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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第一部:乱世と反董卓連合
17/145

15


反董卓連合編はこれで終了!





久しぶりに見る洛陽の町並みは…随分と変わっていた。



道行く人々の姿は無く、行商や商店が軒を並べていた界隈は人っ子ひとりもいない。



人の気配は…あるにはあるのだが、それも少なく、家屋の中からそれを感じるだけ。



戦火を避ける為に洛陽を逃れた者、住み慣れた家を捨てられず怯えながら嵐が過ぎ去るのを待つ者。


対処法はそれぞれ、か。





洛陽に到達した董卓軍の解体をした俺達は城へ向けて部隊を進めている。


軍の解体は、既に用が無くなったと言えば良いだろう。


洛陽郊外に展開させ、敵軍の進攻を妨げるのも良いが、兵士ひとりひとりの生活もある。


…まぁ身の振り方はそれぞれで考えてもらうとしよう。





洛陽城に到着した俺達は部下達に周辺警戒を任せ、護衛に一個分隊を率いて玉座の間へ向かう。



「董卓様ッ!!」


「華雄、恋、和樹、将司、ねね、無事だったのね!!」


「五体満足で」


「…和樹さん、霞は?」


「残念ながら虎牢関で曹操軍に降りました」


「そうですか…。でも、生きているのなら良かったです…」


…優しいの良いかも知れないが、自分の事にも気を配ってもらいたい。


特にこれからは。



「用意は出来ていますか?」


ひどく冷静な声で相棒が月殿と詠殿に尋ねると二人は心痛な表情で頷いた。


「…では、最後の仕上げに入りますので全員、城から出て下さい」


「…判りました」


「…月」


「うん…行こう詠ちゃん」


「恋殿と華雄は二人に着いていてくれ」


「応」


「……ん」


「ねねも行きますぞ」


官服とは違う町娘のような服を纏った月殿が四人と共に部屋を出て行く。


それを見送ると二人揃って煙草を取り出して火を点けた。


「…全く…俺達は地獄に堕ちるな」


「なにを今更」


「だよねぇ…」


紫煙を吐き出すが、気分は軽くならない。


「…始めよう」


命令すると、部下二人が黒い官服を着た人間の手足を掴みつつやって来た。



これは…死体だ。


それも月殿と同年代で同じ体格をした少女の。


…おそらくは病死だろうが。



最後の仕上げは、月殿−董卓の死を工作すること。


ただ噂を流すだけでは信憑性が無い。


だからこその処置だ。



部下達が少女の死体を床に寝かせると、その上から携行缶に入った軽油を撒き、部屋にもそれを撒いていく。


独特の臭いが鼻を突く。



部下達に退避を命令すると彼等は部屋を出て、先に脱出した月殿達を追い掛ける。



「…悪い」


「許せ」


名も知らぬ少女に短く詫びて、部屋を出た瞬間にサスペンダーから焼夷手榴弾を取り、安全ピンを抜いて投擲。


数秒後、爆発したと同時に部屋全体に火が回った。










「敵の数は?」


「不明、指示を!!」


「路地裏を行くぞ。見敵必殺、ブチ殺せ!」


「10時に敵!!」


月殿達を護衛するため洛陽の路地裏を進んでいるが、曲がり角から出てきた黄色の頭巾を被った敵を発見。


それを部下が素早く撃ち殺して進むと月殿が小さく悲鳴を上げた。


死体を見せないようコートで彼女の視界を遮りつつ路地裏を進む。



ここから見るだけでも洛陽全体でボヤ騒ぎが起こっている。


下手人は、おそらく黄巾党の残党か賊。


家事場泥棒という奴だ。


混乱しているのは願ったりなのだが。


洛陽城の火の手は既に鎮火している。


まぁ…部屋の周囲を燃やすだけの燃料を撒いたから当然ではあるが。



「…クリア」


「後方クリア」


前後左右を固めた部下達が親指を立てて敵影なしを報告する。


「曹長より連絡。劉備軍および曹操軍が洛陽に入りました」


「予定通りだな」


部下からの報告を聞き、月殿達に向き直る。


「二人共、判っていますね?」


「…ボク達は名前を捨てる」


「その通り。…月殿も宜しいか?」


「はっはい」


「…まるでペテンだな」


「“作戦は奇を以って良しとすべし”ってね」


「…意味が違うだろ」


「じゃあ言えるのか?」


「…“凡そ戦いは、正を以て合い、奇を以て勝つ。故に善く奇を出だす者は、窮まり無きこと天地の如く、竭きざること江河の如し。終わりて復た始まるは、四時是れこれなり。死してこもごも生ずるは日月これなり”…なにも突拍子もない策で戦いに勝てって意味じゃない」


「…そうだっけ?」


「お前は特攻野郎を観すぎだ」


孫子の一節を誤った解釈をしていた相棒に注意するが、彼は肩を竦めるだけだった。


「…本当にアンタ達、傭兵なの?」


「へぅ…凄いです」


なにやら二人が俺達を見ているが…無視しよう。


「貴女方二人は劉備の陣営に保護してもらいます。以後は…ただの月と詠と名乗るのが宜しい」


「…えぇ。もう月と話し合ったから大丈夫」


「そうですか…。…では少し失礼。護衛を頼むぞ」


『応』


路地裏から通りを覗いていると六人組の男女が眼に入り、部下達に命令すると俺は一人で通りに向かった。





「劉備殿とその御一行とお見受けする」


路地から声を掛けると少女三人が桃色の髪の少女と、ベレー帽のような物を被った少女、そして白を基調にした制服を着た少年を庇うように立ち塞がる。


…動きと反応は及第点、とでも言うべきか。


「貴様は韓狼牙!!?」


「あの時の…」


「…強そうなのだ」


各々の武器を構える少女達に苦笑が零れた。


…どうやら嫌われているらしい。


「あまり妙な動きをしない方が宜しい。こちらの狙撃兵が狙っておりますので」


「狙撃兵!?やっぱり貴方達は!!」


「…失礼だが、そちらは?」


「俺は北郷一刀と言います!」


「…では北郷殿。貴方が天の御遣いという事で間違いないだろうか?」


「えぇ…一応は」


一応、ねぇ。


質問にはYES or NOで答えるのが理想的なんだぞ少年。


まぁ俺も他人の事は言えないが。


「北郷殿の隣にいる御仁が…劉備殿で?」


「あっはい、そうです!!」


どうやら桃色の髪の少女が劉備で間違いないようだ。


「単刀直入に伺うが…この洛陽を御覧になった感想は?」


「…人の姿は見えませんけど、檄文に書いてあったように圧政が行われていたようには思えません」


本当にそう思っているのかは、この際はどうでも良い。


大事なのはこれからだ。


「そう…袁紹が各諸侯に送った檄文の内容は事実無根。…そこで劉備殿が仁義に厚い方と見込んで頼みが」


「なんでしょうか?」


「…とある少女二人を保護して頂きたい」


「まさか!?」


「…そちらは?」


ベレー帽を被った少女が驚いたように声を上げた。


「私は諸葛孔明と申しましゅ!」


…噛んだな。


というか、この少女が有名な諸葛亮孔明…色んな意味で予想外だ。


「しっ失礼しました!それで、その二人というのは?」


「なぁに、ただの町娘。戦火を避ける為に洛陽から逃げようとして賊達に捕まった所を我々が助けただけの少女達ですよ」


「それなら助けてあげないと!」


「…そうですね。会わせて頂けますか?」


「有り難い。少しお待ちを…おっと動かないで下さい、まだ狙っていますので」


忠告を終えて、トランシーバーで彼女達の護衛をしている相棒に通信すると了承を得られた。


しばらくすると月殿達が通りに出てくる。


「なっ華雄、それに呂布ではないか!?」


「…保護して頂きたいのは、こちらの二人。自己紹介を」


「はっはい。月、と申します」


「ボクは詠」


「はじめまして劉備です。こっちはご主人様と私の仲間です」


「北郷一刀です」


「私は関羽だ」


「鈴々は張飛なのだ!!」


「趙子龍」


「私は諸葛亮孔明です。…韓甲さん、ひとつ宜しいですか?」


「なんでしょうか?」


「この二人のどちらかが董卓さんなのではありませんか?」


あからさま過ぎたかな。


付き添いに華雄と恋殿がいるから当然だろうが。


「はて…董卓様なら先程、亡くなったはず。死人が生き返る訳がありますまい」


「…そうですね、判りました。この二人はこちらで保護します」


「それが良いよ!!」


流石は諸葛亮孔明と言うべきか。


二人の内、どちらかが董卓だと見破り、その身柄を保護する事で西涼方面における利権を画策したらしい。


もっとも、それを考えなければ劉備の陣営に保護を願うとは考えなかったがな。


「…和樹」


「なんですか恋殿?」


「…恋も月と一緒に行く…心配」


「本音は?」


「…家族も一緒に連れて行ける…ご飯いっぱい食べれる」


素直で宜しい。


だが…劉備軍からすれば魅力的だろう。


「と言っておりますが…大丈夫でしょうか?」


「天下の呂奉先が我々につくのならば歓迎しよう」


「……うん」


軽いな…それで良いのだろうか?


「韓甲さん…その…狙撃兵を」


「……ふむ」


少年が顔を青くしながら声を上げた。


しばらく思案して問題ないと結論し、軽く腕を挙げると円を描くように回す。


「…これで狙撃兵を退避させた」


「あっありがとうございます。…それで聞きたい事が」


「貴方と私が同じ世界の人間なのでは、と言う事でしょうか?」


「そうです。さっき貴方の呂布から呼ばれた名前は日本名だった!貴方も俺と同じ日本人なんじゃないですか?」


「この男も天の御遣い!?」


「和樹…お前」


「へぅ!?」


日本人、ねぇ…。


一応の答えを示す為、煙草を取り出して火を点けると紫煙を吐き出した。


「煙草!?」


「嫌いかね少年?」


「きっ貴様、ご主人様になんて口の利き方を!!」


「良いんだ愛紗。それで…やっぱり貴方も?」


「…ここから先は敬語を止めさせて頂く」


少年が頷いたのを確認し、また紫煙を吐き出す。


「俺はな少年。日本人をやめたんだよ」


「…やめた?」


「そう…。あの国には良い思い出なんぞ全く無いんでな」


「そうですか…。それで、貴方はこの世界で何をするつもりなんですか?…まさか大陸の支配なんて…」


大陸支配…夢物語にでも出そうだな。


それを鼻で笑うと煙草を咥える。


「そんな物に興味はない」


「…俺達に力を貸してくれませんか?」


…何がどうなれば、そんな提案が出てくるのだろう。


「俺達は、この乱世を終結させて平和な世の中を作りたいと思っています」


「そうなんです!皆が笑って暮らせて、幸せな生活を送れる世の中にしたいんです!!」


「でも…それを成し遂げる力が俺達には不足しています。だから…俺達に力を貸して下さい!!」


力説した少年達を見遣ると、部下達に眼を向ける。


…全員が笑っていた。


「…フッ…クッククク」


「プッ…カハハハ」


釣られて俺と相棒も小さくだが笑ってしまった。


「少年」


「はっはい」


「親御さんに寝言は寝てから言え、と教わらなかったかね?」


「えっ!?」


「貴様!!」


関羽達が武器を構えた瞬間、護衛の部下達が一斉に銃口を向ける。


「皆、抑えて!!」


「しかし!」


「多勢に無勢だ、とにかく武器を下ろせ!!」


渋々と関羽達が構えた武器を下ろすのを確認し、部下達にも銃を下ろすように手で指示する。


「失礼。なにぶん傭兵風情の集まりなのでな」


「と言うよりは劉備軍を敵視していると」


相棒が茶々を入れるが、部下達の眼は真剣そのもの…殺気に満ちている。


「…泗水関でウチの兵士が一人、戦死してから随分と好戦的になってしまった」


「やっぱり、あの人も…」


「…アイツからも言われた筈だ。寝ぼけるな、と」


少年と関羽が驚愕の表情をする。


まさか知っているとは思わなかったのだろう。


「唇の動きを読めば判るモノでね」


「確かに…そう言われました」


「劉備殿達の理想は“平和な世の中の実現”。間違いないか?」


「はっはい」


「ところで…“平和”の意味をご存知か?」


「えっと…戦いがない事だと思います」


劉備がそう言うと全員が頷いた。


「成る程…。俺は正解を知らない」


「……はっ?」


「俺達は平和を知らない、だから平和を感じた事もない」


「そんなことある訳ないでしょう!?」


「……無い、な。お前はどうだ?」


「同じく。そもそも傭兵に、そんなモンは無縁だ」


確かに。


平和な世の中に俺達のような存在は必要ないだろうし、争い事が俺達の飯の種だ。


「平和なんてのは、戦争と戦争の間に生まれる、つかの間の凪だ。恒久平和なんてのは有り得ない、絶対にな」


「それこそ有り得ない!話し合えば人同士は判り合えるんだ!!」


彼等を表す言葉は…そう…理想主義者か。


「…ならば何故、戦っている?話し合いで済ませれば良いだろう?」


「それは……」


「相手が話し合いに応じないから、とでも言うつもりだろう。そこが矛盾している」


「ッ!?」


やれやれ…少年相手に大人げ無かったかな。


夢や希望を持つのは悪い事ではないのだが、それに執着してしまうと前が見えなくなってしまうのは往々にして事実。


「少年。戦争なんてのは所詮、ルール無き、人間同士の殺し合いでしかない。どんな大義名分を掲げようとな」


「………」


「今、ここに存在するなら現実を直視する事だ。でなければ…死ぬだけ」


「…………」


「まぁ、人の道に外れた畜生の言う事だ。気にせんでも構わんよ」


「……いえ」


短くなった煙草を携帯灰皿に放り込むと、月殿を始め、三人に向き直る。


「…では、縁があればまた」


「…元気で」


「…和樹さん…ありがとうございました」


「……ん。…ちんきゅ」


恋殿の呟きを聞き、彼女が見ている方向に視線を向けるとねねちゃんが大量の動物を率いて走ってくる。


「…あれが家族?」


「……ん」


その光景に俺達は顔を引き攣らせるだけである。


「和樹さん…ちょっとこっちに」


月殿に裾を引っ張られ物陰に着いて行くと、何処から出したのか片手に収まる程度の袋を差し出された。


口を開き中身を覗くと、それは砂金。


「これまでの報酬です。お金にすれば良かったのですが…」


「…いえ、確かに頂きました」


袋をコートのポケットに捩込むと、今度は部下達に命令する。


「洛陽を脱出する、準備を!!」


『応!!』


馬を連れて来る為、部下達が散って行く。


「…皆さんは、どうなさるんですか?」


「また流れますよ」


「…私達と一緒にどうですか?」


「…いえ。我々は良くも悪くも目立ち過ぎた。そんな輩が劉備軍に降ったら、面倒事に巻き込まれてしまう」


「そんな!?」


「それが当たり前なんですよ」


「……判りました」


「厚意を無下に断ってしまい申し訳ありません」


俯いている月殿の背中を軽く押して劉備達に合流させる。


すると部下達全員が騎乗して現れた。


ご丁寧に俺と相棒の馬も連れて。


「隊長、ただいま戻りました」


「ご苦労、曹長」


「はっ」


潜入していた曹長がやっとの事で合流した。


もう鎧の類いは着ておらず、身につけているのは戦闘服だ。


…ただ、その服の上着にはフードが着いており、それを深く被りすぎて彼の顔はよく見えない。


というよりは見せないようにしているとか。


…諜報の腕は確かなのだが、その担当には致命的な顔立ちをしているのだ。


素顔を見た事は勿論あるが、良い意味で印象に残ってしまう顔立ちになっている。


曹長が自分の愛馬に跨がるのを見送り、俺と相棒もそれぞれの馬に向かおうとする。


「待って下さい!!」


「…あん?」


急に呼び止められたと思うと少年が俺達に向かってくる。


そしてポケットを漁って何かを取り出すと、それを俺に差し出した。


「…これを泗水関で拾いました…遅くなって済みません」


「いや構わない。…感謝する」


差し出されたのはドッグタグ。


それにプレスされた項目の中に、イ・ヨンジンの名前が。


礼を言って、それを戦闘服の胸ポケットに捩込み、今度こそ踵を返した。



黒馗の鞍に跨がり、騎乗した部下達に視線を向けると……とんでもない人物が混じっていた。


「なにやってるんだ華雄?」


「わっ私も共に行きたいのだ」


「…お前は月殿達と一緒に行けば良いだろうが」


黒馗を彼女の馬に寄せ、小声で話し掛ける。


「…董卓様には暇の許しを得た」


その暇は、永久のそれだろう。


月殿に視線を向けると、何を話しているのか合点がいったのか彼女が頷いた。


「…ハァ…」


「なっなんだ、迷惑なのか!?」


迷惑…という訳ではないが。


野郎所帯で、女性が一人だけってのはどうも。


「華雄将軍!!!」


「なっ…お前達」


いきなり現れたのは、百名程の騎兵群。


その中に見知った兵士を見付けた為に判った。


連中は…解体した筈の董卓軍兵士、それも元華雄隊の奴らだ。


「我々も将軍と共に参ります!!」


「お前達…!!」


…よくよく考えれば、この時代の騎兵はエリート中のエリートなんだよな…。


そんな奴らがよく華雄と共に行動する、と言い出すモンだ。


「少佐…声に出てますよ」


「悪い」


「…アンタも他人の事は言えませんよ」


「あん?」


「俺も元々は特殊部隊に所属してたんですぜ」


…そうだった。


部下の連中は、何故か大多数が特殊部隊やら空挺部隊の出身だったのを忘れていた。


「…まさか俺も同類か?」


『えぇ』


だからハモるんじゃない。


頭を抱えそうになるが華雄が構わず俺に話し掛けてくる。


「なぁ駄目だろうか…?」


「………」


「…なぁ?」


「………」


「……グス…」


「…判った。もう好きにしてくれ」


「おぉ本当か!?そうか良かった!!」


やれやれ忙しいな。


涙目になったかと思えば、今度は歓喜の表情に…。


…まぁ良い。


「野郎共、行くぞ!!」


『応ッ!!』


「華雄隊、私に続け!!」


『はっ!!』


軽く月殿達に向かって一礼すると、黒馗の腹を蹴り駆け出した。









「前方に牙門旗、旗印は…孫!!」


華雄隊の兵士が叫んだ。


洛陽を脱出して暫く経ったが、当然と言うべきか追撃が掛かっている。


…悪趣味な金色の鎧に旗印は袁。


おそらくは袁紹の隊だろう。


戦で満足な戦績を上げられなかった分を残党狩りで補うつもりらしい。


…まったく下手な政治家の票集めじゃあるまいし。



だが…孫策軍か。


取引が生きているなら、幸いと見るべきだろうが。


「少佐、戦闘用意は!?」


「向こうが攻撃するまで手出しはするな!!」


『応!!』


視線の先では孫策軍の兵士が武器を構えていたが、先頭で騎乗している孫策がそれを手で制した。


…どうやら、取引はまだ生きているらしい。


「先に行け!!」


「遅くなるなよ。野郎共、俺に続け!!」


隣で愛馬を走らせる相棒に指揮権を渡すと、俺は孫策軍の目と鼻の先まで黒馗を走らせる。


部下達は将司を先頭に孫策軍の横を駆け抜け、その後を華雄達が続いて行った。


すると孫策が馬の腹を蹴って、俺の近くまでやってくる。


「また会ったわね♪」


「…えぇ。不本意ながら」


「ブー。こんな美女に再会できたんだから、もっと嬉しそうにしなさいよ」


「失礼。なにぶん、状況が状況なので」


「そうみたいね…。早く行った方が良いわ。私達が逃げる手助けをしてあげる」


…おそらくは追撃を掛けるふりをして、俺達を逃がそうと言うのだろう。


しかし……


「何故、そんな事を?」


「ん〜、気まぐれ♪」


「…左様か」


まぁ…深くは考えないようにしよう…今は。


だが…借りを作るのは釈然としない。


…なら、こっちも恩を売っておくか。


これでイーブン…いや、±0だな。

コートのポケットから月殿より貰った報酬が入った袋を取り出して彼女に放り投げる。


それを掴んだ孫策は訝しみながらも袋の口を開き、少し驚いた表情をしながらも口を閉じた。


「この砂金は?」


「復興と炊き出しの代金ですよ、貴女方に使ってもらいたい」


「…確かに、率先して私達がすれば自然と名声はあがるでしょうね。でも…どうして?」


どうして…ねぇ。


「気まぐれ、ですよ」


「…プッ…」


呆気に取られた様子だったが、孫策は次の瞬間には噴き出してしまった。


「アハハハ。判ったわ、ありがたく使わせてもらう」


「それは良かった。…あぁ、そうだ」


「なに?」


「洛陽中の井戸を注意して探してみると宜しい。おそらくは…なにか見付かるでしょう」


「それも…気まぐれ?」


「当然」


「面白いわね、貴方は♪」


「それはどうも。…では」


自身のことながら、気まぐれにも困ったモンだ。


そう思いつつ俺は黒馗の腹を蹴り、部隊に追い付くため駆け出した。










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