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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第三部:徒然なる日々
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27



突然ですが、新キャラ登場!!



その紹介だけに作った話ですので、ストーリー展開にはあまり意味はありません。







「……あん?」


太陽が西の空へ沈みかけている夕刻。


今日の仕事(デスクワーク)を終えた俺は黒馗に跨がって城を後にした。


そして、たった今、屋敷に着いたのだが……門のすぐ側でうずくまっている二つの物体を目視確認した。


一つは俺の気配に気付き、つぶらな視線を向けたが、また地面にそれを落としてしまう。


「…………」


見なかった事にして、愛馬から降り、手綱を握りつつ待っていると屋敷の門が勝手に開いた。


護衛についている細作が門の開閉を行っているのだ。


手綱を引っ張り、黒馗を誘導し門をくぐると、それが閉まる鈍い音が響いた。






寝台の横−愛刀を抱え、傍らに小銃を置いたまま壁に背中を預けて眠っていたが、急に眼が覚めてしまった。


「……ハァ…」


溜息を零して立ち上がると少し着崩れた寝間着を直し、帯に愛刀二本を差し込む。


それが終わると庭に面した縁側まで足を進め、地面に置かれた一尺程度のいびつな形をした敷石に置いた草履をつっかける。


門に近付き、(かんぬき)を外すと、軽く門を開けて二つの物体を探す。


…相変わらず、うずくまったままだ。


「………入れ」


招き入れる事にしたのは…気まぐれだ。










休暇の日は、決まってやる事がある。


現在、俺はプライベート用の着物へ袖を通し、縁側に座って愛刀の手入れの真っ最中だ。


自分の命を預ける物だ、丁寧に扱って損はない。


銃器の手入れ以上に刀剣のそれは面倒だ。



俺が使っている日本刀でいえば、鞘から払い、目釘を抜き、柄を取り外すと茎を剥き出しにして、鍔 ハバキ、切羽も外す。


こうすると、残ってしまうのは刀身のみ。


日本刀の手入れとは、かい摘まめば、古い油を拭い、新しい油を塗って刀身が錆びるのを防ぐモノだ。



縁側に座り、口に懐紙を咥え、唾が飛ばないようにしつつ一本目の手入れが終わった。


丁子油を含ませた油塗紙を手入れ道具一式が入った箱に収めると、刀身に部品を取り付け、茎を柄に入れると柄頭を軽く手の平で叩き、しっかりと茎を納まらせる。


次いで目釘を打ち、ガタツキがないかを確認して鞘へ納刀。



最後の愛刀−刀身だけになったそれへ手を伸ばすと、手入れ道具から拭い紙を取って、刀身から古い油を拭い去った。


拭い紙を箱へ戻すと、打粉を取って、ムラなく軽く刀身を叩いていき、また拭い紙で拭い去る。


更に打粉を叩いていると、軽い足音が廊下の奥から響いてきた。


「旦那様ぁぁ!!」


声変わりしてない高い声と軽い足音が更に近付いてくる。


「旦那様、お茶が−−」


声を掛けられたが、それを手で制して黙らせると、手入れ作業に戻る。


手早く丁子油を塗り終え、刀身へ部品を取り付け、目釘を打ちガタツキがないかを確認して鞘に納めると懐紙を取って息を吐いた。


「済みません…お手入れをやっているとは思わず」


「いや、構わん。誰にでも失敗はあるからな」


手入れ道具を片付けて、愛刀二本を傍らに置くと、差し出された盆から湯呑を取って中身を啜った。


「…どっどうですか?」


「茶は誰が入れても味は変わらんと思うがな…」


「うっ……」


「冗談だ。美味い」


安心させるように軽く口角を上げてみせると、少年の顔が綻んだ。


この少年の名前は徐哉(じょさい)、字と真名は無く歳は11。


俺の屋敷の前でうずくまっていたのは路銀が底を尽き、腹も減りすぎて動けなくなっていたからだとか。

二日前に招き入れてからというもの、率先して家事などを行っている。


なんでも、行く先々の街で日雇いの仕事をやって路銀を稼いでいたからだとか。


両親は黄巾の動乱で死亡、それ以来、飼っていた犬と共に渡り歩いていたそうだ。



その犬というのは……庭の一角にある木の木陰で居眠りをしているオスのシェパード、名前を萌々(もんもん)。


黒と茶の体毛が特徴の成犬だが…この時代にシェパードが何故…。


まぁ…恋殿もコーギーのセキトを飼っていたから、深くは考えないようにしよう。


「…萌々がどうかしましたか?」


「…いや、名前の由来が気になってな」


「えっと…春に桃の木の下で拾ったからです。その時、桃の花が咲き誇っていたので」


「花萌える、という意味か。…名付けたのは?」


他愛もない話だろうと思って茶を啜るが、徐哉からの返事がない。


「…どうした?」


「名付け親は…母です」


「…そうか不躾だった、許せ。…教養のある母上だったみたいだな」


「はい。…僕が文字の読み書きが出来るのも母のお陰です…」


この時代、庶民の識字率は目も当てられない。


10人いて、1人が文字の読み書きが出来れば良い方…いや、もっとか。


それを考えれば、徐哉が識字が出来るのはひとえに彼の母親のお陰だろう。


湯呑が空になり、それを盆に乗せる。


「美味かった。…ところで…」


「はい?」


「出ていかないのか?」


「…邪魔、でしょうか?」


「質問に質問で返すのはやめてくれ。…まぁ…良い。…目的が見付かったら、いつでも出て行って構わない」


「本当ですか!?ありがとうございます!!精一杯、御奉公させて頂きます!!!」


言うが早いか、盆を持って彼は台所へと駆けて行く。


…転ばないか心配ではあるが。



心を入れ替えて愛刀の一本を手に取ると、それを帯に差し込みつつ立ち上がる。


草履をつっかけて庭の中程まで進むと、鯉口を切り抜刀の構えを取った。


風が出てきて、庭に植えられた木の梢が揺れ動き、葉が舞い散り始めた。


一枚の葉が眼前に来た瞬間、愛刀を抜き放ち、太刀筋を変化させると、そのまま鞘に納める。


計ったかのように葉が四つに割れ、そのまま重力に従い落ちて行った。


切れ味は上々か。


「韓甲様、鍛練中に失礼します」


「どうした?」


突然、背後に現れたのは護衛役である細作の一人。


…まぁ鍛練というほどのモノではないのだが。


「はっ。もう少しで孫策様が参られるようです」


「……ハァ……」


「溜息をつかれますな。…こちらまで滅入ってしまいます」


「悪い。…そうか判った」


報告に礼を言うと細作の姿が消えた。


護衛対象が二人に増えるのは彼等にとって面倒事以外の何物でもないだろう。


「和樹〜居るかしら〜?」


門が叩かれ、その音が響く。


それに反応してか居眠りしていた萌々が身を起こし、俺の側までやってくる。


…徐哉は片付けをやっているからな、俺が出る事にしよう。


門に近付き、閂を外すと軽く開ける。


「ハァイ♪」


「…どうも」


片手を挙げて挨拶するのは伯符殿であるが…彼女も今日は休暇だったろうか。


「お邪魔して良い?」


「どうぞ。…というより元々は孫家の所有物なのですから…」


「今は和樹の屋敷でしょ…あら?」


ふと彼女が視線を下に向けると、そこには萌々が尻尾を振って伯符殿を見上げている。


「可愛いわねぇ♪和樹の犬?」


「いえ…あぁ…そうかもしれませんが…」


「?…変な和樹」


そう言いながら伯符殿は膝を折って萌々の頭を撫でてやると、尻尾を振る速さが増した。


…残像が見えるのは気のせいか?


「名前はなんていうの?」


「萌々です」


「萌々ね。はじめまして萌々♪」


言葉が判るのか萌々が軽く吠える。


「まぁ…どうぞ」


「ありがと。行くよ萌々」


案内する為、先行して歩き出すと後ろを伯符殿と萌々が着いてくる。


縁側に辿り着くと草履を脱いで上がるが、彼女に此処で構わないと言われ、素直に縁側へ腰を下ろした。


刀を傍らに置くと奥へ向かって声を掛ける。


「徐哉」


「あっ、はい旦那様!!」


元気の良い返事と共に軽い足音が廊下を駆けてくる。


「なんでしょう…お客様ですか?」


「あぁ。悪いが茶を二人分、頼む」


「はい、少しお待ち下さい!!」


また奥へ駆けて行く足音が軽やかに響く。


「…あの子は?」


「徐哉と申します」


「ふぅん。…使用人?」


「…どうなんでしょうね。使用人を雇った覚えは…」


「和樹も将軍なんだから従兵とか使用人の一人くらい居ても不思議じゃないんだけどなぁ」


「そういうモノですか?」


「そういうモノ。…天の世界には無かったの?」


「ごく一部の裕福な家庭ぐらいでしょうね。従兵も高級将校にしかつかなかったですし」


「でも、和樹って傭兵だけど部隊率いてるし、それなりに偉いんじゃないの?」


「…まぁ、参戦したとある国の軍で少佐という階級を貰いましたからね。そこそこは…偉いかと」


「その、しょうさ、ってどのくらい偉いの?いまいち判らないんだけど…」


そう言われると…説明し難いな…。


「…ひとつの作戦単位を任せられるくらいは偉いですかね。部隊も一個中隊…場合によっては大隊を率いる事が出来る」


「…普通に偉いじゃない。それでも将軍じゃないの?」


「向こうでは将軍と呼称されるのは将官級の軍人だけですよ」


「将官級?」


「大将、中将、少将、国によっては准将もありますが」


「ふぅん…細かいうえに色々と面倒臭いのね」


それには同意しよう。


階級によって率いる部隊の規模や兵種が違うなんてのはザラにある事で、士官学校の成績によっても変わるという事もあった。


…俺の場合は士官学校になんて通わず、戦績や取得資格が考慮され陸軍少佐になったようなモノだ。


まぁ傭兵が少佐なんて有り得ない話だろうが。


「お待たせしました!!」


軽い足音が廊下の奥から響き、徐哉が二つの湯呑を盆に乗せてやってくる。


「伯符殿に茶を」


「はいっ!……えっ…伯符…?」


彼女の字を言った途端、徐哉の表情が固まり、差し出した湯呑みが途中で止まってしまう。


「自己紹介がまだだったわね。私は孫策、字は伯符よ。よろしくね徐哉♪」


今度こそ徐哉の表情が真っ青となる。


慌てて湯呑みを廊下に置くと、そのまま後退って頭を床板へ押し付けてしまう。


「しっ知らなかった事とはいえ、大変な御無礼を!!てっ手前は徐哉と申します!!」


「あ〜そんな堅っ苦しくならなくて良いから。もっと楽にしてよ。ホラホラ、頭あげて」


「しっしかし…」


なおも渋る彼をみて、伯符殿が困ったように俺へ視線を向ける。


「和樹、なんとかしてよ〜。この子の主人なんでしょ?」


「いえ、そういう訳では…」


「はっきりしないわね…。徐哉?」


「はっはい!!」


「和樹は…貴方の主人で良いの?」


「はい!!旦那様には命を助けて頂いた恩義があります故、誠心誠意、御仕えしている次第です!!」


「だそうよ?」


徐哉…お前が熱弁を振るったお陰で、伯符殿がドヤ顔で俺を見てるぞ。


それに、お前を使用人の類いに雇った覚えはない。


……だが…まぁ、家事の一切をやってくれるなら…雇っても良いか…。


「で、どうするの?」


「…徐哉」


「はっはい!!?」


「頭をあげてやれ。でないと、この御仁は煩くて仕方ない」


「ブーブー!!なによそれぇ」


「おや、間違っていましたか?」


「…なんか最近、和樹ってば冥琳に似てきたなぁ…」


「だっ旦那様…国主様に向かって…」


「あ〜良いの良いの。子供がそんなの気にしちゃダメよ」


「はっはぁ…」


そんなやり取りをしているうちに、いつの間にか徐哉の頭があがっている。


それに気付いた伯符殿が僅かに表情を緩ませた。


「お茶ね、頂くわ。ズズッ…うん美味しい♪」


「あっありがとうございます!!」


礼をする為、盛大に頭を下げた徐哉が残った湯呑を俺に差し出すが、それに首を振る。


「えっ…旦那様が呑むんじゃ…?」


「さっき呑んだからな。そいつは、お前のだ」


「えぇっ!!?ででですが、孫策様の御前ですよ!!?それに旦那様の前でなんて…」


「気にしない気にしない♪あっ…そうだ♪」


悪戯を思い付いた子供のような表情で伯符殿が徐哉に手招きをする。


怪訝な表情で徐哉は俺と彼女を交互に見るが、それに頷いてみせると彼は立ち上がり近付いていく。


「えっと…なんでしょうか?」


「ふふふっ…えい♪」


「へっ−ひゃあぁぁあ!!?」


近付いた徐哉をいきなり伯符殿が抱きすくめ、間髪入れずに膝へ乗せてしまう。


「そそそっ孫策様!!?///」


「ちょうど良い大きさだったからつい。小蓮が小さい頃を思い出すわ〜♪」


つい、って…抱き枕じゃあるまいし。


彼女の豊満な胸の谷間に頭がおさまっている為、徐哉の顔は真っ赤だ。


徐哉め…11歳にして、大多数の男にとって永遠の夢を体感したか…。


これで彼は大人の階段を二段飛ばしで昇った事だろう。


「あら、顔真っ赤にして…可愛いわねぇ♪柔らかいでしょ?」


「あっはい…じゃなくて!!」


「初々しい反応ねぇ♪お姉さん嬉しいわ♪」


「うぅ…旦那様ぁ!!」


「諦めろ」


そう宣告して、彼に湯呑を差し出すと、相変わらず顔を真っ赤にしてそれを受け取った。



…せっかくの休暇なのに、こうも乱痴気騒ぎになるとは…。



この場に相棒がいない事をこれほど悔やんだ事はない。









…徐哉め…ムカつく!!


これが子供の特権か…!!




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