表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第三部:徒然なる日々
52/145

42



超無理矢理な展開で申し訳ありません。






現在地は黒狼隊および華雄隊の駐屯地。


茶菓子に出そうと思っていた胡麻団子は……冷えて固くなり、とてもではないが客人に出せる代物ではなくなってしまった。


だからといって徐哉を走らせて買わせてくるのも忍びない。


しかも仲謀殿と鍛錬の約束もしてしまった。


総合的に考え、それらを遂行できる場所となると……俺にはひとつしか思い浮かばなかった。


馬を取ってくるという彼女達とは屋敷で一旦、別れ、集合を駐屯地にしたのだ。


着物に弾帯を巻いて愛刀二本を差し込み、拳銃をホルスターに入れ、その上からコートに袖を通した格好で黒馗を走らせて来た訳だが………


「…遅いな」


「…そりゃ、城に戻ってから来るんです。遅くなるに決まってるでしょう」


愛馬を出迎えの部下に任せ、俺は歩哨の奴と共に正門で待っているのだが……やはり遅い。


胡麻団子の方は既に烹炊長(補給小隊長)へ注文済み。


おそらく俺が食うと思ったのだろう。


野郎共の呆気に取られた顔は見物だったな。


ふと口寂しさを覚え、コートのポケットに仕舞った煙草を取り出して銜えると、傍らの部下がすかさずジッポで火を点けた。


「あぁ済まんな」


「いえいえ、どういたしまして−−っと、来たみたいですね」


部下が視線で指し示した方角から騎乗した四人の人物達が駆けてくるのが見えた。


「−−来たわよ」


「ようこそいらっしゃいました。おい」



「はっ。では、馬をお預かりします」


「はっはい、お願いします!!」


降りた四人に代わり、付近にいた部下達が彼女達の馬を厩舎へ連れて行くのを見送ると、案内するため先頭を切って歩き出す。


「ほわぁ……」


「雪蓮様から聞いてましたが…凄いです−−あっ亞莎、あれを見て下さい!!鉄の車ですよ!!」


「ちょっ明命ぇぇぇ!!?」


好奇心が疼いたのか幼平殿が格納されている戦車へ駆け出して行く。


それを子明殿は注意しつつ俺へ頭を下げてくる。


「すっ済みません和樹様!!」


「いえ構いませんよ。…近くで御覧になりますか?」


「えぇぇっ!!?」


「良いの?」


「えぇ。鍛錬と胡麻団子が出来るまでの暇潰しだと思って下さい。では、こちらに」


全部で三基ある格納庫のひとつ−−幼平殿が向かったそれの中では戦車小隊の隊員が点検に励んでいた。


大きく口を開けた入口をくぐると部下に指示を出している隊員へ声を掛ける。


「精が出るな、戦車長」


「油圧を−−っと少佐。ありゃりゃ…今日は可愛いお客さんが一杯で」


「そうだな。…済まないが、彼女達に戦車を見せてやってくれ」


「了解。皆さん、見るのは結構ですが、あんまり手を触れないで下さいね?」


「あっはい。判りました!!」


「…大きい…」


「本当…近くで見ても大きいわ」


「…………」


「図体はデカいんですが、中は狭苦しいんですよ」


感嘆の声を上げる彼女達に三号車の戦車長が説明を始めた。


…まぁ奴に任せて大丈夫だろう。


というより説明するのが面倒だ。


「この鉄の車だけど……名前はあるのかしら?」


「勿論。この戦車−−といっても馬が牽引する奴じゃありませんが。こいつの名前はT-72A。エンジンはV型12気筒ディーゼル…って判らないよなぁ…」


『?』


「おっと失礼。…性能云々は省きますが、まぁそこそこは良い戦車です。ただ……」


「どうかしたんですか?」


「弱点が多いんですよ、こいつには。ねっ少佐?」


……戦車長、ここで俺に振るな。


見ろ……彼女達の視線が俺に集まっているではないか。


「弱点ってどういう事ですか?」


「えぇ。全部が鉄で作られているし…戦場で見た限りだけど、速さも申し分ないわ」


「少佐、説明をお願いします」


俺に集まる視線は好奇心と疑問に満ちている。


それに加え、戦車長からの催促まで……。


「…確かに開発当初は、あらゆる戦車の中でも比較的軽量で速さも申し分ありませんでした」


アウトバーンを走行した際、ガバナーを解除したら100km/h以上の速度を記録したそうだしな。


「こいつの弱点のひとつは砲塔−−その半円状の中に戦闘室があるのですが、その直下に弾芯とカートリッジを分離……まぁ砲弾等を積載するので、敵戦車によって攻撃を受け被弾貫通した場合、高い確率で砲塔が吹き飛ぶ可能性が高い事が挙げられます」


砲塔を指し示し、所々を言い直しながら説明するが……やはり彼女達には理解できないのか小首を傾げている。


T-72、最大の弱点は説明した通りの事である。


弾薬が戦闘室外のパズルボックスに格納されている西側の第3世代戦車とは異なり、T-72を始めとするソ連設計の戦車のほとんどが弾芯とカートリッジが別々に戦闘室直下へ剥き出しの状態で円状に並べられるという設計となっている。


この設計だと被弾貫通した際、弾薬に誘爆し砲塔そのものが吹き飛ぶ可能性が非常に高い。


実際、記憶に新しいT-72と第3世代戦車であるM1エイブラムスとチャレンジャーが二度に渡り激突した湾岸戦争とイラク戦争では砲塔が吹き飛び、戦闘室直下が著しく破損したT-72の画像がメディアによって流されている。



…もっとも米軍の主力戦車であるM1エイブラムスは劣化ウランを混ぜた装甲に劣化ウラン弾を採用したのも一方的な戦果の要因でもあるだろうが。


「−自分も元は空挺だったんですよ」


「…くうてい?」


「“空中挺身”を略して空挺です。まぁ精鋭だったって事ですね」


「挺身…という事は…」


「えぇ。危険を顧みず自身の身を捨てて敵中に降下するという意味です。訓練ですが…占めて50回くらいは落下傘を背負って空から降下しましたよ。…まぁ最後は落下傘が上手く開かなくて着地に失敗して大怪我を。そんで空挺から機甲へ変わりました」


「国軍にいた頃の話だろ?」


戦車長の昔の話に割り込むと彼が苦笑する。


「えぇ。国軍にいるのに嫌気がさして、退官した後は傭兵に。そんで少佐と出会って皆と一緒に戦って、最期は戦死しましたよ」


「しっ死んだ!!?」


「どっどどどういう事ですか!!?」


「…………あ」


口を滑らせた事に気付いた戦車長が小さな声を発した。


すると投げ掛けられる質問の雨霰。


「せっせせ戦死したのに……まさか……!!?」


『……ッ!?』


「いやいやいや!!幽霊とかじゃないですって!!ほら、ちゃんと脚があるでしょう!!?」


とんでもない結論を叩き出した彼女達は怯え−−興覇殿と幼平殿にいたっては主君を守る為に立ち塞がり、武器を構えていた。


それに慌てた様子で戦車長は自身の脚を叩いて見せ、格納庫内で整備にあたる要員達は−−苦笑していた。


「車長!!俺達、幽霊と遜色ないですってば!!」


「やっぱり幽霊なんですか!!?」



「だあぁぁ!!!違いますって!!っていうかテメェらは黙ってろ、ややこしくすんじゃねぇ!!!」


『へ〜い♪』


笑いつつ整備へ戻る部下二人を彼は見届けた後、救援を請うような視線を俺に向けてくる。


「少佐ぁぁ………」


「はぁ…。落ち着いて下さい」


「でっでででも……!!」


「ご安心を。コイツは幽霊の類いではありません」


「しかし…戦死したのに生きているとは解せません」


「…確かに。……説明しますので、こちらへ。戦車長、迷惑を掛けたな」


「いえ。…俺も口が滑りました。申し訳ありません」


「気にするな」


謝罪する戦車長へラフに返し、彼女達を伴い格納庫の付近にある簡易のベンチに腰掛けさせる。


「…先程の戦車長の発言には驚かれたでしょうね」


「えっえぇ…。でも、どういうことなの?」


「…亡くなったのに…何故……」


「まさか…本当に…」


「興覇殿。それに関しては私が保証しましょう。奴は幽霊でも、ましてや魑魅魍魎の類いでもない」


「…でも…貴方達がそんな冗談を言うとは思えないわ。…どういう事なの?」


仲謀殿を始め、疑問と一種の恐れに満ちた視線が突き刺さる。


告白の必要や、義務もないと考え、今まで言わなかったが………こうなっては仕方ない。


「……判りました。信じられないかも知れませんが、お話しましょう」


そう切り出した後、煙草を銜えて火を点けるとベンチに座る彼女達へ紫煙が届かないよう注意しながら喫煙しつつ、掻い摘まんだ説明を始める。


それは主に前世−−というよりも向こうの世界で全員が戦死した後、気が付けば、この世界に居たというモノ。


神に出会った云々は勿論、省いた。


これ以上、説明が面倒になるのは御免だからな。


「−−要点のみ話せば以上ですが………」


『…………』


「…どうかなさいましたか?」


『ッ!!?』


反応がないというよりも放心していたであろう四人へ声を掛けると興覇殿を除いた彼女達が肩を震わせた。


すると仲謀殿が口を開き掛けるものの閉じてしまい、ややあって再び怖ず怖ずと口を開く。


「…その…あの…それは本当の話…かしら?」


「えぇ。この世界に来たのは反董卓連合が結成される…約一ヶ月前のこと。その以前に向こう−−天の世界で我々は一度、戦死しました」


「…和樹様は…その…どのような最期を…」


躊躇いがちに声を掛けてきたのは子明殿。


吸い込んだ紫煙を唇の端から吐き出すと、煙草を銜えつつ、彼女の言う“最期”を思い出す。


「…フレシェット弾という兵器の攻撃で私以外の残余兵力は壊滅。その攻撃で私自身も左腕をもぎ取られました。最後の抵抗に敵指揮官を狙い銃撃して殺害した後、私へ向けて敵部隊から一斉射が。そこからは記憶がないので、戦死という訳です」


言い切ると吸い込んだ紫煙を唇を細めて端から真横へ吐き出す。


しかし…左腕をもぎ取られた、の辺りで彼女達の表情が真っ青になったのは見物だったな。


…まぁ、こっちの世界でどちらか片方の腕を失ったとしても俺は両利き。


さほど私生活と指揮にも影響は出ないだろうが……主に気分の問題でタトゥーが彫られている左腕だけは残したいモンだ。


「…これから物を食べるというのに大変、失礼を」


「いっいえ、とんでもありません!!」


「…あの…左腕は…?」


「あぁ。くっついていますよ。…何故かは知りませんがね」


…まぁ、あの自称:神の仕業だと思うんだが。


紫煙を吐き出し、短くなった煙草を携帯灰皿へ放り込むと表情の優れない彼女達を伴って歩き出す。


しばらく歩いて辿り着いたのは烹炊設備の入ったテント。


その前には……急拵えで作ったのだろうテーブルと丸太を切り出しただけの椅子が四人分、置かれていた。


ウチは基本的にテーブルを使って食事はしないからな。


彼女達を椅子へ座らせると俺はテントに近付き、捲られた布扉の奥へ声を掛ける。


「出来たか、烹炊長」


「−えぇ。たった今、仕上がりましたよ。お客様は?」


「もう、いらっしゃってるぞ」


遣り取りが終わると、布扉を窮屈そうにくぐり抜けて出て来る人影。


直立すれば、この部隊で一番の長身を誇る、人呼んで“鬼の烹炊長”が姿を現し−−−


「「くっ熊ぁぁぁぁ!!?」」


たのだが……約二名程が驚きで絶叫した。


この時代、190cmを越える身長の持ち主なんてのは余り居ないだろうし……俺と同様に彼も油断していると無精髭を生やすタイプの人間だ。


熊と間違えられても……まぁ仕方ないだろう。


「…隊長。自分、熊に見えますか?」


「諦めろ。俺も初対面の時は熊に見えた」


「…済みません。軽いショックを受けました」


歴戦の猛者も真っ青な体躯にスカーフェイス……。


この面で料理−特に菓子を作るのが得意で、しかも子供好き……誰も信じない所か、子供は泣いて逃げ出すだろう。


「−−どうぞ、胡麻団子です」


烹炊長が胡麻団子を大量に盛った大皿を恭しくテーブルへ置く。


彼の言う通り出来立てのようで、うっすらと湯気が出ている。


「皆様、お飲み物は?」


「…でっでは、お茶をお願いします」


「わっわわわ私も…」


「それじゃあ私もお茶で」


「同じく」


「畏まりました」


軽く礼を取ると烹炊長は、茶を淹れに再びテントへ戻っていった。


…アイツ、海軍の出身だったよな。


陸軍より食事作法に厳格な海軍出身なら、デザートの際はそれと軽い飲み物を同時に出す筈だ。


…ん…いや、それはフレンチ等のテーブルマナーか。


ここは中華だ。


中華料理のテーブルマナーは………あまり意識していない為、忘れてしまったな。


今度、中国出身の連中に聞くか………というか、現代と古代の作法は一緒なのか?


…いやしかし…こっちの世界の飯屋には円卓があったくらいだしな…。



ふと湧いた疑問の海に溺れ掛けていたが途中で思考を止め、クロールで岸へ辿り着いた。


その時になって気付いたのだが……いまだ誰も胡麻団子に手を出していない。


「……どうかなされたので?」


「いっいえ、なんでもありません!!」


…緊張している訳ではなさそうだが…。


「小皿がないんだけど…」


「小皿?…あぁ」


仲謀殿からの控えめな求めで中華料理のマナーをひとつ思い出した。


中華料理は大皿に盛った料理を各々の小皿へ取り分けて食べるのが一般的だ。


まぁ地域によって違いは出てくるだろうが…ここではそれが当て嵌まるらしい。


テントに向かおうと思ったが、それよりも速く烹炊長が姿を現した。


しかも盆の上に急須と人数分の湯呑、そして小皿と箸を携えて。


「大変申し訳ありませんでした。つい、何時もの調子で…。どうぞ」


軽い謝罪と共に烹炊長が携えてきた小皿と箸を彼女達の前へ置き、同様に湯呑を置くと急須から茶を注いでいく。


「ありがとう。…良い香りだわ」


「お誉めに預かり光栄です」


烹炊長が胸に手を当て、恭しい礼を取る。


…箸は持って来なくても良かったのではなかろうか。


実際、彼女達も箸を使わず大皿から胡麻団子を取り分けている。


一口目は同時に食べるようで、彼女達は小さく口を開けて胡麻団子を齧った。


『−−−−ッ!!?』


「いかがでしょう?」


明らかに表情が変わった彼女達に烹炊長が問い掛ける。


「美味しい!!凄く美味しいです!!」


「えぇ。…脂っこくなくて、しつこくない甘さ。凄く美味しいわ」


「恐縮です。蜜は少なめですが、極少量の塩を入れておりますので甘さが引き立っています」


「美味しい…美味しいです!香ばしくって、モチモチしてて、甘くって…こんな美味しいもの初めてです…!!」


念願……なのかどうかは判らないが、子明殿は胡麻団子を嬉しそうに頬張る。


それを見て烹炊長の顔も嬉しそうに−−−子供が見たら泣き出すであろう顔で微笑んでいた。



さて……次は仲謀殿と鍛練か。


気張るとしよう。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ