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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第三部:徒然なる日々
41/145

徐哉君の、とある一日



いつの間にやらPV100万を突破!!



今回は、癒し系キャラ(?)の徐哉君にスポットが当たります。





寅の正刻(0400時)




「…フワァァァ」


う〜ん……眠いよ〜。


しょぼつく眼を擦って、寝台から起き上がると僕は寝間着から普段着へ着替えます。



あっ、僕、姓は徐、名は哉と申します。字と真名はありません。


色々あって僕はこの建業に流れ着き、色々あって旦那様…和樹様の屋敷の使用人をやってます。


後々になって知りましたが旦那様は孫呉の将軍様なんです。


本人は“俺は傭兵だ”なんて言ってますが、紛れも無く将軍様。


そんな方の屋敷で使用人をする事になると知った時は…心の臓が止まるかと思いました。



でもでも、命を助けて頂いた恩義は一生懸けてお返しするつもりでいるのです。


「…うん!!」


今日も頑張ります!!


気合いを入れて寝室を出ます。


朝一番にやるのは旦那様の愛馬である黒馗と僕が連れて来た犬の萌々の餌やりです。


黒馗には飼葉と井戸から汲んだ水をそれぞれの餌桶に入れてあげています。


その次に萌々です。


旅の途中では萌々に僕の食べ物を分けてあげてましたが、嬉しい事に旦那様が犬専用の餌を持ってきてくれました。


なんでも“どっくふぅど”とか言うらしい物なんですが、袋の中に茶色の小さい粒々がたくさん入っていて、それが餌なんだとか。


萌々はこれが大好きになり、餌を持っていくだけで尻尾をブンブンと振り回すぐらいです。



廊下を進んで縁側に着くと、敷石に置いた草履をつっかけました。


…あれ…旦那様の草履が無くなってる…。


うん…もう起きてらっしゃるようです。


旦那様はいつも使用人の僕なんかより早起きなんです。


たぶん…この時間なら…


「116…117…118…119…」


居らっしゃいました。


今日も朝早くから鍛錬をしてらっしゃいます。


旦那様は庭に生えている木の枝に片手だけで掴まり、片手だけで身体を持ち上げたり、下げたりしています。


旦那様曰く“かたうでけんすい”というらしいです。


…もうとにかく凄いとしか言えませんね。


身体を持ち上げる度、左腕に浮き上がる筋肉、背中に見える背筋。折り曲げて腰の後ろにやっている右腕には力こぶ。


そして身体中に走る古傷の数々。


傭兵って仕事は大変なんだなぁ、と思ってしまいます。


現在は将軍様なんですけど。


「旦那様、おはようございます!!」


失礼がないよう元気一杯に挨拶します。


「120…あぁ、おはよう」


気付いた旦那様は僕の方にこそ顔を向けられませんでしたが、挨拶はちゃんとしてくれました。


すると旦那様は掴んでいる腕を交換して、また鍛錬に戻ります。


「1…2…3…4…」


旦那様の日課が早朝鍛錬なのは屋敷に住まわせて頂いてから知りましたが……凄いです。


僕もいつか、旦那様みたいな男の人に…!!


そして万が一、旦那様の身に危険が及ぶ時には…僕が盾となり旦那様をお守りするのです!!


…強くない僕にはそれが精一杯ですから。


旦那様にお暇が出来たら、護身術や剣術を教えてもらいたいなぁ…。


そんな事を考えながら、汗を拭く為の手拭いと手桶に水を張って縁側に置きました。



大きな桶に井戸から汲んだ水を一杯入れて、両手で持ちながら厩舎へ近付きます。


ウウッ…重い…!!


庭の隅にある厩舎に着くと、入口に茶色と黒の毛並みをした愛犬の萌々が寝転がっています。


何故か萌々は何時も黒馗の側にいるのです。


旦那様が登城する時はもちろん違いますけど。


「萌々」


声を掛けると萌々は跳び起き、僕に駆け寄ってくると肩に両脚を乗せて顔をペロペロと舐めだしました。


萌々は僕よりも身体が大きいので、知らない人からすると襲われているように見えるみたいです。


まぁ…それほど違いはないんですが。


そして、現在の僕の状況を考えると……


「もっ萌々、重い重いから退いて!!」


-クゥ〜ン-


残念そうに鼻を鳴らしますが、いつもこんな風にじゃれつかれるのは勘弁です。


水を零してしまいますからね。


水皿に持って来た水を入れて、それを萌々の前に差し出せばペロペロと舐め始め…飲み始め…?


とっとにかく喉が渇いていたのか嬉しそうです。


厩舎の中に入ると柵の向こうから大きくて黒い塊が僕に近付いてきます。


これが旦那様の愛馬である黒馗です。


「おはよう黒馗」


-ブルルッ-


“応、おはよう”とでも言うように嘶きました。


水桶に持って来た水を全て入れると黒馗は首を突っ込んでグビグビと飲み始めます。


これだけでは足りないので、もっと持って汲んで来ないと駄目なんですが…それは後回し。


飼葉である切り刻んだ藁と、飼料の乾燥させたオオムギ、エンバク、トウモロコシを餌桶に放り込みました。


旦那様はオオムギ、エンバク、トウモロコシを見て“なんであるんだ?”と不思議そうに首を傾げていらっしゃいました。


なんで、と言われても…普通にあるから仕方ないですよねぇ。


家畜の餌にもなりますし、人間にも食べられる穀物ですから。


…もしかすると旦那様が噂になっている“天の御遣い”だからですかね?


…それを聞いた時、腰が抜ける所か、気絶しましたけど。


まぁ“天の御遣い”がなんなのかは知りませんが、とにかく凄いという事は判ります。


ですが旦那様にその事を言うと、途端に苦い顔をしてしまうので、あまり言わないようにしているのですが。


誰にでも嫌な事はありますしね。


-ブルルッ!!-


「えっ…あっごめん!!」


気付けば水桶は空っぽ。


黒馗が“さっさと水を汲んできやがれ”とでも言うように激しく嘶きました。



慌てて井戸から水を汲んで来ては……。


-ブルルッ!!-


また井戸から水を汲んで来ては……。


-ブルルッ!!-


またまた井戸から水を汲んで……


-ブルルッ!!-


またまたまた水を………毎日の事ですが…大変な作業です。






「旦那様〜朝餉が出来ましたよ〜!!」


「…あぁ」


黒馗と萌々への餌やりが終わり、急いで朝餉の支度を済ませて旦那様をお呼びしました。


急いで、とはいっても半刻(約一時間)は掛かるんですが…。


いつも旦那様は手伝おうとしてくれますが、そんな事はさせられません!!


これは使用人である僕の仕事なんですから!!


「済まん。遅れた」


いえいえ、そんな事はありませんよ旦那様。


「旦那様は毎日、精が出ますね」


「いつもやっておかんと、体の調子が悪くてな」


そういいながら旦那様は汗を拭くために、はだけた寝間着を正すと、朝餉を運んだ座敷の上座へ胡坐をかいて座ります。


当然ながら僕は下座です。


…本当なら使用人である僕が同席なんか出来る訳がないのですが…旦那様曰く『一緒に食った方が早い』とのこと。


…確かにそうなんですが…とても将軍様の言葉とは思えません。


あっ良い意味でですよ!!



旦那様が箸を掴んで軽く一礼して食べ始めたのを確認してから、僕もご飯に箸をつけます。



え〜今日の朝餉の献立は…白米のご飯に、鶏ガラで出汁を取って溶き卵を混ぜた湯、おかずに川魚を焼いたのとカブの漬物となっています。


さて…旦那様の反応は……


「………ズズッ…」


…ひっ表情が読めない…って何時もの事でしたね…。


湯を啜る時ぐらいしか音を出さないので、もの凄く綺麗な食べ方、そしてお手本みたいな姿勢ですが……個人的には感想を頂きたいんですよ…。


そんな感じで黙々と食べ続けて………完食。


ちなみに旦那様の魚は…頭や骨も残っていません…お皿が綺麗すぎます。


僕もほぼ同時に食べ終わり、旦那様が箸を置いて一礼してから、膳を重ねて片付け座敷を後にしようとすると…


「…徐哉」


「はっはい!!」


急に呼び止められました。


旦那様は湯呑みに鉄瓶で沸かしたお茶を注いで一口啜ります。


「…とても美味かった」


「あっありがとうございます!!」


うわ〜〜い♪


旦那様に誉められた〜!!!


意気揚々と洗い場に膳を運ぶ途中で鼻歌まじりに歩いてしまうのは…仕方ないですよね…フフッ。










食事の一切が終わると今度は掃除と庭掃き、そして畑への水撒きです。



今日も旦那様はお城でお仕事があるそうで、朝餉が終わると直ぐに登城の準備をなさっています。廊下を雑巾掛けしていると…いらっしゃいました。


いままで見た事もない服ですが、黒くて立派な服に被り物。いかにも“偉い人”みたいな雰囲気を醸し出しています。


お部屋から出てくる間際に、黒くて長い外套へ袖を通し、これから玄関で革で作った靴をお履きになるのです。


それに遅れぬよう台所へ行き、お弁当を取ると、草履を突っ掛けて厩舎へ直行します。



既に旦那様は厩舎から黒馗を出して、馬具を取り付けていらっしゃいました。


全ての取り付け具合を確かめた旦那様が門へ向かいます。


それに着いて行き、門の直前で止まった旦那様にお弁当が入った包みを差し出して、閂を外すと開門します。


門の外へ黒馗を引き連れて出た旦那様へ頭をおもいっきり下げて挨拶です。


「行ってらっしゃいませ!!」


「あぁ。行ってくる」


そう言って旦那様は黒馗に跨がり、お城へ向かわれました。


その姿が見えなくなるまで、僕はもう一度、旦那様に向かって深々と礼するのでした。









「……終わり!!」


屋敷の掃除、庭掃き、畑への水撒き、そして厩舎の掃除にお洗濯が終わりました。



気付けば…太陽が天頂から西向きになっています。


…日差しも良いですし…夕方には洗濯物も乾くでしょう。


さて…あとは…


「お買い物だな」


うん、お買い物です。


夕餉は何にしましょうか…。


「…まぁ行ってみてからだね」


うん、悩んだらまずは行ってみてから考えよう。


旦那様と僕しか知らない場所からお金を持ってきてお財布へ入れると、籠を持って外に出ます。


え〜っと…萌々は…いた。


また縁側近くの敷石で昼寝しています。


「萌々」


呼ぶと、萌々が飛び起きて僕に向かい走って…またぁぁ!!?


「もっ萌々!!ちょやめ!!」


-クゥゥン-


顔をベロベロ舐めて、尻尾をブンブンと振り回す萌々をなんとか引き剥がしますが、また向かってきます。


ですが……


「萌々、お座り!!!」


命令すれば…ほら、この通り従います。


ちゃんと仔犬の頃に躾けておいて正解でした…。


「お買い物に行ってくるから、お留守番を頼んだよ。判った?」


-ワンッ!!-


良い返事に満足し、尻尾を振る萌々の頭を撫でると、籠を背負ってお買い物へ出掛けました。








建業の市場はいつも賑やかです。


流石は揚州最大級の都とでも言いましょうか。


何時も此処で商品を広げている顔見知りの方もいれば、色んな所から来る行商人さんもいらっしゃいます。


とにかく色んな食材が並んでいるのです。



さて…今日のおかずは…。


「おや、徐哉ちゃんじゃないか」


声を掛けてきたのは猟師のおじさんです。


この人は猟で仕留めた獣を捌いて、その肉を市場で売って生計を立てているのだとか。


「こんにちは、おじさん。何かお買い得な物はある?」


「いつも偉いね〜。流石は韓甲将軍の屋敷の使用人さんだ」


「いや…使用人といっても僕だけなんですけどね…」


「尚更、凄いじゃないか。あぁ…そういえば、この前の演習の話を聞いたかい?」


演習って……あぁ、この前、旦那様が、かなり朝早く出掛けて行った時の事ですね。


「いえ…演習の事は何も旦那様から聞いてません。…もしかして負けちゃったんですか?」


「いやいや、その逆さ。圧勝だよ圧勝!!孫呉の主力、それも孫策様や妹の孫権様、宿将の黄蓋様に軍師の周瑜様が敵役で、圧倒的不利なのに韓甲様、呂猛様、それに華雄様が率いる軍が勝ったんだってよ!!もう国中がこれで持ちきりさ!!」


えっ…えぇぇぇぇ!!?


旦那様、そんなこと一言も!!


しかも演習の相手が、とんでもなく有名…というか呉にいる人間なら知らない者はいない程の方々ばかりなのに…。


「いったい…どうやって勝ったんでしょうか…」


「いや…それが判らねぇんだよ。でも…それだけ強いなら、孫呉の行く末は安泰だ!!よ〜し、今日は特別に…この鹿肉をやるぜ!!」


「ありがとうございます。えっと…お代は」


「いや要らねぇよ。演習とはいえ戦勝祝いだ。韓甲様に振る舞ってやりな!!」


「ありがとうございます!!」










「〜〜〜♪」


気分良く鼻歌を歌いながら家路に向かってます。


今日のお買い物は安く済みました。


と言っても…顔見知りの店主さん達に“旦那様の戦勝祝い”という事で、ほとんど食材を無料で譲って頂いたんですけど。


まぁ、どれも新鮮ですし、大儲けですね!!




おっと屋敷が見えて来ました。



さて…帰ったら、干した洗濯物の乾き具合を見て、夕餉の支度を…。


「隊長〜いませんか〜!?哉坊でも良いぞ〜!!」


「…いないみたいだな…って、こら萌々!!ハウスハウス!!!」


…誰か居る…?


そ〜っと、開けられている門の陰から庭を覗くと…良かった見知った人です。


「こんにちは、中尉さんに軍曹さん」


「おっ、いたいた。なんだ哉坊、買い物に行ってたのか?」


「さっ哉坊!!萌々、なんとかしてくれ!!ハウスハウス!!!」


-ワンワン!!!-


「だぁぁ!!!引っ付いてくんなぁぁぁ!!!」


庭にいたのは、旦那様の部下である、中尉さんと軍曹さんでした。


萌々は遊んで欲しいのか、中尉さんに飛び付いています。


…はうす、ってどういう意味なんですかね?


まぁ、それはそうと


「萌々、お座りお座り」


-…クゥゥン-


寂しそうに鼻を鳴らして萌々が中尉さんから離れました。


「わっ悪い…。犬は嫌いじゃないんだが…萌々みたいにデカい犬に飛び掛かられると昔のトラウマが…」


「虎馬?…どんな動物なんですか?」


「…中尉、これ突っ込んだ方が良いですかね?」


「…気にしたら負けだぞ。あ〜ところで哉坊。隊長は居ないのか?」


哉坊とは僕の事です。


名が哉で、まだ坊主だから哉坊。


う〜ん…阿哉って呼ばれてたんですが、こっちはこっちで…。


「旦那様はお城に行かれましたが…何か御用でも?」


「大した事じゃねぇんだけどな。警邏に駆り出された帰りに良い酒を貰ったから、隊長にもお裾分けしようかな〜と思って」


軍曹さんは持っている通徳利を掲げてみせました。


お酒は旦那様も良くお呑みになりますからね。


「ありがとうございます。ちょっと徳利を持ってきますから、待って下さい!」


「おう。早くしてくれよ」


駆け出すと、台所へ通じる扉を開けて食材の入った籠を隅に置き、棚から徳利と漏斗を持ってから外に出ました。


「じゃあ、これにお願いします!!」


「…足りんのかなぁ…?」


「隊長って、かなりの大酒呑みだが…まぁ限度は考えるか」


「つぅか…あの人が酔っ払ったの見た事あります?」


「…ねぇな。まぁ良い」


なんだか色々と聞き捨てならない会話を聞いた気がしますが…お二人はトクトクと徳利へ漏斗を使ってお酒を注いでくれました。


「…良し、満杯。じゃあ、隊長が帰ってきたら宜しく言っておいてくれや」


「判りました!!」


「さぁて、次は副長ん所か…」


「じゃあな哉坊。…副長、居るかなぁ…」


どうやらお次は呂猛様のお屋敷へ行かれるようです。


お二人を見送って台所に戻り、徳利を卓の上に置きました。


さて…洗濯物を取り込んで畳んだ後は…夕餉の準備ですね。










…うん完成!!


夕餉の献立は、白米に、帆立の乾物で出汁を取って刻んだ野菜を入れた湯、おかずに鹿肉を油で焼いて少しの塩をふった物と白菜の浅漬けです。


…う〜ん、放浪生活をやっていた頃に比べたら、天と地ほどの差がある食事ですよね。


ただ、将軍様に出す食事に相応しいだろうかと考えてしまいます。



……んっ?この音は……開門の音!!?


って、もう夕方!?しかも少し暗くなってる!!?


旦那様がお帰りになったようです!!



菜箸を置いて、外へ駆け出すと、旦那様が黒馗の手綱を引いて庭を歩いておられました。


「お帰りなさいませ!!」


「……ただいま。今、帰った」


手綱を受け取ると、旦那様は手際良く馬具を取り外し、黒馗を厩舎に入れました。


「餌と水を頼む」


「はい、判りました」


旦那様は履き物を脱がれる為、玄関に向かって歩き始めます。


これからお着替えをなさるのです。


…僕の方は朝の繰り返しと、萌々と黒馗へ餌をやらなければなりませんが。










食事も終わって…あっ旦那様にまた誉められてしまいました…エヘヘ…。


とっとにかく、夕餉の一切も終わったので、手桶に鉄瓶で沸かしたお湯を桶へ入れて旦那様のお部屋へ持って行きます。


「旦那様、お湯をお持ちしました!」


「あぁ済まんな」


障子張りの扉が横に滑り、旦那様が顔をお出しになりました。


お湯の入った桶を渡すと旦那様が中に戻られます。


それを確認して、僕もお部屋へ入ると、旦那様は寝間着を脱いで上半身裸になりました。


「いつも通り、背中だけで良い」


「判りました」


お湯に手拭いを浸して絞ると、寝台に座った旦那様の背中をゴシゴシと擦ります。


これが…また大変なんですよ。


旦那様の背中って広くて、しかも筋肉の鎧みたいな身体をしていらっしゃるので並大抵の力で擦っても駄目なのです。



…いつも少しだけムキになってしまうのは…仕方ないですよね。



それにしても…どんな戦場を渡り歩けば、こんなに傷だらけになるのでしょう…?


あちこちに刺されたような傷や…何かが掠めたような傷…この円いのは…矢傷かな?


ですが、それよりも目を引くのは、左腕にある刺青です。


ちょっと複雑な意匠ですが狼らしいです。


旦那様の字が狼牙だからですかね?



そんな事を考えながら背中を擦り続け…やっと終わりました。


「はい、終わりました」


「済まん。どれ…たまには俺もしてやるか」


「はい?」


「…だから、たまにはお前の背中でも洗ってやるかと言ってるんだ」


「は?…いやいやいやいや!!そんな恐れ多い!!!」


「良いから、さっさと上着を脱げ」


「はっはい!!」


なっなんだか旦那様の声がいつもより低かったです!!


逆らっては駄目だと本能的に感じてしまい、素直に上着を脱いで背中を向けます。


「どっどうぞ。…あの…優しくして下さい…」


「…お前は女か…?」


「…はい?」


「いや…なんでもない。戯れ言だ」


旦那様…僕は男なんですが、どうして女と?


「始めるぞ」


「あっはい、お願いしま…痛たたたっ!!?」


「おっ済まん。強すぎたか?」


かっ皮が破れるかと思いましたよ!!


もっと優しく……あぁ今度はちょうど良いです…。


「このぐらいで良いか?」


「あっはい、大丈夫です」


そう答えると旦那様は僕の背中を擦って下さいました。



…こうして人に背中を洗ってもらうのも…久しぶりな気がします。


父上が生きていた頃は良く洗いっこをしましたが、両親が亡くなってからは…。


涙が滲んできましたが、それを手の甲で拭います。


「…痛かったか?」


「いっいえ、平気です。ちょっと埃が目に入っただけですので」


「…そうか。なら良い」


その後は互いに無言でした。


旦那様が僕の背中を洗い終わると礼を言い、桶を持ってお部屋を出て行こうとした時…忘れていた事を思い出しました。


「旦那様。中尉さんと軍曹さんが、旦那様に、と頂いたお酒があるのですが…如何します?」


「アイツらが?…そうだな…呑むとしよう。縁側に置いてくれ。片付けは俺がするから、お前は休んで構わん」


「縁側にですね。判りました。肴も御用意しますので、良ければどうぞ」


「頼む」


「はい。では、お休みなさいませ」


「あぁ」


挨拶をしてお部屋を出ると台所から外へ出て、畑へ向かい、お湯を捨てました。


桶を片付けると、盆に棚から取り出したお酒の入っている徳利と盃、そしてお皿に盛り付けた乾物を載せて、それを縁側へ置きました。



自分の寝室へ戻り、着替えを済ませると、寝台へ潜り込みました。



…だんだんと瞼が重くなって……。


今日も色々とあったな…明日も頑張ら…な…いと……。









和樹と徐哉の関係は、松下之綱(松下嘉兵衛)と豊臣秀吉のそれと似ている…かも。




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