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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第三部:徒然なる日々
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29



攻城戦を期待した方…今の内にごめんなさい!!










「少佐。敵軍の旗が倒れました。落城のようです」


「…確認した。各員へ通達、状況終了」


「了解。状況終了!状況終了!!」


「二等軍曹」


「はっ」


「撤収準備に掛かれ。興覇殿が治安維持部隊を残して撤収を始め次第、我々も建業へ帰還する」


「了解。…にしても呆気なかった」


「…あぁ」


二等軍曹は呟き俺に軽く敬礼すると騎乗する馬の手綱を操り去って行った。


確かに…彼の言う通りだ。


もっとも、予想通りに動くと思ったからこそ携行食糧は四日分だったのだが。


建業を昨日出発し、豪族が立て篭もる本城に到着したのは今朝。


興覇殿が率いる部隊と合流し、作戦を立てて攻撃を開始。



カールグスタフM3-84mm無反動砲を所持した部下を射程距離まで前進させ城門へHEDP 502弾を撃ち込み破壊。



間髪入れず、城壁にヘリ部隊を投入し、弓兵をあらかた潰してヘリボーン。


黒狼隊が城壁の残敵掃討へ掛かっている隙に甘寧隊と華雄隊が城内へ進攻し、遂に落城。



…大筋は寿春城攻略時の作戦だが、短期決戦に持ち込むなら、この時代においては有効な手段ではある。


しかし向こうが討って出てきたとしたら…こっちも苦戦しただろう。


敵軍が篭城を選んだのは幸いだった。


…攻撃三倍の法則を無視している俺達も大概だろうが。


この法則については疑問点があり協議がされているのは…割愛しよう。



命令伝達が終わり、一息入れようとコートのポケットから煙草とジッポを取り出して火を点けた。



今日は俺の出番はなし。


部下達が、俺の手助けは要らないと言った為だが…実際は自分達が戦いたかっただけだろう。


一種の欲求不満という奴だ。



何はともあれ、我が隊の損害は欠員なしの負傷者数名。


負傷者は矢や剣が掠めただけの奴らだ。



損害らしい損害を受けなかったのは幸いである。


甘寧隊は…正確な数は把握されていないが、戦死約1600名、重軽傷者約2000名、行方不明者約50名だと聞いた。



これは見事な手腕だ。


攻城戦において、損害が甚大となるのは攻撃側と相場が決まっている。


語弊はあるが、損害がそれだけで済んだのは彼女の手腕だろう。


正確に言えば、兵の訓練。


どんなに優れた作戦を立案しようと戦うのは兵士。


それだけの訓練を積ませ、かつ己の血肉とさせたのは、ひとえに彼女の手腕によるものだ。



「隊長、城に旗が揚がりました。…占領です」


「あぁ」


あちこちから黒煙が立ち上る城に孫の旗が掲げられる。


城の所有者が変わった事を知らせる合図。



豪族連中は…おそらく戦死。


これで、揚州一帯は孫呉の支配下となり、伯符殿が思案した地盤固めは一応の成功となる。



まぁ…実際の地盤固めはこれからが重要になってくるのだが。


-ブルルッ-


「…あん、どうした?」騎乗している黒馗が嘶いたと思うと首を横に向けた。


俺もそちらへ視線を向ければ、興覇殿と華雄が馬を駆って近付いてくる。


…小言でも聞くハメになるのだろうか。


溜息と紫煙を吐き出し、吸い終わった煙草を携帯灰皿に放り込んで彼女達が来るのを待つ。


「韓甲殿、改めて助力に感謝する」


「いえ。こちらこそ、一番乗りを奪ってしまい申し訳ない」


犠牲を増やさない為の作戦とはいえ、名誉であろう敵城一番乗りを奪ってしまった事を詫びるが、彼女は無表情で首を横に振る。


「いや気にしていない。何はともあれ、我々の任務は完了した」


「治安維持部隊の編成は?」


「既に終わっている。陣を払い次第、隊伍を整えて建業へ戻ろうと思う」


「了解した。こちらも合わせよう」


簡単な打ち合わせが終わると興覇殿は俺に軽く礼をして、去って行った。


「…華雄、そっちの損害は?」


「戦死が6人、負傷者は58人だ。…随分とやられてしまった」


「お前は?」


「かすり傷で済んだ。黒狼隊は…損害なしのようだな」


「あぁ。…なんとか」


華雄が愛馬を横付けにする。


華雄隊も損害を被った。


…テントが淋しくなるだろう。


「…なぁ韓甲」


「なんだ?」


「指揮官をやっていて辛くなる事はないか?」


「…何故、そんな事を?」


「…聞いてみたかっただけだ」


遠くを−落城した城を眺めている彼女を横目に、ポケットから煙草を取り出して火を点けた。


風は、華雄がいる方向とは逆側に流れている。


「…老けるのが早くなる。それが辛い」


「…私もだ」


「…まだ若いつもりだが、30代に見られるからな」


「…そうだな」


指揮官−特に戦闘指揮官は総じて若年寄りだ。


気苦労やらが積み重なり、顔が老け、白髪や脱毛が増える。


一兵士として戦っていた頃が遥かに楽だった。


だが…それも遠い昔の出来事に思えてならない。


ほんの数年前の筈なのだが…歳は取りたくないモノだ。


どうも歳を食うと昔を懐かしがって仕方ない。


「遺体はどうするんだ?」


「…家族の下へ戻してやる事も叶わんからな。せめて荼毘に付して、骨だけでも埋めてやりたい」


「判った。伍長の隣に埋めてやると良い」


「…感謝する」


微かに彼女が頭を下げるのを視界の端に捉え、肺に吸い込んだ紫煙を吐き出した。


伍長の隣とは、駐屯地の一画にある彼の墓の事だ。


もっとも埋めるべき遺体…骨、髪や爪にいたるまで回収出来なかった為に墓石代わりに突き刺した木杭へ伍長のドッグタグを付けているだけの質素な物だが。


「…薪はあるか?」


「あぁ。甘寧から少し融通して貰った」


「そうか。…少尉」


「はっ!!」


部下を呼ぶと、聞き付けた少尉が馬を駆って近付いてくる。


「遺骨を入れるのに適当な物はあるか?」


「…流石に壷や箱は有りませんが…使った飯盒なら…」


「それで良い、無いよりはマシだ。出来るだけ綺麗にしろ」


「了解」


飯盒を代用にするが…何個も使えば充分だろう。


俺からの命令を伝える為、少尉が隊へ戻っていくのを見送り、携帯灰皿へ煙草を放り込む。


「なにからなにまで…済まない」


「いや。本格的な戦闘は先の戦以来だ。こっちも急がせて済まん」










キャンプファイヤーの如く重ねられた薪の間に鎧や装備を外された華雄隊の兵士が寝かされている。


そこから微かに臭うのは燃料のそれ。燃料を染み込ませた布を巻き付けた木の枝を手に持った華雄が、それを俺が差し出したジッポの火で点す。


ジッポの上蓋を閉じて、それをコートのポケットに捩込む。


「気を付け」


静かに命令すると、整列した部下達が小銃を立て、直立姿勢を取る。


鞘から愛刀を払い、それの峰を肩に当てると、華雄に視線で合図を送る。


頷いた彼女が即席の松明を手に、薪へ近付き、それへ火を移す。


燃料に引火し、薪が燃え上がる。


紅蓮の炎が遺体群を包み、黒煙が天へ昇るのを認めた彼女は静々と元の位置へ戻ってきた。


「戦友達の魂に対し、捧げ…銃!!」


部下達が一斉に、立て銃から捧げ銃へ行動を移す。


それにやや送れて俺も手にした愛刀の切っ先を燃える薪へ向け、不動の視線となる。


すると隣に居る部下が葬送のラッパを吹いた。


重く、長く、何処か悲しげに吹かれる音色に彼方へ撤収準備に追われている甘寧隊の兵士達が気付いたのか、こちらに視線を向けてくる。


そして一際、甲高くラッパが吹かれ、葬送曲が終了した。


「…直れ」


命令すると部下達は素早く、元の姿勢へ戻った。


「全隊、半ば、左向け左」


踵を鳴らして部下達が身体を半分、左へ向ける。


「弔銃用意」


一斉に立て銃から控え銃に移行した部下達が、音を鳴らして小銃の遊庭を操作し、初弾を薬室へ送り込む。


「狙え…撃ェ!!」


仰角に向けて銃爪が引かれ、鎮魂の銃声が一斉射された。


戦場となった野原に朗々と銃声が響き渡る。


「直れ」


構えを解き、再び部下達は立て銃の姿勢を取る。


それを認め、愛刀を鞘に納めると彼等に向き直る。


「以上で終了する。各員、撤収準備に戻れ。解散」


兵士達の肉体が骨になるまでは時間が掛かる。


それまで準備を進めておくよう命令すると、部下達は散って行った。


「…良い葬儀だった」


「そうか?むしろ簡易的だと思うが…」


「死者を葬る時に大切なのは絢爛云々ではない。…そう…相手に対する想い…だと私は考える」


「…中々、良い言葉だ。尊敬に値する」


「そっそうか?」


なにやら顔を紅潮させる彼女を尻目に、再びポケットから煙草を取り出して火を点けた。


「…遺骨集めはそっちに任せるぞ。俺達が出来るのは此処までだ」


「あぁ。任せっきりでは部下達に申し訳がたたんからな」








あれから約二時間。


燃え尽きた薪からは薄く煙があがり、組んだ筈のそれは炭と化して崩れ落ちていた。



その中から華雄と彼女の部下達は骨を集めて、用意した飯盒へ収容している。


時折、完全に処理されなかった炭化した肉が付いたままの骨が見付かるが、それを気持ち悪がる事なく愛おしむように彼等は拾い集めていた。


「少佐殿、撤収準備完了であります」


「…あぁ」


報告に来た部下へそっけなく返し、指に挟んだ煙草の先に溜まった灰を叩き落とすと口へ咥える。


「…連中も辛いでしょうね」


「だろうよ。仲間が散る様は見るに堪えない」


「少佐殿もですか?」


「…あぁ。犠牲を覚悟の上で作戦を立案し、それを実行したとして、予想通りに指揮下の兵士が戦死したとしても…納得したくない。だが、理解し納得せざるを得ない。…指揮官なんてのは、とんでもない貧乏クジだ」


「…ですが、弔ってくれる奴がいるだけで自分は幸せだと思います」


傭兵なら誰しもが目撃する事を示唆しているのだろう。


当然ながら傭兵は正規兵とは違う。


その扱いは雑そのもの。


戦死したとしても、遺族には金銭的援助は当然ない。


そのうえ、死体は戦場に転がったままなんて事が普通の世界だ。


正規兵が戦死し、後送され死体袋に詰められる様をウチの連中は指を咥えて羨望したかもしれん。


「…安心しろ。誰かが生き残っている限り、戦死者は必ず弔ってやる。捧げ銃、弔銃もやってやるよ」


「それは嬉しい限りで。…少佐殿が万が一、戦死した時は大々的に葬儀をやりますので」


紫煙を吐き出すと、携帯灰皿へそれを放り込み、隣で騎乗する部下へ視線を向ける。


「…准尉」


「はっ」


「前の人生では言わなかったが、今の内に言っておこう」


「…は?」


「俺が死んでも葬儀は必要ない。平地、湿原、凍土、砂漠、何処でも良い。俺の死体を捨てろ。その後は後任の指揮官に従え」


「………」


「俺は葬儀をしてもらうに値しない人間だからな」







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