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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第四部:劉備軍支援
64/145

53


あの隊員が再登場する回です。


ちょっとだけ元ネタあり。




Others side



通信機材を積載したUH-1が離陸し、何処かへと飛んでいくさまを一刀はいまだに慣れない馬上から見送った。


「…しかし鉄の塊が飛ぶとは。…不思議な物ですな、主」


「あぁヘリのこと?…う〜ん俺も専門的な事は判らないんだよ…。まぁ“アレは飛ぶ物だ”って理解して貰えれば良いと思う」


彼の隣へ馬を近寄らせつつ星がローター音を轟かせ彼方へ消えて行く機影を一刀と同様に見送る。


彼等が居るのは全軍の中軍。


現在は益州へ向け、総兵力約5万の劉備軍が行軍している。


黒狼隊は前軍が担当で、時折、斥候を放ち進路の状況把握に務めていた。


「それにしても、あの韓甲って奴、愛想悪いよなぁ…」


「翠、愛想以前の問題だろう!!」


「怒るなって愛紗。…ほら雛里が怯えてるじゃないか」


「あわわっ……」


「すっ済まなかったな、雛里」


「いっいえ…」


翠が手綱を握る馬には雛里の姿があり、そして愛紗が騎乗する馬には朱里が乗っていた。


背が低い二人の場合、こうでもしなければ行軍に支障を来してしまう可能性があるのだ。


「ご主人様、そろそろ休憩にしませんか?太陽も天頂を回ったようですし…」


「そうだな…。伝令、行軍停止!!」


「はっ!!行軍停止、行軍停止!!」


控えていた伝令兵が馬を駆り、全軍へ行軍停止の命令が出た事を伝えに行く。


一刀達は一足先に馬から降りるものの、5万名に近い軍隊へ命令が行き届くまでには時間がかなり掛かる。


その命令が伝わり切ったのは約10分後。


将兵達は事前に配給された食料を各々が持参し、それを調理あるいはそのまま食べ始める。



近衛達が首脳陣の食事を用意し始めた頃、一刀は視界に入った異物に気付いた。


「……あれ…?」


「どうしました主?」


「ご主人様?」


「あれ…黒狼隊の人じゃない?」


「ん?……おぉ、そうですな」


「こちらに向かって来ますね」


彼方−−前軍が休憩を取っている場所から単騎駆けしてくる人物が居る。


この時代にはあるはずのない迷彩服を着用しているのが確認でき、彼等には直ぐそれが黒狼隊の隊員だと判った。


件の隊員は一刀達の近場まで来ると馬から降り、その手綱を引きつつ向かって来る。


ヘルメットを脱いで小脇に抱えた隊員は弾帯へ日本刀を差しており、背中には基本武装のAK-74、レッグホルスターへは9x19mmパラベラム弾を使用するタイプのH&K USPを収めている。


「韓甲より遣わされました、前田宗治(まえだそうじ)一等軍曹と申します。こちらと部隊の連絡係になれと命令されて参りました」


最敬礼し、自己申告する彼の名前−−日本人特有のそれを聞き付けた一刀の表情が驚きに満ちた。


「もっもしかして日本の方ですか!!?」


「はっ!!元は日本国陸上自衛隊に在籍しておりました。最終階級は一等陸曹。年齢は27歳の牡牛座。現在、絶賛恋人募集中であります」


「いや聞いてないっすよ!!」


少し砕けた自己紹介に一刀の顔が綻んだ。









「まさか日本の方がいるなんて思わなかったですよ」


「ウチの部隊、日本人は結構いますよ?和樹さんと将司さん−−あぁ隊長と副長です。自分以外に二人で計五人ですね」


異郷の地−−といって良いモノか微妙だが、用意された折り畳み椅子へ腰掛ける一刀は、隣に座る一曹へ興奮気味に話し掛ける。


ついていけないのは周りの武将達だ。


辛うじて、一刀と隊員の出身が同じなのは判ったが、それ以外の事はてんで理解できていない。


「あぁ、そうだ。北郷殿−−」


「呼び捨てで良いですよ、前田さんの方が歳上ですし」


「ご主人様!!」


「良いから。それでなんですか?」


呼び捨てを許可した事に異を唱えようとする愛紗を窘め、一刀が何かを言い掛けた一曹へ続きを促した。


なんと呼べば良いモノか、と彼は頬を掻くが、意を決して口を開く。


「……じゃあ、北郷君で良いかな?」


「はい」


「生まれは何処だい?…もしかして…東京かな?」


「あっ正解!東京の浅草生まれです!!」


「浅草かぁ…。特作に入る前、春になると休暇取って花見に行ったよ。まだ、あの公園ある?隅田川沿いの?」


「勿論!!……あの…とくさく、ってなんですか?」


今となっては昔の光景を思い出しつつ、一曹は愛煙のPARLIAMENTを一本抜き、その吸い口を紙ケースへ数回叩き付けると銜えてジッポの火を点した。


「ん?…あぁ特殊作戦群の事さ。陸上自衛隊中央即応集団隷下のね。…っていうか、この喋り方で大丈夫?なんだったら敬語にするよ?」


「いえ、そのままで。…たぶん大丈夫だと思うんで」


一刀が横目に彼女達を窺うと、愛紗は此れ見よがしに溜息を零し、星などは苦笑していた。


「そうかい?…ならこのままで」


「お願いします。…特殊作戦群…って聞いた事ないですね…」


「……マジで?」


「…あっはい…」


有り得ない答えを聞いたのか彼は驚愕の表情をしたが、直ぐに理由が判り、苦笑しながら紫煙を唇の端から吐き出した。


「まぁ…そりゃそうだわな。…あの国、国防意識が全く無かったし、自衛隊反対の運動も強かったしなぁ…」


嘆かわしいとばかりに一曹は腕を組み、緩々と頭を振る。


「特殊作戦群っていうのは自衛隊における唯一の特殊部隊だよ。基本的にレンジャー資格を持ってる三曹以上の隊員だけが入れるんだ。俺の場合はレンジャーと空挺徽章の両方持ってたけど」


「レンジャーならテレビで見た事あります。……凄いですよね?」


「そう?訓練なんか、馴れちゃえば普通だよ普通。まぁテレビで流れる奴ってお遊び程度の訓練なんだけどさ」


懐かしいなぁ、と一曹は思い出しながら昔の事を語る。


「…あれ?でも前田さんって、傭兵なんですよね?」


「あぁそうだよ」


「…なんで傭兵に?」


「あぁ理由は簡単さ。国に愛想が尽きたから」


当然のように言い放った言葉に一刀は愕然としてしまう。


なにせ仮にも自衛官−−国と国民の為に命を捧げる覚悟を持っている筈の職種の人間が“国に愛想が尽きた”と言ったのだ。


「そんなに驚かなくても…」


「いや…驚きますって」


「…俺が自衛隊に在籍していた頃、何回もコロコロと首相が変わった。自衛隊の最高司令官が、だよ?加えて弱腰の外交、隣国の脅威に対する国防意識の低さ…。…大人達は責任を取らず行動もしない。子供達は祖国に誇りや未来への希望も持てない。…そんな国にどうやって尽くせと言うんだ…」


ほとんど吐き捨てるような言葉に一刀だけでなく、彼女達も押し黙ってしまう。


「祖国が先の大戦で連合軍に敗北して60余年。…平和国家を創る為、軍隊組織を撤廃せよとGHQに命令され…朝鮮戦争が勃発すれば、今度は国内の治安維持の為に警察予備隊を創設して…最終的には憲法の下、“軍隊ではない”といわれる自衛隊を創設。…俺達は一部の有力者の為に命を捧げる訳じゃない。国民の為に命を捧げる覚悟だった。なのになぁ……裏切られた気分だったよ」


独白が終わり、彼は嘲笑とも苦笑ともつかない微笑を浮かべつつ紫煙を吐き出し、短くなった煙草を携帯灰皿へ放り込んだ。


「…ちゃんとした答えにならなくて悪かったね。だけど…傭兵となった理由なんて教えられないよ。面倒だし」


「……それは泗水関での事も理由のひとつですか?」


−−泗水関。


その単語に彼の頬が一瞬、痙攣した。


「伍長−−戦死した奴の事かな?」


「……はい」


「…隠したって仕方ないか……まぁ、そうだね」


『…………』


殺気は感じないが、隠しようのない異様な雰囲気と低い声に一刀が押し黙った。


「アイツとは仲が良くてね。最初は君達を殺したかったよ。それこそ−−八つ裂きにしたいほど」


『ッ!?』


一曹の言葉に触発され、彼女達の握る武器に力が込められるが、それを察した彼は掌を立てて軽く左右に振る。


「現在は殺したい程じゃないさ。−−少なくとも俺はね」


「……なんでですか?」


絞り出すように桃香が疑問の声を発した。


それに気付いた彼は居住まいを正すと彼女へ向き直る。


「奴が戦死したのは奴自身の責任である、と考えた為です。それに……既に虎牢関で手打ちは済ませました」


小隊長の中尉から伝え聞いた和樹の言葉を彼は引用した。


既に手打ちはすんでいる。しかしながら、この心情は如何ともしがたい。


「和樹さんが、どのような思惑でこの任務を受けたのかは判りません。…ですが約束しましょう。受けた以上、我々は必ず任務を完遂する」








『大人達は責任を取らず行動もしない。子供達は祖国に誇りや未来への希望も持てない。…そんな国にどうやって尽くせと言うんだ…』

『大人達は責任を取らず行動もしない。子供達は自国に誇りを見出だせず希望も持てない。そんな国にいったい何の価値があるというのか!!』


“ローレライ”の浅倉大佐の名言(?)


よく日本を抽象しています。



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