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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第十部:Operation Vigrid
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終章~旅路の果てに~

−−花を手向ける。あの日、流せなかった涙の代わりに一輪の花を−−






「…俺達に選択肢は?」


「二つある。無下に断るか、それとも…受けるか」


「どっちにしたって俺達には過酷な道しかないじゃねぇかよ」


「今更な台詞だな。過酷じゃなかった選択が現在まであったか?」


「……ふぅ……」


「俺はお前の選択を尊重しよう。だが、選ぶのはお前自身だ」


「わーってるよ。ンな事は。………なぁ、ひとつだけ聞かせてくれ」


「なんだ?」


「……“アイツら”は、どう思うんだろうな……俺達が“狗”になる事を…」


「知らんし判る筈もないだろう−−火を貸せ」


「ん−−…まっ、そうだわな」


「フゥ……。だが、これだけは言える」


「なにがだ?」


「…俺達は“狼”だ。“狗”じゃない」


「……ふっ…変わらねぇな、お前は」


「だろうな。……返答を聞かせてくれ」


「言わせんのかよ“相棒”?」








−−花を手向ける。あの日、流せなかった涙の代わりに一輪の花を−−





「−−やっぱり行くのね?」


「……あぁ、もう決めた事だ」


「…寂しくなるわ…」


「今生の別れって訳じゃない。向こうが落ち着いたら便りのひとつでも送るさ」


「……徐盛には話したの?」


「いや。……だが、奴も薄々、気付いてはいるだろう」


「…しばらく会えなくなるんだから、構ってやりなさい。…いつ出立するの?」


「…明日の夜明け前には」


「そう…。…あの子の事は心配しないで。私達が責任を持って預かるわ」


「…済まん」


「良いのよ。…あと、これだけは覚えておいて」


「?」


「貴方が帰る場所は……“此処”よ」


「…判った、覚えておこう」


「いってらっしゃい」


「……いってくる」







−−花を手向ける。あの日、流せなかった涙の代わりに一輪の花を−−





「−−来たわね」


「−−あぁ」


「覚悟は決まったかしら?」


「これ以上、何をお望みですか曹丞相?」


「ふふっ…愚問だったわね」


「さて…行くとするか…」


「えぇ。さぁ着いて来なさい“韓大司馬”、“呂大将軍”」








−−花を手向ける。あの日、流せなかった涙の代わりに一輪の花を−−




「三軍の統帥権−−つまり俺を元帥にか?」


「あぁ。満場一致で決まったぜ」


「…今は良いかも知れんが、将来を考えると軍部の暴走も有り得るぞ」


「まぁね。…だけど、出来立てホヤホヤの軍隊組織にはトップのカリスマ性が必要不可欠なんだよ」


「………」


「なに、大丈夫さ。俺が保証するよ」


「……判った。なら主上と三国に報告だけはしておこう」


「まっ彼女達なら二つ返事だろ。特に呉はな」








−−花を手向ける。あの日、流せなかった涙の代わりに一輪の花を−−





「−−遅くなって済みません父上、母上。−−やっと…お墓を造れました。明日、僕−−私は呉の武将を辞し、新たな仕官先へ向かいます。−−仕官するのは国と民。−−行って参ります」


「−−行くぞ。徐少尉」


「−−はい、旦那さ……いえ、韓元帥閣下」










−−花を手向ける。あの日、流せなかった涙の代わりに一輪の花を−−





「−−あれから…随分と経ったな」


「−−…あっという間だったぜ」


「軍は兵力、装備、練度、士気も充実。……長かった」


「…明日の会議、出席するのか?」


「あぁ。…元帥として“例の件”を提案する」


「まだ時期尚早じゃねぇか?」


「いや……軍事面で既にやれる事はやった。実力主義の近代軍における階級制度、全土に渡る兵站の整備、各国……俺達から言わせれば三大軍閥の領内へ駐屯する方面軍の設置」


「…しがらみと呼べる国境を無くしーー中原を統一する。それも漢を無くし新たな皇帝の下で」


「“彼”に打診はしておいた」


「で、答えは?」


「明日の会議の場で、だ」









−−花を手向ける。あの日、流せなかった涙の代わりに一輪の花を−−





「−−全く……薄々、勘付いてはいたけど、いきなりじゃないかしら?」


「いきなり?いや、遅すぎたくらいだ」


「…まぁ判らないでもないわね」


「ふっ…お前さんも遣り甲斐があるってモンじゃないか、丞相閣下?」


「それは当て付けと取って良いかしら、韓大司馬?」


「“彼”との距離を縮める良い機会じゃないか」


「ふえっ!!?ななな……んんっ!!……なんの事かしら?」








ーー花を手向ける。あの日、流せなかった涙の代わりに一輪の花をーー



ーー和服に袖を通した小綺麗な服装の老人二人が太い石を削って円柱にした墓石へ花を供えた。


風がサワサワと草木を撫でながら通り過ぎる中、二人の老人は背筋を伸ばし挙手敬礼をする。


既に頭は白髪が生え揃い、顔や手足には深い皺が刻まれている老人達はその容姿に似合わぬほど端正な敬礼をし、やがて腕を下ろした。


「ーーこれが…最後の墓参りだ…」


「ーーもう直ぐ…俺達も逝く……」


その言葉を手向け代わりに送り、二人の老人は立ち去った。



数日後ーーその二人の老人はこの世を去る。


互いに享年67。


姓名は韓狼牙と呂百鬼。


幾多の戦火に身を投じたつわものの死に顔は、その壮烈な人生に反して穏やかなものだったーーと後世に伝わっている。











ーーここは何処だ?俺は何者だ?ーー


何もない白い空間。


その中で“彼”は目覚め、自身は何者なのかを思い出そうと頭を働かせる。


ーー俺は……そうだ……俺はーー


記憶の断片がパズルのように当てはまっていきーー自分が何者かを思い出した時、彼を呼ぶ声が聞こえた。


ーー隊長っ!!どんだけ待たせりゃ気が済むんすか!!?ーー


ーーまぁまぁ伍長……閣下……もとい隊長も色々と大変だったんだから。……全員揃ったか?副長も来てますね。…では…4列横隊集まれ!!ーー


号令と共に数多の足音が響き渡りーーやがて足音が途切れた。


ーー番号……始めっ!!ーー


ーー1っ!!ーー


ーー2っ!!ーー


野太い男達の声が数を刻んでいく。


ーー29ッ!!ーー


ーー30ッ!!ーー


ーー1欠ッ!!ーー


番号の呼称が終わった瞬間、ひとつの足音が踵を合わせた音を響かせる。


ーーBLACK WOLF 総員120名!!欠員なし、集合終わり!!ーー


ーー俺達を合わせれば122名……やっと総員集結だーー


自分の傍らで軽口を叩く男の声がした。


それに彼は微笑みを浮かべーー眼前に居並ぶ声の持ち主達へ声を掛ける。




「ーーさぁ……行くぞ野郎共。俺についてこい」

まず、約4年間に渡りましてお付き合い頂いた読者の皆様に御感謝申し上げます。



和樹達の物語はここで終わりますがーー空白の約40年間も和樹と将司が死没するまで期間がありますね。


その間に何があったのかをいずれ書けたらなぁとーーというか書きます。


あ、でも“なんでも屋”も書かないとーー


2015年7月27日 山形県において

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