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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第十部:Operation Vigrid
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和樹が姿を現した瞬間、中尉が声を張り上げた。


「ーー部隊長、臨場!!各中隊、気を付けぇ!!」


「「「気を付けぇ!!!」」」


彼の命令は良く通り、各中隊の指揮を任せられた黒狼隊の将校達が一斉に指揮下の兵士達へ命令を下す。

それに応え、1000を越える兵士達が一斉に靴の踵を合わせる音を鳴らしつつ不動の姿勢を取った。


「ーー部隊長に敬礼!!」


「頭ぁぁぁぁ右っ!!」

「頭ぁぁぁぁ中っ!!」

「頭ぁぁぁぁ左っ!!」


各中隊の先頭に立つ指揮官達は挙手敬礼を、その指揮下の兵士達は不動の姿勢を保ったまま頭だけを和樹へ向けた。


それに応え、高台へ立った部隊長である(この規模になったからには連隊長と呼ぶのが正しく思える)和樹が右手を額へ翳す挙手敬礼で答礼。


一人一人へ応えるように居並ぶ指揮官、兵士達へ答礼していきーー やがて正面へ頭を戻すと、腕を下ろして不動の姿勢となる。


「「「ーー直れぇっ!!」」」


指揮官達の号令で頭を向けていた兵士達も直立不動の姿勢へ戻った。

それを見て、和樹は息を吸い込む。


「ーー連隊はこれより五胡軍迎撃の為、会敵が想定される地点に向け前進する!!休め!!」


「「「ーー休めぇっ!!!」」」


指揮官達の号令一下、各中隊の兵士達は歩兵銃を立て銃の姿勢から僅かに銃先を前へ突き出し、肩幅ほど足を開き、左手を後ろ腰に回し、休めの姿勢を取る。


その姿を見て、それなりの練度に達していると判断した和樹が内心で安堵の溜息を吐いた。


「ーーこれより前進するが先ず始めに宣告しておこう。我々の敵は五胡の300万の大軍勢だ。はっきり言って、たかが一個連隊がーーそれも練度不充分に加え、急拵えの部隊がこれほどの敵軍の撃破を目標とするのは不可能だ。ーーよって貴様等には悉く戦死してもらう事になる!!」


口頭一番、和樹はよりにもよって戦意と士気を落としかねない事を大声で宣言した。それを聞いて中隊長達は驚愕し、兵士達は顔を真っ青にする。


「本来であれば檄を飛ばさなければならぬだろう!だが、この期に及んで無意味な言葉は貴様等の胸には響かないだろうと判断し偽りのない事を述べた次第だ!!」


彼等の表情を無視し彼は尚も出撃前の演説を続ける。


「ーー話は変わるが、俺の先祖は護国の為に悉く戦死したと聞いている!そんな先祖を持つ俺が根なし草の傭兵とは彼等も驚いているだろう!ーー約70年前、俺の祖国は圧倒的な国力差がある大国とその連合との間で激戦を繰り広げた!序盤こそ勝利を掴んでいた祖国だが度重なる敗北により追い詰められ、各方面で軍が玉砕するようになった! 必死に敵軍の進撃を遅らせる為に、押し寄せる津波のような敵軍を防ぐ為に、彼等は肉体を防波堤とし最後の一兵となるまで戦ったのである!」


彼が唐突に語り始めたのは日本がアメリカ等の連合国軍と激戦を繰り広げた太平洋戦争の事だ。


「何故そこまでして戦ったのか。領土の守護の為ーー確かに一理ある。自らが戴く主君の為ーーあぁ確かに主君への万歳を唱えながら敵の軍勢へ突撃していった。いずれも確かに有り得るだろう、だが俺はそんな綺麗な御題目の為に死んだのではないと思っている!!」


声を張り上げ、1000を越える兵士達に向かって演説を続けていると騒ぎを聞き付けた三国の将兵達が集まり出しーー大天幕の中からは各国の首脳達までもが顔を出した。


「では何故、死兵と化してまでも戦って散ったのかーーそれは自らの子孫達の為であると俺は考えている!子孫が民族としての誇りを失わないよう、そして子孫達が将来の夢を語り合える未来を残せるよう、彼等は死力を尽くして戦ったのだと思っている!!」


一層大きく声を張り上げた和樹は居並ぶ兵士達を睥睨しつつ尚も言葉を重ねる。


「遅かれ早かれ、我々は悉く死ぬだろう!だが敵の進撃を一刻でも、一日でも遅滞させれば三国の連合が五胡への反撃に打って出る時間を稼ぐ事が叶う!!ーーそして何より、あの世とやらで先祖達の前へ胸を張って進み出る事が出来る!俺は戦って死んだと!先祖の霊廟を護る為に戦って死んだと!いかなる宝玉よりも尊い存在を護る為に戦って死んだと!!」


生きる望みが断たれた事を最初に宣言され、眼が死んでいた兵士達の双眸が徐々に覚悟を決めた決意の色へ染まって行く。


「愛する故郷を!美しき山河を!!そして何よりも愛する者達を護る為に戦えっ!!貴様等は三国最強の兵!!その貴様等と共に戦える事は俺の誇りだ!!戦って共に死のう!!戦って戦って戦って、最後は敵中へ突撃し玉と砕けよう!!俺達は飢えた狼、狼に牙を剥く無謀を奴等の身体に刻み付けてやれ!!ここを通りたければ我等の屍を踏み越えて行けと奴等に教えてやれ!!ーーさぁいくぞ野郎共!!!」


和樹が演説を締めた途端ーーー指揮下の兵士達が、連合軍の将兵が腕を、武器を空へ突き上げ、雄叫びを上げた。

その幾万の雄叫びは鯨波となり遥か地平線の彼方まで届く勢いであったという。


「ーー各中隊長は集合せよ、今後の指示をする!!各小隊長、各分隊長は中隊長の代わりに指揮下の兵士を掌握せよ!!一時解散とするーー各中隊長のみの敬礼」


それぞれの中隊長達が和樹へ敬礼し、それへ答礼を済ませると彼は高台を下りてタバコを咥えて火を点け、紫煙を吐き出した。


「ーー隊長。各中隊指揮官、集合完了致しました」


「ありがとう中尉。作戦については事前に達した通りだ。間違いなく激戦になる。各中隊の残弾を掌握し、補給を欠かさぬよう努めろ」


「了解」


「重ねて指揮下の兵士の混乱にも注意するように……まぁ本物の死地へ入れば逆に混乱なんぞ起きないだろうがな。…現刻より一時間後、第一中隊から前進開始。同時にヘリと戦車も前進せよ。施設小隊はヘリに分乗し他中隊に先んじて前進。陣地構築と障害の構築を実施。第二中隊以下は第一中隊の後に続け……以上だ。質問?」


「「「なし」」」


質問事項等が無い事を和樹へ伝えると彼はそれに首肯した。


「各人は分かれて指揮下中隊の掌握に掛かれ。分かれ」


「「「分かれます」」」


敬礼と答礼を済ませ、中隊長達が踵を返した瞬間ーー


「ーー待ってくれ」


ーー和樹が全員を呼び止めた。


「隊長?」


「少佐、どうかなさいましたか?」


振り返った中隊長達が怪訝な表情を浮かべつつ和樹の様子を伺う。


「…あぁ…なんというか……その…アレだ……まぁ…」


彼には珍しく何度も言い淀む姿を見て部下達が更に疑問符を浮かべながら互いに見合う。


やがて和樹は深く溜息を吐き出しーー携帯無線機のチャンネルを開いた。


「ーー少佐より各員へ。…これは俺の独白だ…作戦には関係ないので気にしないように」


既に合わせられている周波数の向こう側にいるだろう部下達へ向け、そして眼前に居並ぶ部下達へ向けて和樹は言葉を重ねる。


「ー恐らくここからは激戦となり、お前達と直接顔を見て話をする機会はないだろう。だから……なんというか……うん……最後に言っておきたい事がある」


和樹が俯いて紡いでいた言葉を切りーーややあって顔を上げ、再び声を掛ける。


「ーーこれは部隊長として、そして俺個人としての言葉だ。…良くここまで俺に付き従ってくれた。礼を言う。お前達と出会えて本当に良かった…楽しかったよ。幾多の砲火に晒され、共に戦い、共に傷付いた。お前達は掛け替えのない戦友だ。死んだら地獄で再会しよう……伍長も首を長くして待ってる筈だからな……以上だ」


押し込んでいた送信ボタンを指から離し、和樹は深く紫煙を吸い込み、やがて吐き出した。


「ーー隊長」


不意に中尉が和樹へ声を掛けた。それを聞いて彼が視線を向けるとーー居並ぶ中隊長達が一斉に踵を鳴らして直立不動の姿勢となる。


「ーー貴方にお仕えする事が出来て光栄でした」


「ーー自分も誇りに思います少佐」


「ーー地獄で三度御会い致しましょう。その時はまた隊長の指揮下に入れて下さい」


〈ーー共に戦えて光栄でした隊長〉


〈ーー死んでもお付き合いしますよ、覚悟して下さい〉


〈ーー貴方となら地獄の底でも戦えそうです。何度でも隊長の指揮下に入りますよ〉


〈ーー次の戦地は地獄ですか。報酬は何処から持って来るのか考えておいて下さいよ?〉


中尉の言葉を皮切りに次々と和樹へ直接、また無線を介して掛けられる言葉の数々。


それらを聞き、彼は鉄帽を更に深く被りーー顔が見えないようにした。


「ーー感謝する、親愛なる戦友諸君。…俺も共に戦い、共に死ぬ事が出来る事を嬉しく思う……以上だ……作業に戻れ」


改めて和樹へ敬礼した中隊長達は答礼を待たずに駆け出した。


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