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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第二部:契約へ
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21




あ〜〜〜。


済みません、超・遅くなりました……。








「黒狼隊指揮官の韓狼牙と副官の呂百鬼、および華雄だ。孫伯符殿の求めにより参上した」


「少しお待ち下さい」


部隊の再編が終わったかと思うと、今度は孫策軍からの伝令。


“可及的速やかに本陣へ参られよ”


それが主な内容のそれだった。


俺が代表で本陣の警備にあたっていた兵士に口上を述べると彼は確認の為に天幕の中へ走って行く。


「…華雄」


「なんだ?」


「決まったか?」


「……あぁ」


隣に立っている彼女に問い掛けると、そんな返事が。


「お待たせしました。我が主がお会いになるそうです。その前に失礼ですが身体を検めさせて頂きます」


戻って来た兵士から謁見の許可が下りた事を告げられるが、その前にボディチェックを受けるらしい。


俺と将司は、銃器類と愛刀などを近寄ってきた兵士達に渡し、華雄は携えた戦斧を渡す。


それが終わると両手を軽く挙げて、身体中を触られた。


もちろん、華雄の担当は女性兵士のようだ。


「…結構です。では、どうぞ」


先導され着いて行くと、天幕の入口で兵士が立ち止まった。


「韓狼牙殿、呂百鬼殿、および華雄殿が参られました」


「通してちょうだい」


「はっ!!…どうぞ」


案内してくれた兵士に軽く礼をすると、天幕の中に入る。


中には、見知った顔を含めて9人の女性達が待ち構えていた。


彼女達が囲んでいる地図が広げられた机の間近まで近付くと、右手を握り、それを左手で包んだ拱手抱拳礼をする。


俺に倣ってか二人も続いて同様の礼をすると、それを解いて彼女達に向き直った。


「忙しいのにゴメンなさいね」


「いえ構いません」


「…じゃあ、改めて答えを聞かせてもらおうかしら?」


伯符殿に問われ、ひざまずくと再び礼を取り口を開いた。


「手前を含めた黒狼隊総勢121名、我等が真名と黒狼の旗の誇りに賭けて孫呉へ忠誠を誓います」


「…我等、華雄隊も同様に」


この口上は華雄からのアドバイスを元に作った。


彼女によれば、この世界では“真名の誇り”という言葉が効果的で、これを使えば、おそらくは大丈夫だろうとのこと。


「二度手間になっちゃったわね。改めて。姓は孫、名は策、字は伯符。そして真名は雪蓮よ」


「確かに預かりました。こちらも改めて名乗らせて頂きます。姓は韓、名は甲、字を狼牙、真名は…和樹と申します」


「私も改めて。黒狼隊副長を務めております、姓は呂、名は猛、字を百鬼、真名は将司」


「…和樹に将司、そして華雄、よろしくお願いするわ。孫呉はあなた達を歓迎する。皆も異論はないわね?」


伯符殿の問い掛けに頷く人間もいれば…真逆の反応を示す者もいた。


「…私は反対です」


「蓮華?」


「姉様、もう一度、ご再考を!!万が一、謀反を起こされれば我等に勝ち目はありません!!」


「謀反ねぇ…。ついさっき二人は真名に誓ってまで孫呉への忠誠を誓ったのよ?」


「そんなもの、口ではいくらでも言えます!!」


反対を唱えたのは薄紅色の髪を長髪にしている少女。


…開戦間際に見た顔だ。


「失礼ですが、そちらは?」


「あっ、紹介がまだだったわね。蓮華?」


「…孫権、字を仲謀」


…この少女が孫権…もう何も驚かんぞ。


「貴様、傭兵の分際で姉様にあれこれ要求したそうだな?」


そう問われた為に記憶を掘り起こす。


「…要求、とは違いますな。正確には契約に基づいた報酬」


「それを要求と言うのだ!!」


彼女は激昂するが、なんの事はなく、そよ風にしか感じない。


「あっ報酬で思い出した。えっと…はい、残りの砂金♪」


「では、確かに…」


「姉様!?」


服の袖から取り出した巾着を彼女が投げて寄越し、それを掴むと重さを確認してポケットに捩込んだ。


「中身を確かめなくて良いの?」


「約束を反故にする人物には見えませんので。…特に先程、城から逃げ出した娘よりは信用できる」


「フフッ…信用ねぇ…?」


「そう…信用は出来る」


そう言い合うと二人で忍び笑いをしてしまった。


“信用”と“信頼”は違う。


もっとも、そう簡単に相手を信頼しろ、というのが土台無理な話だ。


「…皆、悪いけど彼等と私だけにして」


「姉様!?」


「聞こえなかったか蓮華?」


再び異を唱えようとした仲謀殿に姉の鋭い視線が飛ぶ。


「…下がれ」


凍り付くほどの冷たい語気に周囲の温度が下がった気がした。


「…御意」


悔しそうに唇を歪めた彼女は天幕から出る際に、当て付けのつもりか俺に肩をぶつけてきた。


…身長差がありすぎる為、彼女の肩が当たったのは胸の辺りではあったが。


仲謀殿に続き、天幕にいた人物達が揃って出ていく。


その中で何人かが、俺達に軽く礼をした為にそれを返した。


…虎牢関で出会った子猫ちゃんも礼を取っていたな。


「…ゴメンなさいね。いきなり妹があんな事を言い出して」


「いえ、気にしておりませんので」


「傭兵をしていると、あんな扱いには慣れてしまうのですよ」


「…威張って言う事か?」


華雄が呆れ半分の口調で問い掛けて来ると、眼前で椅子に座った伯符殿が忍び笑いを始めた。


「…何か?」


「ううん。仲いいなぁ、って思っただけ」


「そうですか」


「えぇ。…座ったら?」


着席を促されるが、それには首を振る。


「前もそうだったけど…警戒してるの?」


「半分といった所ですかね。それに座っていると、もしもの時に即応できない」


「あぁ、お気になさらず。立っていた方が楽なだけですので」


フォローを入れてくれる相棒にはいつも感謝だ。


コイツ曰く『お前は言葉が足りないせいで、他人から悪い評価を得る』


…自分でも理解しているつもりなのだが、流石にこの歳になると改善は難しい。


「ふぅん…難儀なものね。まぁ良いわ」


「私は座らせてもらうぞ。…流石に疲れた」


そう告げると華雄は宛がわれた椅子に腰掛けた。


疲れたねぇ…。


ほんの二日、地べたに這いつくばって隠れてただけではないか。


「…ここには誰もいないわ。私とあなた達だけよ」


「それは判りますが…何を聞きたいので?」


人ばらいをしてまで、こうする理由は…まぁ事情聴取に近い形式の事でもされるのだろう。


心持ち、背筋を伸ばすと向こうに腰掛けている伯符殿へ視線を向けると彼女も俺の眼を見詰めた。


「そんなに緊張しないでよ。…あの、からくりは気になるけど…何処で手に入れたとかは聞かないから」


「…では何を聞きたいので?」


薄らと微笑を顔に貼付けた彼女が口を開いた。


「何故、孫呉に味方する気になったか。それを聞きたいのよ。特に…華雄にはね」


そう来たか。


「さっきの野戦では圧倒的な武を見せ付けられたわ。加えて…半刻にも満たない時間で城内の制圧を完了させた手腕。…孫呉の兵でもあそこまで俊敏な動きは出来ない」


そう言うと彼女は一息入れて再び口を開いた。


「私が聞きたいのは、それほどまでの武力を有しているのに大陸の覇権を狙わないのか、ってことよ」


伯符殿の視線は段々と鋭利なそれへと変わっていく。


この場で嘘偽りや建前は許さない、といった雰囲気だ。


横に立っている相棒に眼を向けると彼が頷く。


「…興味がないからですよ」


「興味がない?」


「えぇ。大陸の覇権争いに自ら身を投じるなんて、面倒臭い」


「…それが理由?」


「はい。それと何故、孫呉に膝を折るかについては……限界を感じたから、とでも言っておきましょう」


「限界…どういう意味かしら?」


「簡単な事です。一匹狼で我を通すのは無理に近い。ならば何処かの勢力の傘下に降るのが手っ取り早かった」


「それが私達だった、と?」


問い掛けに頷くが、彼女は顔をしかめる。


「解せないわね…。それなら何処かの有力諸侯に仕えれば良いじゃない。例えば…そう…曹操の所とかね」


「確かに。現在…というよりも、あと数年の内に残っているだろう諸侯の中であそこが一番、強大でしょうね」


「ならどうして?」


その質問には…こう答えるしかない。


というよりも…自分自身でも何故か判らないのだから。


「以前に言ったと思いますが…“興味があった”。それが理由です」


言い切ると伯符殿の視線が俺の身体を貫く。


「…つまり私達を…いえ孫呉を利用すると?」


「そうなりますが…我々は孫呉を利用する代わりに、そちらも我々を利用して構わない」


「…利用…ねぇ?」


「えぇ。例えば…人には言えない“汚れ仕事”には最適ですが?」


その単語を聞いて伯符殿が片眉を上げる。


「…それは魅力的ね。その最中に貴方達が死んでも、孫呉には害はない。むしろ利がある」


そう言うと伯符殿が押し黙り、天幕に沈黙が。


外からは兵士達が駆けずり回る音や、怒声が聞こえる。


おそらくは投降した袁術軍兵士の処理に追われているのだろう。


…流石に数が多いからな。


そう思っていると、唐突に伯符殿が立ち上がった。


すると近くの卓の上に置かれていた朱色の盃を人数分と壷…酒が入っているだろうそれらを抱えて俺の下へ近付いてくる。


地図の上に壷を置くと、中にあった杓で酒を盃に注ぎ、それを一気に煽った。


紅をさした唇を舐めると、再び杓で酒を注いだ盃を俺に差し出す。


「はい」


今の行動は毒の類が入っていない事を示す為のそれだったようだ。


軽く一礼し、盃を受け取ると彼女が俺を見詰めている事に気付いた。


「…なにか?」


「ひげ」


「は?」


「似合ってるけど…剃った方が、もっと格好良くなるわよ♪」


「…そうしましょう」


提案に苦笑しながら頷きつつ無精髭が伸びた顎を摩る。


…確かに随分と伸びたな。


それを見届けた彼女は手にした盃に次々と酒を注いで相棒と華雄へ渡すと最後に自分の盃に酒を注ぐ。


「じゃあ改めて。孫呉はあなた達を歓迎するわ。願わくば、これが孫呉千年の平安の礎とならんことを。乾杯」


伯符殿が盃を掲げたのを合図に俺達も軽くそれを掲げると、ほぼ同時に並々と注がれた酒を飲み干した。


「プハァ〜美味し♪やっぱり昼間に飲むお酒は格別ね〜♪」


…何処の中年オヤジの台詞だ。


それはともかく…まぁ彼女の言う通り、美味い酒だった事は認めよう。


「…それじゃあ…早速だけど命を下すわ」


盃を机に置いた伯符殿が俺と相棒に向き直る。


「黒狼隊はこれより、民への炊き出しを行うこと。こっちの兵糧を分けるから公平に民達へ振る舞ってね♪」


…記念となるだろう最初の命令がそれか…。


まぁ…袁術の支配下にあった地域だ。


年貢や税の徴集は酷いモノがあっただろう。


新たな主君は以前のそれとは違うというアピールをしなければ民心は離れてしまうから、それを防止する為の手段といった所か。


しかし…傭兵部隊にそんな仕事をさせるとは…。


「「了解しました」」


休めの姿勢から、右腕を挙げて最敬礼をする。


だが、当然というべきか伯符殿には何をやっているか判っていない様子だ。


「えっと…それなに?」


「敬礼、というモノです。まぁ…臣下の礼に似たモノだと理解して下され」


腕を下ろして注釈を入れると納得が言ったかのように彼女は頷いた。


「では、失礼させて頂きます」


「宜しくね〜。何かあったら伝令を出すから」


「はっ。華雄、行くぞ」


相棒が椅子に座ったままの彼女に告げると華雄は腰を上げる。


だが、それに伯符殿が待ったをかけた。


「悪いんだけど、華雄には“色々”と聞きたい事があるのよねぇ〜♪」


「なっ!?」


「そういう訳で…和樹と将司は行って良いわよ♪」


「はぁ…では」


なにやら満面の笑みを顔に貼付けた彼女に軽く一礼して、天幕を出た。









「ねぇねぇ、なんでウチに入ろうと思ったの?」


「……黙秘させて貰う」


「良いじゃないのよぅ。…あぁ(ニヤッ)」


「なっなんだ」


「もしかして…あの二人のどっちかに気があるんじゃ…」


「ちっ違うぞ!?断じて韓甲に」


「へぇ〜〜そうなの?」


「いっいいいいやそっそそその!!」






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