02
むぅ…原作キャラとの掛け合いは難しい。
…そして霞の関西弁が変な事に…ご容赦のほどを。
「−という訳なんよ」
「…成る程」
俺と相棒は現在、死臭が漂う戦場後で二人の人物と対峙している。
一人は先程、名乗った華雄。
銀髪のセミロングでスレンダーなスタイルと少し吊り上がった双眸が特徴。
もう一人は、騎都尉の官職に就いている張遼文遠。
紫色の長髪を後ろで束ね、胸はサラシで巻かれており、その上に外套を羽織って下は袴状の物を履いている。そして何故か判らんが関西弁を操っている。
…取り敢えず言いたいのは…何故に有名な武将が女性、しかも美人なんだ!?
そしてアンタら、ちゃんとした格好しろ。
二人ともヘソ出しだし…張遼に至っては一見、痴女にしか見えん。
双方とも武器は置いているらしく素手。
まぁこっちも丸腰だが。
…いきなりで少し混乱しているが、俺達をスカウトしたいらしい。
それも董卓軍の指揮下に、だ。
董卓といえば三国志と三国志演義の双方において悪の代名詞的存在だ。
まぁ若い頃はそうでも無かった−むしろ善政を敷いていたのだが晩年は悪政が目立っている。
権力が人を狂わせたという所だろう。
ここまでは俺が知る史実でのこと。
重要なのは…二人の話を聞く限りでは、董卓(こっちも少女だったが)が悪政を敷く気配が微塵もないこと。
そして、つい最近まで監禁され監視下に置かれていたのだそうだ。
…そんなの史実にあったか?
ん…待てよ…今までの話を総合して考えると…。
漢王朝第十二代皇帝、霊帝が死亡。
それを切っ掛けに大将軍何進と、十常侍の確執からの混乱が始まる。
霊帝後継者たる少帝弁が暗殺され、何進が十常侍に暗殺され、十常侍が袁紹に暗殺され、十常侍筆頭の張讓が董卓に暗殺される。
血を血で洗う暗殺劇。
その結果、劉協という皇太子が献帝に祭り上げられ、そのどさくさに紛れ実権を握った、とされるのが董卓。
…袁紹を盟主とした反董卓連合が結成される筈じゃないか。
「どうしたん頭なんか抱えて?」
「いや…なぁ?」
「あぁ…まぁ」
「おかしな奴らだな」
華雄殿…そうは言うが貴女も俺達と同じ境遇に陥れば同様の反応をするぞ。
「あ−、ひとつ聞かせて頂いても宜しいか?」
「なんや?」
「孫堅文台殿は…まだ存命しているかな?」
この時期なら豫州刺史に領しているはずなんだが。
反董卓連合において孫堅が率いた軍団は勇猛果敢で知られたからな。
少し興味がある。
「知らんかったのか。孫堅なら襄陽の劉表との戦で戦死しとるで」
「ふん…」
「なんや華雄、まだ根に持っとるんか?」
「大きなお世話だ!!」
眼前でのコントを無視して俺は隣にいる将司と顔を見合わせた。
孫堅が死んでいる!?
いったいどういう事だ。
彼…といって良いのか判らんが、とにかく孫堅が亡くなったのは反董卓連合の董卓討伐以降の事だ。
…あぁ史実と“微妙”と食い違うってのはこういう事かよ。
「ったくこんがらがって来た…」
「なんか言ったかいな?」
「いえ…気になさらず」
「それで仕官の話はどうする?」
はっ?
「仕官?」
「兵の募集をやっていたのでは?」
彼女達は洛陽周辺で兵士を募った帰りなのだという。
その途中で俺達を見付けたのだとか。
…って、あんなに離れてるのにどうやって…。
「募ってたのは事実なんやけどな。自分ら…実は結構、腕に自信があるんとちゃう?」
「「…滅相もない」」
「…その間はなんだいったい」
そんじょそこらの賊には負ける気はしないし、各地を転戦してきた身だ。
欲目…かもしれないが、腕は多少は立つとは…思う…たぶん。
「…我々が傭兵だと言うのは話しましたよね?」
「あぁ聞いた」
「傭兵を雇いたいなら、それなりの金子を貰わないとならない。その辺はいかがか?」
そう返すと張遼殿は顎に手を遣って唸り始める。
「う〜ん…ウチらの財政は厳しいんねんな。…せやけどアンタらを見逃すってのもなぁ…」
…何やら葛藤が巻き起こっているらしい。
「ところで…えっと…」
「韓甲です。…さっき名乗ったでしょうに」
「ちなみにお…私は呂猛。お見知りおきを」
「あぁ済まない。この黄巾の残党どもなのだが」
足元に倒れている死体達に華雄殿が視線を向けた。
「…皆、一撃で殺られているな。これは全て貴様達が?」
「えぇ、それが?」
「兵力差があるようだが…どれほどあったんだ?」
「約三倍かと。向こうは…オイ、何人いた!?」
将司が死体の検分をしていた部下に呼び掛ける。
「117名です、全員の死亡を確認!」
「だそうです。こちらは我等を合わせて32名、正確な数です」
「へぇ…三倍の兵力差をどうやって補ったんや?」
思考の海に溺れていた筈の張遼殿が反応して会話に参加してきた。
「…まず遠距離から矢を射かけて敵の員数を減らし機先を制する。その後、白兵に持ち込んで殲滅しただけですが?」
「戦の基本やな。…なんでそのまま矢で攻撃を続けなかったん?」
一定の理解は得たようだが疑問が残ったらしい。
質問の解答は相棒に任せると彼は溜息を零した。
「平地と言えど隠れる場所は岩の陰、地面の窪み、極論を言えば死んだ仲間を盾にすれば良いだけですからね。それに射かけた時点で向こうには、こっちの位置と大まかな兵力はバレてしまうので、ジリ貧に戦うより速く決着をつけたかったので」
「“兵は拙速を尊ぶ”ですよ」
なにげなくそう返したら美しい顔を驚愕の表情にして二人は俺を見た。
「アンタ…本当に傭兵なんかいな?」
「はっ?」
「今のは孫子の兵法だぞ!?」
あぁ…こっちにも孫子兵法はあるのか。
現代の戦術のほとんどは孫子を基本にしていると言って良い。
…あれ…これってマズいんじゃ…?
「どっかの勢力で将でもしてたんか?」
「いやいや…まさか」
「それにしては貴様の兵達は随分と統率されているぞ?」
「…ですから流浪の旅をしてる、ただの傭兵集団ですって」
懐疑的な視線を向けてくる二人に俺達は冷汗がダラダラだ。
…これって…地雷でも踏んだか?
あぁ…お二方、そんなに見詰めないでくれ。
まぁ美人に見詰められるのは嫌じゃないが…。
「よっしゃ、金は詠…やない賈駆っちに絶対に出させるわ!せやから着いて来てぇな!」
賈駆って…世渡り上手で何回も主君を変えた人だった気がするな。
確か…董卓の下に仕えていた時は校尉を務めていたか。
いや…それよりも。
「はぁ?」
「せやから!金は絶対、ずぇぇったい払う!」
「いやいや、そういう事ではなくて」
「貴様も董卓様の人となりを見れば諸手を挙げて仕えたくなる筈だ!」
…この人達、話を聞く気が全くねぇ。
一体全体、どうすりゃ良いんだ?
というか…もしかして俺のせいか?
将司…何を真面目顔で頷いてやがる。
俺か、俺が悪いのか?
『隊長、副長!!』
何やら聞き覚えのある多数の声。
両腕を左右から掴まれているが無理矢理、首を捻って声がした方向に視線を向けた。
「こんな美人達の頼みを断るなんて男が廃るぜ!!」
「美人やなんて…いややわぁ///」
「びっ美人だと、何を馬鹿な///」
華雄殿…そんなに顔を紅くしては説得力に欠けますよ。
「それに久しぶりの仕事だ、腕がなるぜ!!」
…お前達、つい一ヶ月前に戦死したの忘れたのか?
「という訳で隊長、副長…」
『行きましょう!!』
…なんで全員が完全武装で来てるんだ?
こんな展開で行きます。
こんな風に進めたって良いじゃない。
だって
『外史ですから(キリッ』