PV140万突破記念〜資金の出所〜
色々とありがとうございます。
さて、今回の記念話は……雪蓮なみに勘の良い方なら、疑問に思っていた事に関する事柄です。
孫呉が首都:建業の郊外にある黒狼隊駐屯地。
今日は特に任務や問題もなく太陽が沈んでしまった。
尤も“今日”が終わるまで、あと6時間弱はあるのだが。
夕食も終わってしまうと、隊員達が暇を持て余してしまうのは仕方ない。
23時に行われる総員点呼まで、訓練をする気にはなれない。
それならばと始まるのは、ポーカーや同居している華雄隊の兵士達を巻き込んでの麻雀などの娯楽。
一応、外泊届を提出すれば夜の建業へ繰り出せる事も出来るのだが……提出する隊員達の員数が“非常”に多い為、外出する人間は公平に抽選で数名ずつ選ばれているのだ。
まぁその話はいずれ話す事にしよう。
この駐屯地には生活に必要な物品を取り揃える酒保、散髪を行う理容室、そしてバーなどが存在する。
これらの運営と管理を行っているのは補給・施設小隊の小隊員達だ。
武器弾薬の管理や兵站の担当を行っているのに加え、毎日の烹炊も彼等の任務であるのに、上記のような施設運営までしているのには脱帽するしかない。
無論、彼等を援護する形で部隊の各員達も手伝ったりはするのだ。
正確には“そうしなければならない”のだが…。
その理由は…補給・施設小隊の小隊長にある。
この小隊長の異名は“鬼の烹炊長”。
彼が隊員達に要求するのはひとつだけ。
それは『出された物を残すな』。
…何処の小学校低学年の学級目標だ、と思ってしまう。
だが、飯を残してしまうと(それが米一粒だったとしても)良く研がれ、切れ味抜群の包丁か45口径の銃弾が飛んでくる。
余談だが、どちらが飛んでくるかはその場のノリと気分によって変わってくるとか。
この小隊長は“部隊で怒らせてはいけない奴ベスト5”にランクインしているのだ。(ちなみに一位は和樹、二位は将司である)
もうお分かりだろう…。
そんな人物が小隊長を務めている小隊の手伝いをしなければ…どんな仕打ちが待っているか判ったモノではない。
その為、隊員達は“快く”“率先して”補給・施設小隊の援護をしている訳だ。
そんな補給・施設小隊が運営しているバーは、テントではなく木造建築の小屋である。
床はフローリング張りで、屋根や壁の隙間には詰め物がされており風雨が入り込む心配はない。
手の込む事をすると思うだろうが、彼等から言わせれば『当然のこと』らしい。
ちなみに扱っている酒は様々で、隊員達のリクエストに応じてリストを作成した後、和樹に頼んで“宅配”をして貰うか、もしくは建業の市場や酒店から購入してきている。
おかけで、現在では数十種類の酒を置いているとか(ボトルキープは二本まで可。気軽にご利用を♪)。
ついでに言っておくと、酒保、バー、理容を利用する際に現金払いは無いが、しっかりと俸給から天引きされているので、隊員達は注意して利用している。
バーの入口には看板が立っている。
木板に墨で書かれている店名は“Wolfsschanze”。
これはドイツ語で、訳せば“狼の砦”とか“狼の巣”の意味となる。
元々は東部戦線のドイツ国防軍の作戦行動を指導する為にヒトラーが設けた指揮所、大戦中に各地に設けられた総統大本営の名称であるが、この部隊の名前を考えると…なるほど、と頷いてしまう。
バーの中にはスツール席しか無く、カウンターの中では補給・施設小隊の隊員がグラスを磨いている。
ビリヤード台が隅に置かれているが、利用する者はあまり居ない。
あまり居ないが……もし遊ぶ場合は“絶対に隊長と張り合うな”という不文律が部隊には存在する。
万が一、金を賭けたら…ほぼ間違いなく一ヶ月分の俸給が持っていかれてしまうのだ。
それもそのはず……。
隊長である和樹は、ビリヤードに関してはA級…いやヘタをするとSA級に相当する。
彼にブレイクショットを渡してしまえば……ものの数分で勝負が決まってしまうとか。
ビリヤードでは将司にも負け無しで、部隊で彼に敵う者はいない。
彼の意外な特技に関しては一先ず置いておこう。
スツール席には二人の人物が腰掛けている。
戦闘服に身を包み、盃とグラスを傾けているのは第一歩兵小隊長の中尉と砲兵小隊長の少尉だ。
「フゥ…やっぱり、マッコリが一番だな」
「…良く呑めますねぇ…。乳酸菌飲料にアルコールぶち込んだような味しかしないのに」
「…ンッ…ンッ…フゥ…。お陰で腸は健康だ」
中尉は盃を乾かすと、テーブルに置いた酒瓶を軽く振って白濁とした液体を盃へ嬉々と注いでいく。
その様子を見て、少尉は僅かに顔を顰めてしまう。
バーテンダーである隊員も中尉の呑みっぷりにやや引いた眼をしつつグラスを磨きながら、箸で切り分けた肴のチヂミを口へ放り込み、それをマッコリで流し込む彼を眺めていた。
第一歩兵小隊長の中尉は韓国出身の傭兵であり、元々は大韓民国陸軍特殊戦司令部隷下の特殊作戦旅団に所属していた経歴を持っている。特殊部隊崩れの隊員の中では最高位の階級なので“特殊作戦分隊”の分隊長も兼任している人物だ。
「ちゃ〜っす。…ありゃりゃ…小隊長が二人も…」
「よぉ一曹。お前も呑みに来たのか?」
「あ〜はい。隣り大丈夫ですか?」
「あぁ」
「んじゃ…失礼します」
新しい客、一曹と呼ばれた彼は中尉の隣へ腰掛け、バーテンダーに焼酎と干し貝柱を注文する。
階級は一等軍曹なのだが、このように呼称されているのは彼がかつて所属していた軍隊の階級を呼ばせているからだ。
…はたして“軍隊”と呼んで良いモノか微妙な組織だが…。
彼は元日本国陸上自衛隊の中央即応集団隷下 特殊作戦群に所属していた。
つまりは和樹や将司と同じ日本人である。
まだ二十代で最終階級一等陸曹だったのは、中学卒業後に高等工科学校に入校し、卒業後はトントン拍子に昇進していった為だ。
当然ながら、レンジャーと空挺の訓練課程を修了している猛者。
もっと判り易く言えば、素手で簡単に人を殺せる技量を持っている訳だ。
そんな彼が何故、折角、入れた特殊作戦群を辞し、あまつさえ自衛隊を退官したのか。
理由は…『精神的に病んだため』とでも言っておこう。
そういう部隊だから、と言ってしまえばそれまでなのだが…。
「そんで…二人でなに話してたんすか?」
「いや…。中尉は良くマッコリなんか呑めるなぁ、って話してたんだ」
「おい、マッコリを馬鹿にするな。こいつはな…身体に“一応”は優しい酒なんだぞ。乳酸菌と食物繊維が豊富でな。確かに韓国では安酒のイメージがあったが…俺から言わせれば、美味ければ安い高いは関係ない!!」
「いや…馬鹿にした訳では…。おい一曹、なんとかしろって!!お前ん所の小隊長だろ!?」
「いや、そうですけど…」
少し酔いが回ってきたのか熱く語る中尉に引きつつ、少尉は焼酎が入ったグラスを傾ける一曹を自分達の会話へ介入させようとするが、彼は言葉を曖昧にして誤魔化した。
誰だって巻き込まれるのは御免被りたい。
ふと一曹は何かを思い出したのかグラスから口を離した。
「あぁ。そういえば和樹さんが来てましたよ」
「だからな−………隊長が?」
「はっ…こんな時間に?」
「えぇ。なんか髪切りに来たみたいです」
この部隊で和樹と将司を本名で呼んでいるのは、この一曹の他は数名だけ。
おそらく日本人同士のよしみ、とでも言うヤツだろう。
「散髪ねぇ…。この前、切ったばかりじゃなかったか?」
「この前って言っても一ヶ月も前の事ですし。…いや…にしては周期が早いな…」
和樹の髪型はスポーツ刈りなので、頭髪は短い。
これは、ほぼ全ての隊員がそうだ。
短髪にする理由はいくつかある。
まず、衛生面。
戦場では洗髪も満足に行えず、時間が経つとフケやシラミが出てくる事がある。
それを少しでも軽減する為、髪を短くする事が挙げられる。
そして、戦闘時に敵兵に髪を掴まれないため。
これは説明しなくてもお分かりになるだろう。
まぁ正規軍の場合は単純に結束を高める為などの理由から入隊時に髪を刈られるのだが…。
「…やっぱ“アレ”かなぁ…」
「一曹、アレってのは?」
グラスをテーブルへ置いた一曹が意味ありげに呟くと、耳聡く聞き付けた中尉が尋ねる。
「いや…。俺がまだ日本に居た頃に流行ってた噂話なんですけど…」
「噂話?」
「えぇ。なんでも髪が伸びるの早い人間は……」
「…人間は?」
「エロい、らしいです。髪だけじゃなくて、爪が伸びるのが早い奴もそうなんだ〜って」
「「……なんだそりゃ?」」
「俺も良く判りませんって。…確か…ホルモンが活性化するから〜だとか流れてましたね」
自分がまだ国に居た頃に流行っていた話をするが、聴衆である二人には意味が良く判らず首を傾げている様子だ。
しかもカウンターの中でバーテンダーをしている隊員までもが同じ様子である。
「…まぁその…“伸びるのが早い奴はエロい”と仮定したとして……隊長ってエロいか?…副長はともかく」
少尉の評価を聞く限り、彼は“将司はエロい”というそれを下している事が判るだろう。
何気に容赦ない。
「…エロい…のかなぁ?…将司さんはともかく」
「…良く判らんな…。副長はともかく」
「…兵長は?」
「うぇ!?ここで俺を指名しますか!?」
訂正しよう。
将司の評価は全員、何気に酷い。
そんな中、少尉がカウンターの中でグラスを磨いていた兵長に考えを聞きたかったのか指名した。
「……あ〜確かに、大尉は…エロいですけど…少佐も結構…まぁその…」
「…オープンかムッツリかの違いだけって事か?」
「はい……」
『……確かに』
話題の人物達も含めた全員が自分の上官の為、兵長は控えめに答えたが、それは的を射ていたようだ。
ここで、はっきりさせておこう。
将司はオープンスケベ、和樹はムッツリスケベである(by作者)。
「…まぁあの人も結構……ヤッてるよな?」
「えぇ。…和樹さんも大概ですよね?」
「こっちに来てからは行ってないみたいですけど…」
「そういや一曹。お前、この前の外泊の時、行ったんだよな?」
「えぇ行きましたけど」
『…どうだったん(ですか)だ!?』
凄い食い付きようである。
この場にいる全員が一曹へ詰め寄り、兵長でさえグラスを放り出している。
「どっどうって……。まぁ将司さんの紹介だけあって凄かったですよ。接待と…サービスも」
「副長…どんだけ顔が広いんだよ!?俺も行きてぇ!!」
「てか早く抽選で選ばれてぇ!!」
「「アンタら二人とも申告してたんかい!!」」
仮にも士官なのに、まさかのカミングアウトである。
立場上、中々、外泊が出来ないのは二人も理解しているのだが、人間である以上“色々”と溜まるのは仕方ない。
俸給は充分に−それこそ、かつての世界でそれぞれが国軍に勤務していた時の俸給が馬鹿らしく思えるほどのそれを貰っているので資金面は問題ない。
問題なのは時間のみである。
「って、副長の紹介で行ったんだろ?高くなかったか?」
「いや…そんなには…。金額は……大体、新品のアサルトライフルが買えるくらいですかね」
「お前、変な換算の仕方するなぁ…。新品ね……それって…AK系統か?」
「いえ、M-16とかのシリーズですね」
『……高ッ!!』
「それに各種アクセサリーも装着したバージョンだと思ってくれれば良いです」
『…………!?』
一曹の報告に指折って金額を数えていた三人が息を飲んだ。
たった一回の“遊び”にしては、かなりの高額である。
「ハハッ…今月は…もう遊べねぇや…ハハハ」
さめざめと語る一曹に、中尉は同情してか肩を軽く叩いて慰めると、兵長に視線を向けてアイコンタクトする。
それに彼は頷き、カウンターの下から分厚い帳簿を取り出すと、一曹の飲食代金の項目を見付け出し、この場の代金を中尉の払いとした。
その帳簿を仕舞った兵長がバーに伝染しかけている暗い雰囲気を払拭するため、なんとか話題を変えようと必死で思案する。
「…あっあ〜…そういや中尉って部隊でも古株ですよ…ね?」
「あっあぁ。確かにそうだが…それがどうした?」
慰める作業に没頭していた中尉が声を掛けてきた兵長へ視線を向けた。
ちなみに一曹はテーブルに突っ伏し、今度は少尉が彼の背中を叩いている。
「ほら俺って、最後の方にこの部隊へ入ったじゃないですか。それで気になってた事があるんですけど…」
「気になってたこと?」
「えぇ。…この部隊って前の世界で何処かの国から金銭的援助を受けてた訳じゃないですよね?」
「あぁ。この部隊は隊長と副長の運営。資金も二人が出し合って結成したらしい」
「それが納得出来ないんですよ」
「…何が…あぁそういう事か」
兵長の疑問に気付いた中尉は、マッコリの入った盃をテーブルへ置くと代わりに銀色のシガレットケースから手巻き煙草を取り出してジッポで火を点けた。
「…ほぼ個人で運営する傭兵部隊が、どうやったらあそこまで武器や兵器を揃えられたのか…って事だろ?」
「あっはい…」
彼等が通常使用する自動小銃はAK-74。折り畳みストックのバージョンや発展型のAKS-74Uなどもあるが、いくら他のアサルトライフルに比べて安価とはいえ百挺以上の小銃、更に銃弾を揃えるとなると金額は馬鹿にならない。
無論、紛争地域などによって友軍勢力が銃器、弾薬を貸し出す場合もあったが、ほとんどは自腹を切っていた。
加えて、ヘリ、戦車、迫撃砲などの兵器や地雷、爆弾、etc…。
正規軍部隊と錯覚してしまうほどの装備を揃えるだけの資金。
その出所が気になる所だ。
「…隊長達がどうやって資金を稼いでいたか知ってるか?」
「へ?…そりゃ…隊長ってビリヤードのアマチュア大会とかで優勝してましたし、その賞金を資金にしてたんじゃ…」
兵長の言葉に中尉は思わず笑い出してしまう。
笑い過ぎで眼に溜まった涙を拭うと、まだ消えない笑いを噛み殺しつつ兵長へ向き直る。
「いや済まん。確かに…隊長と副長はオフの期間中、大会とかで荒稼ぎしてたけどな…。あぁ…語弊があった。稼いでいたのか、じゃなくて“稼いだ”だな」
両切りのキツい煙草を吸い込み、紫煙を吐き出した彼は灰皿へ溜まった灰を落とすと、兵長の眼を見詰め、ゆっくりと口を開く−−
「−−えぇ!!?」
「…驚くのは構わんが…気を付けろ。噛んだぞ」
「えっ!?あっ済みません!!」
理容室−という名のテントの中では当然ながら散髪が行われていた。
緑色のケープに包まれた客は部隊長の和樹。
先程の苦言は隊員が彼の髪を刈っていた手動バリカンの刃が髪に噛んだからである。
代名詞ともいえる煩わしい痛みで、彼の顔が軽く歪んでいた。
まだ興奮状態は抜けないが、隊員は気を取り直して再び和樹の頭を刈り始める。
「…えっと…少佐?」
「あん、なんだ?」
「それが資金源っていうのは…」
どうやら、ここでもバーと同じ話題になっていたらしい。
パラパラと眼前を自分の髪が落ちていくのを眺めながら和樹は、にべも無く答える。
「本当だ」
「でっですが“金塊”です−あぁ済みません!!」
また手元が狂ってしまった事に気付いた隊員が慌てて謝罪するが、かなり物騒な単語が聞こえた。
「きっ金塊って…アレですよね!?大量の金を溶かして固めた延べ棒で、英語ではGold ingotのアレですよね!?」
「…他にはGold nugget、Nugget of goldでも表記されるな」
「いや別にそんな豆知識は要らんです!!」
「そうか?」
必要な知識だと思うが、と和樹は思いながら散髪を受ける。
「えっと…差し支えがなければですけど…何処で手に入れたんですか?」
「南米」
「なるほど南米ですか…南米…って、まさか遺跡で盗掘したんじゃ!!?」
「誰がそんな事するか」
「でっですよね−」
「…まぁ盗掘には違いないか…」
「えぇ!!?」
またまた物騒極まりない発言が隊員の耳を打つ。
まさか敬愛する−この人の為なら命を賭けられると思っていた人物が犯罪紛いの行為をしていたとは、と隊員の心中は穏やかではない。
「古代遺跡から持ち出した訳じゃない。見付けたのは仕事中だ」
「…仕事中?」
「駆け出しの頃−といっても22の終わり頃か。その時に富豪の身辺護衛の仕事があってな。それで南米に」
「はっはぁ…」
「その富豪というのが不動産や建築で財を築いた奴だった。ある日、解体中の…ビルだったかの建物の視察に同行したんだ。夜中だったかな…建物の周辺警備をしてほしい、と頼まれて俺が見回ってたんだが…その時に見付けちまったんだ」
「見付けちまったって…」
「夜中で作業員は居ない、しかも警備員は極僅か。他の警備員達の交代時間を見計らって、近くの空き家の庭へ埋めて隠した」
「…そんなに多くは無かったんですか?」
「いや、全部で10本、重量は…1本で10kgはあったか」
「えっと……ひゃ100kg!?」
金塊の総重量約100kg。
とんでもない落とし物だ。
良い子なら交番へ届けるだろうが、生憎と発見者は悪い子だった訳だ。
「仕事が終わった後、相棒と庭を掘り返して、それを小分けで運び出したら裏取引で換金。その現金をマネーロンダリングして…スイスの銀行に預けた」
「スイスの!?…えっ…て事は…」
「あぁ。口座を持ってた」
「…………」
過去形なのは仕方ないが、それでも…とんでもない話である。
「…あの…金額はどれぐらいになった〜って事は恐くて聞けないんですけど…。その金塊、一体、何処の、誰が持ち主だったんですか?」
「あん?…あぁ話すのを忘れてたな。“亡霊”だよ」
「……亡霊……?」
「判らんか?なら、もっと判り易く…。“伍長”“第三帝国”“ハーケンクロイツ”」
「…………………え?」
和樹の出したヒントから叩き出された結論に隊員の身体が硬直した。
それを強靭な精神力によって立ち直ると、彼は何事もなかったかのように座っている和樹へ解答を求める。
「えっと……それって…ナチスですよね?」
「あぁ、そうだな。実際、金塊にもハーケンクロイツが刻印されてた」
「……マジですか?」
「あぁ。お陰で箔が付いたし、高純度だったからな…かなりの金額になった」
事実、第二次大戦末期に差し掛かり、ドイツの敗戦色が濃くなってくると一部のナチス高官は第三帝国再生に必要な資金を掻き集め、ベルリン陥落と時を同じくして国外に逃亡したという記録が残っている。
和樹が口座を開いていたスイスの銀行にもナチスが預けた一部の資金が眠っているという話まである。
また南米の国営銀行でもナチスが預けたとされる膨大な量の紙幣や金貨などが発見された。
和樹と将司が発見した金塊とは、世界中に分散されたナチスの財宝の一部なのだろう。
「その富豪って…まさか…」
「いや。調べてみたが、出生は終戦後、両親もな。祖父母も地元の出身だった」
「そっそうですか……」
身体が震えている隊員は手元が狂わないよう注意しながら、手動バリカンで頭髪を刈る作業を再開した。
『……マジですか?』
「あぁ。隊長と副長から聞いた話だ」
再びバーに戻る。
和樹と将司から直々に聞いた話を、くれぐれも内密に、と前置きをして喋った中尉は短くなった煙草を灰皿へ押し潰す。
「…いやでも…俄には信じられないですよ…」
「…だがな…副長はともかく…隊長だぞ?」
『……………』
なんともいえない説得力があった。
これが真実なのか、それとも虚実なのか……その判断は貴方に任せよう。
「“ヘルシング”の少佐繋がりだな〜」
この後書きを書いている最中に気付きましたWW
大戦中の埋蔵金や財宝の伝説って、多いですよね。