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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第一部:乱世と反董卓連合
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最初からネタ爆発。


和樹の言動に矛盾が生じていますが、相棒に対しての言動が本音、霞&華雄への言動は建前となっています。

彼の性格は冷静でいて激情家、というややこしいそれなので。


…雪蓮の話し方と性格がおかしいですが…ご容赦を。



11.4.24 誤字報告があり訂正。







「…あの日−部隊結成の日から戦死者は随分と見てきたな」


「…あぁ、前世から合わせりゃ“123人”。…キリの良い数字だ」


「…だが、何人死んでも慣れはせん」


「…あの日の誓いから戦死は覚悟の上だ。伍長も…俺達もそう思ってる」


「だが…」


「ん?」


「もう殺らせん、殺らせんよ大尉」


「………」


「イ・ヨンジン伍長の魂は奴らの血で償わせてやる」


「………」


「憎悪を込めて…殺してやる」


「あぁ…そうだな」










泗水関防衛戦の戦端が開かれ今日で三日。あと二時間もすれば四日になるのだが。


初戦以降、俺の部隊は敵軍と砲火…この場合は剣を交えていない。


なにせ、初戦であそこまで大暴れしたのだ。


もしこのまま戦闘を続け連合軍の戦意・士気が下がってしまうのは本意ではない。


防衛戦の指揮は霞と華雄に任せ、俺達はずっと休んでいる。


「和樹、ここにいたんか」


城壁で黄昏れていると不意に声を掛けられ、振り向くと階段を昇って来る霞と、それに続いて華雄がやってきた。


霞が俺達に絡むのはしょっちゅうだが華雄の場合は初戦以降、あまり話らしい話をしていない。


「で、どうかしたのか?」


「なんやつれへんなぁ…」


霞は嘆息すると、何処から取り出したのか三つの盃と封がされた壷を見せ付ける。


「どや一杯?」


「遠慮させてもらう」


「なんや−?まさか将が戦場で酒なんか飲む訳にはいかん!なんて言うんやないよなぁ?」


苦笑してしまった。


俺の物真似にしては似てないぞ。


「そこまで堅苦しい訳じゃない」


「ならええやん♪」


「いや…虎牢関までは遠慮させてもらう」


そう言うと何かを察したのか彼女達は押し黙った。


「…ほか。そんなら勝手にやらせてもらうで」


「どうぞ」


封を切って、酒を飲む始める霞に対して華雄は突っ立ったままだ。


「華雄、どうした?」


「…なぜだ…」


「あん?」


「何故、誰も私を責めない!?」


いきなりの激昂に圧されてしまった。


「…意味が判らんな。責めない、とは?」


「判らないのか!?私が勝手に打って出たせいで、お前の部下は死んだのだぞ!?」


「………」


「お前だけじゃない。呂猛も、黒狼隊の兵達も皆、誰も私を責めない!!」


「憎くはないのか!?どうせ心の中で私を罵っているのだろう!?ならば、私に向かってそれを言えば良い!その方がマシだ!!」


「かっ華雄、言い過ぎや!!」


「黙っていろ!何故なんだ、なぁ!!?」


抑えようとする霞を振り払うと華雄は俺の襟首を掴んだ。


「だったら…」


「なんだ言う気になったのか!?」


「だったら、お前は俺の部下を死地に追いやった最低の字なし女だ、とでも言えば良いのか?」


「ッ!?」


まさか、ここまで言われるとは思わなかったのだろう。


襟首を掴む華雄の手から力が抜け始める。


「…勘違いするな。伍長…アイツが死んだのは誰のせいでもない。奴が死んだのは、奴自身の責任だ」


「………」


「俺達は死んだ理由を他人に責任転嫁するほど弱くないし、落ちぶれてもいない」


掴まれた手を退けさせると彼女の瞳をみる。


「同情の類なんぞでアイツを…俺達を侮辱するな」


そう言い放つと階段を降りて城壁を去る。



馬小屋に着くと自分の愛馬となった黒馗の手綱を取り、外へ出させると馬具を取り付けた。


「少佐、どっかに行くんですかい?」


「散歩だ」


「護衛は?」


「いらんよ。少し一服がてらコイツを走らせてくる」


部下にそう告げると黒馗に跨がり城門へ向かう。



番兵に城門を少しだけ開けさせると昼間までは戦場となっていた野を駆け出す。


彼方には連合軍陣営の灯が。



この時代の戦の常識なのだが、戦いをするのは原則昼間だけ。


夜討ちをするのは稀なのだ。


理由としては暗闇で敵味方の判別が難しくなり同士打ちになる可能性があるからなのだ。


こっちは百戦練磨の傭兵揃いで、しかも暗視装置もあるから問題ないがな。



死体は既に回収されているが消し去る事の出来ない死臭が鼻を突く。


死体は野ざらしにするのかと思いきや、実際は回収され埋葬されるのだと言うから驚きだがな。



しばらく黒馗を走らせていると戦場の一角に辿り着いた。


伍長が爆死した地点だ。



騎乗したままポケットを漁り、煙草を口に咥えるとジッポで火を点ける。


見る奴によっては線香代わりに見えるかも知れないが、伍長は珍しく嫌煙家だったからな。


そんな奴の墓前に火が点いた煙草なんか供えたら間違いなく祟られてしまう。


思い付いた事に苦笑が零れた。



…しかし…見付からないな。


ここに来てから彼が首に下げていたドッグタグを捜している。


いくら武器もろとも爆散したとしても、ドッグタグだけは残るはず。


爆撃の直撃に遭った兵士の身元を確認する為に残ったドッグタグと歯がついた顎を使用した、という逸話があるくらいドッグタグは丈夫なのだ。



せめて、それだけは回収しようと思ったが叶いそうにないか。



溜息と紫煙を一緒に吐き出した時、馬が駆けてくる蹄の音が耳を打った。


…それも連合軍陣営から単騎で。


何者だ?


訝しみながら、それなりに利く夜目を凝らすと見えてきたのは一度、双眼鏡のレンズ越しに拝見した人物。


「こんばんは、良い夜ね」


そう言って朗らかな口調で俺に話し掛けてくるのは、孫策伯符…だろう人物。


長い桃色の髪をポニーテールにし褐色肌に水色の双眸が特徴。


…たまに思うが、この世界の有名な武将は全員が美女なのだろうか?


服装については…もう何も言うまい。


史実の孫策伯符は、容姿端麗で、人との会話を好み闊達な性格であったと言われており、少年の頃に同年の周瑜と知り合い、孫策の死までその友情は続き、二人の友情は“断金”とまで称されている。


「…孫伯符殿であられるか?」


「あら、まだ名乗ってないのに…よく判ったわね?」


「こんな美人を忘れる方がどうかしている」


「…何処かで会ったかしら?」


「いえ、直接は」


「そうよねぇ…。こんな良い男、会ったら絶対に忘れる訳ないもの♪」


「…それはどうも」


素直なのか…それとも、おちょくっているのか。


なんにせよ、何を考えているのか判らないな。


…こういう手合いは苦手の分類に入る。


「ところで…貴方の名前は?」


「名乗る必要が?」


「ブー、良いじゃない名前くらい。…じゃあ当ててみましょうか」


子供のような言動の後に孫策殿が俺に指を突き付ける。


「貴方は…韓甲狼牙でしょ?今は董卓軍の客将をやってる筈よね?」


「…えぇ正解です」


「やった、やっぱり明命の調べは確かね♪」


「…どうりで最近、おかしな気配がすると思った」


「あら気付いてたの?」


「わからいでか。いくら気配を殺そうとしても、完全には消せない」


「ふぅ…厄介な将が敵に居るわ」


「それはこちらも同じこと。我々が連合軍の中で危険視しているのは曹操軍、そして孫策軍。他は有象無象だ」


「嬉しい事を言ってくれるわね♪…なら、ここで殺り合う?」


彼女の雰囲気が変わった。


それは…鞘から払われた剣。


事実、微笑を浮かべながら腰の剣に手を添えている。


「…それは魅力的ですな。私が勝ち、貴女の首級をあげれば孫呉は弱体化し、この後の戦いは殺り易くなる」


「逆に私が仕留めれば、貴方の率いる精鋭部隊…黒狼隊と言ったかしら?」


「さよう」


「率いる頭が居なくなれば…こちらとしても戦い易いわ♪」


互いの利害は一致しているな。


…まぁ孫呉の事だ。彼女が死ねば敵討ちとばかりに、文字通りの死兵となって董卓軍へ襲い掛かるだろう。


無言で対峙するが、刃のような雰囲気が霧散する。


「…止めた♪」


「?」


「だって勝てそうにないもの♪」


「…こちらも戦わなくて良かった」


「一応、理由を聞いても?」


「貴女が死ねば…そちらの率いる将兵がどのような戦い振りをするか…充分、お判りなのでは?」


「…そうかしら?」


「貴女は慕われているでしょうに」


快活でいて朗らか、天真爛漫、そしてなにより…魅力的な人物だ。


慕われない訳がない…だが、身内には敵も多そうではある。


「そこまで言われると嬉しいわ。…ねぇ取引をしない?」


「取引?」


いきなりの事に混乱しかけた。


「そう…。戦で孫呉は黒狼隊を相手に戦わない、代わりに貴方達も私達と戦わないで欲しいの」


「…それでこちらのメリット…失礼、利益は?」


「それは貴方がよく知っているんじゃない?」


そう言われると、否、とは答えられない。


精鋭といえど数の暴力には勝てない。


俺の持論だが…今回の戦いでは、それがピタリと当て嵌まる。


それも相手が孫策軍ならば尚更である。


兵力も練度も充分脅威になる。


「…了解した。その取引、確かに承諾する」


「良かった♪」


顔を綻ばせる彼女が騎乗する馬に黒馗を近付けると俺は右手を差し出した。


「…なに?」


「握手、契約成立の証ですよ」


「無用心ね。斬られるとは思わなかったの?」


「その台詞、そのまま返しましょう」


「ふふ、冥琳が二人いるみたい」


その人物が誰かは知らないが…意趣返しや皮肉が上手い人物なのだろう。


「握れば良いの?」


「えぇ。…ご安心を何かしようとは露ほどにも思ってはいないので」


「判ってるわ♪」


笑いながら孫策殿が俺の右手を握った。


江東の小覇王と称されている割には、ほっそりとして滑らかな触り心地が印象的であった。


これで剣を握っているとは…正直、考えられん。


「これで契約成立、かしら?」


「ここに契約は成立した。…契約の破棄は認めない」


「そっちもね。…話せて嬉しかったわ♪」


「こちらも」


そう言い合うと互いの馬の轡を返して、それぞれの陣営に戻ろうとする。


「…少し忠告を」


「?…なにかしら?」


行き足を止めた彼女が鞍の上で俺に振り向いた。


「…虎牢関では諸侯よりも後方に陣を張るのが宜しかろう」


「…それは警告かしら?」


「その判断は貴女に任せる事にしよう。…それと、もうひとつ」


「…聞きましょう」


「…これは独り言であるが…泗水関での戦いは一両日中に終わる。関への入城は袁術軍に先鋒を任せるのが良い」


「…随分と大きな独り言ね。でも…考えておくわ」


「それが宜しい」


「ねぇ、私も聞いて良いかしら?」


「答えられる範囲で、ならば」


「何故、忠告を?」


「……ただの気まぐれ、と解釈すれば宜しいかと」


「そう…。じゃあ機会があれば、また会いましょう」


「願わくば、戦場以外で」


「それもそうね」


「ククッ…」


「プッ…アハハハ♪」


笑い合いながら、今度こそ互いの陣営に向かって馬を進めた。




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