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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第一部:乱世と反董卓連合
16/145

14



遅くなりました。


…霞ファンの皆様、申し訳ありません!!


そして…霞が可愛いのは仕方ない(キリッ




虎牢関での戦いは、最終局面を迎えた。



ジリ貧に戦うよりは、討って出た方が良いと判断したのだが…それ以上に霞と恋殿の要望が強かったのだ。


己の武が大会戦で何処まで通用するのか試したい。


…俺みたいな傭兵には誇りなんて大層なモンは無いが、武人からすれば重要な事なのだろう。



だが…実質的な勝利に必要な時間は既に得ている。


正味の話、ここまで持ちこたえられるとは思っていなかった。


充分だろう…。


ここまでの経過を踏まえた結論では、この外史という世界は俺の知る史実と三国志演義が混ざったそれだ。


…三国志演義には余り詳しく無いのだが史実では現在、董卓軍(厳密は官軍だが)に籍を置いている霞−張遼は曹操に降り、将となっている。


…何が原因でそうなったかは忘れたが、とにかく反董卓連合が結成された時期では無かったのは確かだ。


…この世界がパラレルワールドである以上は確実とは言えないが。




「和樹、どないしたんや?」


「んっ、いやなんでも」


「まぁた、しかめっつらしてたで。折角の色男が台なしや」


「…色男?」


「言われた事ないか?和樹も将司も色男や。いったい何人の女、泣かせたんや〜?」


「…さぁな。取り敢えず閨以外で女を泣かせた事はないと記憶してる」


「…もうええわ」


何が気に入らなかったのか霞がそっぽを向いてしまった。


むぅ…ジョークのつもりだったんだが…。


「しかし…敵軍は動かないな」


誰に言うでもなく呟いた。


餌をちらつかせるが如く、これ見よがしに虎牢関の外へ展開しているのだが、敵軍は動く気配がない。


董卓軍7万に対して連合軍17万。


こちらは初戦から余り血を流さず、逆に敵軍は出血を強いられた結果だ。


大会戦になれば向こうが有利なのに動かない。


…どういう事だ?


「隊長!!」


虎牢関から騎乗した部下が駆けてくる。


「どうした?」


「少し厄介な事になりました」


厄介?


「どういう事だ?」


「これを」


差し出されたのはヘッドフォン。


そのコードの先にあるのは受信器…盗聴器のだ。


訝しみつつヘッドフォンの片方を耳に当てると会話が聞こえてくる。


<いったいどういう事ですの!?>


<だから、あの韓と狼の牙門旗を掲げた部隊は俺の世界−天の軍隊かも知れないって事だよ>


<何か証拠でもあるというの?>


<彼等が使っている武器は銃っていうんだ>


<じゅう?>


<弓矢みたいな武器なんだけど、射程距離と威力も弓矢の比じゃない>


<なぜ天の軍が董卓さんに味方していますの!?味方するなら、この連合一の家柄、財力、兵力を誇る袁紹の下にいるのが筋ではなくて!?>


<それは判らないけど…厄介な敵である事は間違いないよ。出来るだけ戦わないようにしないと>


<フン!そんな奴ら、この七星餓狼で粉砕してくれるわ!!>


<姉者…。近付く前に狙われて終わりだぞ>


<…とにかく、彼等の攻撃から身を守る対処を教えるからよく聞いてくれ>


…やはりバレた。


となると、あの少年も俺達と似た境遇に陥ったか。


「隊長、どうします?」


「少し待て」


部下にそう返して再び意識を集中する。


…霞が不思議そうに見てるが無視だ。


<あの武器は弾丸…まぁ矢みたいな物だけど。それは基本的に真っ直ぐにしか飛ばないんだ>


<…となると、避ける為には伏せれば良いのかしら?>


<そうだね。…たぶん武器は銃だけじゃないと思うけど…>


<なに!?あんな武器が他にもあると言うのか!?>


<うん…まぁ。手榴弾とか戦車とか…。それが出てきたら…逃げろ、としか言えないよ>


<ご主人様…どうにかならないの?>


<…ゴメン。流石に俺も全てを知ってる訳じゃないから>


もう盗聴は充分だな。


ヘッドフォンを部下に返すと煙草を取り出して火を点けた。


「隊長、どうしますか?」


「予定に変更はない。遅かれ早かれ、俺達の正体がバレるのは判ってたからな」


「曹長に合流を命じましょうか?」


「…いや。合流は予定通り洛陽で行う。万が一、正体が露見した場合は…」


「曹長の判断に任せる、と」


「あぁ、伝えてくれ」


「了解!」


命令を伝える為、虎牢関へ戻る部下を見送ると紫煙を吐き出した。


「…和樹、なんの話をしてたんや?変なの耳に当ててたし正体がどうのこうのって?」


「こっちの話だ」


「ふぅん。てっきりウチは和樹達が天の御遣いやって事を隠してるんやと思ってたんやけど」


…実はその通り…かもしれん。


「…でもな」


「?」


「和樹達の正体が何やってええ。和樹達は和樹達や。今更、妖や魑魅魍魎やて言われても驚かへん」


「いや…そこは驚いた方が良いと思うぞ」


軽口を叩き合っていると敵軍に動きが。


激しく鳴らされる銅鑼と太鼓。


進撃開始だな。


「…来なすった。野郎共、戦闘用意!!」


『応ッ!!』


総員騎乗した部下達に声を張り上げると、各小隊がそれぞれの配置に付く。


「…さて、行くか」


「待ってや和樹」


「あん?」


黒馗の腹を蹴って進み始めた瞬間、霞に呼び止められた。


騎乗で身体を捻り彼女の方を向く。


「どうした?」


「あんな…和樹。…ウチの事…どう思う?」


「…はぁ?」


開戦前に何を言ってるんだ?


…だが何か気になる事があると戦闘中に隙が出来てしまうからな。


「…男勝り、豪快、大酒飲み、絡み屋」


「…せやなぁ…ウチってそんなモンやし…」


「だが…」


「?」


「それ以上に、よく気が付いて、魅力的、保護欲が擽られる。まぁ…この上なく良い女だと俺は思う」


「ッ///」


「あん、どうした?」


「なっなんでもない!ほら早よ行かんと!!」


なにやら顔が紅いが…体調は良さそうだからな、大丈夫だろう。


「そうだな、気を付けろ。野郎共、行くぞ!!」


『応!!』


黒馗の腹を蹴り、俺が率いる隊の持ち場である右翼−袁術軍と対峙する地点へと駆け出した。







Others side



戦闘開始から約30分が経過したが、戦局は連合軍が優勢である。


圧倒的な物量を誇り、それを武器に力押しで遮二無二、突っ込んで来ているのだ。


しかし董卓軍も負けておらず、前線では各将兵が死力を尽くし戦い続ける。


本来なら、あっという間に押し潰されても良い董卓軍なのだが、この善戦ぶりは各方面に黒狼隊の小隊を配置したのが原因だ。


各隊員達が武将級の武を誇っているのだから当然と言える。



右翼では袁術率いる軍が、和樹率いる部隊に阻まれ前進できぬまま流血を強いられている。


中央では恋率いる部隊が劉備軍と戦闘を繰り広げており、一騎当千と謳われる武を遺憾無く発揮。


遂に、恋は劉備軍の将である、愛紗、鈴々、そして星と一騎打ちを始めた。


「……強い」


「油断するな、相手はあの呂布だ!!」


「判ってるのだ!!」


「まさか天下の呂奉先と武を競う事となるとは。趙子龍、推して参る!!」


「関雲長、参る!!」


「鈴々も行くのだ!!」


「…恋は呂奉先…行く」



泗水関防衛を任されたのは華雄。


その武は中々のものなのだが、戦場に出ている皆がいれば大丈夫だと和樹に言われ、彼女は弓隊を指揮し城壁から敵軍に向けて矢の雨を降らせている。


「放て放て!絶対に味方には当てるな!!後続の敵軍へ向けろ!!」


『はっ!!』


段々と味方が押し戻されてきた為に矢の射程には敵軍が入っている。


戦場を一望できる城壁から見れば、どう見ても董卓軍は劣勢。



ここが洛陽の最後の砦。


虎牢関が陥落すれば連合軍は一気に洛陽へ進撃するだろう。


それは董卓軍の敗北を指す。


(韓甲、呂猛、信じて良いのだな?)


華雄は戦場で戦い続けている二人へ心中で問い掛けた。


彼等が欲しいのは“実質的な勝利”。


それは董卓−月の生存。


二人が率いる黒狼隊の戦力を全投入すれば戦には高確率で勝利する事が出来るかもしれない。


しかし和樹の持論となっている“精鋭といえども数の暴力には勝てない”。


圧倒的な戦力の前には、少数だが精鋭揃いの戦力でも勝利する事は出来ない、という意味だ。



それも含めてだが、懸念される事がもうひとつ。


万が一、和樹達が勝利しても董卓へ暗殺者が差し向けられる可能性があるのだ。


未然に防ぐ事も出来るだろうが絶対ではない。


そして暗殺という手段を用いられると、受け手側は必ず後手に回るのだ。



その為に、今回の戦は表面的には敗北しなければならない。


そして、実質的な勝利は月の生存であり、董卓の死亡が必要不可欠なのだ。


その準備は既に洛陽で進められているだろう。





左翼では霞と将司率いる部隊が曹操軍と戦闘を繰り広げている。



「あぁもうウジャウジャと!!」


「沸いて来る虫みたいや−なぁ!!」


軽口を叩き合いながらも敵兵を切り捨てていく。


敵味方入り乱れての乱戦状態になってしまい、将司は大太刀を振るう訳にはいかず愛刀と格闘術で敵兵を仕留めている。


「私は曹操軍の将、夏侯惇元譲!!雑兵では相手にならぬ、誰ぞおらぬか!!?」


「ここにおるでぇぇ!!」


戦場に響き渡る二人の口上に将司は溜息を吐いた。


(武人ってのは面倒臭い生き物なんだな)


戦場に即席の死合会場が設けられたように双方の兵士達が散らばる。


「ウチは張遼文遠や!勝てるモンならやってみぃ!!」


「神速と名高い張遼か!これは武人冥利に尽きる!!」


互いにボルテージを高め合う二人を遠目から固唾を飲んで見守る兵士達に混じり将司は周囲を見回した。


(…ここで横槍を入れるのは…不粋ってモンだろうな。…ハァ…面倒臭ぇ)


紛争地域を転戦して来た身には到底、馴染みの無い光景に彼はただ溜息を零すだけ。


何せ、自分も含めて周囲の誰もが刃を交えていないのだ。


ここで破片手榴弾を炸裂させたらどうなるか、と彼は物騒な事を考えてしまう。



二人の一騎打ちが始まった。


それは熾烈を極め、兵士達は息をするのも忘れてしまっている。


そんな時、将司の眼に不審な動きをする兵士の姿が映った。


(…あれは、こっちの兵士だな。一体なにを…)


観察していると件の兵士が弓を構え、矢筒から一本の矢を取り出してつがえる。


鏃の先にある目標は−−


(夏侯惇か…。オイオイ…あの状況で狙うのかよ)


春蘭を狙っているのだが、互いに激しく斬り結んでいるので当たる確率はそれほど高くはない。


もし万が一、霞に当たりでもすれば、色々と面倒な事になってしまう。


(…しゃあねぇ)


このままではマズいと判断した将司は腰から愛銃であるベレッタM93Rを抜こうとしたが、いかんせん遠すぎる。



付近にいた部下にハンドサインを送り、件の弓兵を仕留めろと伝えると、AK-74が構えられた。


そして、銃声が轟く。


瞬間、二人の一騎打ちが止まり、兵士の倒れた音が響いた。


「なっなにをしてるんや!?」


「武人同士の闘いを汚すとは…!!」


途端、将司をはじめとした黒狼隊へ二人の非難が飛ぶが、それに弓兵の射殺を命じた将司が事切れた兵士を指差す。


「その野郎は今さっき、そこのお嬢さん−失礼、夏侯惇を射ろうとしていた。軍において独断専行は重罰、よって俺達の手で処断させてもらった。…まぁ、あのままにしてても良かったんだが、それだと興冷めになるんだろ?」


彼は一気に言い切ると、戦場にも関わらず煙草を取り出して一服を始めた。


「…貴様は…確か」


「おっと失礼した。私は呂百鬼と申す、見知り置きを」


「…貴様達が天の軍とかいう奴らか」


そう春蘭に言われた彼は何がなにやら理解出来なかった。


(…天の軍…なんの事だ?)


何せ自分達は傭兵部隊なのだ。

そう言われてもピンと来ないのは仕方ない。


「どうなのだ!?」


「…さぁてね。我々は傭兵なんで。理解出来ましたかな、お嬢さん?」


「きっ貴様ぁぁぁ!!」


「あっ…失礼。つい」


おちょくられたと勘違いした春蘭が大剣を振りかぶり将司に襲い掛かる。


彼は自分の失言を素直に謝罪するが、時すでに遅く、彼女が肉薄する。


「誰がお嬢さんだぁぁ!!?」


振り下ろされた大剣を紙一重で避けると、そのまま峰を片足で踏み付け、押さえた。


衝撃が重なり、地面には小さいながらもクレーターが穿たれる。


「なっ動か!?」


「…失礼した。だから、こちらに刃を振るうのは勘弁を」


「良いから足を退けろ!!」


「…襲わないならば。もし、こちらに刃が向けば容赦なく斬り捨てさせて頂く」


「判っている!!」


大口を叩く春蘭ではあるが、実際は冷汗が流れ、身の内には恐怖が吹き荒れている。


なにせ、太刀筋を見切られた上、刀身を足で踏み付けられたのだ。


勇猛な将として名が通っている彼女であるが、身体の奥底からは警鐘が鳴り響く。


この男と戦ってはならない、と。


様子を伺いながら将司が足を退け、春蘭が大剣を持ち上げるが、約束通りに彼へは切っ先を向けない。


「…貴様が名乗ったのに私がしないのはおかしいな。…曹孟徳様が家臣 夏侯惇元譲だ」


「…御尊名はかねてより。では、改めて。董卓軍客将 韓狼牙が率いる黒狼隊の副長を務めている呂百鬼」


「なっ武将ではないのか!?」


「…霞、どうなんだろうな?」


いきなりの問い掛けなので、明確な答えを出せなかった彼は蚊帳の外にいた霞へ尋ねる。


「将司も一応は武将やで。なんたって恋…やない呂布を負かしたんやからな」


「あの呂奉先を!?」


新たな事実に春蘭は混乱するだけ。


敵の言葉を鵜呑みにするほど彼女も馬鹿ではないが、先程の身のこなしを目の当たりにすると、あながち嘘とは思えなかった。


「なぁなぁ、はよ闘ろうや。ウチはうずうずして仕方ないんよ」


思考の海に溺れていた春蘭に霞の一騎打ち再開を打診する声が届く。


「すっ済まない。では」


「ちょっと失礼。霞…張遼と話をさせてもらえないだろうか?」


「…判った」


突然、将司が一騎打ちに待ったを掛ける。


珍しい事に春蘭がそれを承諾すると、彼は霞の下へ歩み寄り、少し屈んで背を彼女に合わせる。


「…どうするつもりだ?」


「…判らん。…けど、たぶんウチは負けるで」


「…力量が判るってのは嫌なモンだな。…負けたら、どうするんだ?」


「どうもこうもあらへん。首をあげられるか、降るかや」


「…なら、出来るだけ後者を選べ」


「ニャハハ、向こうもきっと同じやさかい安心しぃや」


事実、曹操軍の目的は霞こと張遼が率いる部隊の打破と願わくば彼女を軍に取り込むこと。


その為に春蘭−夏侯惇元譲を投入したのだ。


「なぁ将司、約束してや」


「ん?」


「この戦の目的を達成すること。…あと…皆で、また酒でも飲もうや♪」


「そいつは…絶対に果たさないとな。判った約束する」


「はいな。…もうひとつ、ええか?」


「あぁ」


「和樹になんやけど…」


若干、頬を紅潮させる霞に将司は合点がいった。


「ウチは和樹の事が好きやって事を」


「待った」


「?」


片手で彼女の口を押さえると将司は苦笑しながらウィンクする。


「そういうのは本人に直接、な」


無言で静かに頷いた霞に満足した彼は手を外して彼女に問い掛けた。


「この場はお前に任せるぞ?」


「合点、任せときや!!」


「頼む。…黒狼隊は退却する、俺に続け!!」


『応!!』


虎牢関へ駆け出した将司に続き黒狼隊の面々も退却を始めた。


所定の目的を達成した今、虎牢関は放棄して構わないという事である。



彼等を見送った霞は改めて春蘭に向き直り、高らかに宣言する。


「ウチは張遼文遠や!!今のウチは誰にも負ける気がせぇへんで!!掛かって来ぃや!!」








<全隊員へ。虎牢関は放棄する、繰り返す虎牢関は放棄!!各自、関へ後退せよ!!>


片耳に付けたトランシーバーへ繋がっているイヤホンに相棒の命令が飛ぶ。


潮時、だな。


至近距離まで肉薄してきた袁術軍兵士を素早くホルスターから抜いた愛銃のセイフティを解除し、頭に向けて銃爪を引く。


文字通り、頭を吹き飛ばされた敵兵が倒れると銃声に驚いた敵兵群が尻込みした。


「陣を組め、関に退却する!」


『応!!』


退却する際の陣形を組んだ部下達が敵軍に向けて発砲を開始。


盗聴した結果から何らかの対処でもしているのかと思いきや、敵兵共は突っ立ったまま銃弾で身体を撃ち抜かれていく。


しかし敵軍の数が多過ぎて、なかなか退却が進まない。


…仕方ないか。


「効力射を願う。座標W10!」


<座標W10、了解!直ちに砲撃を開始!!>


通信を終えると、空から風切り音が。


瞬間、敵軍の真っ只中から爆発と土煙り、そして悲鳴が轟いた。


虎牢関に配備したL16 81mm迫撃砲からの支援砲撃だ。


この迫撃砲は同口径のそれらの中でも軽量の部類に入る為、数名の兵士だけで運搬が可能な代物なのだ。



敵軍は混乱に陥り、満足な追撃は掛けられそうにないな。


「今だ、撤退するぞ!」


改めて関へ退却を開始すると、黒馗と部下達の愛馬達が駆け寄ってきた。


…どうもコイツらは待ってるんだよなぁ…。


コイツらの調教師は戦場で己の主人を待つように教え込んだのだろうか?



鞍に跨がり、愛馬の腹を蹴ると黒馗が駆け出した。


左翼側からも騎馬群が関へ後退を開始している。


先頭を駆けているのは将司だな。


…しかし中央に配置した連中が来ないのは…。


アイツらの事だから心配はないが……様子を見てくるか。


「そのまま関に戻れ!!」


部下達に言い捨て、黒馗の手綱を操り中央へ向かう。



そこに近付くと恋殿が一騎打ち…と呼べるかは判らんが…とにかく三人の少女と闘っていた。


だが、流石は呂奉先と言うべきか。


三人を相手に全く怯むどころか、圧倒している。


…一人は関羽だな。


あとの二人は…牙門旗を見る限り、おそらくは趙雲に張飛か。


…五虎大将軍が三人もいるのに…これは。



一騎打ち中に悪いとは思うが、そろそろ撤退しなければならないからな。


「恋殿!」


「…和樹」


「撤退するぞ、急げ!!」


「……ん」


呼び掛けると承諾の小さい声。


「撤退だと、虎牢関を捨ててか!?」


「……邪魔」


戟を振るい三人を吹き飛ばした恋殿が俺の下へ駆け寄ってくる。


「……退く」


「そうしよう……って何をなさる?」


「……馬、見付からない。たぶん関に戻ってる」


『あぁぁぁあ!!?』


恋殿が騎乗している俺の前に無理矢理、座る。


すると何処からともなく悲鳴に近い絶叫が聞こえた。


『隊長ぉぉぉ!!』


「生きてたか。退却するぞ、さっさと関に戻れ」


『ちっ畜生ぉぉぉ!!』


我先にと部下達が一気に虎牢関へと退却して行く…なにやら叫びながら。


…まぁ良い。


「ちんきゅぅぅぅぅ」


「恋殿」


「ん」


「きぃぃぃぃく!!」


「…捕まえた」


「行きましょう」


お約束の蹴りをかましたねねちゃんを恋殿が拾い上げ…いや捕まえた。


三人同時に騎乗するのは大変だろうが、頼むぞ。


黒馗の腹を蹴り、今度こそ関へ向けて退却した。








虎牢関の戦いは表面上は連合軍の勝利で終わった。5万を越える将兵を失って。



黒狼隊は欠員なし。


…率いていて何だが…この部隊は何処かおかしいと思う。




実質的な勝利の為、俺達は洛陽へ軍を戻した。


なお、この中に張遼…霞の姿はない。


夏侯惇と一騎打ちの末に相打ちとなり、そのまま曹操に降ったそうだ。



将の一人が脱落したのは痛いが…仕方ない。



だが、相棒から伝えられた彼女との約束は果たさなければな。



例え、次に相見える際は敵であったとしても。





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