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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第四部:劉備軍支援
63/145

52


余談、和樹の野戦帽はピアノ線を使って綺麗な円筒状になるよう整えてます。



蒲公英の字は小説“超・三国志(反三国志)”より引用。



>誤字等があり改訂






白昼夢を追う者は危険な人間である。

何故なら彼らは、目を開けたまま自分の夢を演じ、これを実現することがあるから。

――アンドレ・マルロー『書簡集』より−−









曹操軍の追撃を逃れた劉備軍は荊州と益州の国境付近にある諷陵という城に入った。



城門が開け放たれ、そこを難民達がくぐって行くのを視界の端に捉えつつ紫煙を吐き出す。


「やっと追い付いたと思ったら……」


「…まぁ、特に問題はなかろう」


長坂橋を爆破した後、俺達は川上の浅瀬を渡り、途中で子明殿の空輸、そして給油と整備を終え合流したUH-1と共に一路、先行する劉備軍を追ったのだが……難民の群れが見えたと思えば、そこは既に国境の城。



…おそらく死ぬ気で逃亡したのだろうな。


まぁ、のんびり観光気分でノロノロと行軍されるよりはよっぽど良い。


「中尉、野営の準備だ」


「はっ。小隊、野営の準備をしろ、掛かれ!!」


『へ〜い』


中尉の命令で部下達が馬から降り、野営の準備を始める。


近付いて来た部下に、鞍へバッグと大太刀を括り付けた黒馗を渡し、再び紫煙を吐き出す。


「食料などはどうしましょう?」


「…基本、自分達で採集するのが一番だな」


「そうですね」


「言うまでも無いが難民からは巻き上げるなよ」


「判っております。第一分隊、近場から蛇でも捕まえて来い!!」


「了解!分隊、付いて来い!!」


分隊長に追従して部下達が城の近場にある雑木林へ向かって行くが……。


「……なぁ中尉、俺の記憶違いなら良いんだが…」


「なにか?」


「現在は秋だぞ?蛇、居るのか?」


「………………あ」


やっと気付いたのか中尉が口を開けて、情けない一言を放つ。


「…まっまぁ…冬眠準備に地面の中にでも居るでしょう……たぶん…」


「…まぁ、イモムシでも捕まえれば最高だ」


「……申し訳ありません」


朽ちた木を割って探せば、高い確率でなにかしらの幼虫は捕まえられる。


コガネムシなどの幼虫はクリーミーな味わいで中々、美味いのだが……まぁあまり進んで食べたいとは思わんな。


でなければ……懐かしくミミズだろう。



それにしても−−−


「………はぁ…」


「隊長、どうかなさいましたか?」


溜息が零れ、それを聞き付けた中尉が尋ねてくる。


それには答えず、腰から愛刀の一本−−刃文が濤瀾乱刃のそれを鞘から抜き、傍らの中尉へ放り投げる。


「うわっ−と」


「…見ろ」


「…見ろと仰られても…。…ん−別に何処も……」


「刃先の中程だ」


「刃先って…刃ですよね?…中程−−ッ!!?」


気付いたのだろう。


息を飲むのが判った。


「…刃毀れ…?」


「あぁ。おそらく…あの時の一撃だろう。…上手く受け止めた筈なんだがなぁ…」


張遼が振るう偃月刀の袈裟斬りを受け止めた際に刃が欠けたのだろう。


刃毀れ−−とはいっても、1mm程度の物ではあるが。


「しかし…この刀の触れ込みは確か…」



「“折れない、曲がらない、錆びない”。だが……“欠けない”とは言ってなかったな」


「…折れないなら、欠けない筈なんですがね…。どうぞ」


「あぁ」


愛刀を返され、それを鞘へ納める。


神の茶目っ気かどうかはともかくとして……まさか刃毀れするとは思わなかった。


かの飛将軍:呂奉先の一撃を受け止めても刃毀れはしなかったのだが…。


…まぁ、一度、修復出来るかどうか、武具屋を見付けて試すしかないな。


「…劉備軍から接触がありませんね」


「あぁ。難民の受け入れにでも手間取っているんだろう」


「ですかね−−っと、噂をすれば」


城門から走ってくる人影は劉備軍の鎧を着用している。


その兵士は俺の傍らまで駆け寄ると拱手抱拳礼をした。


「韓甲様でいらっしゃいますか?」


「あぁ、俺が韓甲だが」


「北郷様と劉備様がお呼びです。玉座の間まで御足労願いませんでしょうか」


「判った。…中尉、後を頼む」


「護衛は?」


「要らんよ。ちょっとした散歩だ」


「…了解しました。お気を付けて」


「あぁ。…案内を頼む」


「はっ!!こちらへどうぞ」


中尉へ部隊の事を任せ、案内役の兵士の後を付いて行く。


銜えた煙草を指に挟み、紫煙を吐き出していると、城門へ向かい延びている難民の群れから好奇ともいえる視線が突き刺さってくる。


…そんなに傭兵が珍しいのか?


……あぁ、この格好か。なら仕方な−−


「お−−っほっほっほっ−−痛っ!?」


「れっ麗羽様ぁぁ!?」


「だっ大丈夫すか!?」


…甲高く威勢の良い笑い声が聞こえたと思ったが……笑ってる最中に転けたのだろう。


それは……進行方向から聞こえた。


視線を向ければ…やけに豪勢な鎧を着た二人の少女達が見える。


だが転んだ人間の姿は−−あぁ影になって見えないだけか。


「痛たた……」


「大丈夫ですか…?」


心配気におかっぱ頭の少女が声を掛けているようだ。


その近くまで来ると、案内役の兵士に先んじて転んだ人物−−長い金髪を巻き毛にした女性だろう人物へ手を差し出す。


「お手をどうぞ」


「ふっふん!!この私が下男の手を掴むとでもお思い!?……まっまぁ掴んで差し上げない事もないですわ」


…なんでも良いから、さっさと立ち上がってくれ。


…おかっぱと何処となくボーイッシュな少女が頻りに頭を下げているのが視界の隅に映る。


恥ずかしいのかどうかは判らないが、俯いたままの彼女が俺のシューティンググローブを嵌めた手を掴んだのを認め、そのまま持ち上げて立たせた。


「もう少し優しく出来ませんの!?痛かったじゃ…あり……」


「…それは失礼を。どうかご容赦−−……なにか?」


やっと俺の顔を見たと思えば……何故か金髪巻き毛の彼女は固まった。


……うん、美人だな。態度はともかくとして。


「麗羽様ったら、お礼を言わないと…。態々、申し訳ありませんでした…」


「ありがとな。えっと……」


「…あぁ。名乗りが遅れて申し訳ない。自分は韓甲、字を狼牙と申す」


そう名乗ると……残った二人の表情も固まった。


それはもう面白いくらいに。


「なっなぁ斗詩。かっ韓甲って……あの韓甲…?」


「ぶっ文ちゃん…たぶん本物だと思う…よ。だって桃香様達が言ってたし…」


「…どの韓甲かは存じ上げませんが、自分は韓甲です。黒狼隊指揮官の」


煙草を携帯灰皿へ放り込みつつ、そう答えると……今度は二人の表情が強張った。


「もっ元董卓軍の…?」


「えぇ−…兵を待たせておりますので、これで失礼します。では」


軽く頭を下げると野戦帽の位置を整えつつ、再び先行して案内する兵士の後を追った。




「ぶっ文ちゃん……」


「とっ斗詩ぃぃ……怖かったな…」


「うっうん…あの人が韓甲さんなんだ…」


「思ってたより格好良かったけど……怖ぇぇ…。あの眼力ハンパねぇ…」


「−−あっ、麗羽様!!大丈夫ですか!?」


「麗羽様−−って、まだ固まってるよ。…よっぽど怖かったのかなぁ…?」


「麗羽様−?大丈夫ですか、麗羽様−?」


「……………はっ!!?」


「おっ気付いた気付いた」


「はぁ…。びっくりしちゃいましたよ……麗羽様?」


「………ですの?」


「…麗羽様?」


「斗詩さん、猪々子さん!!」


「「はっはい!!」」


「あの御方はどなたですの!!?」


「「…はぁ…?」」


「あの狼のように鋭く冷たい眼差し…!!それでいて転んでしまった私へ手を差し出す優しさ…!!…二人とも答えなさい、あの御方は!!?」


「えっえっと…韓甲さんです」


「字は狼牙っすね。…董卓軍にいた黒狼隊の隊長っすよ」



「なっ…!?あの御方−−韓甲様が黒狼隊の隊長!?…でっでは、泗水関や虎牢関で連合軍に立ち塞がったのは…!!?」


「韓甲さん達…ですね」


「嗚呼…なんて事ですの!?何故…何故、天は私達を敵味方に切り裂くような真似を…!!?何故、あの御方を私達の敵として…!?」


「(なぁなぁ斗詩ぃ)」


「(なっなに文ちゃん?)」


「(麗羽様、あの戦で黒狼隊、目の敵にしてたよな…?)」


「(…だよねぇ…)」


「こうしてはいられませんわ…斗詩さん、猪々子さん!!」


「「はっはい!!?」」


「韓甲様は何処に行かれましたの!?早く案内なさい!!」










「こちらです」


「あぁ」


グローブを外すとそれをコートのショルダーループへ通して固定し、野戦帽を脱いで小脇に抱える。


「では−−」


「待て」


「は?」


玉座の間の扉を開けようとする兵士を止め、腰の弾帯から愛刀を二本と拳銃、銃剣を抜き、手渡した。


「武器を持ち込ませるな。常識だろう」


「は…はっ、申し訳ありません!!」


やれやれ……こんな事は基本だろう。


…まぁ俺が武器を渡した理由は、万が一、それらを持って入れば間違いなく煩くなるのを防止する為なのだが。


「それと……その武器を紛失したり、奪ったりしてみろ。…縊り殺してやる」


「は…はっ!!」


兵士の双眸に恐怖の色が現れる。


釘を刺せた事に満足し、扉を開けて中へ入れば……やはり顔を合わせたくない連中ばかりが集まっていた。


扉が開いた音で彼女達の視線が俺に突き刺さる。


「韓甲さん、お疲れ様でした」


「…どうも。曹操軍は全軍撤退、長坂橋も念のため落として来た。それと…劉備殿」


「はっはい!!?」


「曹操からの伝言がある。“今回は見逃そう。次に戦う時まで力を蓄えておけ”…以上だ」


報告と伝言を済ませると、柱に凭れ掛かりコートのポケットからスキットルを取り出して蓋を開ける。


「……そちらの二人は?」


見覚えのない二人−−どちらも茶髪の少女達が視界の端に入り、問い掛ければ件の二人が俺へと近付いてくる。


「名乗りが遅れたな。あたしは馬超、字は孟起だ。そんでこっちは−−」


「たんぽぽは馬岱、字は仲華だよ♪宜しくね、お兄様♪」


「御丁寧に。手前は韓甲、字を狼牙。好きに呼んで頂きたい。…一応、宜しく頼む」


…これが五虎将の馬超に従兄弟の馬岱か…。


手を差し出され……交互に軽く握り返して握手を済ませる。


「アンタが韓甲か…。噂は西涼まで届いてるよ」


「…どんな噂かは知らないが、余り良い噂ではなさそうだ」


スキットルを傾けつつ、そう答える。


傭兵に付けられる噂なんぞ、大抵の場合、ロクでもないモノが多いのだ。


気にする方が馬鹿馬鹿しい。


「もう謙遜しちゃって♪凄いんだよ〜お兄様の噂♪」


「…ところで仲華殿、その“お兄様”とは?」


「だって歳上だもん♪堅苦しいのが嫌いだから“殿”とかは付けたくないんだ〜。だから、親しみを込めてお兄様♪」


「こら蒲公英。…気を悪くしないでくれ。こんなんだけど悪気はないからさ」


「いえ構いません」


仮にも四捨五入すれば三十路の男に“お兄様”はどうかと思うが……“おじちゃん”よりは余程マシだ。


溜息を零し、スキットルをコートのポケットへ戻すと玉座の付近にいる劉備へ視線を向ける。


「…劉備殿、今後の予定などは?…まぁ、ここで将兵に休息を取らせた後、益州へ侵攻でしょうが」


「−えぇ!?しゅ朱里ちゃん、ご主人様…もう教えてたりする…?」


「はわわ!?いっいえ、まだ私達以外には教えてましぇんけど!!」


「…御心配なく。自分の推測だ。…暗愚と称される劉璋が治める益州は内乱が起こり政情は不安定。それに…まぁ何かしらの大義名分を掲げて横槍を入れ…益州全土を制圧する。違いますか?」


ほぼ確信に近い推測を述べれば、首脳陣が顔を俯かせて押し黙る。


…当たりか。


「…出撃は?」


「…明後日の払暁、益州へ向け進軍の予定です」


「…了解した。我々は城外に野営する。何かあれば使者を寄越せ。では…」


「ちょっと待って下さい!!城に皆さんの部屋を−−」


「必要ない。野宿は馴れているのでな。食料の提供も現在の所は必要ない」


少年からの呼び掛けに素っ気なく答え、煙草を銜え火を点けつつ玉座の間を後にした。






「−−なんなのだ、あの態度は!?無礼にも程がある!!」


「愛紗、落ち着け。…当然の対処だ」


「だが、星!!」


「例えば…お主が何処かの勢力の厄介となると仮定しよう。なんの思惑があるか判らぬ輩の下で、おいそれと生活できるか?」


「…ぬぅ…」


「そうでなくとも…我々は韓甲殿−−黒狼隊に敵視されている。それも…不倶戴天のな」


「…そうだね…。仲直り出来ないのかな…?」


「桃香様、お気持ちは判りますが−−」


「−−ここですわね!!韓甲様……韓甲様はどちらにおられるんですの!!?」


「あっ麗羽なのだ」


「ちょいと北郷さん!!韓甲様を何処に隠したんですの!!?」


「うえっ!!?かっ韓甲さんなら…」


「そうですわ!!早く韓甲様の居所を私に教えなさい!!」


「韓甲さんなら、さっきまで居たんだけど……今頃は城外に向かってるよ」


「なっなんですってぇぇ!!?…いっ入れ違いですの…!?何故…何故、天は私共をこうまで引き裂くような運命を定めるのです…!!?」


「ははは……。…ん?…そういえば斗詩、白蓮を見なかった?」


「白蓮様ですか?…いえ見なかったですけど…」


「……さっきから、此処に居るのにぃぃ…。私って、そんなに陰薄いか!?薄いのか!?」








冒頭のアンドレ・マルローの名言(?)は劉備達を指してます。


…まぁ…あまり本文には関係ないですが。




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