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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第四部:劉備軍支援
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47


時間はかなり流れ、そして雰囲気もかなり変わってます。



「…………」


「……あっあのぉ…?」


「あっ、お腹すいた?」


「お−い、誰か山狩りしてこ−い!!」


『はい喜んでぇぇぇ!!!』


「えっえぇぇぇ!!?ちょっちっ違いますから待って下さぁぁぁい!!!」


…部下共(一個分隊)が武器を手に近場の山へと馬を駆って走って行く。


それを止めるように甲高い声を張り上げるのは子明殿だ。



現在地は建業から西南西へ…32点法で表せば西微南になるだろうが、ともかく約600km離れた土地に俺が指揮を執る支援部隊はキャンプを設営している。


ここまでの移動はMi-26−−胴体長が40mを越え、キャビンに乗り込める人数は規定では80名だが無理をすれば最大150名まで収用でき、航続距離は1,952kmという、正に世界最大級、化け物と称しても過言ではない輸送ヘリで此処まで来たのだ。


同じ輸送ヘリであるMi-6を操縦した経験のある隊員がいたのは僥倖だった。


CH-47しか操縦経験がないのなら少し困っただろう。


なにせ、それぞれの馬や通信機材、必要な装備を持ってこなければならなかったのだ。


…まぁ馬達には狭苦しい思いをさせてしまったが。


だが、一定の距離毎着陸して馬達を休ませるのと同時に、班単位で部下を降ろして簡易ではあるが、各所の人気のない高所へ通信の中継をするアンテナを設置してきた為、かなりゆっくりとした行軍となり馬にも負担は掛からなかっただろうと思う。


そして何故、子明殿までもが居るのか。


彼女は正規の同盟締結の使者である。


これは俺が“本気で同盟を結びたいのならば、せめて文官に同行を願いたい”と上申した為だ。


…まさか…彼女になるとは思わなかったがな。


無論、彼女もヘリでの空輸。


空を飛ぶという事に驚いていたが……やはりというべきか乗り物酔いとなってしまい、彼女の容態が少し回復するまで休憩しながらの行軍が要因で遅くなってしまったのも事実だが。


−−そんな事を考えつつ、死体に腰掛けたまま紫煙を吐き出した。


「……で、何回目だ?襲撃されたのは?」


「…11回目です…おぉゾロ目だ…っと」


付近で折り畳み式スコップを使い、穴を掘っている部下に問い掛ければ、そんな答えが返ってきた。


此処に来てから今日で一週間になるが、毎日のように盗賊の襲撃を受けている。


それにしても……余程、俺達がカモに見えるのかねぇ…。


「…隊長、休んでないで掘って下さい」


「…めんどくせぇな」


部下に促され、渋々と腰を上げ、荷物を置いている場所まで歩きつつコートを脱ぎ、それをバッグの側へ放り投げる。


バッグの背に結び付けたポーチを開け、そこから折り畳み式スコップを取り出すと組み立てて、肩に担ぐ格好で歩き出す。


非常にめんどくさいが…死体は埋めなくてはならない。


埋葬という事ではなく衛生面の問題でだ。


既に周囲の土は粗方、掘られた形跡があちこちにあり、何人の死体を埋めたか判別が付かなくなっている。


銜え煙草のまま唇の端から紫煙を吐き出していると、俺に向かって駆けてくる軽い足音が響いてきた。


「和樹様!!」


「…なにか?」


「あの…私にお手伝い出来る事はありませんか?」


「いえ、お構いなく。直ぐに済みますので」


先程まで腰掛けていた死体の側へ辿り着き、スコップの角度を直角−−ちょうど農具の鍬状にしてから地面に降り下ろす。


「でっですが、私も何かお手伝いしないと…」


「人間、誰にも適材適所というモノがある。力仕事は我々に任せて、貴女は休んでいて下さい」


「それはそうですけど…」


子明殿との問答はこれが初めてではない。


薪集めに始まり、果てはこのような死体処理に至るまで、何かしらの手伝いをしたいというのだ。


溜息を零し、短くなった煙草を携帯灰皿−−はコートの中だったな。


スコップを地面へ突き刺し、火を指先で消してポケットに収めると彼女に向き直る。


「…なんでも良いのであれば…」


「本当ですか!?」


「えぇ。…朝餉まで時間はある」


腕時計の針は、まだ0624を指している。


食事は…基本、採取した動植物で済ませている。


勿論、戦闘糧食は持って来ているが、携行しているのは現在、五日分のみ。


後々の事を考えて残しておかなければならない。


一個分隊が採取に行ったのは、つい先程。


食事まで時間はある。


腰に差した愛刀二本と弾帯を取り外し、戦闘服の上着と野戦帽を脱いでから弾帯を再び巻いて愛刀を差し込み−−


「えっ……あの…?」


上着と野戦帽を彼女に手渡せば、困惑している様子だ。


意に介さず、UH-1が駐機し、その周囲に繋がれた騎馬群と装備が置かれた場所を指差す。


「見張りをお願い申し上げる」


「あっ……はい…」


暗に邪魔だ、と告げれば、彼女は肩を落として指定した場所へと歩いて行った。


再びスコップの柄を握り、土を掘る作業を始める。


塹壕掘りや畑の土作りなら、いくらでもやってやるが……面倒だ。



補給小隊の部下が操縦するMi-26は既に建業へ戻り、これからは交州へ侵攻した部隊へ補給物資の空輸が主任務となる。


背負式無線機を持って来た為、侵攻部隊からの報告を一日一回、受けているが、作戦は順調そうだ。


一昨日の報告では敵の支城を攻撃開始から2時間で陥落させたとか。



…その通信もいつまで続くのやら。


人気のない場所、しかも高所とはいえ、絶対に人がこない訳ではない。


興味本意でアンテナを弄られ、壊された場合は……まぁなんとかするか。




それにしても……遅い。


苛立ち紛れに鎧を外した死体を穴へ放り込むと、その上から土を被せて埋めて行く。



此処は、荊州の長坂坡。


劉備が曹操に追い立てられて敗走…史実を鑑みれば長坂坡の戦いが起こる可能性が高い。


あくまでも可能性である事は留意せねばならないが、下手に敗走ルートを予想するよりは、ここに滞在し接触する方が良いだろう。


果たして……くどいが何度でも言おう。


どれほど待てば良いのだ。









「…すっかり夜ですね」


「えぇ。…今日も現れなかったか…」


滞在7日目が4時間後には終わる。


木を切り倒して枝葉を取っただけの丸太に腰掛けつつ、俺は武器のクリーニングをしている。


明かりは眼前の焚き火と各々が携帯しているL字型ライトのみだが、このような簡単な作業をするだけなら問題ない。


一連の作業が終了し、広げた布の上に置かれた小銃の大小の部品を組み立て、床尾にクリーニングキットを戻した。



煙草を吸いたくなったが……隣には子明殿がいる。



この任務の思惑は曹魏の強大な国力に対抗する為だと彼女に聞かされた。


もっとも、劉備に対するわだかまりが消える訳ではないが。


まぁ……孫呉と結んだ契約の範疇にある任務だと思えば、幾分かは溜飲は下がる。


というか、そう思わないとやってられ−−


「くしゅん!!」


随分と可愛らしいクシャミが隣から聞こえた。


視線を向ければ、子明殿が小さい身体を更に縮めている。


季節は秋。流石に夜は冷え込むか…。


ん?劉備の敗走は……確か夏期だった気がするのだが……まぁ良い。


取り敢えず、コートのポケットから煙草と喫煙道具一式を取り出し、それと敷布用にバッグから引き摺り出した俺の毛布を彼女へ放り投げる。


「どうぞ」


「うぅっ……今夜もお借りします…」


恥ずかしそうに顔を俯かせる彼女に俺達が当たっている焚き火と周囲のそれらから笑い声が上がる。


「子明ちゃん。今夜はお兄さんと一緒に寝ようか?」


「えぇぇぇ!!?」


「彼女と一緒に寝たい奴は!!?」


『はい喜んでぇぇぇ!!!』


「えぇぇぇぇ!!!!?」


隊員の呼び掛けに俺や中尉以外の全員が挙手すると、子明殿は困惑とも言える声を発した。


「お前等、あんまりからかうな」


『え〜!?』


小隊長らしく中尉が部下達を窘めると不満が漏れる。


「まったく…。いや、申し訳ない」


「いっいえ、気にしてませんから謝らないで下さい!!」


「それでは自分の気が済みません。お詫びに−−今夜は自分と一緒にお眠りになって下さい」


『おぉぉぉいッ!!!』


まさか中尉までもが乗ってくるとは思わなかったが……まぁ良い。


「そこまでにしろ。歩哨を三人ずつの二時間交替で休め」


『了解』


「んじゃ、今やってる奴と交替します。他二人、付いて来い」


「あぁ。いくぞ一曹」


「俺ぇ?…あぁ判ったよ」


先程までの和やかな雰囲気が消え、就寝準備をする者達と歩哨に立つ者達が素早く行動を開始した。


「もう休みましょう。なにかあれば起こしますので」


「はい。…では、お借りします…」


子明殿は申し訳なさそうに頭を下げ、地面からの冷却を防ぐために先程、渡した毛布を敷いて寝転がると、身体の上へコートと毛布を掛けた。


「…和樹様、おやすみなさい」


「良い夢を」


モノクルと帽子を傍らに置いた彼女が眼を閉じるのを確認し、俺も腰掛けていた丸太から立ち上がると、地面に腰を降ろして背中をそれへ預ける。


ウチの夜営ではテントを張らないどころかシュラフに入って眠る事すらしない。


襲撃を受けた際、応戦に素早く移れるようにする為だ。


ちなみに雨が降る夜は、ポンチョ型のレインコートを被って寝ている。


就寝組の部下達が毛布に包まったのを認めてから、武器を抱えて野戦帽を目深に被ると眼を閉じる。



戦場という特殊な環境に慣れた人間は体力温存と回復の為、直ぐに眠りに落ちる事が出来る。


…まぁ部下達全員もそうなのだが。


深呼吸すれば、眠気が襲い−−


<−−敵襲!二個分隊規模の集団が急速接近中!!>


……どうやら夜は長くなりそうだ。










もっとシリアス調を引き延ばしても良かったのですがね。


まぁ清涼剤たる亞莎がいますので、荒んだ彼等の雰囲気も少しは和やかになるかなぁ?と思ったので。


まぁ一番の理由はシリアス調ばかりだと、作者自身、息が詰まります。




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