を口と鼻腔から吐き出した。


「当然だろう。敗ける可能性が限りなく高い戦闘に参戦するなんぞ、馬鹿も休み休み言えって話だ」


「フリーだったら、が先に付きますがね」


「…まぁな」


悲しいかな…現在は孫呉に傭われている身。


雇用主から参戦の要請が下り、適正な報酬の半分を前払いで頂戴したら、めでたく仕事にありつける。


「…参戦…しないんですか…?」


「ん?」


一曹と顔を合わせて話していると、唐突に少年が声を掛けて来た。


視線を彼へ向ければ……表情は困惑に満ちている。


「…我々の参戦が必要か否かの判断は雇用主−−孫伯符殿が下す事だ」


「こっちはボランティアで戦争やる訳じゃないからさ。俺達を動員したいなら報酬が必要なんだよ」


「でっでも、貴方達は呉に仕えているんじゃ−−」


「形式的にはな。本質は金で結び付いているだけの関係だ。…確か…日本の諺にもあったな、一曹?」


「えぇ。“金の切れ目が縁の切れ目”ですね」



横目に視線を動かして一曹を見遣れば、野郎は思った通りの諺を笑顔で言い放った。


「…そんな…」


「一刀君。人間同士の結び付きなんて、そんなモンだよ?拝金主義者って訳じゃないけど……人間は何かしらの見返りがなければ何もしないモンさ」


「我々のような傭兵なら尚更だな。…残念だが、我々は亡くなった鋼陽殿や李玉殿−−劉璋殿が持っていた誇り、理念を何処ぞのドブ川へ捨てた人種の集まりだ」


紫煙を吐き出しつつ短くなった煙草の代わりに新しいそれを紙ケースから抜くと、残っている火種で点してから携帯灰皿へ放り込む。


「俺達は戦争屋だけど、自分達が戦争の火種になるような事はしないよ。リスクが高い上…第一、面倒だしね」


「我々は戦争を食い物にする戦争の狗……いや、ハイエナ…まぁ、いずれにせよ畜生だな。とかく、この世界、この時代では稼ぎに困る事がなさそうだ」


「何せ、どっかで必ず戦争やってますからねぇ…。呉を追い出されても、金払いの良い就職先を見付けて戦うだけ」


「…そんなに…戦争が好きなんですか…?」


視線の先で少年が絞り出したような掠れた声で問い掛けてくる。


それに−−俺は満面の笑顔を浮かべ−−


「−−大好きに決まっている」


それだけを告げた。


「…韓甲さん…貴方は…本当に日本人なんですか?」


「“元”を付けてもらいたいモンだ」


「も、元…?」


「そう、元日本人だ。…俺は−−いや俺達は全員、祖国を捨てた傭兵(クズ)だ。二束三文の端金を貰い、世界中の鉄火場で好き勝手に殺し合う戦争の狗だ。戦死しても、そこら辺の道端に捨てられ、腐り果てるのを待つだけ。そんな人間に国籍が必要か?要らんと思うね、俺は」


紫煙を吐き出しつつ返すと、少年の表情が苦し気に歪んだ。


一人称を“私”等の格式張るモノにするのも面倒となってしまった。


「…まぁ、和樹さんの言ってる事は一種の真理−−果物、貰って良いかな?ちょっと小腹が空いてね」


「あ、どっどうぞ」


「ありがと。…さて、どれが良いかな…」


話の腰を折った一曹は、卓上に置かれたフルーツバスケットに収められている数多の果物の中から……青林檎を選び取った。


片手に収まる程度のそれを掴みつつ、一曹は腰へ巻いた弾帯からナイフを抜き、その刃を林檎の表面へ当て−−器用に皮を薄く剥き始める。


…どうやら…俺よりも遥かに野郎の方が信用されているらしい。


俺は丸腰だと言うのにな。


ブレードはクリップポイント、そしてハンドル材は鹿角のそれ……ウチの部隊の制式装備ではない。


しかも一曹のハンドメイドだ。


野郎は俺から多種のナイフ鋼材を仕入れ、それを補給小隊の作業用兼工作用テントの中で工具を借り、ナイフを自主製作しているのだ。


隣で器用に林檎の皮を剥いている野郎に言わせれば……趣味なのだとか。


堅牢かつ切れ味抜群、という事で隊内でも中々の評判−−−最近は小遣い稼ぎに城下の鍛治屋へ製作した一部のナイフを売っているようだ。


……俺も造って貰おうか…。


「一刀君」


「あ、はい。なんですか?」


皮を剥きつつ一曹が唐突に少年へ声を掛ける。


「…君は林檎で思い付く神話や伝説をどのくらい知ってるかな?」


「え、林檎…ですか?……えっと…」


その問い掛けに少年は考え込む。


まぁ…メジャーな所で言えば−−


「アダムとイヴが蛇に唆されて食べた知恵の実…ですかね?」


「やっぱり言うと思ったよ。ちなみに善悪の知識の実が正しいからね」


俺もそう言うと思った。


旧約聖書“創世記”にある記述。


エデンの園に住む女−−エバに蛇が近付き、善悪の知識の木の果実を食べるよう唆した。


エバはそれを食べた後、先に生まれていたアダムへも果実を食べるよう勧める。


そして二人の眼は開かれ……自分達が裸である事に気付き、慌てて腰を葉で覆った。


主なる神は怒り、蛇を腹這いの生物とし、エバ−−女へ妊娠の苦痛が増すようにし、また男−−アダムは額に汗して働かなければ食料を手に出来ないという苦痛を与えた−−−だったと思う。


戦史や戦術書ほど、聖書はまともに読んだ事が無い為、記憶が曖昧なのは仕方ない。


あぁ…確か、絵画では善悪の知識の実は林檎で描かれているが、“創世記”では何の果実であるかという詳しい記述はなかった筈だ。


「有名所ではそうだね。…“イズンの黄金の林檎”って聞いた事ないかな?」


「イズンの…?」


「“イズンの黄金の林檎”。北欧神話さ」


一曹が漏らした単語に一瞬だけ頬が痙攣したが−−気にせず、銜えた煙草の紫煙を吸い込み、唇の端から吐き出した。


北欧神話−−キリスト教化以前のゲルマン人が持っていた神話のうち、ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、アイスランド、そしてフェロー諸島に伝わっていたモノの総称だ。


「北欧神話の神々ってのはちょいと特殊でさ、不死の存在じゃないんだよ」


「神様なのに…ですか?」


「人間臭いでしょ?でも、最終戦争(ラグナロク)に参戦するまで若さを保っておかなきゃならない。その為に“イズンの黄金の林檎”を食べて、最終戦争へ備えるのさ−−君も食べるかい?」


「へっ?」


「いや…なんか物欲しそうな目で見てたからさ」


「うっ…」


「和樹さんは?」


「…要らん」


「やっぱりね。ニコチンだけで充分って顔してますよ」


笑いながらも一曹は剥き終わった林檎を二つに割り、芯をナイフで刳り抜いてから、片一方を少年へ手渡す。


「ほら」


「いっ…頂きます…」


恥ずかしそうに受け取った少年が林檎を一口齧るのを見届け、一曹は果汁が付着したナイフの刃をズボンで拭うと鞘へ納めた。


「どれ−−ふぅん…思ってたより酸味はないね…丁度良い甘さだ」


シャクシャクと小気味好い咀嚼の音を口内で響かせつつ一曹が率直な感想を漏らす。


「…あの…」


「ん、なに?」


「何故…北欧神話の話を?」


「………」


一曹が無言で噛み砕いた果肉を飲み下し−−再び林檎を齧った。


「……特に理由はないね」


「…………はい?」


「強いて言えば……そうさなぁ…コイツが眼に入った、って所かな」


食べ掛けの林檎を軽く掲げた一曹は少年へ笑い掛けつつ、残っているそれを全て口内へ放り込み、豪快に咀嚼する。


噛み砕いた果肉を飲み込み、口の端から溢れ出た果汁を腕で拭い、視線を少年へ向けた。


「−−壮烈かつ誇り高い戦死を遂げた勇者は戦乙女(ヴァルキュリア)に導かれ、ヴァルハラへ迎えられるという」


「…え?」


一曹の不意を突いた話に着いて行けないのか少年が情けない声を発したが、野郎はそれを気にする様子もない。


「だけどさ。俺達に迎えられる資格はないし、迎えられたいと思わないね」


「…何故ですか?」


紫煙を吐き出し、溜まった灰を石畳の上へ叩き落とすと、問い掛けに答えるため口を開く。


「…それは少年が良く判っている筈だ」


「所詮、俺達はヒルドルヴにはなれないって事だよ」


「ひる…?」


「戦の(ヒルドルヴ)−−北欧神話の主神にして戦争と死の神であるオーディンの別名だ」


そう注釈を入れると少年は納得出来たのか軽く頷いた。


「−−まぁ、俺達の性には合わないしね。それで構わないよ」


「俺達はフェンリルで良い−−むしろ、それ以外になりたくはない」


「え?…あの…それってどういう…」


雑談にしか発展しない所を鑑みるに……謁見という名の会談は終わりなのだろう。


椅子から立ち上がり、卓上へ置いた軍帽を手に取ると、それを被って位置を整えつつ口を開く。


「黒狼隊(BLACK WOLF)−−主神へ牙を剥く反逆の狼。…そういう意味だ、少年。失礼する」


軽い会釈をし、踵を返すと離れた場所で我々を見守っている漢升殿へ向かい−−


「あっあの、待って下さい!!」


−−歩き出した瞬間、待ったを掛けられた。


肩越しに振り向けば、椅子から立ち上がった少年が冷汗をかきながら視線を俺へ向けている。


「反逆って……じ、じゃあ貴方の敵は一体何なんですか!!?」


問い掛けという割には些か激情なそれを受け−−


「世界」


−−その一言を以て答えとした。






“SKYRIM”というゲームにハマっておりますが、劇中に登場するソブンガルデって……まんまヴァルハラです。


一曹って意外にもインテリ……なのかなぁ?




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