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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第三部:徒然なる日々
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拠点イベント。


…何故、ここに来て出したのだろうか、と自分で首を傾げてしまう。


例によって元ネタあり。







建業の商店が軒を並べる大通りの賑やかさは相変わらずだ。



そんな中を俺はプライベート用の黒い着物に袖を通し、愛刀二本を帯刀した格好で−−−肩に米俵を担いでいる。


周囲からは奇異に映るだろう。


どう見ても武人風の男が米俵を担ぎ、大股(ややガニ股気味)で大通りを歩いているのだ。


だが周囲の目なぞ気にしている場合ではない。


−−屋敷の米が底を尽きそうなのだ。


以前から暇があれば新しく購入しようと考えてはいたものの−−派兵や諸々の用事が重なりに重なって、このざまだ。


溜息をひとつ零し、左肩にある米俵を担ぎ直すと再び歩き出す。



それにしても……物価の相場がやや騰がってきている。

顕著なのは米と塩だ。


これが何を意味するかなど……決まりきったこと。



まぁ良い。


……さて、昼飯はどうするか。


屋敷で食事にする……のは却下だ。


まだ“結論”に到っていない。


……仕方ない、外食で済ませよう。


そう思い至り、近場で眼についた酒家の暖簾をくぐり抜けて店内へ入る。


…混雑はしてないな。


まぁ、客の来店のピークは夕方から夜半に掛けてだろうが。


「いらっしゃいませ、こちらのお席へどうぞ!!」


「あぁ。済まないが、コイツを何処かへ置かせてくれ」


「あっ。ではお席の側に」


「判った」


接客に当たっているのは若い娘−−まだ二十歳になるかならないかの歳だろう。


案内されるまま、米俵を担ぎつつ接客係の後を着いて−−−


「ん?おぉ、和樹ではないか」


行く途中で聞き慣れたら声が耳を打つ。


その発生源に視線を向ければ、銀髪に近い髪を長く伸ばした妖艶な美女が盃を片手にこちらを見ていた。


「…公覆殿?」


「応、黄公覆じゃ。ほれ、こっちに来い」


彼女が座る席の卓上には−−大量の酒瓶と肴だろう乾物を乗せた皿が置かれている。


「向こうの席に座る。炒飯を頼む」


「畏まりました。炒飯ひとつ〜!!」


接客係が厨房へ注文が入った事を告げたのを横目で見届け、公覆殿が腰掛けている卓へ近付いた。


「大変そうじゃのう」


「えぇ、休暇最終日ですのに。…座っても?」


「それは構わんが−−」


彼女が着席を許可してくれた。


米俵を地面へ降ろし、帯より愛刀を抜いて、それらを卓に立て掛けてから椅子に腰掛ける。


…はてさて…この御仁は一体全体、いかほどお呑みになったのやら。


(しょう)で計算するしかない程、呑んだのは確かだろう。


「…珍しいな」


「は?」


「お主が、かような場所で腰掛けるなど思わなんだ。しかも…武器も手放して」


盃の縁を口につけつつ、彼女は呟くように俺へ囁いた。


厨房の方から先程の接客係が湯気が昇る湯呑を持って来ると、それを俺の眼前へ置く。


「お酒は如何します?」


「頂こう。白酒を徳利で一本」


「畏まりました」


注文を上乗せすると、接客係が足早に厨房へと戻り、すぐに徳利と盃を携えて帰ってくる。


「お待たせしました」


「あぁ済まん」


「炒飯はもう少しお待ち下さい−−いらっしゃいませ〜!」


新しい客が入ったようで接客係が入口に向かうのを確認すると、置かれた盃に徳利から白酒を注ぐ。


「お主も昼日中から酒を嗜む口かの?」


「いえ。そういう訳ではありませんがね。…では」


「応。乾杯じゃ」




互いに軽く盃を掲げ合うと酒を一気に呑み干す。


杯を乾かす、と書いて乾杯だ。


一息で呑み干さないのは失礼となってしまう。


蒸留酒は当然ながらアルコール度数が高いが、あまり酔えない身体になってからは酔いを求めて良く呑んでいる。


…まぁ、それでも酔えないのだが。


手酌で酒を注ぎ、盃を軽く傾けると、それを卓上へ置いて息を吐き出す。


「…先程の質問ですが−−」


「うん?」


「このような場所で座らないというのは奇異に見られ、非常に気まずい。武器も“手放した”のではなく、手元に“置いた”だけ」


「ほぅ。存外、礼儀を重んじるのか」


「存外、とは失敬な。これでも最低限の礼儀は心得ているつもりです」


「戯れ言じゃ、許せ。…お主が礼儀を心得ておるのは皆が知っておる」


苦笑しつつ公覆殿は肴である干し魚を皿から取って齧る。


盃を傾け酒を喉の奥へ流し込んでいると、彼女も酒を呑みつつ肴が盛られた皿を掌で差した。


食べて構わない、というジェスチャーだろう。


ならばと肴をひとつ取り、犬歯で噛み切った。


「…そちらも休暇は今日までですか?」


「ん?…まぁの…」


咀嚼した肴を飲み込んで尋ねれば、眼を泳がせながらの答えが返ってきた。


……まぁ、とやかくは言うまい。


「お主はどうじゃ?英気は養えたかの?」


「私だけでなく部下達も良い休暇となりました。派兵の際は遠慮なく御下知を」


「うむ。策殿や冥琳にも伝えておこう。…ところで和樹」


「なにか?」


公覆殿が盃を卓上に置いたのを認め、俺もやや遅れたがそれを置く。


「なにか…悩みでもあるのか?」


「…悩み、という程のモノではありませんが、一応は」


「ふふっ。やっとお主のほんに微妙な表情の変化を読めるようになったわ。僥倖、僥倖。で、悩みとはなんじゃ?良ければ話してみぃ、相談に乗るぞ?」


無精髭が僅かに生えた顎を軽く擦りつつ考えるが……まぁ別に構わないだろう。


初めに接客係が持ってきた湯呑−−中身は白湯のそれを啜ると、一息つけて卓上へ置いた。


「徐哉の事です」


「徐哉−…おおっ、お主の屋敷の使用人とかいう孺子か。策殿から聞き及んでおるぞ。その孺子の事でか?」


「えぇ」


首を縦に振って肯定するモノの…いくらなんでも孺子(こぞう)の連発はどうかと考える。彼女の性格を鑑みれば蔑みの意味合いではないだろうが。


「で、徐哉がどうかしたのか?」


「今日の朝餉が終わった頃、唐突に言われました。“武術を教えて欲しい”と」


「ほう、結構な事ではないか。男子たる者、心身の鍛練はするべきじゃ。それの何処で悩むのじゃ?」


そう問われ、白湯を一口啜ると湯呑を卓上に置いてから口を開く。


「奴が“なんの為に”武術を習いたいのか。それが漠然としている」


「はっきりしない、という事かの?」


白酒を注いだ盃を傾けると頷いて肯定する。


彼女も酒を呑み干した後、盃を置いて腕を組んだ。


「う〜む。…確かに、“なんの為に”力をつけたいか理由が曖昧なままじゃと危険ではある…」


「えぇ。武術は私が知っている限りのモノは教えられる。しかし“なんの為に人殺しの術”を身に付けたいのか判らない」


有名な某・剣客漫画でも似たような事を言っていたな。


“剣は凶器、剣術は殺人術”と。


というよりは…“武器は凶器、武術は殺人術”が正しいだろう。


「…その徐哉じゃが…齢はいくつじゃ?」


「11になります」


「…思っていたより幼い…。……では、良いのではないか?」


「は?」


突然の解答は予想に反したモノ。


疑問に思っていると公覆殿は、さも愉快そうに盃を傾けている。


「齢が15を過ぎている、というなら、明確な理由なきまま武術を学ばせるのには反対じゃった。じゃが、まだ11。10を過ぎたばかりじゃぞ。理由が曖昧模糊、漠然なのは仕方ないわ」


「…まぁ…確かに」


「じゃろう?儂とて、その時分は“なんの為に”力をつけたいのか、あまり考えもせなんだ。…“まだ”4年ある。それまでに理由を見付ければ良し、見付けられなんだ時は指南を止める。それで良かろう?」


「…ふぅむ…」


そう簡単に決めて良いモノだろうか。


武術を学ばせる事はもちろん出来る。


素手で人間を簡単に殺せる術も教えられるだろう。


だが、黄巾の乱の折に奴は両親を殺害されたと聞く。


それが眼前でなのかは聞いていないが…はたして耐えられるのか。


鍛錬にではなく良心の呵責−−それに勝る“恐怖”に。


殺人を犯した者、殺人を目撃した者は、市井、戦場での体験を問わずPTSDを患う可能性が高い。


武術を習う事−−俺が教えられるのは“確実に相手を殺害する”武術。


近接格闘術、剣術、弓術、槍術、馬術……俺が一通り体得した武術は教えられる。


この世界において、それらが最終的に行き着く先のは−−“殺人”でしかないだろう。


奴は体得した時点で“奪われる側”から“奪う側”へ変貌を遂げる事となる。


俺に護身術は教えられない。


護身術の究極形は“戦わないこと”。


それは読んで字の如く“身を護る術”。


ならば−−“相手や自分も傷付けず、戦わないで逃げれば良い”だけだ。


俺の指す武術とは“如何なる状況や方法であろうとも最終的には相手を殺害する術”。


コンセプトが全く違う。


もしも“護身”目的に習いたいと言ったとすれば……俺は拒否するだろう。


−−突然、眉間に軽い衝撃。


思考が唐突に霧散してしまった。


気付けば公覆殿が俺の眉間を人差し指で押している。


「−−そう険しい顔をするでない。眉間に皺が寄っておる。折角の良い男が台無しじゃ」


「…眉間に皺寄せようが何しようが、良い男は良い男だと思いますが?」


「ふふっ確かにの。それはそうと、あまり思い詰めるな。…まぁ、お主からすれば自分の使用人の事じゃ。気にするな、という方が酷じゃろう」


指を離した彼女は手酌で酒を注ぎ、次いで俺の乾いた盃へ酌をする。


盃を傾け、一気に酒を呑み干した公覆殿がそれを卓上へ置くとアルコールで仄かに紅潮した顔を向けてきた。


「一度、“色々”と教えてみるのも手じゃ。それでも続けたいと言うならば教えてやり、止めたいと言うなら…その意を汲んでやれば良い」


「…そう簡単に出来るとお思いか?」


「鍛錬は厳しく地道。そして行き着く所は混沌で凄惨。…幼くとも、それぐらいは理解できるじゃろ」


「…まぁ確かに」


……“色々”か。


徐哉は両親を喪っている。

それも強制的に人生の幕を引かされる形で。


…それを知っていて尚−−いや、“知っているからこそ”なのかは判らないが、誰でもない本人の意志で俺に請うてきたのだろう。


ならば−−−−


「公覆殿」


「ん?」


「御助言に感謝する」


「ふふふっ。なぁに年寄のお節介じゃ。礼をされる程でもないわ」


「それでも感謝を。…あぁ、それとさっきから言おうと思っていたのですが−−」


「なんじゃ?」


彼女が小首を傾げつつ俺に視線を向けてくる。


本当にさっきから気になって仕方なかった事がある−−


「後ろを」


「後ろ?後ろがどうした−−−」


注文した炒飯はまだか、と考えつつ彼女へ真後ろを見るよう教えると、注がれた酒を呑み下した。


公覆殿の後方約3mに敵影−−という名の大都督殿が鋭利な眼差しで彼女を見ている。


まぁ…俺が礼を言っている辺から居たのだが。


真後ろを向いた公覆殿は、麗しい尊顔の大都督殿を発見した瞬間−−固まった。そうまるで……蛇に睨まれた蛙の如く。


壊れかけ、もしくは整備不良の機械のように覚束ない動きで、彼女が首を回して顔を俺へと向ける。


どうやら−−酔いは醒めたらしい。


「のっのう和樹よ」


「なにか?」


徳利を軽く振ってみれば−−どうやら幾分かは残っているらしい。


それを傾け、盃へ注いで口元に運ぶ。


「儂はもしや…虎口に飛び込んだ兎か?」


「…おそらくは…丸呑みにされ胃腑の中にいるでしょう」


「ぬぅ…もはや死に体と言う事か…」


胃どころか既に消化され、腸に向かっているかもだが。


口元で止まったままの盃を傾け、酒を喉の奥へと流し込みながら眼前の“一方的な戦況”を眺める。


「さて祭殿。この後、仕事をしながらゆっくりとお話を聞かせてもらいましょうか?…特に、不完全な報告書を提出し、再三の再提出を拒み、あまつさえ執務室から逃亡した経緯について」


「いっいや…遠慮―−」


「出来るとお思いか?」


うむ……やはり軍配は公瑾殿にあがるようだ。


もはや、公覆殿は包囲され全滅を待つだけの軍のようになっている。


足早に彼女の傍らまで来た公瑾殿が公覆殿の腕を掴み、無理矢理と立ち上がらせる。


無論−−手に持っていた盃は強制的に卓上へ置かれた。


「待て冥琳っ!離せ、離さぬかっ!!えぇい、和樹、お主もなんとか−−」


「お待たせしました〜。ご注文の炒飯です」


「やっと来たか。公覆殿、申し訳ない。私はこれから少しばかり“忙しく”なるので」


「先程の礼はどうした!!?」


「…ですから先程、申し上げたでしょう。“感謝する”と」


「こんの…薄情者がぁぁぁぁ!!!」


公瑾殿に引っ張られ、城へと強制送還される彼女の声が長く響き渡る。



まぁ…御安心召されよ。


代金は私が払っておきます。


勿論−−立替金ではないので。








“某剣客漫画”

“剣は凶器、剣術は殺人術”


元ネタはるろ剣。


以前にも書きましたが…斎藤一が好きな作者です。




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