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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第十部:Operation Vigrid
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批判が来そうだなぁ……




〜other side〜




益州の東端に位置する、とある邑で火の手が上がった。


土を盛って固めただけの粗末な城壁の上では劉備軍の将兵が眼下に押し寄せる五胡の大軍を迎撃する為、矢を放っている。


だが結局は1000名にも満たぬ兵力だ。


五胡軍からは、それを遥かに上回る火矢が放たれ、次々と邑の家屋へ突き刺さって行く。


「怯むな!!矢を射続けよ!!」


「もはや矢が尽き欠けております!!」


「ならば投石だ!!民が逃げ切るまでの時間を稼げ!!」


「−−城門が破られたぞぉぉ!!!」


必死の抵抗虚しく、とうとうの開門。


破った城門から五胡の騎兵、歩兵が雪崩を打って侵入して来た。


その報が齎された邑内は大混乱に陥る。


なんとか逃げ延びようと他人を押し退けて唯一の脱出路である別の城門へ辿り着こうと藻掻く。



−−その最後尾に五胡の騎兵隊が到達した。


一団の先頭を駆けていた騎兵は、避難民に遅れを取っていた年老いた老婆へ狙いを定め、槍を繰り出す。


穂先を胸へ深々と突き刺した騎兵は馬の脚を止める事なく老婆を引き摺り、ややあって槍を引き抜き、新たな獲物へ襲い掛かる。


避難民の掃討を騎兵に任せた歩兵達は火の手が回っていない家屋へ侵入し略奪を始める。


数名の歩兵が一軒の家屋の扉を蹴破って侵入すると内には三十路と思われる母親と、まだ十代の半ばを過ぎたか過ぎないかの娘が震えて縮こまっていた。


それを見付けた歩兵達は下卑た微笑を浮かべつつ母娘へ襲い掛かる。


男達の乱暴な腕が二人の身体を床へ押し倒し、悲鳴が上がるのを構わず衣服を破り裂く。



−−戦争の勝者の特権は殺戮、略奪、強姦。


それを体現しているかのように、邑では悲鳴と怒号が上がった。


−−否、この邑だけではない筈だ。


各地の邑も似たり寄ったりの状況である事は間違いない。



殺し、奪い、犯し尽くした五胡軍は次の侵略の為、更に東進を続ける。










荊州で睨み合っていた曹操軍、そして連合軍は五胡の大軍勢の侵攻の報を受け、一時停戦。


現在は大天幕の中で未曾有の国難にどう対処するか軍議を行っていた。


「−−各地の伝令の報告から推測される五胡の総兵力は約300万。主に私達の益州、そして曹操様が治める涼州、司隷、并州へ侵攻している模様です」


「−−ならびに各地の敗残兵や難民がこの荊州へ押し寄せ、食糧事情が逼迫しております」


五胡軍300万に対し、魏、呉、蜀の連合軍は敗残兵や国許の兵力を掻き集めて吸収したとしても100万を少し超える程度だ。


全軍が現在保有している糧秣等の事情も鑑みると、荊州へ避難する難民達へ分け与える程の余裕はない。


「−−加えて騎兵を中心とした五胡の進軍速度は異常です」


「−−進軍速度を推算しましたが我々、連合軍と敵の本軍が相対するまでの時間は……」


「もって五日……と言った所かしら?」


「…はい華琳様。五胡も最初から大軍勢で襲い掛かって来るとは考え難いと思われます」


「えぇ。まずは我々の兵力を探る為、数万単位の波状攻撃を仕掛け、威力偵察…と言った所ね」


なにもかも余裕がない。


物資、人員、時間までもが足りない。


華琳が溜息を吐くと、大天幕全体からも溜息が零れだ。


「−−皆、なにか意見や策はないかしら?」


僅かな希望を込めて彼女が見渡す。


−−良く良く考えれば現在、大陸の覇を競っている者達がこうして一堂に会するのは反董卓連合の時以来だ。


それに気付いた彼女は心中で微笑を零した。


「……冥琳、なにかない?」


「…正直に言えば…お手上げだよ、雪蓮」


「いっそのこと遮二無二、突撃しちゃおうかしら?」


「…まぁ…悪くはないわね」


「「「華琳様っ!?」」」


「冗談よ」


雪蓮が零した策とも言えない策に華琳が同意したのを見て、魏の幕僚達が顔を青くした。


それに彼女は真顔で冗談である事を告げる。


「でもさぁ…玉砕覚悟の突撃しかなくない?この状況だと」


「……つい先刻までの我々と同様に背水の陣で掛かろうと言うつもりかしら、孫策?」


「別に皮肉ってる訳じゃないわよ−」


「…でっでも確かに有効な策が見付からないのは確かですね!?」


雪蓮と華琳がなにやら剣呑な雰囲気を醸し出し始めたのを察した朱里が慌てて場の空気を入れ換える。


「……火計は進軍を遅滞させるだけ。芋の蔓のように延び切った補給路を断つにしても、あの大兵力の背後へ回り込めるかどうか…」


「そ、それだけではなく連合軍の編制にも時間が掛かりましゅ…」


一堂に会した者達が手詰まりの状況を憐れんで溜息を吐いた瞬間−−大天幕の布扉が捲られた。


「−−遅くなりました」


和樹と将司、そして二人に追従して朴中尉が大天幕へと入って来た。


和樹と将司は空いている床几へ腰掛け、孫呉の武将達の中に混ざった。


中尉は二人の背後で休めの姿勢を取る。


「遅かったわね?」


「少し準備に手間取りまして」


雪蓮が和樹へ遅参の理由を問い掛けると彼からはそんな答えが返って来る。


「なんの準備?」


「無論、とんずらする準備ですよ」


普通に返した和樹の言葉に一堂が驚愕する。


「…冗談です。大体、何処へ逃げれば良いのですか?」


「…ほんっと…相変わらず判り難い冗談よねぇ…」


雪蓮が苦言を放つと和樹は微かに苦笑を零した。


もっとも逃げようにも逃げ場がないのは冗談ではないのだが。


「…ところで現在は何処まで話を進めましたか?」


「なーんにも。もうお手上げ−、って感じよ」


「でしょうな。……私も叶うなら、いの一番に逃げ出したい状況です」


「言っとくけど…本当に逃げたら報酬出さないわよ?」


「それは重々」


緊張感のない二人の会話に一堂は呆気に取られる。


この状況で落ち着いていられるのは余程の馬鹿か度胸がある者だけだ。


どちらかを考えるのも馬鹿らしく思え、華琳は溜息を零すと和樹へ視線を向けた。


「韓甲−−」


「−−和樹で構いません。赤壁で真名は“預けて"おります故」


口上を遮って告げられた言葉に華琳が苦虫を噛み潰す。


だが余計な摩擦を避ける為、彼女は“期待通り"に彼を真名で呼ぶ事にした。


「−−和樹。黒狼隊に策はないかしら?」



「…ふむ……」


「なんでも良いわ」


「…………」


和樹は無言になると何故か将司と中尉へ顔を向けて目配せする。


二人は−−頷いた。


それへ頷き返した和樹はコートのポケットから煙草を取り出し、ジッポで火を点ける。


紫煙を天井へ向けて吐き出した後、彼は口を開いた。


「ある、と言えば策はあります」


「「「っ!!?」」」


告げられた返答に一堂が息を飲んだ。


「…それはどんな策かしら?」


自分でも有効な策が思い付かない状況にも関わらず、この男は考えがあるのか−−と華琳は一種の興奮を抑えつつ問い掛ける。


すると和樹は再び紫煙を吐き出した。


「……いきなり解答を出すのは詰まりませんからな。ヒント−−もとい手掛かりを示しましょう」


「手掛かり?」


「えぇ。…もしかすると…北郷殿なら判るやも知れませんな」


指名された本人に周囲の視線が突き刺さる。


一刀は自身を指差し、本当に自分の事か問い質す。


「お、俺ですか!?」


「えぇ…ではヒントだ」


スゥと和樹は煙草を銜えつつ息を吸い込み、肺へ送り込んだ紫煙をまた天井へ向け吐き出す。


吐き出された紫煙が拡散し−−まるでキノコの傘のような形となる。


「え…?……今のがヒント…ですか?」


「あん?…判らなかったかね?」


返答を聞いた和樹は怪訝な表情で一刀を見詰める。


「…君なら判ると思ったんだがねぇ……」


「済みません…」


「では、もっと判り易く言おう。1945年8月6日、そして8月9日…何があったかね?」


「8月6日と8月9日……−−っ!!?」


遂に一刀は解答へ辿り着いた。


そして−−顔面が真っ青になる。


尋常ならざる彼の状態に蜀の武将達が心配気に声を掛け始めるのを尻目に、和樹は一堂へ宣言した−−


「我々は五胡軍へ複数の戦術核による攻撃を具申する」





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