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え〜結構、急いで書き上げたのでクオリティには目を瞑って下さい。
アニメを観た方は、判るキャラが登場。
現在、俺と相棒、そして華雄は建業城のとある一室に通され、椅子に腰掛けていた。
「……ウゥ〜〜」
「……大丈夫か?」
顔を顰め、長机の板を向いて呻く彼女の様子は……どう見てもアレだ。
「…悪い。あまり喋らないでくれ…響く…」
「…………」
「ククッ…自業自得だな、華雄将軍?」
「煩ッ−−痛ゥゥゥ」
相棒のからかいに抗議しかけた華雄が、頭を押さえて一際大きい呻き声をあげた。
典型的な二日酔いだ。
いくら俺が医療知識に疎くても、これぐらいは判る。
「…何故、お前達だけ…」
「「体質と場数」」
「喋る−ッ!?…ウゥ…!」
殆ど反射的に異口同音で答えてしまったのが悪かったのだろう。
華雄は頭を抱えて机に押し付けてしまった。
それにしても…昨夜は散々だった。
あの後、時を同じくして警備隊と一個分隊が華雄の屋敷に到着し、当然ながら前者からは事情聴取を受けた。
たった一人の生き残りは虫の息だが、喋る事は可能だ。
今頃は…この城の牢屋が並ぶフロアの何処かで、曹長、興覇殿、幼平殿の取り調べ…という名の拷問を受けている事だろう。
可哀想に。
机上に置いた軍帽を手に取って弄んでいると、部屋の扉が開いた。
それを机に戻し、入室して来た人物達を視認した瞬間、立ち上がって礼をする。
「待たせてごめんなさい。…大丈夫だった?」
「えぇ、特には。…屋敷の門以外は、ですが」
俺の言葉に苦笑した伯符殿が座るよう手で指示した。
それに従い、俺達は再び、椅子に腰掛ける。
入室して来たのは、三人。
伯符殿、公瑾殿、そして……顔も名前も知らぬ、黒髪と白髪が混ざり、若干アフロで顎髭を生やした老人だ。
「それについては、祭殿が修理費を出してくれるそうだ」
「そ〜そ〜。“あそこまで見事に壊すとは”って祭が苦笑いしてたわよ〜」
「…申し訳ない」
「ちなみに破壊した主な原因はコイツです。それと…華雄にはあまり話し掛けないで頂きたい。酷い二日酔いなので」
華雄を挟んで向こう側に座る相棒が俺と彼女を指差して軽口を言った。
それに釣られてか彼女達が僅かにと苦笑する。
咳払いすると、心持ち姿勢を正す。
「失礼ですが…そちらの御方は?」
「あぁ。三人ともお会いした事は無かったな。こちらは張昭殿。先代の孫堅様の頃より仕える重臣だ」
「お初にお目にかかる。張昭、字は子布だ。宜しく頼むぞ」
「はっ。こちらこそ」
「宜しくお願いいたす」
「…こちらも…ウゥ…」
…華雄はどうにかならんモノだろうか。
張昭−史実においては呉の孫策と孫権に仕えた人物なのは確かだが…こっちでは孫堅の時代から仕えているらしい。
彼は赤壁の戦いの折、曹操へ降伏するよう孫権に献策したが、周瑜の主戦論によって一蹴されている。
もっとも、彼が居なければ、孫呉が繁栄していく上での政治は出来なかっただろうし、その功績を考えれば優秀な人物である事は間違いない。
ただ、主君である孫権との不仲は有名なのだが…。
「さて…今回の件だが、この事は口外しないようにしてもらいたい」
「当然ですな。仮にも呉の将軍が襲われた。そんな事が噂になれば風聞にも影響が出る。…対処は?」
「問題ない。夜中だった上、付近の官吏達は城に。轟音や悲鳴を聞いた者には捕物と説明しておいた」
「それは重畳」
「目撃者についても…問題なし。我々と細作以外は付近に姿はおろか、気配もなかった」
「これらに関しては大丈夫のようだな」
取り敢えずは…一安心と言った所だろう。
「では、本題に移ろう。…お主達、誰かに恨まれるような事は?」
「「………」」
子布殿に尋ねられるが…二人揃って黙ってしまう。
それに彼は首を傾げているようだが…察してもらいたい。
「…恨みなぞ、掃いて捨てるほど買っていますので、人物の特定は難しいでしょう」
「加えれば…連中の動きは素人に毛が生えたようなモノだった。何処かの勢力が放った細作だとは考え難い」
「そうか…。それと……済まぬ」
「いえ。気にしてはおりません」
事情を察す事が出来なかったのを謝罪したのか子布殿は軽く頭を下げた。
傭兵なんて仕事は人に恨まれる為にあるようなモンだ。
向こうでも、こちらでも変わりはない。
こちらに来て、俺達が殺傷した人間は…おそらくだが万を越えているだろう。
それを考えれば、誰かに恨みを抱かれる、というのも理解できる。
だが、それを鼻で笑ってしまう自分がいるのは…仕方ない事だろう。
「…あの生き残りが白状すれば良いのだが…」
「ふむ。…まぁ素人同然ですので案外、簡単に吐くかと思いますが」
進捗状況を聞く為、コートのポケットからトランシーバーを取り出して回線を開く。
「ん?それは?」
「遠くの人間と話をする為の道具です。少し失礼。…曹長、応答しろ」
イヤホンもマイクも着いていない状態だが、今回は丁度良いだろう。
取り調べを行っている筈の曹長を呼び出すと、トランシーバーから雑音と共に少し機械的な声が聞こえてくる。
<こちら曹長。無線が使えて良かった>
「なっ声が!!?」
「お爺、落ち着いて。こういう物だって理解しちゃえば、びっくりしないから」
「はっはぁ。しかし孫策様、そのお爺というのは止めて頂きたいのですが…」
「別に良いじゃない♪昔っから、そう呼んでたでしょ?」
「そう呼んでいたのは、お前だけだ」
「え〜?祭なんか“張昭の爺”って呼んでるじゃない」
<…あ〜。そっちは賑やかみたいですね>
トランシーバーに驚く子布殿を伯符殿が宥め、それが発展し今度は彼の呼称についての話題となってしまった。
それが聞こえているのかトランシーバーの向こうで曹長が苦笑する。
「気にするな。現状報告を」
<いましがた、吐きました。ちょうど報告しようとしてたので。…オイ、もう一度だ>
<…ウゥ…痛ェ…痛ェぉ…>
男の涙声と苦痛を訴える声が共にトランシーバーから流れてくる。
それと同時に大きなノイズ−銃声だろう、それが響いた。
<アァア゛ぁァぁ゛ぁ!!?>
<お情けで両耳だけは残してやろうと思ったんだが…。もう一度、雇い主の名前。大きくな>
どうやら片耳を拳銃で吹き飛ばしたらしい。
曹長の零した言葉を深読みすれば…生き残りの身体はイモムシ状態になっているようだ。
可哀想に…まぁ予想通りではあるが。
<わがっだ!…なんでも喋る…だから、もう止めて…ッ>
男のクセに情けない声を出すな、と教育的指導をしてやりたくなるが…我慢しよう。
苦痛で途切れ途切れの声だが、トランシーバーの向こうにいる男の口から雇い主−というのも憚られる名前が次々に出てきた。
雇い主は複数…その中には…まぁ予想通りと言える名前も。
<れっ連中は…戦好きの孫策を見限って…曹操の所に仕官するつもりだった!孫家の内情と韓甲、呂猛、両将軍の死を手土産に…!!>
対面にいる三人の柳眉が僅かにつり上がった。
しかし…なんとも陳腐なストーリーだ。
これでは、二時間ドラマも作れそうにない。
「首謀者は文官…それも老臣達…」
「調査通りの結果ですな。…確たる証拠が無かった為に手を打てなんだが…これで大義名分が出来た」
「えぇ。和樹、将司」
名前を呼ばれ、間髪入れずに立ち上がり直立不動の姿勢を取る。
「命を下す。首謀者、その悉くを…皆殺しにしなさい」
「「はっ!!」」
「幸いな事に今夜、奴等が集まる所がある。黒狼隊の精鋭を城へ集めてくれ」
「了解。大尉」
「はっ!」
相棒へ命令を下すと、彼はコートからトランシーバーを取り出して駐屯地に連絡を入れる。
召集するのは特戦分隊(特殊作戦分隊)−かつての国軍で特殊部隊に在籍していた連中だけを集め、こういった場合にのみ臨時編成する部隊だ。
<隊長。特戦を召集ですか?>
手に持つトランシーバーの向こうから曹長が尋ねてくる。
彼も、あの分隊の構成員だ。
「そうだ。一旦、駐屯地へ戻って準備をして来い」
<了解。…ところで、コイツは?>
更なる質問の解答を得る為、伯符殿へ視線を向ければ、彼女は……確かに頷いた。
「始末しろ」
<了解>
<なっ!?はっ話が−−−>
銃声と共に男の声が途切れた。
薬莢が石畳の上に落ちた金属音が静かに響く。
微かに銃口から硝煙が昇るSIG SAUER P220 TBを曹長はホルスターに収め、排莢された薬莢を拾い上げてポケットに放り込んだ。
<ブリーフィングは2000時からだ。遅れるなよ>
「了解。over」
<out>
通信が終わると彼はトランシーバーを弾帯へ戻し、少し荒れた心を静める為、スチール製のシガレットケースを開き、愛飲の両切り煙草であるGITANES MAISを取り出し、ジッポで火を点けた。
「やはり…老臣共か…」
「…それよりも…曹長さん…容赦ないです…」
「…そうですか?」
拷問に付き合った思春と明命の反応はそれぞれだが、曹長はまるで何事も無かったかのように振る舞い、吸い込んだ紫煙を彼女達がいる方向とは別の場所へ吐き出した。
「見慣れているでしょうに」
「…それはそうだが…」
「…これはあまりにも…」
二人の言動に彼は首を傾げる。
もはや物言わぬ骸となった男は、残念ながら人間の形をしていない。
曹長の拷問は昔とった杵柄、というやつだ。
対象者が正直に吐かなかった場合は、まず手足の指の爪が一枚ずつ剥がされる。
それでも駄目ならば、今度は手足の指が一本ずつ切り落とされ、それでも駄目ならば、次は手首足首を切り落とすか眼球を抉る。
段々と身体が切り刻まれていき、あまりの痛みで気絶する事が出来ない。
終いには、胴体だけになってしまう。
それでも吐かないならば…使いたくないが自白剤を服用させるしかないとか。
拷問台にくくりつけられた男の胴体に巻かれた拘束具は首と胴体のみ。
他は全て曹長が切り落としてしまい、その部位は床に転がっている。
ちなみにだが、彼は自白剤をあまり使用したくないらしい。
なんでも、薬剤による自白は信憑性に欠ける、だからだとか。
ポケットからハンカチを取り出した曹長は手に付着した血を拭いつつ口を開く。
「処理はそちらにお任せします。自分は準備がありますので」
「あぁ判った」
「…でもどうやって…」
「切り刻んで野犬の餌にするなり、地面へ埋めるなり、焼いた後、骨を粉々に砕いて捨てるなり、色々あります。とにかく、後始末は任せますので」
そう言い捨てると彼は紫煙を燻らせながら独房を出て行った。
「…思春殿。これだけバラバラにする必要はあったんでしょうか?」
「判らん。…だが…」
「…どうしました?」
「…久しぶりに鳥肌がたった」
「…私もです」
華雄の屋敷は祭さんの所有物件でした。
ちなみに皆の徐哉君は無事です、というか屋敷に優秀な護衛達がいるので当然ですが。