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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第十部:Operation Vigrid
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ご感想に感謝です

ーーそれは腕時計の針が丁度1200を指そうとしていた時だった。

部隊へ昼食を摂らせる為に糧食配分の命令を和樹が出そうとした時だ。


〈ーー外哨長より本隊へ!!外哨が陣地の真正面に騎兵の大軍を捉えた!!8000ほどが接近してくる!!距離は約3km!!〉


「ーー了解。全外哨は原隊復帰し交戦に備えろ。外哨長は人員を掌握しつつ同じく原隊復帰」


〈ーー了解〉


「中尉、口頭と警笛で交戦用意を逓伝しろ」


「了解。敵接近っ!!交戦に備えろ!!」


甲高い警笛の音と次々に口頭で逓伝されるのは五胡軍が接近して来るという報せ。


「ーー戦闘配置!!機関銃手、小銃手、配置へ!!備えろっ!!」


各指揮官の命令で銃火器を所持した呉兵達が塹壕の中を駆け回り、自分に与えられた持ち場に付く。


「弾込めっ!!」


弾薬装填の命令が下された。


小銃手は弾薬盒から挿弾子、機関銃の給弾手は弾薬箱から挿弾帯を取り出し、遊底を操作して初弾を薬室へ送り込んだ。


「ーー彼我の距離が300になったら一斉射撃だ。合図するまで待たせろ」


「ご安心を。事前に通達させておりますのでーーでは自分も中隊の指揮へ戻ります」


「任せた」


双眼鏡を覗き込みつつ和樹が声を掛けると中尉が軽く挙手敬礼を済ませ、指揮下の兵士達が隠る塹壕へ向けて駆け出した。


「ーー障害や塹壕の構築が間に合ったのは幸い、だな」


「あぁ……俺の予想より一日早い会敵だ。やはり行軍の速さがこの時代だと異常極まりない」


「その筆頭の俺等が言う台詞じゃねぇな」


中尉の代わりに傍らへ立った将司が軽口を叩きながらも和樹と同様に双眼鏡を構えた。


「ーー距離が1000を切ったな」


「敵もそろそろ俺達が布陣しているのに気付くだろう。そして……突撃の為に密集した陣形を構成する」


ーー彼我の距離が1kmを切った所で五胡軍の騎兵隊に動きがあった。


「ーー密集し始めたな」


「あぁ……しかも行き足を止めずに馬を走らせながら……流石はガキの頃から馬と生活してるだけあって馬術の練度が半端ねぇ」


密集した突撃の隊形を作った五胡軍が徐々に馬の足を速めながら塹壕へ向かい接近して来る。


塹壕を構築する際、外へ投げ捨てた小石が揺れ出すのを見て呉兵達が生唾を飲み込み、または冷や汗を流す。


「俺の想定通りなら300で突撃開始……さて、どうなるか」


幾多の馬の蹄の音が野に轟く中ーー400mを過ぎた所で敵の足が一気に速まり、騎兵隊から雄叫びが上がった。


「ーー襲歩になった…来るぞ。五胡の騎兵共の突撃が」


「一体どんぐらいの敵対勢力をアレで踏み潰して蹂躙したんだろうなぁ……」


「さぁな。…確かに当代において連中は世界最強の軍団だろう。精強な騎馬軍団を有し、圧倒的な吶喊力で敵の戦列を掻き乱し、敵を蹂躙し、敵の財産を奪い尽くし、女子供を犯す。侵略者の鑑みたいな存在だ」


「そんなおっかないオジさん達が300万って……ブルっちまうっての。……いや、俺達もそろそろ良い歳のオッサンかもだけどな。三十路も近いし」


二人は軽口を叩きつつも双眼鏡から眼を離さずに突撃の様子を観察する。


そして和樹が携帯無線機へ声を掛けた。


「ーー今だ、殺れ」


瞬間ーー敵騎兵隊の鼻先で数多の爆発音が響いた。


「ーー騎兵の特徴は高い攻撃力と皆無に等しい防御力、正にその通りだ」


「秋山好古……日本騎兵の父の言葉だっけ?」


30個のM18 クレイモア地雷による一斉起爆の効果は絶大だったーー特に集団で真っ直ぐに突撃して来るならば尚更に。


内部へ収まっていた700にも及ぶボールベアリングが一斉に最大加害距離の約250mまで撃ち出され、加害範囲60°の扇状に撒き散らされたのだ。しかも30個もである。


撒き散らされた数多の散弾は愚直なまでに一直線に突っ込んで来る五胡の騎兵隊へ散弾の壁と化して立ち塞がったのだ。


突撃の先頭を駆けていた騎兵達は撃ち出されたボールベアリングによって苦楽を共にして来た愛馬と同様、身体を散弾で穿たれ断末魔の悲鳴を上げる暇もなく絶命した。


爆発音によって暴れる馬を制御出来ず、または自身か愛馬が散弾で負傷し堪らず落馬した騎兵も出ている。


もはや突撃を敢行する余裕はない。


「一次攻撃始め。目標、前方300で停滞する敵騎兵隊。撃ち方始め」


「目標、前方300で停滞する敵騎兵隊。全隊、撃ち方始めっ!!」


和樹の命令を復唱しつつ副官の将司が携帯無線機に向かって吠えた。


「ーー撃ち方始めっ!!」


「ーー撃ちまくれぇぇえっ!!」


「ーー撃ち方始めっ!!薙ぎ払え!!」


各指揮官達の号令一下、全部で3層の塹壕から突き出された数多の銃口が一斉に火を噴いた。


「ーー効果確認。続けて二次攻撃。各個に撃ち方始め」


「各個に撃ち方始めっ!!」


鼓膜が破れるのではないかと思う程の銃声の坩堝。そして濃厚すぎる硝煙の臭いが容赦なく鼻に突き刺さる。


「ーー撃ち方止め」


「ーー全隊、撃ち方止めっ!!」


相変わらず双眼鏡を覗き込みながら和樹が新たに命令を達した。


命令が出て数十秒後、それまで激しく鼓膜を震わせていた銃声の轟音が途切れる。


「ーー…緒戦の戦果としてはまずまずか……悪くない」


「2000…は仕留めたな。残りは潰走してる。一応聞くけど追撃は?」


「すると思うか?」


双眼鏡をやっと眼から離した和樹が傍らの副官へ横目を遣りながら軽く口角を吊り上げつつ声を返した。


もはや双眼鏡で確認せずとも戦果は一目瞭然だった。


土煙と硝煙が消えた先にあったのは五胡の騎兵達の屍の山。

自慢の騎馬による突撃も、彼等の誇りであっただろう練磨に練磨を重ねた騎兵運用も無慈悲なまでに壁と化した銃弾が撃ち砕いた。


「ーー弾薬再配分。消費した分の弾薬を補充させろ。それと飯も配分だ」


「ーー了解。…敵はこっちに食い付いて来るかねぇ?」


「そうでなければ困る。この作戦は純粋な迎撃戦。こうなっては戦車もただの砲台だ」


生き残った騎兵達が元来た道を尻尾を巻いて敗走する様子を眺めると和樹が塹壕を見渡す。


これまで機動力と火力で敵を圧倒していた戦車3輌は掩体の中に車体の半分ほどを埋めていた。


「ーー俺達が餌となって敵を引き付け、連合軍の再編と逆襲まで時間を稼ぐってのは仕方ねぇけど…あぁなっちゃ戦車も形無しだな」


「ーー戦車が歩兵にとって脅威なのは火力や装甲の厚さ、機動力以上に見た目の巨大さだ。人間も動物。自分よりデカい存在には恐怖を感じる。あんなのを見て攻勢が消極的になったら元も子もない。俺達はここで敵に腸を食い散らかされなきゃならんのだ。隠す他ない」


独白を重ねながら和樹は胸ポケットからタバコを取り出して一本を銜えると火を点ける。

それを見て将司もタバコを銜えて火を点け、紫煙を吐き出した。


「…何日持つ……?」


「判らん…敵の総攻撃が始まれば、この戦線が崩壊するのは確実だ。処理能力が追い付かん」


「敵次第だな。…もうちょい遊んでおきゃ良かった…火遊び、とかさ」


「そうかもな……。航空支援と戦車による砲撃は最後の最後まで取っておくぞ。敵に手の内を知られたくない」


「迫撃砲は?」


「状況によって俺が命令を出すーー…というか、どれも俺が達しているだろう。話を聞いてなかったのか?」


「悪ぃ」


副官は悪びれもせず、軽く肩を竦めながら紫煙を吐き出した。


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