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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第三部:徒然なる日々
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やっと本編の続きを投稿出来た…!!




−将司side−



「ふわぁぁぁ〜……」


欠伸をしつつ、俺は夜明けの建業の大通りを歩いている。


まぁ…所謂、朝帰りという奴だ。


今日は休暇二日目の朝。


馴染みの妓楼で心身共にスッキリしてきた訳だ。



…生憎と、お相手の娼妓は気に入っていた娘じゃなかったが。


身請された、とは知らなかったな…。


それも、つい最近。



まぁ仕方ないと言えば仕方ない。


苦界に落ちた女が救われる手段は身請だけだろう。


それが果たして“救われる”かは別にして。


早朝の建業は静かだ。


時刻は……腕時計、忘れちまったな。


まぁ良いや。


作戦行動をやっている訳ではない。


時間なんて大体の感覚で判れば良いのだ。


大通りを城へ向かって歩き続けると、次第に大きな屋敷が建ち並ぶエリアに入った。


この一画に俺と相棒、そして華雄の屋敷がある。


すっかり見慣れた光景を横目に一際、見慣れた屋敷の門の前へ辿り着く。


すると鈍い音を立てて門が開いた。


いやはや…いつもご苦労だねぇ。


門をくぐり抜けて庭の奥に設けられた厩舎に行けば、同居人ならぬ同居馬が柵の向こうで栗毛の体を揺らし俺を出迎えた。


-ブルルッ-


「よぉ、おはようさん」








愛馬である鋼堅の餌やりと俺が朝飯を食い終わる頃には近隣の官吏達が登城する為、外が騒がしくなってきた。


ちなみに鋼堅の名前の由来は−−俺の素晴らしい感性から来たモノだ。



…どうでも良いな。というか俺は誰に説明してんだか。


朝飯が終われば後片付けが待っているが………めんどくせぇ。


かの“鬼の烹炊長”あたりは「後片付けまでが食事」と厚い胸を張って言い張るだろうけど。


…とにかくめんどくせぇ。チョーめんどくせぇ。


最近は後片付けの為だけに使用人を雇おうかと考える程だ。


無論、美女限定……欲を言えばナイスバディで眼鏡を掛けていると更に良い。


あ〜……よくよく考えると俺は眼鏡フェチみてぇだな。


前世で“関係を持った”女性は眼鏡を掛けてたし。


まぁ馴染みの妓楼で懇意にしてた娘は掛けてなかったけど。



しかし…アイツは役得とでも言うのかねぇ…。


徐哉なんて住み込みの使用人……いや、奉公人……似たようなモンだよな。


ってかアイツ、最近、行ってるのか?


黒狼隊は妓楼の集まっている通称:色街地区のお得意様みたいなモンだ。


たま〜に、何処何処の店に金払いの良い客が来た、と相手の娘から聞けば大抵の場合、ウチの野郎共だと判る。


相棒の場合は金払いが良いの他に“目付きが鋭い”、“刺青を彫っている”とかの形容がつくんだが……最近は聞いていない。



……アレか?


徐哉が−−子供が同居しているのに足繁く妓楼へ通うのは教育上、考えモノだと?

相棒…お前、何処のお父さんだ。


これを野郎に言ったら、間違いなく50口径の鉛玉を眉間へ喰らうだろう。


「…プッ…カハハッ…」


ふいに思い付いた事に笑いが零れる。


−−止めだ。


皿洗いの途中だったが、布巾と皿をタライへ放り投げて着物の袖に仕舞った煙草を一本抜いて火を点けた。


そのまま庭へ通じる戸を開けて縁側まで行くと、そこに腰掛け、使用済み薬莢を溶かして鋳造した灰皿を手元に引き寄せる。


「クックククッ…」


笑いが止まらない。


根なし草の代名詞である傭兵−−そんな連中を集めて創った部隊の隊長が親代わり。


可笑しいじゃないか。


「カハハ……ふぅ…」


軽く深呼吸をすれば、笑いが止まった。


…まぁ、アイツは傭兵らしからぬ行動が多々ある。


民間人−−子供が逃げ遅れたのを知り、敵部隊が迫る中、たった一人で街中へ戻ると、その子供を担いで帰ってきた事があった。


野郎は7.62mm弾を二発、脇腹と右肩へ頂戴したものの子供は五体満足で無事。


もっとも…その両親は市街戦の最中に行方不明となったらしいが。


−−煙草を灰皿の端に叩き付け、溜まった灰を落として銜える。


……集団を率いるリーダーとしては失格だな。


リーダーは部下の模範とならねばならない。


だが、置かれた状況が違う。


そもそも、あの時の俺達が請け負った主任務は合流地点まで後退し、再起を図ること。


民間人の救出なんてのは考えなくても良かった。


というよりも……敵軍が民間人の制圧に手間取る事で、もっとスムーズに後退が出来ただろう。


だが、それが判らない野郎じゃない。


結局、市街地に残っていた民間人が脱出するまでの時間を稼ぐ為に戦う羽目となった。



戦死者が出なかった事は幸いだったが……アレで良く部下達が離れていかなかったモンだぜ。


…まぁ、あの頃はアイツも俺と部下連中も“理想”を掲げ、それを成就させる為に戦っていた。


…そう…今になって思えば“青臭い理想”を。


それから間も無くだったかな。


“理想”を捨てたのと、野郎の人が変わったのは。


捕虜を取らなくなった−−虐殺に近い所業をするようになった。


…人が変わったのではなく、傭兵として“覚醒した”が正しいかもしれないが。


相棒は投降してきた丸腰の敵兵の頭部を至近距離から−−それもデザートイーグルの銃弾で撃ち抜いた事がある。


元々は大型獣のハンティング用に開発された拳銃だ。


それを人間相手に撃ったらどうなるか……想像に難くはないだろう。


他には息絶えた敵兵の身包みと頭皮を剥ぎ、イチモツを切り取って口に突っ込んで街灯へと吊し上げる等の行為も。


…正に一般人が想像する“傭兵のイメージ”と“戦争の狂気”を具現したような行動するようになった訳だ。


敵部隊への示唆もあったのだろうが……度が過ぎている。


人前で、あまり感情を露わにしなくなったのも、その頃か。


感情を押し込めるのではなく、感情を殺した。


それは現在も−−……いや、もっと以前からだな。

アイツとも長い付き合いになる。


そう……20年以上の付き合いか。


アイツの泣き顔は10歳を過ぎた時分から見ていない。


それから15年間ずっと。


あの頃から感情を殺す術を未熟ながらも体得していた、といった所か。


…一生あのままだろうな。


−−紫煙を吐き出し、短くなった煙草を灰皿へ押し潰す。


これまでも、現在も、これからも。


「………ふん」


らしくねぇ。


何をセンチになってんだか。



…良し、呑もう。


昼間だろうが、急患が入る可能性があろうが、こんな時は呑むに限る。


草履を脱いで縁側を進み、自室へ入ると卓に置いた呑み掛けのボトルと封がされたままのボトルを引っ掴み自室を後にした。









−−帯にある大脇差に手を触れる。


「−−失礼します呂猛様」


…護衛の細作か。


眼を開ければ…珍しい事に天井が視界に入った。


……あ〜思い出した思い出した。


酒をかっ喰らうのに飽きて、縁側で昼寝する事にしたんだったな。


腹筋を使って上半身を起こし胡座をかくと、灰皿の近くに置いたままにした煙草とジッポを取って一服する。


「?…呂猛様?」


「悪ぃ。少し、ボ〜っとしてた。で、なに?」


銜え煙草のまま、傍らに控えている細作へ視線を遣りつつ微笑を浮かべて先を促す。


「はっ。周瑜様が御出でになるようです」


「……俺、なんかした?」


「は?」


「いやいや、こっちの話」


笑いつつ手を振って、なんでもない事をジェスチャーする。


「お伝えしましたので、自分はこれにて……」


言うが早いか、細作の姿が消えた。


…しかし…公瑾殿がねぇ…。


この屋敷は元々、彼女が所有していた物だ。


現在の家主がどんな生活をしているかを見に来た、というなら気持ちは判る。


だが…そんな面倒で手間の掛かる事をする彼女ではない。


となると……報告書にでも不備があったか?


……いや、それは……あ〜あったかも…。


思わず頭を掻いてしまう。


「−−邪魔するぞ」


静かだが、良く通り、女性にしては少しばかり低い声が門から響いた。


俺が休暇の時は診療の為、門を全開にしている。


元々は、この屋敷の主だ。

勝手に入ってくるだろう。


一応の上官とはいえ出迎える気にはならない。


「−−なんだ、居たのか」


「…えぇ、居ましたよ。出迎えをせずに申し訳ない。少しばかり“忙しくて”」


「とてもそうは見えんがな」


呆れたような視線が俺の姿、灰皿と転がっている空のボトルに注がれた後、皮肉混じりの声音で彼女が口を開いた。


「…それで、何か御用ですか?」


尋ねつつ、まだ半分しか吸っていない煙草を吸殻が山と積まれた灰皿の隅へ押し潰して消火する。


「用か……ふむ、これといって特に用はないな」


「は?」


「それともなにか?私が訪ねる時は、必ず用事があって来るとでも言いたいのか?」


「…いえ、そこまでは…」


なんだか彼女の機嫌が悪い。


…“あの日”か?


何時にも増して、眉間に皺を寄せる彼女への二の句を考えていると、その張本人の顔が−−悪戯を成功させた子供のような表情になる。


「フッ…冗談だ」


この御仁の冗談は冗談に聞こえない。


相棒の奴と良い勝負だろう。


溜め息ともつかないモノを吐き出していると、彼女が縁側に腰掛けた。


「今日は開かないのか?」


「……診療所ですか?」


「あぁ」


「開いてますよ。珍しい事に…まだ誰も診察に来ませんが」


もっとも昨日の内に、お得意さんみたいな大体の患者は来たし、往診にも行ったからな。


一応、急患の受け入れ態勢も万端にしておかねばらなぬだろうが。


「…茶は如何です?」


「そうだな…ふむ、頂くとしよう」


要望に応え、立ち上がるのも億劫な身体に鞭打って腰を上げると台所へ向かう。


火種が残っている竈へ干し草を放り込み、火を起こすと細く切った薪をくべる。


その上へ温くなった湯を入れた釜を置く。


……今の内に吸っておくか。


煙草を袖の中から取り出して銜えると竈で燃える小枝を抜き、その火を使って点す。


三本目の煙草が灰になる頃、湯が沸いた。


茶葉が入った鉄瓶に湯を注ぎ、来客用の綺麗な湯呑をひとつ取って縁側へと戻る。


彼女が座っている場所は変わらず。


かなりの頻度で呉の重要人物達が来訪する屋敷の主である相棒に聞いたが…孫家三姉妹の内、上の二人や側近達は座敷に上がらず縁側へ腰掛けているらしい。


そんな風習でもあるのかねぇ…。


湯呑へ茶を淹れ、それを彼女に差し出し、残りが入った鉄瓶は公瑾殿の傍らに置いた。


「済まんな。…うむ、良い香りだ」


…済みません。直ぐ側で喫煙しながら茶を淹れました。


心中で僅かに謝罪しながら、彼女の左斜め後ろへ胡座をかいて、床の上のボトルを引き寄せる。


茶菓子は……あ〜…そういや切らしてたな。


茶葉自体、つい最近になって購入した物。


茶菓子なんぞストックがある筈がない。


なんせ患者以外の奴なんか中々、来ないモンで。


あ〜ぁ…前世じゃ、“気が利く男”で通ってたのに…。


「…項垂れて、どうかしたのか?」


「あ〜いや、お気になさらず」


視線を合わせず彼女に軽く手を振る。


…皿洗い以外で使用人を雇う理由が出来たな、うん。


…いや…いっその事、部下の誰かを従卒扱いにしようか。


……止めとこう。相棒の奴がうるさい。


溜め息ひとつ零し、改めて公瑾殿を見遣ると、彼女は優雅に茶を啜っている。


「……それで?」


「ん?」


「本当の所は?」


「…ふむ…」


彼女は視線を僅かに俺へ向けるが、またそれを庭に戻して湯呑を手の中で転がし始めた。


なにかあるのだろう。


そうでなければ、多忙な御仁がこんな所へ来る筈がない。


ボトルの封を開けて口をつけるとバカルディを喉の奥へ流し込みつつ返答を待つ。


「…昨日の夕刻に明命が私の執務室を訪れてな、こんな報告をしたのだ」


「報告?」


「あぁ。話して良いものかと迷ったらしいのだが、一応な」


「ほう」


それは珍しい。


明命ちゃんが彼女に報告すべきか迷う事柄か。


興味が出て来たな。


「…“とある精強な部隊”の話なのだ」


「…何処の?」


「それはまだ伏せておこう。明命や同行した者達は、その全部隊員の“秘密”を知ってしまったらしいのだ」


「“秘密”…」


「そう“秘密”だ。なんでも、その者達は−−」


再びボトルを傾けて、アルコールの強い液体を少し口の中で転がし−−


「一度、戦死したのだそうだ」


喉の奥へと流し込んだ。


「その部隊が掲げる牙門旗は二つ」


彼女が二本の指を立て、それを背後の俺へと見せ付ける。


「漆黒の韓一文字、そして白地に黒い狼を描いた旗だそうだ」


「…………」


推測するに−−いや、する必要すらない。


彼女が言っているのは間違いなく……俺達の事だ。


秘密にしていた訳ではないが…知られてしまうと“色々”と面倒になるのは明白だった為、敢えて伏せていたのだが…。


一体、何処の誰が口を割りやがったんだ?


もうボヤ騒ぎでは済まねぇぞ。


掴んだままのボトルを意味なく揺らし、口をつけて酒を流し込む。


「……フゥ…」


「……………」


「…参考までに誰が喋ったのか教えて頂けますか?」


「おや、意外だな。てっきり、はぐらかすとばかり…。ふむ…聞いている限りでは、お前の部下が口を滑らせてしまったらしい」


…一体全体、何処の誰が喋ったんだ?


こりゃ、減給決定−−


「まぁ…和樹も蓮華様達に暴露したらしいがな」


ブルータス、お前もかぁぁぁぁ!!!?


心中で何時も無表情&クールな野郎へ激しいツッコミを入れる。


今際のカエサルもここまでびっくりしなかっただろうよ。


…まぁ、あの台詞は戯曲で有名なだけでホントに叫んだかは判らねぇんだけど。


はぁ…少しは落ち着けた−−ってヤベっ。


ボトルにヒビが入っ……蜘蛛の巣状態になっちまった。


「…それで本当なのか?」


「は?…あぁ、間違いないですね。自分も戦死しましたし」


…そんな事より、これどうすっかな。


…良し呑み干そう。ボトルが割れる前に。はい、決定。


「…差し支えが無ければ聞かせてもらえないか?」


おっかなびっくりに、慎重に、蜘蛛の巣の如くヒビが入ってしまったボトルを傾けて酒を流し込む。


「んっ…ん?…あぁ戦死した時の状況ですか?」


「あぁ」


酒気に染まった息を吐き出し、公瑾殿へと視線を向ければ彼女のそれが俺へと注がれていた。


「無論、差し支えが無ければの話−−」


「構いませんよ」


彼女の言葉を遮って、再びボトルを傾ける。


分水嶺なんぞ、とうに過ぎている。


そもそも部隊長である相棒の野郎が話してしまい、もはや冗談では済まない。


…まぁ野郎は冗談を言う人間のイメージからは程遠いが。


「高地戦は…お分かりになりますか?」


「あぁ」


「戦闘が苛烈を極め、部隊の損害も大に近かった。相棒…和樹の判断で前線から後退する最中に敵兵に狙撃され−−ここを撃たれました」


着物の襟元を緩め、僅かに露わとなった被弾箇所である胸部の一点を軽く指で突いて見せる。


「…良く覚えているな」


「“残念ながら”即死には到らなかった。…不思議と痛みは感じませんでしたね。段々と力が抜けて身体が動かせなくなり…次いで眼が見えなくなりました」


「…………」


「“もう二度と戦えない”。そう本能的に直感しましたよ。それで相棒に引導を渡してくれるよう頼んで、心臓を撃ち抜いて貰った…んでしょうね。そこからは向こうの記憶がない」


「…和樹に引導を…」


「えぇ。野郎には面倒な手間を掛けさせてしまった。聞いた話ですが、自分が死んだ数日後に相棒や残った部下連中も全員、戦死を遂げたそうです」


連中の死に様は話でしか聞いていない。


フレシェット弾−−この場合は榴散弾に分類される砲弾の攻撃を受けたと相棒から聞かされた。


クラスター爆弾や対人地雷などの兵器同様、使用が厳禁されている代物−−というのは名目上だ。


実際は国際条約でも“目標が戦闘員に限れば”使用可能となっている。


クラスター爆弾同様、空中で炸裂し、何百あるいは何千の弾子を撒き散らす兵器が歩兵部隊の上空へ降り注げば…効果は絶大だ。


相棒自身も矢状の弾子で左腕をもぎ取られたらしい。


…俺なんぞより、よっぽど壮絶な最期だ。


「…将司」


「はい?」


「あの世、とやらはあったか?」


彼女の声音は…何処か冗談を待っているようなそれだ。


「はははっ。どうやら門前払いになったようです」


「…ふふっ。地獄の悪鬼共も手を焼く、か。“百鬼”の字は伊達ではないらしい」


あっ済みません。それ偽名です。


本名が平凡なのでカッコつけてみました。


それと…何故、逝き着く先が地獄だと断言をしますか。


まぁ地獄があるとすれば…最下層の地獄だろうけど。


「前世−−天の世界はどうだった?」


「特にこちらと変わりありませんよ。いくら文明が発展しようが、人間と争い事が変わる訳でもない」


「…文明が発展すれば戦も変わるだろう」


「“本質”は変わりません。戦とは即ち人間同士の殺し合いでしかない」


「…そうだな。愚問だったようだ、忘れてくれ」


公瑾殿はそう言うと茶を啜る。


人間というのは争い事が好きだ。


多種多様な動物の中でも人間は特異な存在である。


縄張りを作った生活する動物は、それが他者によって侵された時、あるいは生命に関わる時しか戦わない。


逆に人間は、勿体振った大義名分、正義を翳し、好き好んで戦争をする。


何千、何万の命を“消費”して。


人間の本質−−脆弱さは有史以来から変わらない。というよりも変わろうとはしない。


変わるとすれば…“方法”のみだろうよ。


ボトルを傾けていると、公瑾殿が立ち上がり、俺へと向き直った。


「馳走になった。邪魔をして済まなかった」


「お帰りになるので?」


「あぁ。これでも多忙な身でな」


肩を竦める彼女に苦笑が零れてしまう。


「城までお送りしましょうか?御覧の通り、暇ですので」


そう返せば、彼女も苦笑する。


「いや結構だ。呂猛将軍に護衛をさせるなど、とても出来んよ」


「それは残念。自分としては、もう少しお近づきになりたかったのですが」


「ふふふっ、そうか。だが…診療所の事もある。ここで結構だ。残念だがな」


「では見送りだけでも−−」


「いや良い。…“忙しい”のだろう?」


俺が掴んでいるボトルを指差しつつ公瑾殿は人を喰ったような微笑を浮かべる。


踵を返し、彼女が門へと向かうのを見届けながらボトルを傾けていると−−不意に公瑾殿は立ち止まり、俺へと視線を向けた。


「−−ひとつ、言うのを忘れていた」


「なにか?」


突然の言い忘れを疑問に思っていると、彼女は再び人を喰ったような微笑を浮かべ−−




「胸に痕が残っていたぞ。昨夜は随分とお楽しみだったようだな?」






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