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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第十部:Operation Vigrid
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御感想に感謝です。



連日の激戦に次ぐ激戦で兵士達は疲労困憊に達していた。


夜中だけは、せめて少しでも休息を取りたいと彼等は塹壕や窪地の壁、もしくは仲間の身体に寄り掛かり静かな寝息を立てている。


「ーー曹長」


「ーーはっ」


「中隊を起こせ、静かにな。三中隊や後方にも報せろ」


「…了解……」


全滅した第二中隊に代わり、最前線の守備へ就いた朴中尉が傍らの曹長へ指揮下の中隊や他の中隊を起こすよう命じた。


「ーー第一中隊 曹長より各員へ。兵隊を静かに起こせ。戦闘準備をさせろ」


携帯無線機へ曹長が静かに隊員達へ通達すると他の中隊長、小隊長、分隊長達が掌握下の兵士達を揺り起こす。


戦闘配置についた旨を知らせる報告が無線で飛び交う。


それを確認した中尉が携帯無線機へ向け、静かに声を掛ける。


「ーー第一中隊長から砲兵へ。照明弾を上げろ。座標CF09、急ぎ撃て」


通信を終え、中尉が小銃の床尾を肩へ宛がい、照門を覗き込んだ。


ややあって、指定した座標の上空に撃ち上げられた照明弾の傘が開く。


照らし出された光景を見た中尉はほとんど反射的に叫びながら小銃の銃爪を引いていた。


「ーー敵襲!!撃ちまくれぇぇぇ!!!」


昼間に戦線を突破出来ないなら夜間、とばかりに五胡が数万の兵を送り込み夜襲を仕掛けて来たのだ。


「ーー先程の座標へ火力支援!!効力射、効力射だ!!」


中尉が携帯無線機へ怒鳴りながら小銃を撃ち続ける。


他の兵士達も射撃を始め、撃ち出される曳光弾が束となって一直線に襲撃を掛けて来た五胡軍へ襲い掛かる。


「ーーまぁ…普通の考え方だわな……」


「ーーだが、これで夜襲も効果がないと敵も悟った。次は総攻撃を掛けて来る。一気呵成に戦線を破りに来るぞ」


ーー不意に銃声が止み、夜の静寂に射撃の余韻が残った。


「ーー中尉。夜襲を掛けられ、それを撃退した以上は次は総攻撃だ。明日は朝から忙しくなるぞ」


〈ーーえぇ間違いなくそうでしょうね。隊長、残弾の全配分を具申します〉


中尉が和樹へ残った全弾薬を兵士へ配分する事を具申した。


これは即ち次の戦闘が決戦ーーこの戦線を守る和樹以下の兵士が捨て身で戦闘に臨むという事だ。


「ーー意見具申を承認する。ただちに弾薬と糧食を配分させる…それが終わり次第、交替で休め」


〈了解ーー〉


交信が終わり、和樹はタバコを銜えて火を点けた。


将司が後方の弾薬集積所で待機していた兵士達に弾薬や糧食を各中隊へ配分するよう伝えている様子を眺めつつ紫煙を吐き出す。


手を突っ込んでいたポケットから無言で彼は何かを引き摺り出した。


それは隊員達が戦闘服の左腕の袖に縫い付けていた逆三角形のワッペンである。


部隊の旗に描かれた黒い狼の絵柄の上にはBLACK WOLFの部隊名の刺繍が施されており、その絵柄の下部には2nd Pt leader の文字が刺繍されてた。


PtはPlatoon(小隊)の略称であり、意訳すれば第二歩兵小隊長という事になる。


つまりは第一塹壕で戦死を遂げた少尉のモノだ。


戦闘が一段落した後、奪還した第一塹壕では二個中隊の手空きの人員で遺体や武器の捜索と収容が実施された。


だが敵味方問わずに砲撃を加えた為、武器類は再使用不能なまでに破損しており、遺体も同様に散々なモノだった。


少尉の遺体も結局は発見出来なかったーーが代わりにこのワッペンが縫い付けられた戦闘服の袖と一緒に千切れた左腕だけは回収出来たのだ。


血に染まったワッペンをぼんやりと眺めた後、和樹は溜め息を溢し、それをポケットへ捩じ込んだ。


ジジッとタバコが鈍く燃える音を奏でる中、和樹が唐突にレッグホルスターへ納めた拳銃の銃把を軽く握りつつ振り向く。


「ーー誰か?」


暗がりの向こうに人の気配と足音がした。


誰何すると向こうから孫策軍斥候と答えが返って来た。


「ーー声のする方へ」


警戒を解かず和樹が彼我不明の者へ命じた。


既に初弾は装填されている。後はセイフティを解除し銃爪を引くだけの愛銃に手を掛けつつ目を細めて相手を待つ。


ーー姿を現したのは確かに孫策軍の軍装に身を包んだ兵士だった。


礼をされ、それへ答礼すると兵士が声を掛けて来る。


「孫策様より戦況を見聞するよう命じられ罷り越しました。戦況は如何でしょうか?」


「見ての通り散々だ。現在の所、ウチの隊員も含めて戦死は135名。一個中隊は既に壊滅した。良く戦線が保ててると自分でも不思議に思う」


タバコを口の端に銜えながら和樹が淀みなく答える。


それを余裕の姿と見たのか斥候の兵士が幾分か柔らかな声音で更に質問して来た。


「連合軍の再編まで今少しです。それまで持ちますでしょうか?」


「いや、おそらく明日にはここにいる者達全員が屍を晒すだろう。連合の勝利の凱歌を聞く事は出来そうにない」


落ち着き払った姿で答える和樹に斥候の兵士が困惑する。


「で、ですが損害はまだ…!」


「あぁ確かにまだ戦う余力は残ってる。残ってはいるが……明日には敵が総攻撃を仕掛けて来るだろう。そうなれば戦線は崩壊だ。持ちこたえるのは不可能に近い」


「どうなさるおつもりですか…?」


新たな問い掛けに和樹は微かに口角を吊り上げた。


「最後は敵中に総ての残存兵力をもって突撃することになってる。安心しろ。全滅するとしても最後の瞬間まで、最後の一兵となるまで敵の進撃を遅滞させてみせる」


タバコの紫煙を細く唇の端から吐き出した和樹が斥候へ答えを返す。


その姿を見てなにも言えなくなった斥候だったが、喉の奥から絞り出すように声を発する。


「なにか…孫策様達にお伝えする事はございますか…?」


訣別の言葉を預かるという事を暗に告げられ、和樹は少し考え込んだ。


ややあって伝える内容を纏めた彼は改めて斥候へ視線を向ける。


「では二つほど頼みたい。大切な兵を失った事をお詫びすると同時に遺族へ特別の御高配を、と」


「…確かに…承りました。もうひとつは?」


短くなったタバコを携帯灰皿へ放り込み、それをポケットへ押し込んだ後、和樹は独り言のように呟いた。


「約束を守れない事をお許し願いたい……以上だ」


「…畏まりましてございます。韓将軍以下に武運の長久があらん事をお祈り申し上げます」


「ありがとう、痛み入る。…さぁ…行け」


「……失礼致します」


踵を返した斥候へ軽く頷くと和樹は、明日は血で血を洗う事になるだろう最後の戦場へ視線を向けた。





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