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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第九部:赤壁
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105


ふぅ……なんとか書けた…。




〜other side〜



同盟関係にある蜀と呉だが、こうして関係者が一同に会するのは初めての事だ。


軍議とは名ばかりの懇談会が始まったのは数時間前−−夕刻の頃だった筈である。


時刻は2100時を過ぎており、そろそろ宴もたけなわ−−になる様子は残念ながら見受けられない。


次々と消費される酒、酒、酒、酒、ついでに肴。


宴会場となった部屋の中は濃密なアルコール臭が漂い、酒に弱い者なら嗅いだだけで酔いが回るだろう。


「−−ごめん桃香。ちょっと風に当たってくるよ」


酔いが回っているのか少々、顔が紅い少女へ少年−−北郷一刀は断りを入れ、宴会場を後にした。


「……ふぅ……」


いまだ酒は呑み慣れない。


酔いが回って火照る身体を冷ます為、彼は襟元を緩めた後、溜息を漏らす。


「……そういえば…韓甲さんが居なかったな……どうしたんだ?」


先程まで広がっていた騒がしい面々の中に面識のある青年(四捨五入すると三十路)の姿が無かった事を思い出した彼は疑問を覚える。


情報によれば、彼は孫呉の重要人物の筈だ。


首脳陣も含め、武将達との関係も良好と一刀は聞いていた。


彼が唯一、危惧していた参戦の有無は徒労に終わり、黒狼隊は最大戦力を投入し、着陣している。


それなのに彼は軍議に参加していない。


作戦の基本方針さえ判れば後はどうでも良い、なんて事は−−


「−−……ありえる…かも…」


自分が想像した事だが、あまり違和感がないそれに一刀は苦笑ともいえない微妙な表情をしてしまう。


渡り廊下の欄干へ身体を預ける彼は眼前の遥か先−−対岸に灯る数多の曹操軍の松明に眼を細めた。


「…ホント…凄いな…」


「−−なにがだい?」


−−不意に彼の耳朶を打ったのは懐かしい低い声。


慌てて視線を向けると−−声音同様に懐かしい男が二人の人間を伴って歩いて来る姿が視界に入った。


「−−前田さん!!」


「−−や、おひさだね一刀君」


片手をポケットへ突っ込みつつ空いた手を軽く掲げ、軽薄ともいえる再会の挨拶をするのは黒狼隊の前田一曹だ。


「お久しぶりです!」


「もう一年ぐらいになるかな?俺が教えたトレーニングで、ちょっとは体力ついた?」


「はい!!……でも、まだまだ皆には……」


「そりゃそうだよ。そんな簡単に体力の差が埋まる訳−−……あぁでも…夜の体力は君の方が上なのかなぁ?」


「まっ前田さん!!?」


久々の再会だというのに猥談を始めようとする一曹に彼は羞恥で頬を赤らめる。


「はっははは、冗談だよ♪」


「うぅっ……」


「……先輩、あんまり苛めるのはどうかと思いますよ?」


「…宮部…この人に諫言とかは通じないよ。俺も結構、シゴかれたからさ…レンジャー課程で」


「その話、何百回も聞いたよ。ハイポート中に助教時代の先輩に(ケツ)を本気で蹴り上げられたとかだろ?」


「あと訓練で失神させられたりとか色々……」


「鍛えられて良かったな。お陰で冬戦教、行けたんだし」


「…俺は冬季レンジャー、宮部は空挺レンジャー……だけど…前田一曹は化け物だよ…」


「…確か俺が知ってるだけでも…体力、格闘、レンジャーと空挺、あとFF(Free Fall=自由降下)は持ってた筈だからなぁ…」


一曹の背後で二人の男がボソボソと互いに内緒話を展開しているのに否応なく気付いた一刀は素直な疑問を彼へぶつける。


「あの前田さん……後ろの方は…?」


「ん?…あぁコイツらね。俺達は二曹コンビって呼んでるよ。ほれ、お前ら」


一曹が背後へ声を掛けた瞬間、控えていた二人の姿勢が正された。


宮部義一(みやべよしかず)二等軍曹!!日本国陸上自衛隊第一空挺団に所属しておりました!!山口県出身の26歳!!9月生まれの乙女座!!彼女募集中であります!!」


金田和正(かねだかずまさ)二等軍曹!!日本国陸上自衛隊冬季戦技教育隊に所属!!出身は鹿児島県、年齢は25歳!!7月生まれの蟹座!!リアルの彼女は欲しいですが、嫁がいるのでそれほど寂しくはありません!!!」


「ど、どうも…」


威勢が良すぎる自己紹介に彼が怯んでしまうのは仕方ないだろう。


「…お前等、気合い入れ過ぎだろ。少し落ち着け。それと金田……そろそろ二次厨は卒業しろな」


「二次元は自分を裏切りませんから無理です!!!」


「…………」


流石の一曹もアニメや漫画に登場する美女・美少女の事を“俺の嫁"と呼ぶ、金田二曹の考え方には共感できず口を噤んでしまう。


きっと金田二曹の二は“二次厨"の二だろう。


昔はここまで酷くは無かったと思うが……、と一曹は自衛隊時代の彼を思い出した。


レンジャー課程を修了した後、彼にいったい何があったのだろうか……。


「…と、まぁ…約一名、変態が服着て喋ってる奴がいるけど宜しくね。悪い奴等ではないから−−」


「前田一曹!!アニメや漫画の美女・美少女が大好きな二次厨が変態とは酷い解釈です!!訂正して頂きたい!!そもそも二次厨とは−−−」


熱弁を奮い始める金田二曹の言葉を背中に受ける一曹の内心は、ウゼェの一言で満ちている。


こめかみに青筋が浮かんでいるのが良い証拠だ。


「−−以上の理由で二次元の美女・美少女が好きな人間が社会的に危険人物だという風潮は噴飯ものの誤解だという事なのです!!!」


「……あぁ…良く判った。俺が悪かった、先程の発言は撤回しよう」


「感謝致します!!」


熱弁を9割方は聞いていなかった一曹が適当な返事をすると、金田二曹は何かをやり遂げたような満足気な表情を浮かべている。


「あはは……」


一刀は思わず乾いた笑い声を漏らしてしまった。









「−−んじゃま、再会を祝して…」


背中を欄干へ預け、ラム酒を入れたスキットルを乾杯の音頭代わりに軽く掲げた一曹が注ぎ口を銜え、それを傾けた。


「−−…ふぅ…」


一口を呑み下した彼は唇を舐めつつ、スキットルを右隣の一刀へ渡す。


「−−……頂きます」


この世界へ来てから否応なく酒盛に付き合わされるようになってしまい、一刀は飲酒という行為にあまり抵抗感は感じなくなってきた。


それでも呑み慣れないのは仕方ないだろう。


一曹に倣いスキットルを軽く傾け、一口を呑み下すと−−


「−−ッ!!?ゲホッ!!?」


−−あまりのアルコールの強さに噎せてしまった。


「ありゃ、キツかったかい?」


「まぁ40度ですしねぇ」


「慣れてないから仕方ないですよ」


噎せて咳き込む一刀の背中を苦笑しつつ一曹が擦る。


「…済みません…ちょっと無理みたいです…」


「美味いんだけどなぁ…。じゃあ宮部の奴に渡して」


「はい…どうぞ…」


「あぁ、ありがとう」


スキットルを渡された宮部二曹は余裕で酒を呑み下し、次の金田二曹へ手渡した。


「−−っ、かあぁぁっ!!うっめぇー!!」


「そりゃ当然だろう。なにせ和樹さんに頼み込んで貰ったんだから」


一曹の言葉通り、スキットルの中身のラム酒は和樹の持ち物だ。


陣中で呑もうと建業の屋敷から持参した物であり、それを分けてもらう為、一曹は大変な努力を強いられた。


その事を暗に告げながら一曹は煙草を銜え、ジッポで火を点ける。


「……あの前田さん」


「ん?」


「…その…韓甲さんなんですけど…。最初の軍議には参加してたのに、あれ以降一度も参加していない理由って…判りますか?」


「………」


一刀からの問い掛けに一曹は無言で煙草を指で挟み、唇から離すと紫煙を吐き出し、再び銜える。


「…そりゃ伯符様達に作戦の修正と意見具申したら“決戦を汚すな"って言われたからでしょ」


「…確かに…俺も居合わせましたけど…」


呉と蜀が合同で行った最初の軍議での事だ。


和樹は夜間に黒狼隊が保有するヘリとナパーム弾を以て、曹操軍の船団と陸地に展開する軍勢への爆撃を提案。


それと同時に黒狼隊の戦車ならびに迫撃砲での砲撃を対岸へ加え、連合軍による強襲上陸を敢行する。


その旨を具申したのだが−−結果は一刀や一曹が言った通りとなった。


孫呉首脳陣のあまりの剣幕に武人としてのプライドが高く、根っからの武闘派が多い蜀側が呆気に取られた程だ。


「先制で逃げられない上空からの空爆。次いで戦車と迫撃砲の砲撃、そして混乱する所へ連合軍の上陸攻撃。…オーソドックスだと思うんだけどねぇ…」


煙草の葉がジジッと燃える音と共に一曹は紫煙を吸い込み、虚空へ細く吐き出した。


「…情報だと船団には敵軍総兵力の内、約3割近くがいつでも出撃の命令が下されても良いよう待機しているそうだよ。つまり、こっちが先に仕掛ければ相当数の兵力を叩ける」


「進路上の邪魔な敵船を沈めちまえば、連合軍のビーチングも楽でしょうしね」


「ただ陸地の兵力も相当数は残るでしょう。いくら空爆で叩いても地上軍に好き勝手に動き回られたら面倒だ」


「まぁ…地上目標に対しては適時に攻撃を仕掛けるだろうよ。問題は上陸した連合軍だ。入り乱れちまったら誤爆の可能性が高い」


「ピンポントで本陣への爆撃、それか砲撃は?」


「…確実に曹操の頚は欲しいだろうから、本陣への攻撃は……微妙な線だな。消し炭になっちまったら、曹操を討った証拠まで消えちまう」


「要地や拠点の確保、もしくは奪還の方が遥かにマシですね」


「全くだ」


なにやら“実行する事を前提"で作戦の立案を始める元自衛官達に一刀は置いてきぼりにされている。


「…あ、あのぅ……」


「−−だとしたら……ん?あぁ、ゴメンゴメン。すっかり忘れてたよ」


苦笑しながら謝罪する一曹だが、何気に酷い事も告白してしまっている。


そもそも黒狼隊の作戦立案を担当しているのは主に和樹や将司、そして参謀ともいうべき朴中尉だ。


彼等のゴーサインが無ければ全部隊が展開する大規模な作戦の立案が、あくまでも戦闘員に過ぎない下士官が出来る訳がない。


「あぁ…これもすっかり忘れてた。…っと…はい」


「……手帳?」


一曹は胸ポケットを漁ると黒革の装丁がされた手帳を取り出し、それを一刀へ手渡した。


外見はどう見ても手帳。


おもむろに一刀がそれを開くと−−


「−−えっ!?」


−−驚愕で眼を見開いた。


捲ったページには曹操−−盗撮したと思われる華琳の横顔の顔写真がクリップで留められ、その下には調査したのか彼女の嗜好、趣味、特技、思考のパターン、指揮下の部隊の編制ならびに兵力等が綴られていた。


「まさか…!?」


更にページを捲ると、次頁には春蘭の顔写真。そして華琳同様の事が綴られている。


それだけではなく曹魏の主要武将、軍師達の顔写真と調査報告までもが書かれていた。


「−−そいつは送られて来た情報を整理……まぁ、本当の所は原文の英語を翻訳したのを写しただけなんだけどね。良く出来てるでしょ?」


「良く出来てるなんて……そんなレベルじゃないでしょう…!!」


素人目にもこの手帳自体がとんでもない代物だと判る。


むしろ、こんな簡単にポンと渡してしまう一曹の方に問題があるように思えて仕方ない。


「あげるよ。俺達の所には、もっと良い情報がわんさかあるし」


「えぇっ!!?」


これよりも良い情報が大量にあるという一曹の言葉で一刀の表情が再び驚愕に染まった。


「遠慮しなくて良いからね。なにせ和樹さんからのプレゼントだから」


「え…?」


「良いな〜。和樹さんが他人にプレゼントするなんて滅多にないよ」


「確かに…和樹さんは、あまり他人へ贈り物はしませんからね」


「しかも同性なら特に。…酒とか飯をゴチになった事はありますけど」


「金田、それプレゼントか?」


これほどの情報が詰まった手帳が“プレゼント"で済まされてしまう彼等の基準に一刀は益々、訳が判らなくなる。


「……何故、これを俺に?」


「ん〜…有効に使って貰いたいんじゃないのかな?」


「それだけの理由…ですか?」


「さぁ?」


「さぁ、って…」


質問に肩を竦める事で答えた一曹に一刀は脱力してしまう。


どうも手玉に取られている気がする、と彼が考えてしまうのも無理はないだろう。


「まぁ実際の所は和樹さん本人にしか判らないからね。俺達は、あの人の駒だからさ。チェスのポーン、将棋の歩で良いんだよ」


「残念ながらウチにクイーンはいませんけどね」


一曹の軽口に乗っかり宮部二曹が冗談を放つと三人は揃って笑い声を上げた。


「……駒」


彼等が自身をテーブルゲームの駒に過ぎないと断言し、それを笑う様子を見て、一刀は怒りを覚えた。


そんな訳がないだろうと。貴方達は生きている人間だろうと。



「……Is our song heard?」


「……え?」


「…あぁ…んんっ……Can our triumphal song be heard?」


「…Although friend died, I have survived.」


「…However, I don't forget. A friend's courage. A friend's dream. A friend's pride.」


「…When it meets again, let's hold the party together−−」


突然、一曹が英文の歌と思われるそれを口遊んだ。


英語が苦手だった一刀には意味が判らず、呆気に取られてしまった。


一曹に続いて二人の二曹が歌の続きを紡いでいく。


「−−We still move forward.As long as I have breath……」


一曹がラストを歌い終わると周囲に静寂が戻った。


「…あの…今のは…?」


「ん?…あぁ、ウチの誰かが歌い始めた奴だよ。なんだか久しぶりに思い出してね、歌ってみたくなった」


「…英語みたいでしたけど…なんて言ってたんですか?」


一刀の質問に彼等は顔を見合わせ、苦笑し−−


「「「ヒ ミ ツ♪」」」


−−そう解答した。


「えぇっ!?」


「だって……なぁ?」


「えぇ」


「ですよねぇ」


「なんでですか!?気になりますよ!!」


先程まで心中で感じていた怒りよりも疑問への解答の方が優先したのか一刀は彼等へ詰め寄った−−










「−−姉御」


「歩哨、御苦労」


宴の席を抜け、アポなしで黒狼隊の陣地を訪れたのは華雄だ。


それを確認し、歩哨に立っていた隊員は彼女へ敬礼する。


「…韓甲はいるだろうか?」


「少佐ですか?えぇ、こちらに居られますが……なにか御用でしょうか?」


「うっうむ…少し、な」


「判りました。では、御案内致しますので−−」


「−−い、いや大丈夫だ!!」


「しかし…」


「お前は役目があるのだろう!?そっそれに勝手に持ち場を離れたら韓甲に怒られてしまうぞ!?」


要は一人で行かせてくれ、という事か。


そう判断した隊員は苦笑し、降参するかのように軽く両手を挙げた。


「了解、判りました。…少佐は真ん中の天幕に居られますので」


「真ん中の天幕、だな…判った」


「では、ごゆっくり」


道を空け、華雄が陣地の中へ入る。


彼女が目的のテントへ向かうのを確認した隊員は心中で呟く。


…姉御…済みません、と。




陣地の真ん中にあるテントの布扉は閉められているが、僅かな隙間から灯りが漏れている。


緊張から高鳴る胸の鼓動を抑えようと華雄は何度も深呼吸を繰り返しつつテントへ歩み寄る。


あと少しで布扉へ手が届く距離に近付いた時−−テントの中から話し声が聞こえた。


「−−で−−−という−−ですね−−」


「−−あぁ−−−」


「−−んで−−−が−−を−−」


「−−すで−−−そう−−」


彼女にとっては、いずれも聞き覚えのある声だ。


なにを話しているのだ、と彼女は何気なく耳を澄ませる。


「−−つまり−−実行−−」


「−−あぁ−−報酬は−−」


「−−確かに−−悪くは−−−」


「−−えぇ−−−作戦−−」


「……?」


彼女は軍議でも行っているのか、と思ったが“報酬"の一言が出るのは妙だと感じた。


「−−つまり−−−」


「−−あぁ−−」


和樹の声が彼女の耳を打った。


その声が紡いた言葉に−−


「−−孫呉を裏切るぞ」


−−彼女は絶句した。







作中で一曹達が歌ったアレはオリジナルです。



日本語訳については……しないで頂けると嬉しいなぁ…(誰もしないっての)





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