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和樹の台詞に元ネタありっす。
…ちょっと和樹の態度が悪い話になっています………って、それはいつもか。
>誤字等あり一部改訂しました。
子明殿を見送り、部隊へ戻るため歩き始めると彼方から駆けて来る人影が複数ほど視界に入った。
…あまり話をしたくない部類の。
「韓甲さん、ちょっと待って下さい!!」
待てと言われて待つのは犬だけ………あぁ俺達は狼のくせに“狗”だったな。
紫煙を溜息と共に吐き出し、煙草を口の端へ銜えると、先程よりもゆっくりとした歩みを始める。
「ちょっと待って下さい!!」
「…あの…今回はありがとうございます」
「傭兵の力を借りるのは不本意だが…背に腹は抱えられない。礼を言うぞ」
「愛紗、もっと素直に礼を言えんのか。…いや失礼した。韓甲殿、礼を申す」
「はっ…はわわ…」
「あわわ…しゅ朱里ちゃん……」
「だっ大丈夫だよ雛里ちゃん!!…あの…本当にありがとうございます!」
「…ます…!」
「ありがとうなのだ、おじちゃん!!」
追い付いた劉備軍の首脳陣が口々に礼を−−……約一名、色々と訂正したい発言をしたが、気にせず歩き続ける。
「…礼などされる筋合いはない。我々は傭兵。相応の報酬さえ貰えば、どんな仕事でもする。……それと、自分はおじちゃんではない」
……張飛と思しき少女の発言には、やはり堪えられなかったな。
…無精髭が伸びっ放しになった容貌では仕方ないとは思うが…。
嗚呼…スタウトを1パイントほど一気に呑みたい。
任務中は部下の示しにならない為、呑まないが……何事も我慢するのは身体に悪い。
コートのポケットからスキットルを取り出して封を切ると煙草を指に挟みんでから、それを傾けてバカルディを一口呑み下す。
唇を軽く舐め、煙草を再び口に銜えつつ横目に追従してくる彼等を見る。
「…難民を早く動かした方が良い。約5km−…約10里先に長坂橋という吊り橋がある。女子供、老人、負傷者と病人を優先して渡らせろ。野郎は後回し−−」
「あの、ひとつ良いですか!?」
「……なんだ?」
俺としては、さっさと打合せを済ませて野郎共の所へ戻りたいんだ。
少し古ぼけた白い詰襟の学生服を着ている少年が問い掛けてくるが……別に歩きながらでも話は出来る。
「韓甲さんは…俺達の応援に来てくれたんですよね?」
「…子明殿は言わなかったのか?」
「いえ…呂蒙さんからも聞きましたけど…」
「なら、同じ事を二度も聞くな」
「もう我慢ならん!!貴様、先程から無礼であろう!!」
「愛紗、落ち着いて!!」
「しかし、ご主人様!!」
スキットルを再び傾けて酒を呑み下して封を閉めると、それをポケットに戻し、煙草を銜え紫煙を吸い込む。
「…済みません。大きな声を出して」
「…で?」
「…はい?」
「詰まる所、何が言いたいのかね?」
紫煙を肺に収めたまま尋ねると、それが途切れ途切れに吐き出された。
「えっと…その…応援と言うには…人数が少ない気がして…」
「…そうですね。ざっと見ても…30名そこそこしか居ない」
「………ククッ」
「ッ!?何が可笑しい!!?」
こちらの関羽は思慮が足りないらしい。
これが神格化された人物と同一人物だとは…いやはや驚いた。
よりにもよって、員数が足りない、だと?
ならばと、付近で集まっている劉備軍兵士の一団を見付け、その中の一人を指差しつつ声を掛ける。
「そこの−−そう貴様だ。兵役以前の仕事はなんだ?」
「えっはぁ…元々は村で百姓をして生計を」
次にその集団から別の人間を指差す。
「貴様は?」
「あっはい。飯屋で厨房を任されておりましたが…」
最後に自軍の指導者と将軍達を見ていた者を指差す。
「貴様は?」
「はっ…えっと…屎尿処理の仕事を…」
それらの答えを聞き、改めて呆然としている彼等に向き直ると嘲笑を浮かべつつ、後方へ問い掛ける。
「野郎共、俺達の仕事は!!?」
途端に空へ突き上げられる銃と刀剣、そして遠吠えのような掛け声が響いた。
「見たか?“兵士”の数なら我々の方が多い」
『………』
苦々しい表情を眺めながら紫煙を吐き出す。
この時代における兵士とは半農半兵。
屯田兵と呼称する事すらおこがましい。
農耕期には地方へ戻り田畑を耕して作物を収穫し、戦の度に兵役で召集される制度だ。
そんな事で“真の兵士”は育たん。
兵農分離のように戦いを“仕事”とし、日夜、その訓練にあたる職業軍人でなければ、お荷物になる。
だが……現在の向こうの兵力には余剰などない。
「…あの林を抜けた先に我々が駐留していた場所がある」
「えっ?」
「約一ヶ月の待機期間中、賊共に何回も襲われてな。鎧兜、武器、馬を連中から頂戴した。数に限りはあるが…とにかく戦える者−−15歳から40歳……いや50歳までの男共に武装させて難民の護衛に当たらせろ」
「でっでも、兵士さんなら沢山−−」
「難民の誘導と曹操軍の迎撃。この二つに兵力を削ぐのだ。どう考えても足りない」
劉備が異を唱えようとするが、それに先んじて畳み掛ける。
この状況で良くお気楽に考えられるモンだ…。
「……なら、曹操軍の迎撃は我々が引き受けよう。そちらは難民の誘導をすれば良い。中尉、林で待ち伏せる。準備しろ」
「はっ!!小隊、聞こえたな!!」
『応ッ!!』
「勝手に指示を出すな!!そもそも、それだけの兵力で−−」
「……黙れ、小便臭い小娘が」
この関羽と言い、劉備と言い……何故こうも行動が遅いんだ。
イライラしてしまう。
幾分か低い声で恫喝すれば、関羽が口を噤む。
「こうしている間にも曹操軍は近付いている。向こうの用兵の鍵は速さ−−騎兵で行軍しているんだぞ。もう捕捉されていると見て良い。大事な民を見殺しにしたくないなら……さっさと動け」
こっちは任務で来ているんだ。
好きで来た訳ではない。
指笛を吹けば曹長の腕を離れ、黒馗が駆けて来る。
その鞍へ素早く跨がり……小娘共から何か言われる前にさっさと林へ向かって動き出した。
「野郎共!!俺達の仕事は!?」
↓
「スパルタ人よ、お前達の仕事は!?」
映画“300”より。
皆さん、気付きましたか?
和樹って女性の前では煙草を極力吸わないのに……桃香達の目の前でスパスパ吸ってました。
しかも任務中に酒まで…。
相当、イライラしています。