黒狼隊極秘会議
う〜ん…途中から何を書いているかが…。
時刻は2122時。
夜の帳が下りた時間帯に孫呉が本拠地である建業の郊外に光が灯る場所が。
近付いて見れば、その場所が、この時代に不釣り合いな施設である事が判るだろう。
灯っているのは発電機で発生した電気を使用して、周囲の警戒に使われる探照灯。
それが設置された見張り台には黒狼隊の隊員が当直に当たっている。
「こちら東見張り台。定時報告をする、異常なし」
<西見張り台より東へ。こっちも異常なし>
「了解、西。静かな夜だ」
<まったく。…テントの中は騒がしいけどな>
「俺も参加したかったぜ…」
<こちら北。東、それは言わない約束だ>
<南より東へ。俺も北に同意だ。…はずれクジを引いたのが運の尽きだと思いな>
「東より各見張り台へ。…悪かった。当直明けまで3時間ぐらいだ。それまで我慢しよう」
通信を切って定時報告を済ませると隊員は、部隊の宿舎となっているテントの一基へ視線を向ける。
その中からは時折、歓声や怒号が聞こえ、興奮の坩堝となっているのが判る事だろう。
「…俺も参加したかったぜ…」
再びそう呟いた隊員は小銃を背負い直すと当直に集中した。
「…次はこれだ」
全部で8基あるテントのひとつの内部。
スライドの前に陣取った黒狼隊の副長を務める将司がノートパソコンの前に座っている部下に指示を出す。
部下がそれを操作すると、とあるデータが繋がっているプロジェクタへと送信され、組み立て式のスクリーンにそれが写った。
「周泰ちゃんの画像、題名は“モフモフですぅ〜!”だ!!!」
『フオォォォォォ!!!!』
スクリーンに写ったのは明命が子猫を抱き、恍惚の表情で頬擦りをしている画像。
それに集まった黒狼隊の隊員達−よく見れば華雄隊の兵士もいるが−から歓声があがる。
この画像を撮影したのは何を隠そう副長殿である。
実は彼、こっそりと様々な場所で呉の武将達(女性限定)を隠し撮りしていたのだ。
もはや犯罪である。
だが、彼の名誉を守る為にひとつだけ言っておくが…流石に“恥ずかしい”、“ポロリ系”等々のそれは撮影していないのであしからず。
「チックショ−!!副長、アンタは凄いぜ、男だ!!!」
「もう一生着いていきます、覚悟しといて下さい!!」
部下達や華雄隊の兵士達からの拍手喝采に将司は鼻高々である。
ふと、ここで疑問に思う事がある。
将司を始めとした、和樹、華雄の三人には監視が名目の護衛である細作がついているのでは、という事だ。
そんな中で、護衛対象である将司が駐屯地でこんなマネをして大丈夫なのだろうか。
「…あぁ…周泰様が…!!」
「あんなに真面目な周泰様が…こんな可愛らしい顔を…!!?」
どうやら問題ないらしい。
将司の隣には漆黒の隠密服に身を包んだ細作だろう人物二人が当然のように控えていた。
顔を覆う布のお陰で表情は見えないが、声音を察するにおそらくは恍惚のそれとなっているのだろう。
彼の手腕(写真による買収)によって彼等は大体の事は見逃すうえ、上層部にも報告はしない。
報告すれば最後。
写真は没収され、二度と手に入れる事は出来なくなるか、それともお役御免のいずれかになってしまうからだ。
「彼女の表情を言葉にするのは簡単だ。だが…どんな美辞麗句をもってしても…つまるところは一言だけ…」
『可愛い!!!』
まさに異口同音。
テントの中に野太い歓声が響き渡った。
「よし…では次だ…っと、その前に誰か煙草くれ」
『えぇぇぇぇ!!?』
良い所で、と言わんばかりに男達が不満を口にする。
「誰でも良いから早く寄越せ」
とても人に頼む態度ではないが、隊員の一人がポケットから取り出した紙ケースを彼に放り投げた。
「おっと…どうも二等軍曹」
「礼は良いですから早く見せて下さい」
その言葉に苦笑した将司はノートパソコンの前にいる部下に指示を出し、受け取った煙草に火を点けた瞬間、その味に顔をしかめてしまう。
紫煙を吐き出しつつラベルを確認するとGUDANG GARAMと書かれている。
吸い口の甘ったるさが気に食わないのだろう。
心中で不味いと愚痴を零すと、スクリーンに新しい画像が写った。
『ウオォォォォォ!!!?』
「…あ〜、お次は華雄か。題名は…つけてなかったな」
貰った煙草でテンションが下がってきた将司とは逆に隊員達のテンションは上がりまくっている。
「寝顔可愛い〜!!」
「…まさか…華雄の姐御が…」
「将軍…なんという…!!」
画像は穏やかな表情で机に顔を突っ伏しているが、それを横にしたまま居眠りをしている華雄のそれだ。
おそらくは執務中に撮影したのだろう。
「…はいは〜い。んじゃ次ね」
もはやテンションの下がり具合がノンストップ状態になっている将司が新たに指示を出す。
そして新たに写った画像に
『ッ!!?』
幾人もの隊員達が息を飲んだ。
それは祭の画像である。
調練中の様子を撮影した物であるが、大股で歩いている為、深いスリットの中身が見えそうな際どい画像であり、もはや反則ともいえる巨乳が揺れる瞬間を見事におさめていたのだ。
将司のシャッタースピードは一体どれほど早いのだろう。
「…あ〜とまぁ、こんな感じのなんだが…お前ら、なに前屈みになってやがる」
数人の隊員達が、訳ありげに前屈みとなっているのに気付いた将司が問い掛けると彼等は視線を背けた。
「…テントの中でテント張ってどうすんだ…」
「副長…言わないで下さい…」
「…色々と終わっちゃいますから」
「……なにが?」
訳が判らない、とばかりに将司は首を傾げる。
だが勇気ある発言をした隊員には惜しみない拍手を送りたい。
この作品はとても上品…(以下略。
「…さて…ここまで色々と鑑賞してきたが…本題に移ろう」
居住まいを正した将司がテントに所狭しと集まった隊員達に視線を向ける。
「今回--第三回極秘会議の議題は“少佐がいったい誰を最初に陥落させるか”についてだ」
陥落という言葉が何を指すかは…おそらくお判りになる事だろう。
「…隊長は恋愛に無関心だからな。自分から動くなんて事はないと思う」
「あぁ同感。…ただ…なぁ?」
「…だよなぁ」
一斉に黒狼隊の隊員達が溜息を吐き出すと、これまた一斉に口を開いた。
『無自覚の女誑し!!』
自分達の隊長なのに随分な言い草だ。
しかし…間違いではない所か、120点の満点である。
もはや彼等の隊長の無自覚な女誑しっぷりは公認らしい。
「加えて…あの超鈍感」
「どうやったら、あんな人間になんのか…」
「いやいや…皆さん、言い過ぎなのでは…」
『…………』
「えっ!?いやちょっ!?」
反論しようとしたのか華雄隊の兵士が声をあげた瞬間、黒狼隊の隊員達が一斉に彼へ視線を向けた。
「いや…だって…なぁ?」
「あぁ。…副長は良いんだよ。それに比べて…隊長は…」
「そっそんなに…!?」
和樹の鈍感&無自覚の女誑しっぷりを否応なく見てきた隊員達は言葉を濁すが、それを察した華雄隊兵士達は生唾を飲み込む。
「そういや大尉」
「ん?」
「少佐って恋愛経験あるんですか?」
一人の隊員に問い掛けられた為に将司は記憶の糸を辿る。
「…俺が知る限りは…ねぇな」
「…んじゃ初心?」
「うんにゃ。…あの性格だぞ?」
『…確かに』
好意を寄せられても気付かない、好意を打ち明けられてもそれに応えない、という事だろう。
「それにアイツだって人間なんだから欲求は、たまに発散させてる」
「あぁ…。だから向こうでも、たまに単独行動を」
「そういうこと」
なんの欲求なのかは察して頂けると嬉しい。
「…聞いた話だと…相手は腰抜けるらしい、どんな百戦錬磨のコでも」
『………!!?』
男にとっては嬉しい限りの話である。
「あ〜それ判るかも。だって隊長のアレ、でっかいし」
「そういや…。前にどっかの基地でシャワールームを使った事あったじゃん。そこで見たんだけど…思わず二度見しちまった…」
「…50口径も真っ青って事だろうな」
「……クシッ」
くしゃみをした男性が一人。
ここは建業の一角にある屋敷の庭に面した廊下の縁。
彼は鼻を啜ると、夜空に浮かぶ月を眺めつつボトルを傾けた。
月見の月齢には少し早いかも知れないが、この男性が気にするとは思えない。
普段、彼が着ている軍服や戦闘服とは違い、今はプライベートな時間の為か着物風の寝間着に袖を通して廊下の縁に腰掛けている。
直飲みしているボトルのラベルにはバカルディと書かれている所を見ると、それをストレートで呑んでいる事が判るだろう。
アルコール度数40度のそれをだ。
既に彼の周りには空となったボトルが数本転がっており、未開封のボトルも直に胃袋へと流し込まれる事だろう。
彼はアルコールの臭気に染まった息を吐き出し、寝間着の袖から盃を三つ取り出して床に並べると、奥の部屋の天井に向かって声を掛ける。
「…済まないが、少し付き合ってくれ」
「…それじゃ、今回の議題については次回への持ち越しって事で」
『へ〜い』
「んで…今日の写真なんだが…」
「俺、黄蓋姉さんのを!!」
「同じく黄蓋さんの!!!」
「ふっ…周泰ちゃんのを二枚!!」
『……ハァ!!?』
「鑑賞用と保管用さ!!」
たった今、明命の写真を二枚注文した隊員は真性のアレだろう。
こうして各々の夜は更けていったのだった。
次回をこうご期待!!(たぶん続きません)