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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第十部:Operation Vigrid
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〜other side〜




「−−敵軍の展開状況は?」


「御覧の通り…全面攻勢の構えです。損害を気にする様子がない」


連合軍の前軍に布陣した黒狼隊へ合流した和樹は騎乗する中尉に声を掛けた。


200mほど先には曹操軍の前軍がおり、その大半は騎兵だ。


騎兵の突破力と機動力で一気に駆け抜ける腹積もりなのだろう。


「……突撃を開始したら高密度の弾幕を張れ」


「了解。……ここからは見えませんが騎兵の背後には歩兵でしょうね」


「おそらくはな」


中尉の愛馬へ和樹は黒馗を寄せつつ銜えた煙草へ火を点けた。


一服は頭に血が上るのを防げるのか彼は良く戦闘前に喫煙をしている。


「…騎兵の突撃で戦列を掻き乱した後、歩兵が斬り込み掃討…って所ですかね」


「…まぁ…何名辿り着けるか判らんがな」


「先に射殺した敵兵の山を盾にされたら面倒です……砲撃で吹き飛ばしましょうか?」


「あぁ。戦車に通達しておけ−−……あん?」


「なにか?……ん?」


なにかに気付いたのか和樹が怪訝な声を発した。


彼が視線を送る方向へ中尉も視線を滑らせると−−敵軍将兵の隊列を掻き分け、進み出て来る人影がひとり。


「−−私は曹魏大将軍 夏侯元譲!!決戦の前に一騎討ちを申し出る!!」


大音声を以て告げられた一騎討ちの申し出に連合軍陣営が、にわかにざわめき始めた。


「……一騎討ち?この期に及んで何を……」


敵軍の解せぬ行動に眉間へ皺を寄せた中尉がトランシーバーを操作する。


「狙撃班、出て来た敵将を狙えるか?」


<……位置に付きました。いつでもどうぞ>


中尉は部隊の狙撃手に春蘭の狙撃を命じた。


既に狙撃手はスコープへ敵将を捉え、銃爪へ指を乗せている事だろう。


「……中尉、止めておけ」


「隊長?」


それに待ったを掛けたのは和樹だ。


それを意外に思ったのか中尉は呆気に取られてしまう。


普段の彼なら、いの一番に射殺を命じている筈だからだ。


「…敵は背水の陣で臨んでいる。ここで下手に射殺すれば……考えられる可能性は二つだ」


そう告げつつ和樹は騎乗で親指と人差し指を立てた。


「ひとつ、戦意を失って戦列が瓦解……ふたつ、こちらの理不尽かつ一方的な殺害で怒り狂い遮二無二突っ込んで来る。……可能性が大きいのはどちらだ?…まぁ…前者は低いと思うがな」


翳した手を翻すと和樹は銜えている煙草を指で挟んで唇から離し、溜まった灰を叩き落とした。


「…確かに…浅慮でした。申し訳ありません」


「構わん。…狙撃班への命令を撤回しろ。…もう少しすれば好きなだけ撃たせてやる、と伝えておけ」


「了解しました」


中尉が和樹からの命令を伝えていると、連合軍陣営の間近まで迫った春蘭が再び大音声を発する。


「我が曹魏を裏切った張燕を指名する!!出て参れ!!」


春蘭が一騎討ちの相手に指名したのは張燕−−曹長だ。


「……公開処刑と言った所でしょうか?」


「さぁな…思惑はどうあれ、相手をせねばならん。下手をすればこちらの士気が落ちる」


「相手にしなければ臆病者、ですか。……まったく……」


本来、一騎討ちを受けるか否かの判断は任意なのだ。


しかし、一騎討ちの相手として指名され、その申し出を断ると臆病者のレッテルを張られてしまう。


和樹は嘆息すると部下を呼び付ける為、中尉へ声を掛ける。


「…曹長を呼べ」


「−−御心配なく。既に参りました」


出頭の命令に先んじて曹長は彼等の下へ来た。


春蘭が自分を指名した時点でこうなると予想していたのだろう。


「…ん?……副長はどちらに?」


「あぁ…相棒なら後方のテントへ行った。煙草のストックが切れてイライラしていてな……そろそろ戻って来るだろうがな」


「……隊長は煙草を分けて差し上げなかったので?」


「俺の手持ちも残りは4…いや吸ってるから3本か。分けてやる程、残っちゃいない。俺もテントにカートンはあるがな」


「…なるほど」


「で…頼めるか?」


「仕留めて宜しいのでしたら」


酷くどうでも良い雑談から、いきなりの方向転換で話が変わった。


曹長の返答を聞いた和樹は満足気に口角を吊り上げる。


「結構だ」


「では、行って参ります」


「あぁ−−待て」


「は?」


「得物はどうする?」


「……拳銃では駄目でしょうか?」


彼が曹魏へ潜伏中の期間に使用していた剣は用済みとばかりに赤壁で棄てた。


現在は剣の代わりに腰には弾帯が巻かれている。


「…さっさとサーベルの受領申請をすれば良かったものを……」


「申し訳ありません中尉。この戦いが終われば申請します」


「…だとしても射殺はマズい。下手に刺激するのは些かだ。………仕方ない」


嘆息した和樹は徐に腰へ手を伸ばす。


弾帯へ吊るした愛刀の一振りを掴むと佩環に通したフックを外し、解いた刀を曹長へ放り投げた。


「−−それを使え」


「…宜しいのですか?」


「構わん−−が、そいつは気に行っている刀だ。必ず返しに来い」


その言葉に曹長は顔を隠すフードの奥で微笑を浮かべる。


「了解しました、隊長」


曹長は借り受けた刀を弾帯へ差し込み、和樹と中尉が駆る馬の間を塗って前に進み出た。


「……少し妬けますな」


「あん?」


「隊長の愛刀を一時とはいえ借り受け、しかも振るう事が出来るとは……部下冥利に尽きる、というモノです」


「…どうでも良い話だが…お前の国、日本刀は韓国起源と言っていたな」


「はははっ、それは半万年隷属国家の詰まらない矜持から来る与太話ですよ。亡くなった自分の曾祖父が聞いたら激怒しそうだ。なにせ日本人で帝国陸軍の大尉だったそうなので−−−あぁ…ところで……」


「なんだ?」


「曹長の奴、日本刀を扱えるのですか?話を聞いた覚えがない……」


「それは奇遇だな。貸した俺も聞いた覚えがない」




連合軍陣営から進み出た曹長は10m程の距離を取って春蘭と相対した。


「飛燕……いや張燕…臆せず出て来たか」


「残念ながら自分はどちらでもありませんよ。自分は曹長です」


「……………」


良く通る声で返された言葉に春蘭は顔を顰めつつ大剣を抜いた。


それに触発され、曹長も弾帯へ差し込んだ借り物の太刀を抜き払う。


ふと彼がフードの奥から眼を凝らすと敵の前軍−−数多の将兵を背に華琳や秋蘭などの曹操軍のトップ達が二人を見詰めている。


それを見た曹長は−−特に感慨を抱かなかった。


強いて言えば“居たのか"程度にしか思わなかった。


彼は抜き払った白刃を無難に正眼で構え、改めて春蘭へ向き直る。


「では始めましょ−−」


「オォォォ−−ッ!!!」


「−−いきなりか」


大剣を蜻蛉で構えた春蘭が雄叫びと共に吶喊してきた。


態々、受ける必要もないと曹長は判断し、大剣が振り下ろされる刹那を見計らい横へ避ける。


「−−くっ…ちょこまかと!!」


大剣を握り直し、今度は横薙ぎに払う。


それを曹長は屈んで避けると−−彼女の心臓を狙い平刺突を繰り出した。


「−−クッ!?」


回避する為、無理矢理に身体を捻る。


なんとか刺突を避けるが次は太刀の刃が横薙ぎに振るわれた。


「ぬぅ…舐めるなぁぁぁ!!!」


彼女が大剣で横薙ぎを防ぐと鍔迫り合いに入る。


ここで二人は久しぶりに交差する互いの刃を挟み、顔を見合わせた。


互いの膂力で押し合いつつ−−二人の視線が交わる。


「−−何故だ……っ!?」


「………?」


「…何故…何故、裏切ったぁぁぁぁ!!?」


彼女の激昂とも悲鳴ともつかない絶叫が両軍に響く。


「…何故…何故…っ!?」


「…裏切った訳ではない、と言った筈ですが…」


「違う!!奴なら…飛燕ならそんな事を言う筈がないっ!!」


「…その飛燕と私は同一人物だ。それが判らない訳ではないでしょう」


「違う!!違う!!本当の飛燕は何処だ!?何処に居るんだ!!?」


論理もクソもない応酬に曹長は微かに溜息を吐く。


その溜息を吐いた瞬間、彼は太刀を押す力を抜き、身体を逸らす。


すると−−支えを失った春蘭の身体が前のめりになる。


脚を掛けてやれば呆気ない程、彼女は地面へ倒れた。


倒れた拍子に手離してしまった大剣を曹長が蹴り飛ばす。


「くっ−−−っ!?」


「終わりだ」


春蘭が俯せから身体を起こそうとした瞬間、曹長は彼女の首へ太刀の刃を宛がった。


「………なぁ…」


「………」


「……お前は…本当に…飛燕…なのか?」


「えぇ。かつては、が付きますが」


「…そう、か……」


独り言のように呟きながら彼女はゆっくりと身体を起こし、その場で正座する。


「…覚悟は宜しいですか?」


「……あぁ……満足した」


「では…頚を頂きます」


曹長が瞑目した春蘭の頚を斬り落とそうと刃を振るった瞬間−−


「−−お待ち下さい、お待ち下さい!!」


「−−成都より参りました!!戦をお止め下さい!!」


−−対峙する両軍の空白地帯へ乱入してきた二名の兵士が曹長へ待ったを掛けた。


それに反応した曹長は刃を春蘭の首の皮へ当たった所で斬撃を止める。


いきなりの事に両軍からはざわめきが響き始めた。


二名の兵士は曹操軍、そして劉備軍が採用している鎧を纏っている。


「−−五胡の大軍勢が国境を突破!!涼州、司隷、并州まで侵攻を許しました!!」


「−−益州の大半が五胡の軍勢に占拠されました!!成都も占領され、騎兵を中心とした敵軍が東進しております!!」


−−その報が齎したのは覇権を巡る戦いが矮小に思える程の危機。


そして−−


「−−敵総兵力は300万を超えているモノと推測されます!!」


−−絶望である。




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