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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第三部:徒然なる日々
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短いですが投稿。





「…それを実行しろ、と?」


「はぁい。…本当ならやりたくないんですけど…」


討伐軍の援軍として総兵力約5千を率いて俺達は主戦場となっている地点に昨夜、到着した。


戦況は…一進一退。


敵軍である山越の総兵力は約1万5千。


但し、平野に展開している数だけだ。


敵軍の背後にある山−とはいっても標高500m程のそれには、ほぼ間違いなく相当数の兵力が籠もっている。


こちらが攻勢に出た瞬間、一斉に退却して誘い込み、戦い慣れた山岳戦を仕掛けるつもりだ。


それは、こちらも理解している為、積極的な攻勢は行えない。


相手が焦れて山から出て来た所を叩きたいが……そう簡単には問屋が卸さないだろう。



俺が確認するように問い掛けた相手は伯言殿だ。


この戦で俺が率いる事となったのは総勢2千。


相棒と華雄も同様にだ。


ここまでの兵力を戦場で運用した経験は全く無いが……極論を言えば普段の部隊指揮の延長と考えれば良いだろう。


それはまだ良い。


問題なのは………


「貴女は新兵が大多数を占める部隊を最前線に置くというのか?」


「……はい。心苦しいですが」


「では尋ねるが、古参兵で構成された部隊は何処に?」


「全軍に満遍無く配置しますが…出来るなら古参兵さん達を徒に失いたくは無いんです」


…俺が率いる部隊は大多数が新兵で構成されているのだ。


しかも古参兵3割、新兵7割で。


古参兵を失いたくないという理由は理解できる。


技量と経験に富んだ兵士の存在は貴重だ。


それらと新兵を量りに掛ければ…結論など簡単に叩き出せるだろう。


「戦場の最前線は消耗戦の戦域だ。技量と経験に富んだ古参兵を失いたくない…それは理解できる。だが、私は2千名の命を預かっている。ただの一人の兵も無駄に死なせる訳にはいかん!」


ほんの僅かだが、声を荒げてしまう。


…些か興奮しているな…。


少し深呼吸して、それを抑えると軍師である彼女に向き直る。


「…和樹さんの言い分は痛いほど判ります。判りますが…これ以上の分散は望めないんです。…本当に申し訳ありません」


「…いや、こちらも申し訳なかった」


それだけを告げ、胡床に深く腰掛けた。


仕方ない、で済めばどれだけ気が楽か…。


「…この戦における基本骨子は理解できたな?」


上座に座る大将である仲謀殿が声をあげると天幕にいた俺と相棒を除いた全員が頷いた。


基本骨子−それは迎撃戦に近い形。


積極的には攻め掛からず、敵の攻勢に合わせ、押し寄せる敵軍を迎え撃つ。


「それでは、各将の配置だが−」


「仲謀殿」


「和樹、どうかしたのか?」


大将の言葉に先んじて声を出すと、各将が俺へ視線を向ける。


「私の配置は最前線−前軍中央を望みます」


「同じく自分も前軍を」


「私も二人に同様だ」


まるで示し合わせたかのように、相棒、華雄が俺と同様の最前線行きを望んだ。


…こういっては何だが、この面子で最前線指揮官を任せられるのは俺達を除けば、興覇殿ぐらいだろう。


公覆殿は…どちらかと言えば、中軍からの援護に向いている。


「…蓮華様、どういたす?」


「…前軍中央を和樹、左翼は華雄、右翼を将司。中軍は祭の指揮下に。そして後軍を思春とする。穏、どうだ?」


「はい、問題ありません」


「では、各将の配置はこのようにする」


「感謝します」


具申が承諾され素直に頭を下げる。


「良い、気にするな」


「でも蓮華様ぁ、問題があります」


「なんだ、穏?」


「山に潜む、山越の後詰めですぅ。こちらが苦戦していると思われれば総攻撃も予想されます」


「…むぅ…そうだったな…どうするか…」


「失礼ながら問題ありません」


「…和樹?」


再び俺へ視線が集まる。


それを受け流し、横目で横に座る相棒を促す。


溜め息をひとつ零し、彼は机上に置かれた地図の一点を指差した。


「昨夜未明…まぁ我々が到着して直ぐですが。既に山中へ斥候を放っております。加えて……」


説明を区切ると、相棒は端に置かれた白い碁石−敵軍を表すそれを山中の数ヶ所へ置いた。


「敵が集結している陣地の位置も報告されています」


「本当なら先に申告するべきでしたが…事後承諾になってしまい申し訳ない」


「いや構わない。…なるほど…既に敵陣の位置は丸判りという訳か…。しかし、どうするのだ?我々は山中での戦には慣れていない」


「ご心配なく。少し失礼…少尉、応答を」


トランシーバーで砲兵小隊の小隊長に通信すると、現状戦力の詳細を報告させる為、本陣へ呼び出した。


少し待つと見慣れた人物が本陣の天幕へと入ってくる。


俺達の姿を認めた少尉は敬礼する。それに返礼し報告を促せば、彼は小脇に挟んだクリップボードを眼前に持ち上げた。


「全隊はブリーフィングの通り、所定の配置に。現状戦力報告に移ります。

第一歩兵小隊、中尉以下28名。これより偵察班を除く23名は配下部隊の指揮に向かわせる予定です。

砲兵小隊、小官以下25名。L16 81mm迫撃砲8門の設置完了。迫撃砲弾頭1,600発も配分しました。

戦車一号車、ヘリ二機の整備および給油完了。いつでも動かせるとのこと。


追加報告等は以上です」


「ご苦労、少尉。第一小隊の指揮部隊は前軍の約6千だ。出来るだけ員数を均等に持ち場へ」


「了解しま……あの、なにか?」


報告と通達を少尉に伝えると、何故か彼が辺りを見回した。


俺も周囲を見回すと…相棒と華雄を除く全員が呆気に取られている。


「…いや…その…」


「…報告だとは判ったのじゃが…何を喋っているのか、さっぱり判らんかった…」


「………これは失礼」


咳払いをして、心持ち姿勢を正すと俺を疑問符を浮かべて見詰めている仲謀殿へ視線を向けた。


「つまりは、山中の敵陣地の位置が判れば、ここからでも攻撃を加える事が可能という事です」


「そんな事ができるの−−できるのか!?」


砕けた口調にならないよう慌てて言い直したようだな。


苦笑を喉の奥に引っ込めて口を開く。


「可能です。昨日の昼、我が隊のヘリが上空を飛んでいたのを覚えておりますか?」


「へり…とは、あの空飛ぶ絡繰りの事じゃったな?」


黄覆殿の問い掛けに軽く頷くと、少尉を手招きし“アレを出せ”とアイコンタクトする。


すると彼はポケットから小さく折り畳んだ地図−この戦域のカラー写真に細かく枡目を引いたそれを取り出して机上に広げた。


「これは……なっ!?」


「これは…昨日まで私達が敷いていた布陣ですぅ!!」


武器弾薬を積んで行軍した俺達本隊とは違い、ヘリ部隊の内、一機は猛烈な勢いで昨日の昼にはこの戦域へ到着していた。


その際に上空からデジカメで写真撮影をし、そのデータを駐屯地へ持ち帰り、パソコンで補正等の処理をして大量にコピーした地図を持って俺達に合流したのだ。


お陰で、戦域到着前に大まかな地形等は把握できた。


「斥候を出したのは上空から見えない…この場合は山中に隠れている敵軍が築いた陣地の位置を知るため。…少尉」


「はっ」


「狙えるか?」


「お任せを。足りない時は戦車長に頼みますので」


「そうか…だが…」


「なんでしょう?」


僅かに横目で辺りを見回すが……人が多いな。


相棒は良いとしても……仕方ない。


「When an artillery shell becomes insufficient, let me know.(砲弾が足りなくなったら俺に報せろ)」


「Yes,sir,commander」


それだけを告げると彼は地図を折り畳んでポケットに仕舞って敬礼し、そのまま天幕を去って行った。


「…和樹、なにを話していたんだ?」


「なに…“徹底的に殺れ”と命じただけですよ」


「そうか…しかし…何故だろうな…」


「…仲謀殿?」


「…和樹達と居ると負ける気がしない」


その言葉に呆気に取られてしまうが頭を片手で掻くと彼女に向き直る。


「戦は始める前の段階で勝敗の約9割以上は決まると言います」


「あぁ。聞いた事がある」


「兵站、情報、軍編制、等々ですねぇ」


「その通り。しかし…不確定要素の1割はどうやっても埋める事が出来ない」


「……そうですねぇ。いくら優秀な将兵、軍師が居ても絶対に無理です」


「…えっ?」


疑問符を浮かべる仲謀殿に視線を向け、彼女の双眸を見詰める。


「何故なら、戦を行うのは古今東西“人間”だからです。私達が人間である以上、全戦全勝は有り得ない」


「…コイツの言う通りです。くれぐれも過信なさるな」









火炎放射器……出そうかなぁ……。




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