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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第四部:劉備軍支援
77/145

64



さっさと呉に帰らせようか……それともしばらくの間、蜀に留まらせようか……。


それとも−−−




〜〜続・成都陥落後〜〜



<無理って…どういう意味だ?>


<Impossibleって意味>


<…それは判ってる。…マズい状況なのか?>


<まぁ部隊が壊滅の危機に瀕しているって訳じゃねぇよ。ちょっとだけ敵さんの抵抗が激しくて最後の郡が制圧できてねぇんだわ。Haloを迎えにやるのは、もう少し後になる>


<…Haloからナパームでも投下して焼き払ってみたらどうだ?>


<地理がベトナムなだけにか?…ふぅむ……まぁ考えてみようかな。取り敢えず、迎えの目処が立ったら連絡するわ>


<…ハァァ…了解した。OVER>


<んじゃな。OUT>








和樹side




「−−ハァァァ……」


「おじちゃん、ど−したの−?」


「溜息を吐くと幸せが逃げるのですよ」


「…なんでもない。それと心配無用だ。逃げ出す程の幸せなんぞ持ち合わせていないからな」


「…別に威張れる事ではないですぞ」


三日前の相棒との通信を思い出し、我知らず溜息を吐いてしまい、二人から軽く咎められてしまう。


鞍の上で俺の腹へ背中を預ける格好となっている璃々嬢が見上げているのに気付き、安心させるため軽く笑い掛ければ、彼女は花が咲いたかのような笑顔を浮かべた。


城門上の門楼は過日の攻城戦で破壊してしまったが、復旧を急ぐ大工達が木槌の音を響かせている。


一方の城門はと言えば……こっちもこっちで無反動砲の攻撃を受け、見事なまでに原形を止めていない。


…別に俺達が修理代を出す訳ではないから関係はないのだがな。


「ねぇ−おじちゃん」


「…なんだね?」


「おじちゃんのお名前ってかんこ−さまだよね?」


「そうだが…どうかしたのか?」


「うんとね−。お母さんと桔梗お姉ちゃんが“韓甲殿は素晴らしい武人だ”って言ってたの−」


「…買い被りというモノだが……光栄ではあるな」


「かいかぶり−?」


「…実質以上に高く評価する、というような意味だ」


「う〜ん……よくわかんないよ〜」


「ククッ…そうか。だが、大きくなれば判るようになるさ」


「…おじちゃん呼ばわりは諦めたのですね」


舌足らずな口調で俺を見上げつつ声を掛けてくる璃々へ当たり障りのない返事をする。


隣で張々の背中に跨がるねねちゃんがボソッと呟いたが……彼女の言う通り、おじちゃんの呼称を改めさせる事は最初から諦めている。


冷静になって考えれば、四捨五入したら三十路の男が今更“おじちゃんではない”と言い繕った所で説得力は皆無というモノ。


……まぁ納得はいってないが。


修復中の城門をくぐり、城を目指す道中では大工や劉備軍将兵が戦で損傷を受けた城下町の復旧作業に従事している。


早い段階で大工を雇い、将兵が率先して修理する事で領民の人心掌握を目論むのが狙いだろう。

何処の世界、いつの時代も変わりないという事だ。


それらを横目に城を目指して通りを静々と進んで行けば、目の前に現れた−−これまた見事に破壊された正門。


……ウチの連中が中々、開かない事に業を煮やし、C4で爆破したのが要因だ。


おかげで門は“全壊”と“全開”し、ついでとばかりに土壁までもを抉ってしまった。


「…しかし…いっそ清々しい程、見事にブッ壊しましたなぁ」


「そいつはどうも」


「別に誉めてないのです」


その言葉に苦笑しつつ、門(?)を抜け、城の厩へと向か−−


「…ねねちゃん、厩って何処だい?」


「こっちなのです。張々、行くのですよ」


ねねちゃんを乗せた愛犬がのっそのっそと先頭切って歩き出すのを追い掛けていけば、いくつもの小屋が隣接する厩へ辿り着いた。


だが……いずれも馬が入っており、黒馗が入る場所がない。


仕方なく、繋ぎ場まで行くため手綱を捌けば愛馬は俺の思惑を察して素直に進み始める。


繋ぎ場へ辿り着くと、璃々嬢を抱えて鞍から飛び降り、彼女の脚を地面へ着けた後、手早く馬銜を外して手綱を柵へ繋いだ。


黒馗が水を張った桶へ顔を突っ込んでいる間に鞍や鐙も外して、それを柵の上へ掛けておく。


ポンポンと跳ねるように馬体を叩いてやれば、桶から顔を上げた黒馗が軽く嘶いた。


さて……用事をさっさと済ませるとしよう。


軍帽の位置を整え直した後、張々へ乗ったままのねねちゃんの先導を受けて歩き−−−


「………(じーー)」


「…なんだね?」


出そうとした瞬間、再び俺を見上げる視線に気付いてしまった。


視線を下へ向ければ……やはりそれは璃々嬢。


尋ねると彼女は弾けるような笑顔を浮かべつつ、俺へ手を差し出して−−


「つなぎっこ♪」


そう仰られた。


要は……手を繋げば良いのか?


右手を下へ向けて差し出せば、璃々嬢は俺よりも遥かに小さい左手でそれを握った。


「えへへ〜♪」


「…………」


「和樹、早く行くですよ〜」


「…判った」


こんな事は初めての経験だが………まぁ不思議と嫌な気はせんな。


空いた左手で腰に佩いた二本の愛刀を押さえ、右手で璃々嬢の小さい手を包むように握りつつ歩き出す。


やれやれ…歩調を合わせるのも一苦労だ。


歩幅の間隔が俺と璃々嬢では全く違う。


彼女の歩幅に合わせようと踏み出す一歩を小さくするが−−


「和樹、もっとゆっくり歩くのです。璃々が疲れてしまうではないですか」


……やはり一苦労だな。


規則正しく石畳が敷き詰められた歩道を進み、階段を登っていけば先日、俺達が降下点とした入口に着いた。


「…占領した時、ここで地獄絵図を見たのです」


「アレでかい?まだまだ序の口だろ」


「…和樹達は一度、医者に診て貰った方が良いですよ」


「ククッ…。身体だけは丈夫だから安心したまえ」


「いや、そういう意味じゃないのです…」


まぁ思考回路は病んでるかも、だが。


唇の端を僅かに歪め、忍び笑いをしてしまう。


この入口もロケット弾の爆風で壁が焼け焦げ、破片で傷付き、周囲の壁も銃弾によって蜂の巣状態となっている。


屍にした敵兵の血は掃除されたのだろうが、それでも石畳の隙間にはドス黒く変色した血痕が残っていた。


城自体も俺達の制圧行動が原因で所々が“少々”破壊されており、城の彼方此方から修理の音が響いている。


流石に城内の為、張々から降りて歩き出したねねちゃんと並んで廊下を進む。


「全体の修理にはどのくらい掛かる?」


「む?…そうですなぁ…ざっと見積もって…早くても一ヶ月といった所ですか」


「妥当な期間だな」


「自分達で派手に壊しておいて良く言うのです」


「それは仕方ない。諦めろ」


「新興勢力のねね達は万年人材不足に貧乏なのですぞ」


「それも諦めてコツコツと遣り繰りし、有能な奴を連れて来たまえ」


「元は同僚だと言うに…まるで他人事ですなぁ…」


「実際、他人だからね。それに……」


「それに?」


「仕える勢力が違うんだ。喩え同盟国でも、そっちの不都合はどうしようもない」


「ざっくばらんに言いますなぁ…。洛陽に居た頃からまるで変わってないのです」


言葉を交わし、所々で苦笑しつつも歩みは止めない。


「三つ子の魂百まで。26にもなれば性格の改善なんぞ出来る筈がないよ」


「…へ?…和樹…26歳だったのですか?」


「オイ、ちょっと待て。君は一体、俺がいくつだと思ってたんだ?」


「三十路は過ぎているモノかと」


「…………」


……今のは聞かなかった事にしよう。


だが…俺って、そんなに老け顔なのか?


まぁ…自覚はしてるし、相棒と部下共にも老け顔と言われる事はあるが……それでも認めたくは−−


「あっ、お母さ−−ん♪」


−−唐突に右手から温もりが消え失せた。


「璃々−−あら、ねねちゃんに…韓甲殿?」


「おやおや…姿が見えないと思ったら…」


「えへへ〜。ねねお姉ちゃんとおじちゃん達と遊んでたの〜♪」


「あら、良かったわねぇ」


「おじちゃん達というと……」


「…たぶん、黒狼隊の方々よ」


進路上に現れたのは璃々嬢の母親である漢升殿とその友人の厳顔殿。


璃々嬢が母親の胸へと飛び込んだ瞬間、俺達の姿を認めたのか彼女達が視線を向けてきた。


軍帽を脱ぎ、それを小脇へ抱えると踵同士を音を鳴らして合わせ、会釈する。


「申し訳ありません。勝手ながら自分の部下達に御息女の面倒を見させました」


「そんな…そう畏まらないで下さいまし」


「そうですぞ韓甲殿。…璃々、楽しかったか?」


「うん!!おじちゃん達とおいかけっこしたんだよ〜♪」


「ほぅ…そうかそうか。良かったな璃々」


「うん♪」


そう璃々嬢は屈託のない笑顔を浮かべ、母親達に報告をする。


…まぁ楽しんで貰えたのなら幸いだが。


「ねねちゃん。悪いんだけど璃々の面倒をもう少し見てもらえないかしら?」


「む?別に構わないのですが……ねねは和樹を案内しないと…」


「ご主人様との謁見よね?それなら私達が案内するわ」


「応。万事、任せておけ」


「むぅ…なら良いのですが…」


どうやら、ここで案内役はねねちゃんから二人へバトンタッチするらしい。


それはそれで良いのだが−−


「え−!?お母さんといっしょじゃないの−!?」


約1名、納得できていない幼女がいるようだ。


璃々嬢は漢升殿の足へ縋り付き、離れたくないと訴えている。


心底困った様子の彼女は膝を折り、視線を娘へと合わせる。


「…ごめんなさい璃々。でも大切なお仕事があるから、もう少し遊んでて頂戴」


「…おしごと?」


「そう、お仕事。終わったら一緒におやつを食べましょ」


「……やくそくだよ?」


「えぇ、約束よ」


提案が承諾されたのを確認した漢升殿は璃々の頭を撫でつつ立ち上がり、お座りする張々を傍らに侍らせたねねちゃんへ視線を向けた。


「ねねちゃん、お願いね」


「判ったのです。璃々、張々、行くですよ」


ねねちゃんと璃々嬢が手を繋ぎ、二人と一匹が廊下を戻って行く。


「では、韓甲殿。参ろうか」


「はっ」


それを見送っていると厳顔殿から催促が下り、二人の案内を受けて歩き出す。


小脇に抱えていた軍帽を再び頭へ乗せ、両手を使い位置を整えた。


「−−とても様になっておられるが…見た事のない服装ですな」


「これが正装です。…それはそうと、漢升殿」


「はい?」


「傭兵風情が、と自分でも思いますが璃々嬢−−御息女の事は宜しかったので?」


先導する漢升殿へ問い掛けると彼女の歩みが一瞬だけ止まり−−再び歩き出す。


「……あの子には不憫だと思っています。仕事が多忙を極めるだけに構ってやれる時間が少ない」


「…紫苑…」


「判っているわ桔梗。…大切な役目だと言う事は承知しています。…それでも、あんな悲しそうな顔を見ると思うのです。あの子は…私が母親で良かったのかと」


静かな独白をしつつも先導を止めない彼女の表情を窺い知る事は叶わないが……俺の隣を進む厳顔殿の顔は哀れみに似たそれに歪んでいる。


「当然ですが…人間は産まれて来る時代、場所、親を決める事は出来ない」


唐突に口を開くと先導していた漢升殿が振り返り、隣の厳顔殿も顔を俺へと向けて来る。


「それでも、その時、その場所へ産まれ落ちたというのは……奇跡に近い。何億分の一の確率でしょう」


「あの……?」


「韓甲殿、なにを仰りたいので?」


随分と昔に思える時分に俺や相棒を戦場−−銃火の暴風雨の真っ只中へ放り込む訓練を施した師匠が俺達を指して述べた事を口にした。


−−お前達がこの世界で巡り会う確率は本当に奇跡としか言いようがないな。同じ時代、同じ国、その他の事も考えれば……確率はもっと低くなるだろう。お前達は血こそ繋がっていない。だが、心で繋がってる。大切にするんだな。奇跡という名の縁、掛け替えのない絆だ−−


確かにそう言われた気がするが………なにぶん昔の事だ。


それに俺と野郎の仲は“絆”などの高尚なモノとは程遠い。


敢えて言うとすれば…切れそうで切れない“腐れ縁”だろう。


…まぁ…それはそれで良いとして−−


「人間の屑、戦争の狗、両親の顔を知らぬ、どうしようもない人間が偉そうにと思うでしょうが−−」


一端、口を閉ざし一息入れてから、眼前の漢升殿へ視線を向ける。


「自分は、貴殿のような母の下へ産まれて御息女は幸福だと思います」


「−−−!!」


宝石の如く美しい青色の双眸が揺らぐ。


諫言にも似た一連の会話が終わり、踵を合わせると謝罪の意味を込めて彼女へ一礼する。


「…延々と偉そうに申し訳ありません。どうかお許しを」


「い、いえ!!韓甲殿、どうかお顔を…」


「韓甲殿、紫苑の申す通りだ。貴殿が謝罪する必要などない」


「………」


「むしろ…感謝しております。ですから…どうかお顔を…」


「……はっ」


頭を上げれば……なにやら眼前の漢升殿が入れ替わるように頭を下げていた。


「韓甲殿、ありがとうございます。……御礼に私の真名を預かって頂けませんか?」


「紫苑、抜け駆けは許さんぞ!!…韓甲殿、わしの真名もどうか預かって頂きたい!!」


……なにがどうなれば、こんな展開に行き着くのだろう。


困惑を抑えきれず、後頭部を掻いてしまう。


「…私は構いませんが…。…恐らく、真名で呼ぶ事はあまり無いと思いますが…如何か?」


「えぇ、構いませんわ。ね、桔梗?」


「むぅ…それはそれで寂しいが…まぁ良い」


「では…手前の真名は和樹と申す。以後、見知り置きを」


「御丁寧に。私の真名は紫苑。これを和樹殿へお預け致します」


「わしの真名は桔梗。これを同じく貴殿へお預けする」


「…確かにお預かり致しました」


紫苑に桔梗……どちらも花の名前だな。



彼女達と真名を交換した後、再び漢升殿の案内で城を歩いて行けば−−辿り着いたのは中庭。


その隅に−−部下である一曹を含めた数人の集団が何かをしているのが視界へ入る。


「…謁見は玉座ではないので?」


「えぇ。ご主人様がこちらの方が良いと仰られまして」


「うむ。…しかし…前田殿は何をやって…」


「あぁ……まぁおそらく−−」


視線の彼方に居る一曹が突然、両腕を上げた瞬間−−銃声が木霊した。


立て続けの銃声は……9mmの物……拳銃か。


そして−−彼等が居並ぶ隙間から長机の上へ置かれたいくつもの湯呑を視認。


「射的でしょう」


彼等に近付きつつ話を交わしている間にも一曹が銃爪を引く度、射点から10mほど離れている標的群が次々と砕けるのが見える。


「まっ前田さん、凄いですね…」


「そう?こんなの普通ふつ−。狙撃班の連中なんか、500m離れてても当てるからさ−」


背後にいる少年へそう解説する一曹だが……まぁ確かにそうだ。


「もう最後なのだ!!」


「前田さん、すっご−い!!」


「へっへへ。はい、ラスト−−」


軽口を叩いた後、最後の標的へ向け発砲−−


「−−−…ありゃ?」


したが……外したらしい。


「…外れた?」


「何やってるのだ〜!!」


「ごめんごめん。んじゃ−−」


改めて構え直した一曹が拳銃を標的へ向ける。


溜息を零し、先導する漢升殿を追い越すと革製のヒップホルスターから愛銃を抜き、並み居る武将達の合間を縫って一曹の真横へ着いた。


標的へ照準を合わせ−−銃爪を引き発砲。


標的の湯呑は−−砕けたのではなく粉砕された。



「…いや、流石は和樹さん」


「“こんなのは普通”なんだろ?」


「ははは……」


苦笑いを零す一曹が拳銃をレッグホルスターへ納めるのを見届け、俺も愛銃を納めると地面に転がる自分の薬莢を拾い上げてコートのポケットへ放り込む。


「…近接の静止標的で“まさか”外すとはなぁ……?」


「和樹さん…そう虐めんで下さいよ」


「悪い。…だがな…普通は外さんぞ?“普通”はな」


「うわっ…俺のガラスのハートにひびがビシッと…!!」


胸を押さえつつ仰け反る一曹だが……貴様のハートがガラスで出来ているとは初耳だ。


苦笑を続ける一曹から眼を離して踵を返し、俺達を呆然と見上げている少年達へ向き直る。


「…私に御用だとか」


「−−あ、はい!!」


声を掛けられてやっと気付いたのか、少年が慌てた様子で頷いた。


「…あの…これからの事を少し話し合いたいんですけど……」






<前書きの続き>


それとも……魏の描写が出来ていないから、新キャラ(オリ)を登場させようか……。



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