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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第十部:Operation Vigrid
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ー戦友達の魂は常に我等と共にー

後送された負傷兵達が地鳴りを聞いた時、彼等は敵に回り込まれたと考え、最後の悪足掻きをする為に配分された手榴弾の安全ピンへ指を掛けるか、拳銃に手を伸ばした。


それが誤りだと気付いたのは接近してくる軍勢の先頭に翻る牙門旗を見てからだ。


曹、劉、そして孫の牙門旗を見た瞬間、彼等は自分達の役目が終わったと察して手榴弾や拳銃を置いて力を抜いた。


「ーー戦況は!?どうなっているの!?」


馬上から華琳が隊員へ声を掛けて来る。


「…先程…隊長が総攻撃の為、突撃の命令を下達しました……まだ戦っています…!」


「判ったわ!!良く耐えたわね!!後は任せなさい!!春蘭!!」


「はっ!!私に続け!!敵を喰らい尽くすぞ!!」


閧の声を張り上げて曹魏の騎馬隊が右翼から突撃を開始する。


「ーー良う耐えた!!良う耐えたぞ!!」


「ーー皆さん…!!」


孫策軍の諸将が横たわる隊員達へ労いの言葉を掛けながら次々に軍勢を引き連れて左翼へ回り込んで行った。


それを見た前田一曹は、勝った、と素直に思い、ついで猛烈にタバコを吸いたい衝動に駆られた。


和樹達が死兵となって正面の敵を食い止めている。


敵は正面に気を取られている。その横っ腹を両翼から喰い破り、後軍と分断すればーー敵軍は瓦解する。


「ーー終わった………」


何万もの将兵が直ぐ真横を突き進む軍装や軍馬の蹄の音が響く中、それに掻き消されるように一曹が呟いた。


「ーー前田さんっ!!」


安堵で意識が遠退きそうになった瞬間、誰かが自分の名前を呼び掛けたのを聞き付け、一曹が意識を浮上させる。


「ーー前田さんっ!!大丈夫ですか!!?」


「……あぁ……一刀君か…」


馬から飛び降り駆け寄って来る人物の名を乾いた唇と掠れた声で紡いだ。


「ーー前田様!!御容態は!?」


「……あれ…なんで盛坊がいるんだ…?」


「徴兵に応じて参りました!孫策様からここで皆様の看護をするよう仰せつかりました!!」


「…和樹さんに怒られるぞ……」


苦笑しながら一曹が身体を起こそうとするーーが、力が入らない。


「悪いけど……起こしてくれない?力が入らないんだ…」


要望に応える為、一刀と徐盛が両脇を支えて一曹の上半身を起こしてやった。


それに礼を言うと一曹は彼方ーーまだ和樹や戦友達が戦っているだろう戦域へ視線を向ける。


「この戦は決した……出来るだけ敵の数は減らしたよ……後は主力の連合軍が敵の横っ腹を突いて腸を食い散らかせば…敵は壊走する」


そう二人へ一曹が言い聞かせていた時、突然、周囲から銃声が鳴り響き始める。


驚いて一刀と徐盛が銃声が響いた方向へ視線を向けるとーー口に拳銃の銃口を銜えたまま仰向けになって息絶えた一人の隊員がいた。


「………え?」


一発の銃声を合図にしたかのように続き様、何発もの銃声が鳴り出した。


大きく開けた口へ銃口を突っ込み、躊躇なく銃爪を引いて脳幹を撃ち抜く者。


もう自分で銃爪を引く力すら残っていない戦友に頼まれ、胸へ銃口を押し当て、銃爪を引いて心臓を撃ち抜き、その後を追うように自分も銃口を口へ突っ込む者。


互いの片手に銃剣を握り、空いている腕で相手の肩を抱き、心臓へ切っ先を突き刺して倒れる者達。


続々と重傷を負った隊員達が自決していく様を一刀や徐盛、そして取り巻きの将兵達も為す術もなく呆然と見詰めていた。


6名が先に逝ったのを見届け、一曹は彼等へ軽く敬礼すると傍らに置かれた拳銃へ手を伸ばそうとする。


「ーーだ、駄目です!!」


拳銃に手を掛けた時、この後に彼が何をするか察した一刀が一曹を思い止まらせる為、拳銃の上へ手を重ねた。


「もう直ぐ戦いは終わるんです!!それなのに自分の命を絶とうだなんて絶対に駄目です!!」


「前田様!どうか思い止まって下さい!!」


自分よりも年下の彼等が必死になって自決を止めようとしている。


その姿を見て一曹はふっと微笑み、拳銃を掴んでいた手から力を抜いた。


「ま、前田さん……?」


「……悪いけど水筒取ってくれないかな?そこの弾帯に付けてあるから」


「わ、分かりました!」


一曹から離れ、彼から少し離れた所に置かれた弾帯から水筒をカバーから外そうとしていた時、徐盛が悲鳴にも似た絶叫で一曹の名前を呼んだ。


それを聞いた一刀が振り向くとーー


「ーーぐっ……ふぅっ…ッ!!」


ーー戦闘服の前を留めていたボタンを引き千切った一曹が自身の傍らに置いていた愛刀の鞘を抜き払い、その白刃を自分の腹へ突き立てていた。


「ーー前田さんっ!!」


それを見た一刀がカバーから外した水筒を地面へ落とし、彼へ慌てて駆け寄る。


一曹は荒い呼吸をしながらも血走った双眸を見開きつつ自分の腹へ突き立てた愛刀の切っ先を更に深く刺し入れ、脇腹へ向かって刃を回す。


「ぐぅぅぅっ……!!…あがっ……ぐっ…!!」


「前田さん!!なんで…なんで…!!」


涙声になり、滂沱の涙を流しながら一刀が彼の肩に手を遣って揺すりつつ問い掛ける。


「…敵の…ぐっ…脊髄に…!!…下半身が…麻痺して戦えない…!!…そんな傭兵…和樹さんだって…!!」


「違う!!そんな事ない!!韓甲さんだって悲しみますよ!!」


「…あの人は…泣かないよ…!!……でも…!!」


ーー半長靴磨きが上手い奴がいなくなって残念がってくれたら良いなぁーー


心中で呟き、一曹は自分の血に染まった愛刀を引き抜き、顔を除かせた腸が飛び出た切断面の少し上に再び刃を突き立て腹を切っていく。


脂汗が流れ、呼吸は更に荒くなる。


遠退く意識を止めながら一心不乱に腹を切り、再び刃を引き抜くと三度、愛刀の切っ先を突き刺した。


腹を切り終え、愛刀を抜いた一曹は仕上げに自身の首へ刃を押し当てーー最後の力を振り絞って頸動脈を切り裂いた。


飛び散った血が一刀や徐盛の顔に掛かる中、一曹の身体から力が抜け、愛刀を握っていた腕がダラリと地面へ落ちる。


「………終わ…っ…た……全…部……お…わ…っ……ーーーー」


ーー呼吸が止まり、見開かれたままの双眸の瞳孔が開く。


絶命したのを察し、一刀は骸となった一曹の身体を抱きかかえつつ溢れる涙を流しながら彼の瞼を閉じてやる。


ーーその死に顔は微かに笑っているようだった。

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