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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第十部:Operation Vigrid
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三国の決断、そして和樹の決断は−−

「−−連合軍の代表としてではなく、私個人の意見を述べさせて貰うわ。そんな物を使わせない。以上よ」


決然と言い切ったのは華琳だった。


それを見て和樹は意外そうに腕組みしつつ片眉を上げる。


「…ほぅ…意外や意外…貴女から、そんな答えを聞くとは。…後学の為にお尋ねするが…理由は?」


「これと言って何も。強いて言えば……何事にも勝ち方があり、そして終わり方がある、と言った所かしら」


「ふむ…」


「…まぁ貴方なら“どんな結末だろうと勝てば良い"と言いそうだけどね」


「良くお分かりで…まさしくその通り。その慧眼、恐れ入るばかりだ」


「明日の天気を予想するよりは簡単だと思うけど?…まぁ良いわ。この戦に勝って、再び私の覇道を始めるとしても使えない土地があると困るのよ…」


華琳は肩を竦めながら言い捨てると大天幕に集った諸将を見渡す。


「さて…私の意見に反対の者はいるかしら?いるなら手を挙げなさい………いないようね」


「……ふぅ……」


華琳と和樹が諸将を見渡すと全員が揃って首を横に振った。


彼はその様子に溜め息をひとつ吐き出し、床几へ腰を下ろす。


「…まぁ判ってはいた結末ですので特に感慨も湧きませんな」


「ねぇ和樹。…ちなみに聞くけど……もし私達が使用を許可したら……使ってたかしら?」


恐る恐る雪蓮が和樹に問い掛ける。


それを聞き、彼は彼女へ視線を滑らせつつ口を開いた。


「使いませんでしたな」


「威力が威力なだけに、かしら?」


「いえ…もっと根本的な事です」


「根本的…?」


和樹は首肯すると姿勢を正し、雪蓮を真剣な表情で見詰める。


とてつもなく重要な事なのだろうと察した彼女や、遣り取りを聞いていた諸将は、身構えつつ彼の言葉を待ち−−遂に和樹の唇が動く。


「−−第一、そんな物を持っていませんから」


「−−−………は?」


−−和樹の発した言葉が銃爪となり一瞬で空気が凍った。


「…あ〜…私…疲れてんのかしら?…ねぇ和樹…今、変な事が聞こえたんだけど……その…かく兵器だったかしら?それを持ってないって……聞き間違いよね?」


「伯符殿、御安心を。貴女の聴覚は正常です」


「そっかぁ…なら一安心だわぁ…」


「ちょっと待って下さい!!核兵器持ってないんですか!?でもさっき“ある、といえば策はある"って…!!」


「あぁ確かに言った。…が、俺はただの一言も“核兵器を保有している"とは明言していないぞ」


『……………あ』


そういえば確かに、と彼女達は満場一致かつ同時に思い出したとか。


「え?…じ、じゃあ…今までの勿体ぶった話は一体…?」


「なに……“もし"核兵器を保有していたら“もしかすると"この逆境を打開する切り札となるだろうなぁ…とな。そして保有していたら、この場に集った諸将は使用するか否か、どちらを選ぶか……とな。ぶっちゃけ希望的観測に縋り、ついでに好奇心が疼いただけだ。少しは気が紛れたかね?」


和樹の皮肉混じりの軽口に諸将と一刀は一斉に溜息を零す。


溜め息は“呆れ"から来るモノではなく“安堵"のそれである事は間違いない。


「傭兵とはいえ私も一人の戦術家だ。そんな最終兵器に頼るのは“最後の最後"だと決めている」


「……まだ最終局面を迎えていない、とでも?」


和樹が放った一言が華琳の琴線に触れたのか彼女が顔を上げ、改めて視線を向ける。


「最終局面?“まだ"始まったばかりなのに?“まだ"抵抗する意志と戦力を残しているのに?“まだ"戦えるのに?」


「…投了には早い…そういう事かしら…?」


「投了も何も……“まだ"対局は始まったばかり……巻き返す好機はいくらでもある」


「…詭弁…と言いたいけれど……ふふっ…そう思い込むのも悪くないわね。……ありがとう…和樹」


「光栄の至り」


芝居掛かった動作で華琳へ一礼した和樹が姿勢を正すと机上へ広げられた大陸図に視線を移す。


「−−まぁ冗談はここまでにして…本題と参りましょう。まぁ…策が“ある、と言えばある"というのは事実ですが」


「かく兵器の使用以外にあるというのかしら?」


華琳の問い掛けに和樹は首肯した後、説明をするため首に巻いたマイクへ手を遣ってボタンを押し込む。


「−−例の物を持って来い」


了解の返答が来た数分後、部下二名を伴い大天幕の入口を窮屈そうにくぐり抜けてやって来たのは補給・施設小隊を預かるシェーカル・シン少尉だ。


彼は敬礼を済ませ、和樹の前に進み出る。


「確認は終わったか?」


「一挺ずつの確認は骨が折れますが…半数は終わりました。しかしテストをしておりませんので…なんとも…」


「まぁ…大丈夫だとは思うがな。見せろ」


「はっ」


床几から立ち上がった和樹に部下が一挺の小銃を手渡した。


それは手に馴染んだAK-74ではない。


滑らかな木材の銃床にスラリとした銃身−−7.92x57mmモーゼル弾を使用するボルトアクション方式の小銃、Gew98だ。


和樹はそれの床尾を右肩へ宛がって構えてみる。


「……ボルトアクションに慣れていない所為か…なんとなく違和感があるな…」


「我々も狙撃手以外の連中はそうですがね。……で、御感想は?」


「悪くない。…Gew98を歩兵銃として1200挺、MG42−−機銃が100挺。総計1300挺。規模にして一個歩兵連隊は編制出来るな…」


烹炊長に伴われて来た隊員の手にはMG42が握られていた。


第二次大戦下、連合軍将兵に“ヒトラーの電動ノコギリ"と呼ばれた機銃である。


「実包150万発も確認しました」


「…了解した。…伯符殿」


「なに?」


小銃を部下へ返しつつ和樹は雪蓮へ声を掛けた。


「我々が教導した兵の内…1300名を自分に頂きたい」


「…なにをする気かしら?」


「五胡軍を迎撃し、連合軍が陣容を整えるまで足止め致します」


それを聞いた雪蓮は床几から立ち上がり和樹へと歩み寄った。


彼を見上げる雪蓮と彼女を見下ろす和樹の視線が互いに交差する。


「出来るの?」


「…必ずや」


返答を聞いた彼女が微かに首肯し、肩越しに背後の冥琳へ声を掛ける。


「冥琳、手配を」


「…任された」


「では自分達は準備を…」


「あぁ…」


烹炊長が和樹へ敬礼した。


彼が答礼を済ませたのを見届け、烹炊長は部下を伴い再び窮屈そうに大天幕の入口を潜り抜けて退出する。


「……中尉」


「はっ」


「…作戦計画を立てろ。貴様に一任する」


「…宜しいのですか?」


疑問が僅かに含まれた問い掛けに和樹は苦笑と皮肉を込めつつ言葉を発した。


「誰が立てようと……大筋は同じだろうさ」










数時間後−−外から数多の銃声が響く中、立案した作戦計画を冊子状に纏めた中尉が入口を潜り抜けて大天幕の内部へ足を踏み入れる。


「−−お待たせしました。御確認を願います」


足早に和樹へ歩み寄った中尉は彼へ自らが立てた作戦計画を手渡した。


それを受け取った和樹はページを捲りつつ、机上の地図や左腕に巻いた腕時計へ眼を落としながら読み進めていく。


−−やがて和樹は冊子を閉じ、それを机上へ置いた。


「………」


「……如何でしょうか?」


眉間に深い縦皺を刻みながら腕を組む和樹へ中尉が問い掛ける。


なにか不可解な点でもあったろうか、それともお気に召さなかっただろうか−−と中尉が不安に思っていると和樹の唇が綻んだ。


「…本当に…付き合いが長いのも考えモノだな…」


「……は?」


「いやなに……俺が考えていた作戦と、こうも完璧かつ完全に合致するとは……そう思ってな」


和樹は彼らしからぬ穏やかな微笑を浮かべている。


それを意外と感じたのか諸将−−果ては同席している孫呉の武将達までもが彼を注視した。


「…お誉めに預り恐悦至極−−と申したいのですが……実は一ヶ所、不備がありまして…」


「何処にだ?…作戦計画には見受けられなかったが…?」


ここです、と中尉は作戦計画を纏めた冊子の表紙を指差した。


−−そこには何も書かれていない。


「…作戦名か?」


「はっ」


「今まで作戦名なんて高尚なモノを考えた覚えがないんだが…」


「ついでに言えば…相棒はネーミングセンスも最悪だしな」


和樹の隣の床几に腰掛ける将司が皮肉を交えた軽口を放つ。


それに釣られて和樹と中尉の唇も僅かながら綻ぶ。


微笑を浮かべたまま中尉は胸ポケットからボールペンを引き抜き、それを和樹へ差し出した。


「折角ですので……」


「……そうだな」


和樹はボールペンを受け取ると机上へ置いた冊子を拾い上げ、暫し黙考する。


ややあって−−彼のペン先が表紙の上を迷いなく滑り始める。


書き終わったペンと冊子を傍らに侍る中尉へ返却すると彼は作戦名が書かれた表紙を注視し−−ポツリとその名を読み上げた。


「…Operation…“Vigrid"」


「…ヴィーグリーズ作戦、ね…。あぁ…悪くねぇ……つーか…相棒、大丈夫か?ネーミングセンスの悪さは何処に行った?」


「…相棒…何故そこまで真剣な顔で心配するんだ?」


「当然じゃね?」


「…………」


否定出来ないのか和樹が押し黙ってしまう。


それを見て中尉は苦笑を零していたが−−表情を真剣なモノへ戻し、居並ぶ諸将を見渡しつつ声を上げた。


「これよりヴィーグリーズ作戦の概要を説明させて頂きます。先に述べさせて頂きますが本作戦は−−」


ヴィーグリーズとは、ある場所の名前だ−−


「−−五胡軍と交戦する当該部隊……詰まるところ我々の文字通りの全滅をもって作戦成功と見做す事を計画に含めて立案致しました」


−−北欧神話において、神々と巨人との最終決戦(ラグナロク)が行われる戦場の名前である。





まぁ核兵器を使おうと思えば和樹なら神に注文して受け取れるんですけどね。


真剣に核攻撃を考えても『傭兵だが、これでも一人の戦術家』という−−まぁ珍しく(初めて)和樹が“戦術家"を自称しましたが、それが数少ない矜持なのかも。



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