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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第四部:劉備軍支援
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57


前回に引き続き、意外な一面が垣間見えるかも!?



……まぁ人によって評価は分かれるかも知れませんが。


※改訂しました

Others side





劉備軍が益州に入って約一ヶ月。


曹操軍に追われ徐州からの逃亡を計算に入れれば三ヶ月近い。


史実よりも早い入蜀にも終わりが見えて来た。


明日には巴郡に入り、待ち構えているという猛将:厳顔が率いる約6万の兵力と劉備軍8万はぶつかる事になるだろう。


劉備軍は巴郡の一歩手前の地点で夜営し、明朝には出陣する手筈となっている。


その付近に流れる小さな川の畔に彼等はいた−−


「−−前田さん」


「………おおっ、見ろよ一刀君!!向こう岸まで行ったぜ!!!」


彼等とは“天の御遣い”として祭り上げられた北郷一刀と黒狼隊の前田宗一だ。


一刀は畔へ腰掛け、一方の一曹は大量の平べったい石を片手に掴みつつ、その内のひとつを利き手である右手で掴み、野球のアンダースローにも似たフォームで次々と石を水面へと放り投げている。


水切りをするのは久しぶりなのか、彼は年甲斐もなくはしゃいでいる。


石が水面を跳ねて20mほど先にある向こう岸へ到達するのを一刀は見詰める。


「君もやるかい?」


「…いえ…」


ドヤ顔で一曹は一刀を見遣り水切りに誘うが彼は首を振る。


それに肩を軽く竦める一曹は遊びへ戻った。


「……前田さん」


「ん−?」


「傭兵をやっていて……恐くないんですか?」


「なにが?」


「…人を殺したり、殺されたりするの…」


失敗したのか石は水面を跳ねず、波をたたせて沈んだ。


それに一曹は舌打ちするモノの、再び嬉々とした表情で水面へ石を放り投げる。


−−今度は上手く跳ねた。


「ん−。変な質問だね」


「…変な…?」


「傭兵は戦うのが仕事さ。“仕事”は、とどののつまり殺人。それに恐いもクソもあるかい?」


「…恐く…ないんですか?」


「ちっとも、全然、まったくね。むしろ“楽しい”よ」


「たの…ッ!?」


「あぁ楽しいよ?生と死という漠然としたモノを戦場だと肌身で感じられる。敵をぶっ殺した時なんてもう…女とベッドでいちゃつく以上に最高だ」


笑顔を一刀へ向けながら、一曹は石を川へ放り投げた。


先程までとは比べ物にならない鋭い挙動で投げられた石が水面にぶつかって水飛沫を上げる。


波が立つ水面に−−ややあって一匹の川魚が浮かび下流へと流れて行った。


「ッ!!?」


その光景に驚愕し一刀は立ち上がると、笑顔を浮かべたままの一曹を恐怖に満ちた眼で見詰める。


「今、君は、あの魚に“可哀想”という感情が浮かんだかい?」


「…え?」


一刀の様子が面白かったのか一曹は笑顔を浮かべていたが、突拍子もない質問をした時点でそれを奥へと引っ込め、今度は感情の読めない顔を作ってしまう。


「喩えが悪かったかな。…向こうの世界でゴキブリを丸めた新聞紙で叩き殺した時、君は可哀想だと思った?」


「……っ!そっ…そんな事とは規模が違う−−」


「同じだよ。ってゆ−かさ…一体、何処が違うの?」


「……え?」


訳が判らないと言わんばかりの表情に一刀は呆気に取られる。


「ん−−……あぁ、住む世界が違ったか…」


短い黒髪が生え揃う頭をボリボリと掻く一曹は、ふと呟く。


表情が変わり−−再び彼は笑顔を浮かべた。


「まぁ、つまりね。俺達は君からしたら“精神異常者”なんだよ。戦争が大好きで人殺しも大好き、でも一番好きなのは金。それらさえあれば、他は何も要らないってくらいの」


「………」


一刀は−−何も言えない。


だが、その様子を見ていた一曹の顔が僅かに震え始め−−−


「ブフッ!!」


次の瞬間には吹き出した。


「ハッハハハハ♪」


「えっ…え!?」


「ハハハッ…ごっごめんごめ…プフッ♪」


ツボに入ったのか彼は笑うの止めず、終いには腹を抱えてしまう。


彼は息を整えると−−まだ笑いは治まらぬ様子だが、石を全て川へ放り込んでから畔へ腰を下ろした。


「ハハハッ♪……フゥ……」


急に笑い出した彼を心配気に一刀は見詰め、声を掛けようとした瞬間、それが止んだ。


「…いや済まなかったね。冗談だよ」


「……………へ?」


その一言に一刀は滑稽な声を上げる。


「だから冗談、ジョーク」


「じょ…冗談…?」


「うん。三割くらいは♪」


つまり半分以上は本気という事だ。


僅かに笑顔を湛える一曹が身体を捻り、視線を真後ろにある茂みへと向ける。


「−−出て来られてはどうですか?」


その言葉で茂みが一瞬、揺れた。


「…どうか…?」


「慕われてるねぇ…羨ましい限りだよ。その若さで」


「あの…−−えぇ!!?」


一刀が驚愕の声を上げたのは仕方ない。


なにせ自軍の武将達−−桃香を始め、愛紗、星、朱里、雛里、翠、蒲公英、そして紫苑までもが姿を現したのだ。


「皆さん。男同士の話を盗み聞きするのは、あまり感心しませんよ?」


「申し訳ありません。殿方のお話が気になったもので」


「紫苑さん!!」


「わっ私はご主人様を護衛する為に!!」


「そっそうだよ!!あたしだって護衛が目的で−−」


「お姉様と愛紗も素直になれば良いのに−♪」


「「蒲公英!!」」


「きゃ−−、助けてご主人様ぁ♪」


「話の内容も気にはなるが…いやはや、良い男が並ぶのは絵になりますなぁ」


「はっはわわ…!!」


「…あわわ…!!」


ゾロゾロと出てくる武将達の姿に一刀は呆然とし、一曹は苦笑を浮かべている。


ちなみに−−チビッ子軍師の二人には、この状況が“前田×一刀”の図に見えて仕方なかったという。


「ねぇねぇご主人様♪前田さんと、なに話してたの−♪」


「えっ!?…えっと…」


「好みの女性はどんなのかだよ、馬岱ちゃん♪」


「きゃ−♪やっぱり男の人って、その手の話で盛り上がるんだ−♪」


「盛り上がるって…」


「だって前田さん、笑ってたじゃん♪ご主人様はどんな女の子が好きって言ったの−♪」


「ほぅ…そんな話を…。主よ、私も知りたいですなぁ?」


「えぇっ!!?」


とても話せる内容のそれでは無かった為に一曹が嘘八百の事を告げれば効果覿面−−武将達が一刀へと群がった。


その光景に苦笑を零しながら一曹は戦闘服の胸ポケットの留め具を外し、煙草とジッポを取りだそうとする−−それらと一緒に折り畳まれた紙片が出て来た。


「……あぁ…」


入れていた事を思い出した彼は煙草を銜え、火を点けると紙片を広げつつ紫煙を吐き出す。


燻る紫煙の向こうには、枠が狭いとばかりに並み居る人間達が描かれた写真があった。


何回も折り畳まれてシワが寄り、色褪せてしまった写真は黒狼隊がまだBLACK WOLFと名乗っていた頃にたった一枚だけ撮った写真だ。


「それ、なんです−−うわっ凄−い!!」


周囲の喧噪を忘れ、感慨深く写真を見詰めている彼に気付き、桃香が声を掛けると、絵とは比較にならないほど精巧な出来に感嘆の声を上げた。


それに気付いた武将達が好奇心を擽られ、次々と写真を見に来る度、驚愕と感嘆の声を上げる。


「前田さん、これって絵なんですか!!?」


「絵…とは少し違いますね」


「桃香、これは写真だよ−−−ッ!?」


「…一刀君、どうかした?」


「どうしたの、ご主人様?」


なにかに気付いた一刀が息を飲んだ。


心配気に一曹や彼女達が声を掛ける中、彼の指が緩々と写真の一点を指す。


「愛紗、この人……」


「どうか…−−っ!!?」


「…愛紗ちゃん?」


一刀が指差したのは、写真の中で小さく写っている一曹の隣で人懐っこい微笑を浮かべる青年。


一刀にとって、この顔だけは強烈すぎて忘れる事が出来ないそれだ。


「…あぁ、伍長だね。…懐かしい……って、和樹さんはこの頃から老け顔だったのかよ…」


久しぶりに見るのか、彼はマジマジと写真を見詰めつつ素直な感想を漏らす。


「老け顔って…。まぁ…そうかも知れませんけど−−」


「一曹より和樹さんへ。天の御遣い北郷一刀が貴官を老け顔と申しました。もう一度伝えます−−」


「ちょ−−っ!!?」


「−−嘘だよ、繋がってないから♪」


押さえていた声帯振動型マイクから手を離すと一曹は悪戯成功を祝した“良い笑顔”を浮かべた。


「まぁ…老け顔だけど、まだ26歳だから相応に気にはしてるんだよ」


「でも…とても精悍な面魂をしてますわ」


「ハハハッ、確かに」


写真を覗き込む紫苑の感想は好評価のようだ。


せっかくの写真撮影だと言うのに……和樹は仏頂面でカメラを睨み付けつつ腕を組んでいる。


他の隊員は笑顔−−と呼べるかどうかは判断に迷う所だが、それなりに表情は砕けている。


「…前田さん、この人って…幾つで亡くなったんですか…?」


一刀が再び写真の隅で笑顔を浮かべている伍長を指差した。


「…アイツは…23だったね。性格も明るくて良い奴だったよ。…和樹さん達を心服しててねぇ…あの人が着てるコートも野郎が戦死する直前に渡したんだってさ」


「そう…だったんですか…」


「うん。栄えある大韓民国海兵隊出身の傭兵、名前は李英振。階級は伍長。…良い漢で…良い戦友だったよ…」


眼を閉じ、一曹は小さな独白を終えると写真を折り畳み、それを胸ポケットへ入れた。


「アイツ…今際に何か言ったかい…?」


「え…?」


「命乞い、とかさ」


「…無かった。命乞い等は一切しなかった。…あの者は…正に武人−−臣下の鑑だった」


愛紗が泗水関で目撃した事を一曹へ伝えると、彼は何度も何度も小さく頷きつつ紫煙を吐き出す。


「ん……なら、良いや」


満足気な声を発し、一曹は短くなった煙草を携帯灰皿へ放り込むと彼女達へ向き直る。


「…野郎の最期を教えて貰ったんだ……何か御礼しないとな」


「いっいや、お礼なんて−−」


「まぁまぁ」


一刀は慌てて一曹の言う御礼を固辞するが、それを彼は窘めつつ考え込む。


「ん−−…そうさな…。御礼…とは言えないかもだけど…。あの人−−和樹さんが何故、君達を毛嫌いしてるか教えてあげるよ」


その言葉を聞いて一刀達の顔が強張った。


「それは…その…俺達の理想が甘いから、ですか…?」


「う−−ん…ちょっと違う…かなぁ…?」


「…え?」


そうだとしか考えられない答えを一刀は口にするが、一曹はそれを曖昧にだが否定した。


「…まぁ確かに…俺から見ても君達の理想は甘いよ?万人が互いに手を取り合う事なんて出来る訳がないし、恒久平和なんて有り得ない」


『…………』


「君達は…親兄弟を殺した相手と仲良くできる?“あなたは悪くない”って言えるかい?俺は許せないね、生きたまま五体をバラバラにしてやりたいよ」


新しい煙草を銜え、火を点けつつ彼は呼吸を整えながら紫煙を吐き出した。


「…でも、君達はその“甘い理想”を何万もの将兵を屍にしても実現させたいんだろ?」


「……はい…」


「だからだろうね、和樹さんが毛嫌いしてるのは」


ならば想像している理由と同じではないか、と一刀は考えた。


「…あの人は君達を心の何処かで羨望−−というよりは嫉妬してるんだよ」


「…嫉妬…ですか…?」


「うん。…理想成就の為に何人も恐れず前へ進む姿に。ただ一途に理想を信じる心根をね…」


そう言うと彼は銜える煙草を吸い込み紫煙を吐き出して小さく口を開く。


「……俺達は負け犬だからさ……」






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