55
やっと本編の続きだぁぁぁ!!
……たぶんR15の範囲内かなぁ…?
落城から二日目の早朝は黒馗の頬擦りで眼が覚めた。
元々、眠りは浅い方だが……開眼した瞬間、超至近距離で顔を合わせる事になるとは……。
ちょうど起きた中尉と共に毛布を小さく畳んでバッグの側へ置くと、近くにある川へ騎乗して向かった。
草の生えている場所へ黒馗達を繋ぎ、文字通り“道草を食わせて”いる最中に俺は戦闘服の上着とシャツを脱いで川へ足を入れると持参したシェービングクリームをチューブから捻り出し、顔へ塗りたくる。
「…やっと髭を剃る決心をなさいましたか」
「…剃るつもりは毛頭なかったぞ。お前等の所為だろうが」
「何を仰る。御自分の顔、鏡で見られては?」
「……そんなに酷いのか?」
「えぇ。−−どうぞ」
見張りに立っている中尉へクリームを塗りつつ向き直ると、彼はフェイスペイントを塗る際に使うコンパクトを開き、付いている鏡を俺へ向けて来た。
「……確かにな。コイツは酷い。ってか、誰だコイツ?」
「貴方ですよ貴方。…ドーランを塗る時、使わなかったんですか?」
コンパクトを閉じてポケットへ押し込んだ中尉が尋ねてくる。
「あぁ。使ったが、生憎とテメェのツラなんぞマジマジ見る趣味は無ェよ」
「…なるほど…配色具合だけを確認していた、と。それと……言葉遣いが昔に戻ってますよ」
「……おぉ、悪い。気を抜くと、ついな」
「いえ、そっちの方が素の隊長らしくて−−……いや…現在の隊長も捨てがたい…」
「どっちにしろ俺は俺だ。そもそも堅苦しい言葉遣いは性に合わん」
「いや…士官というのは言葉遣いを矯正されるモノなんですが…」
「生憎だが、俺はお前達みたいに士官学校で学ばなかった。…そういえば…お前の履歴書、中々の経歴だったな?」
「一応、士官学校は次席卒、最終階級は中尉だったんですがねぇ…。まさか同い年で少領−−じゃない、少佐とは…いまだに信じられませんよ」
「あぁ、同い年だったか…忘れてたな…。言うまでも無いと思うがエリート意識は−−」
「判っています。“戦場とは等しき地獄”。努々、忘れません」
「……なら良い。まぁ傭兵にエリートもクソも無ェが」
「えぇ。…また言葉遣いが戻ってますよ」
「…済まん」
一通り会話を終えると、T字剃刀を川の水へ浸し、先ずは顎の無精髭を剃るため刃を引く。
「…妙にスースーする…」
「そりゃ、それだけ伸ばせば当然でしょう…」
鏡で見た自分の顔がまるで“本名よりも愛称が有名な稀代の革命家”とそっくりだったからな…。
別に髭を伸ばそうとは思っていない。
単に剃るのが面倒なだけだ。特に戦場では。
「本来ならこの時代の男は髭を生やしてるモンなんだが…。…生やしてる奴をあまり見た事がない」
「そうなんですか?」
「あぁ。髭生やしてない男は大抵の場合、宦官だけだ」
「…宦官ってアレですよね?ナニを切り落として朝廷に仕えたって奴等ですよね?董卓−−月ちゃんを散々、苦しめた十常侍も宦官でしたよね?」
「…何回も連呼するな。あぁそうだ。男のナニ切り落とした奴等のこと」
「髭を生やしていない…というよりは生えなくなるんですかね?」
「だろうな。体格も女性のようになるらしい。史実だと袁紹…だったかは忘れたが、誰かが宦官を含めて大量虐殺したな…千名単位で」
「…宦官に何か怨みでもあったんですか?…あぁ、ソウルにも火者洞って所がありましたね。退職した宦官が住んで居たって場所が」
「まぁ…宦官なんて昔の王朝には結構いたらしいからな。…捕虜になった訳でもないのに何が悲しくて望んで切除するんだか…理解できん」
「女を抱けなくなるのはゴメンですよ」
中尉の素直な返答に苦笑しつつ、刃に挟まった毛を川の水で洗い流し、再び顔へ宛がう。
……そういえば…コイツ、韓国の出身だったな…。
「……なぁ、ひとつ聞いても良いか?」
「なんですか?」
「お前、割礼してるのか?」
「ブッ!!?」
…どうやら驚きで吹き出したようだ。
「なななっ…なにを聞こうとしてるんですか!!?」
ほぅ…あの中尉が動揺するとは珍しい。
髭剃り途中の“良い笑顔”を浮かべて尋ねてみる。
「命令だ。安心しろ、誰にも言わん」
「うぅ〜〜!!!」
背中を俺へ向け、小銃を担いでいる彼が頭を激しく掻き毟る。
「ッ−−!!えぇ、中学を卒業する頃に手術を受けさせられました!!これで満足でしょうか!!?」
「…噂には聞いていたが…韓国でもやるのか…」
「ハァハァ…。…宗教的な意味合いは特に無いですよ」
韓国では割礼−−と言えば微妙だが、とにかく、除去手術の普及率が非常に高く、男子の80%以上は受けているとか。
「…って事は…ウチで韓国出身の連中は大体−−」
「いえ、全員ですね」
「…そう、はっきり言わんでくれ」
…開き直ったのだろうな。
というか、なにを朝っぱらからナニの話をしているんだか…。
「…ところで−−いや真面目な話だぞ。…侵攻部隊の方はどうなってる?昨夜遅くに通信が入ったんだろ?」
「起きてらしたのですか?」
「…まぁな。起こさなかったのを考えると……特に問題は無かったのか?」
「はっ。交州も残りは2群。本日早朝に戦端を開くと通信が入りました」
髭を剃りつつ、左腕に巻いた腕時計の針を見遣れば……時刻は0625。
「攻城戦か?」
「そのようです」
「…ふむ…。まぁ相棒の指揮だ、特に問題はなかろう」
Others side
砲声が早朝の静寂を切り裂き、着弾の轟音と悲鳴がその静寂を粉微塵に粉砕した。
T-72三輛の一斉射によって、城門は吹き飛ばされ、城壁の一部分が脆くも中程から崩落する。
「迫撃砲、急ぎ撃て!!目標は門楼および城壁!!」
<了解!!目標は各分隊に任せる!!射角修正、急ぎ撃て!!>
砲兵小隊長の指示が下り、8門の迫撃砲から砲弾が撃ち上げられる。
<弾着……今!!>
お試しの砲撃であったが、城壁と門楼へ次々と砲弾が着弾し、積み上げられた石は歪な小石と化し、門楼の屋根を突き破った砲弾が炸裂し、内部から爆発が起こる。
双眼鏡を覗き、その様子を見た侵攻部隊指揮官−−将司は喉へ巻き付けた声帯振動型マイクを押さえ付ける。
「戦車、砲兵は砲撃続行。ヘリは暖気運転しとけ。歩兵、ヘリボーンの用意を」
<戦車、了解>
<こちら01、了解。02、エンジンスタートだ>
<了解しました。バッテリーON…エンジンスタート>
<第二歩兵も了解>
侵攻部隊の方は和樹の予想通り、特に問題はなさそうだ。
結局、城壁はヘリボーンを敢行した黒狼隊の歩兵小隊によって占拠され、待機していた孫策軍将兵5千が城内へ雪崩れ込んだ瞬間、勝敗は決してしまった。
孫策軍が城全体を占拠するまでに掛かった時間は攻撃開始から僅か3時間。
一ヶ月程度の期間でひとつの州を陥落寸前まで追い詰めているというのは、やはり異常である。
城を陥落させた後は後方部隊へ治安維持を任せ、一気呵成に最後の郡へ向かおうとしていたのだが、総大将の雪蓮が決戦を前に将兵へ休息を取らせる必要があると判断し、今日の作戦は終了した。
−−その夜、孫策軍の軍営を歩く人影の姿があった。
黒いコートに身を包み、銜え煙草をしつつ目的地である天幕へ進んでいるのは黒狼隊副長の将司である。
「……一体、なんなんだ…」
ぼやく彼だが、それは仕方ない。
現在時刻は2300を過ぎており、将司はいつもより早いが就寝しようとしていたのだ。
それを叩き起こしたのは−−冥琳の遣いだという兵士。
彼女からの伝言は“少し話がしたい”という簡素なモノ。
彼にしてみれば、迷惑この上ない。
天幕が近くなり彼は紫煙を吐き出し、短くなった煙草を携帯灰皿へ放り込んだ。
「呂猛だ。公瑾殿から呼び出しを受けたんだが…」
「はっ。将軍が参れたらお通しするよう仰せ付かっております。どうぞ」
警護の兵士に一礼され、それに軽く手を挙げる事で返礼にした彼は、周囲を馬防柵で守られた天幕へ近付いて行く。
その最中、天幕の内から誰かが咳き込むのが聞こえ、疑問に思ったのか将司の顔が歪む。
「…呂猛、参りました」
「ッ!?少し待ってくれ!!」
応答に従い、彼が腕を組みつつ待っていると天幕の布扉が捲られ、冥琳が姿を現す。
「済まん、待たせたな。入ってくれ」
「…はっ」
将司は軽く会釈すると招かれるまま天幕へ入り−−微かな異臭に気付き顔を顰める。
「夜分遅くに済まなかったな。今後の予定なのだが−−」
椅子へ腰掛けつつ説明を始める冥琳の声へ耳を傾けながら、彼は視線を内部中へ縦横無尽に向ける。
−−異常は発見出来なかった。
気のせいか、と彼は微かな溜息を零すが−−彼女が茶を淹れた湯呑を傾ける姿を見た瞬間、将司に疑問が沸き上がる。
それなりの付き合いを経ているからこそ判った。
彼女は左利きの筈だ。
それなのに−−湯呑を右手で傾けている。
「交州も残すは2郡……いや1郡だけだったな。それを陥落させれば−−…将司、聞いているのか?」
「………」
「…どうした?」
些細な事かも知れないが、彼にはそれが重要な事に思えてならなかった。
視線を彼女の右手へ注いでいた将司は突然、立ち上がり、机を挟んだ向こう側に座っている冥琳へ近付いて行く。
「−失礼」
「なっ−−やめッ−!!?」
彼の思惑に気付いた冥琳が慌てた声で制止させようとするものの−−それは叶わず、左腕が取られた。
「将司、何をする!?離せッ!!」
「…黙れ」
「ッ−−!!?」
尚も抵抗する冥琳の双眸へ突き刺さったのは将司の殺気にも似たそれの強烈で有無を言わせぬ視線。
そして口から発せられたのは−−命令。
一瞬、押し黙った彼女の隙を突き、将司は冥琳の右腕全体を覆う長手袋の掌部分を自身の手で掴み、それを眼前へと持ってくる。
「……フゥ……」
「…………」
溜息を漏らす彼に対して、冥琳は視線を有らぬ方向へ向ける。
「……いつからですか?」
「……やはり…お前は騙せなかったな。…軍師失格か…」
掌に付着していたのは−−鮮やかな血液。
彼は掴んでいた冥琳の腕を離すと、それは力なくダラリと膝へ落ちた。
「……以前、屋敷へ参られた事がありましたが…」
「…あぁ。あれは…お前を試してみたんだ。…済まない」
「試した?」
「巷で噂になっている“名医”ならばと…淡い期待を込めてみたのだ。結局は…見破れなかったがな」
「…当然です。診療も受けず、ただ茶を呑んで帰られた。それだけで、どう診断を下せと?」
「ふふっ。それはそうだ−−なっ!?」
「………」
「おっおい将司!!下ろせ、下ろさんか!!」
将司は掌に付いた血をハンカチで拭うと、椅子に座る冥琳を有無を言わせず抱き上げ、奥の寝台へと運び、横たわせる。
「いきなり何を−−!?」
「失礼」
慌てる彼女を尻目に将司は小さく謝ると冥琳の長手袋を脱がし、手首に指を這わせて腕時計の針を見る。
「一体なにを−−」
「黙れ」
二度目の命令に彼女は再び黙ってしまう。
しばらくすると将司は指を離し、冥琳の額へ手を当てる。
「…お前の手…冷たくて気持ち良い…」
「…熱があれば当然かと。…38度1分ぐらいか…」
将司は手を離し、ついでコートのポケットから聴診器を取り出した。
「…服を脱いで下さい」
「…それは医者としてか?」
「えぇ」
「…判った」
短い遣り取りが終わると冥琳は上半身を寝台から起こし、慣れた手付きで纏っている服の留め具を外した。
「横になって下さい」
「……」
半裸の姿となり、露になる瑞々しく滑らかな褐色の肌を気にも留めぬ様子で将司が指示を出す。
再び寝台へ横になった冥琳を認めた彼は両耳にイヤピースを差し込み、肌へ当てる部分のチェストピースへ軽く息を吹き掛け、それを豊かな胸へ当てる。
「…っ…」
「失礼。冷たかったですか?」
「いっいや……続けてくれ」
「はっ。…息を吸って…吐いて…大きく吸って…止めて……吐いて…。…今度は俯せに」
「…あぁ…」
冥琳が身体を捩らせ、寝台に俯せの格好となると、将司は掛かっている服を肌蹴させ緩やかな曲線を描く背中の肌を露にし、再び聴診器を押し当てる。
「…吸って…吐いて…大きく吸って…止めて…吐いて…。結構です、服を着て構いません」
溜息にも似た−−少し艶めかしい息を吐き出した冥琳が服を着込むのを横目に、将司は聴診器のイヤピースを首へ挟み、近場にあった椅子を引き寄せて腰掛けると、コートの胸ポケットから手帳とボールペンを取り出した。
「…いくつか質問しますので“正直”に答えて下さい」
「判った。…仰向けで良いか?」
「どうぞ。楽な姿勢で構いません」
冥琳は身を捩らせ、仰向けになると胸の上で手を組み、手帳へ何かを書き込んでいる将司を見上げる。
普段とは違い−−戦場にいるような雰囲気で忙しなくボールペンを動かし、真剣な眼差しが手帳へ注がれている様を見て、冥琳の頬が僅かに緩んでしまう。
「…では、質問をさせて頂きます。…くれぐれも−−」
「正直に答えろ、だろ?心配するな。この期に及んで偽りは言わんよ」
「…結構。…次の内から思い当たる症状を答えて下さい。全身の倦怠感、食欲不振、体重の減少、微熱が長期間に渡って続く、就寝中−−起きた時に大量の汗をかいている」
「…全部、だな」
「…では次を。咳き込んだ時、痰に血が混じる、または血を吐く」
「…どちらも思い当たる」
「血の色は鮮やかでしょうか?…その血に泡が混じる事は?」
「…鮮やかだ。泡も混じっている」
「…では次に−−」
将司は次々に質問し、冥琳が答える事を忙しなく手帳へ−−簡易のカルテへドイツ語で書き記していく。
それらが全て終わり、彼は手帳の開いているページの一番下へ書いた物へアンダーラインを引く。
「…………」
無言でペン先を手帳へ何度も突く将司の眉間に深い縦皺が刻まれる。
「…名医殿の見立ての程はどうかな?」
悪戯っ子のような表情と口調で彼女が問い掛けるが−−彼はそれには答えず、掌を冥琳の胸の辺りへ翳した。
すると、その手が淡く光り始め−−やがて消える。
開いた掌を閉じ、握り拳を作った彼はそれを膝の上へ乗せた。
「…医者には?」
彼の問い掛けに冥琳は穏やかな微笑を浮かべる。
「…あぁ、診て貰った。皆、同じ事ばかり口にしたがな」
「“手遅れだ”と?」
「あぁ…。ついこの前、診て貰った者には……あと一年、良くて二年だと宣告された」
「………」
「お前はどうだ?」
「天寿というモノを仮定するならば…あと何年、生きられるという余命宣告は私には出来ません」
「…という事は、この病の正体が判ったという事か。…では名医殿、聞かせてくれ」
微笑を浮かべる彼女が固い表情をする将司を見詰めると彼は息を整え、ゆっくりと口を開く。
「…夜中に襲う高熱と長期間の微熱、頻繁な咳と痰、鮮やかな血で泡が混じるのは喀血、食欲不振によって衰弱する身体、便通も不規則、先程の氣で調べたところ肺に異常が見受けられる。…高い確率での肺結核−−労咳。それも…末期に差し掛かっていると診断します」
肺結核−−この時代において不治の病とまで称される病名に彼女は満足気に微笑んだ。
「…やはり、お前は名医だな」
「…医者なら誰でも判ると思いますが」
「そういうモノか?…まぁ良く判らんが…」
「………」
冗談を言う冥琳に将司は無言で寝台に横たわる彼女を見詰める。
「…で、どうだ?」
「どうだ、とは?」
「私は、死ぬのか?」
「人間はいずれ死にます。違いは遅いか早いかだけのこと」
「ふふっ。流石は…説得力が違う」
彼等にしてみれば当然ともいえる返答に冥琳は微笑を湛えつつ視線を天井へ向けた。
「…なに構わんよ。これが私の天命だ。…僅かな延命に頼るより、私は私が成すべきことを全うするのみ」
表情は笑顔のまま−−されど揺るぎない決意を口にする彼女は、次いで傍らに腰掛ける将司へ視線を向ける。
「…将司、お前なら判るだろう。誰にも天命というモノがある」
「…御言葉ながら、自分は運命だの天命だの…そんな言葉が大嫌いでして」
「え…?」
彼の有無を言わせぬ告白に冥琳の眼が驚愕で見開かれた。
「そんなモノは“弱者”が口にする言葉。『だが、それは天命で仕方ない』『運が悪かった』。反吐が出る。言い訳でしかない。努力もせず、ただ享受するだけの“弱者”の言葉だ」
「…私が言いたいのはそうではない。…誰しも親しい人間の死を綺麗な言葉で片付けたくはない。…むしろ逆だよ」
「………」
「“その死に意味があったと信じたい”からだ。…その生の全てが意味の在ったモノだと…信じたいのだ」
「…これは異な事を仰る」
「……?」
「全ての死に意味など無い。心臓の鼓動が止まり、呼吸が止まり、肉体は腐り土へ帰る。…それの何処に意味がありますか?」
そう告げる彼の表情は何処までも冷たく、口調は深淵からの響きが如く低かった。
「我々は死を体験した。だが想像していたような苦痛、嘆き、悲しみは全く無かった。…死とは無に帰すること。そこには意味など無い」
断言する彼に冥琳は呆気に取られるが、少しすると苦笑が顔に浮かぶ。
「…お前は物事をはっきり言うな」
「…それと、もうひとつ」
「…なんだ?」
「もし天命や運命が存在するとしたら…それは享受するのではなく抗う為だけに存在する」
「…“天命に抗う”か…。全く…お前は本当に遠慮がない。清々しい程だ」
「えぇ。それが俺です」
「あ……」
「…なにか…?」
“俺”という一人称を聞き付けた冥琳が小さく驚いたが、将司は突然の反応を疑問に思ってしまう。
すると−−冥琳の顔に穏やかな微笑が現れる。
「…初めて、だな」
「…は…?」
「お前が私と話す時、自分の事を“俺”と呼ぶのは」
「…失礼。以後、気を付けます
「構わん。むしろ−−…いや、なんでもない」
中途半端で口を閉ざした彼女を見詰める将司は何が言いたかったのかを考えるが……至った結論が酷く馬鹿馬鹿しく思え、それを頭から拭い去り、改めて冥琳へ視線を向ける。
「随分と話が脱線しましたが…ひとつだけ聞かせて頂きたい」
「?」
「“天命”とやらに抗う覚悟はありますか?」
その言葉の真意を考え、辿り着いた結論に彼女は眼を見張り、呆気に取られてしまう。
「…どうでしょう。お聞かせ願いたい」
再びの問い掛けに冥琳は疑問に満ちた視線を将司に向ける。
−治るのか?お前に…この病が治せるのか?−
それに彼は頷き、今度は彼女と同様に視線で尋ねる。
−定められた天命とやらに抗う覚悟は出来ましたか?−
その視線に冥琳は−−小さく、だがはっきりと頷いた。
カップリング成立!!?な話でした。
まぁ…どうなるかは判りませんがねWW
天命云々は真恋姫のアンソロより引用。
ちなみに和樹の髭剃りシーンでの“本名よりも愛称が有名な稀代の革命家”とはチェ・ゲバラ。
本名はエルネスト・ラファエル・ゲバラ・デ・ラ・セルナだとか。
…野郎が髭を剃ったのは顔付きが“あまりにも酷い事”になっていたから部下達に押されて、という設定。