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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第十部:Operation Vigrid
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『友よ。逆境にある時こそ常にこう叫べ。「希望がある、希望がある、まだ希望がある」と』

ーVictor-Marie Hugo『言行録』Actes et Parolesよりー





「ーーフェン少尉、参りました」


五胡の騎兵隊を撃退した日の夜ーー時刻が2300を過ぎた頃、連絡通路を通り、各塹壕の最後方に所在する指揮所へ辿り着いたのは黒狼隊で第二歩兵小隊を預かっていた少尉だった。


彼は右肩に吊っていた小銃のスリングベルトを左手で押さえつつ空いた手で和樹と将司へ敬礼した。


「ーー忙しい時に呼び出して済まん。掛けてくれ」


答礼を済ませた和樹が並べた空いた弾薬箱の上に板を乗せた椅子代わりのそれへ腰掛けるよう少尉に勧める。


「第二中隊はどうだ?」


「幸い、戦死者はゼローーありがとうございます」


報告を促しつつ将司がスチールのマグカップへ注いだコーヒーを彼へ差し出した。


礼を述べた後、コーヒーを一口啜り、それを眼前の作戦図が敷かれた簡易の卓上の端へ置き、報告を続ける。


「負傷者に関しては2名。いずれも焼けた銃身に触れて火傷をしただけです。…今日の交戦では8000を撃退しましたが……遅かれ早かれ、敵の大攻勢が始まりそうな雰囲気があります」


「お前もそう思うか?」


コーヒーを啜りながら和樹が少尉へ視線を向ける。


「はい。早ければ明日にでも始まりそうな気が。……確かに数千や数万ならば火力に勝る我々が敵を撃退出来るでしょう。しかしながら数十万もの大軍を一度に相手するとなると………撃退は難しくなります」


「“難しくなる”か……不可能とは言わんのだな?」


和樹の問い掛けに少尉は首肯した。


「自分が考えている事と隊長が考えている事は大差ないでしょう。だからこそ自分をお呼びになったのでは?」


「ーーーー」


少尉の言葉に和樹は押し黙った。


ややあって彼はマグカップを卓上へ置き、少尉に向き直る。


「ーーファン、やってくれるか?」


本名である潘の姓で呼ばれた少尉は薄く微笑を浮かべつつ和樹へ視線を向けて頷いた。


「ーーお任せを。必ずや“死守”致します」









(ーー傭兵になってからロクな事ねぇな)


と心中でボヤきながらも前田一曹は小銃の照門を覗き込み、押し寄せて来る敵将兵へ照星を合わせ短連射を繰り返しながら撃ち倒す。


最前線の第一塹壕の底は足の踏み場がないほど空薬莢が散らばり、その上へ一曹や兵士達が射撃した薬莢が新たに溜まっていく。


「ーー弾が切れた!!」


「ーー弾!誰か弾をくれ!!」


押し寄せる敵の歩兵を食い止める為、緩める事の出来ない弾幕。全ての兵士や隊員の指が銃爪に掛かりっぱなしである。


「ーーちっ!第二中隊第一小隊長から指揮所へ!!敵が阻止線に辿り着いた!!よじ登ろうとしてる!!火力支援を要求する!!」


弾幕と火線を掻い潜り、敵歩兵の一隊がとうとう有刺鉄線にまで辿り着き、乗り越えようとしている様を発見した前田一曹が指揮所で全隊の指揮を執っている和樹達へ連絡する。


〈ーー了解。一小隊は阻止線付近の敵を優先して掃討。砲迫による射撃を実施する。破片に注意せよ。ーー砲兵小隊、撃ち方用意〉


「ーー第一小隊!!阻止線の敵を叩け!!撃ちまくれっ!!」


前田一曹が銃声の音に負けぬ大声で指揮下の小隊員へ命令すると全兵士の銃口が有刺鉄線付近に群がる敵兵へ向けられーー鼓膜が破れそうな勢いで数多の銃声が響き始める。


「ーー砲弾来るぞっ!!」


大気を切り裂く鋭い音を前田一曹の耳が捉えた。


弾着を小隊に報せる為、彼が大声で叫んだ瞬間、群がる敵将兵の後方で一発の砲弾が落ちた。

突撃していた五胡の歩兵隊が弾着の破片や爆発で吹き飛ばされ、四肢のいずれかが宙に舞う。


「ーー修正射必要なし!!効力射願う!!」


見事に敵の一隊が吹き飛ばされたのを観測した前田一曹が携帯無線機へ向け、続けての効力射を要請した。


有刺鉄線付近に群がる敵歩兵を掃討する為、射撃を続行していると阻止線の後方に断続して砲弾が着弾していく。


弾着で次々と敵部隊が殲滅されていくのを眼前に捉えながら前田一曹や各分隊長達がサスペンダーのリングから手榴弾を取り、ピンを抜いてだめ押しとばかりに投擲する。


土煙が晴れると火力集中の凄さを物語るように有刺鉄線を掴んだまま垂れ下がる敵兵の肘から先が千切れた腕があった。


ーーそれでも敵の大攻勢は止まる事を知らず、新たな敵部隊が迫っていた。





(ーー遅かれ早かれ突破されるな)


最前線の第一塹壕の守備を担った第二中隊指揮官のフェン・ライ少尉は阻止線へ迫る敵将兵へ射撃を続行しつつ、どうするかを考えていた。彼は段々と処理能力が追い付かなくなって来た事を察していた。


「ーー少尉!!敵が有刺鉄線に突っ込みました!!」


「ーーくそっ!」


分隊長からの報告を聞き、指し示された方向を見れば吶喊の勢いを殺さず、敵兵が次々と有刺鉄線へ覆い被さるように飛び込んでいた。


「こいつぁヤバい…こいつはヤバいですよ!」


単なる馬防柵とは違うと察した五胡軍は破壊出来ないのであれば兵士を板代わりにし、味方が突入するための通路にしようと考えたのだ。


実際、有刺鉄線に覆い被さった兵士の背中を踏み越えて、阻止線を突破した将兵が塹壕に向かって突入して来る。


「第二中隊!!総員、着剣!!白兵戦に備えろ!!」


「着剣っ!!」


「着剣!!」


「第一小隊、着け剣っ!!」


中隊長の命令が下り、機関銃を除いた歩兵や隊員達が着剣を逓伝していき、腰から鈍く光る銃剣を抜いて銃口へ装着する。


機関銃が唸りを上げ、迫り来る敵将兵の数を減らそうと弾幕を張り続けた。


その弾幕と火線を掻い潜った敵兵が次々と第一塹壕へ飛び込みーー血みどろの白兵戦が展開される。

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