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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第九部:赤壁
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荊州は赤壁に布陣した両軍−−曹操軍と孫策・劉備連合軍(以下は連合軍と呼称)は長江を挟み対峙していた。


曹操軍は豪族達が鎬を削っていた荊州を圧倒的な大兵力を以て平定した後、各地の将兵を吸収。


最終的に兵力は80万を超え、川幅400m〜500mの河の半分以上を軍船の山が占拠している。


一方の連合軍の兵力は、劉備軍が15万、そして孫策軍は13万の28万。


80万対28万……まず正攻法では勝ち目はない。




先程、劉備軍は15万と言ったが実際は先遣として6万が着陣しただけ。


残りの9万はいまだ赤壁を目指し行軍中だが……それも近々、到着するだろう。





−−なんて事を考えてみるが、戦闘ないし“事が起きる"までは暇で仕方ない。


お陰で−−−







「−−よぉし!!さぁ引っ張れ!!!」


「「「ソーレ!!ソーレ!!」」」



−−地引き網に駆り出される始末だ。


孫策軍の甲冑に身を包んだ将兵に混ざり、手空きで暇を持て余していた隊員達が網を手繰り寄せる。


……まぁ、その中に俺と相棒も含まれているのだが。


この漁で獲れた魚は基本的には魚油を精製する為に使われる。


無論、曹操軍の軍船に対する火計の為だ。


勿論、小さい魚などは食料となり、腹の足しには丁度良い。


岸辺へ引っ張り上げて行くと網が水面から顔を出して来た。


網が岸へ上がると大小様々な川魚が跳ね始める。


「おっしゃー大漁ー!!」


「おぉい!!籠、籠持ってこーい!!」


揚がった大量の魚を将兵が用意していた籠やザルへ放り込んでいくのを横目に、俺達はめぼしい魚を選び、それを掴み上げる。


「…これで良いか」


一尺程度の4匹を順番に地面に転がっていた石へ叩き付けて仕留め、用意していた笹をエラから口へ通す。


装備を置いた場所へ戻ると弾帯と剣帯を腰に巻き、上着とコートを肩へ賭け、魚を刺した笹をぶら下げながら陣地へ相棒を伴って歩き出す。


慌ただしく動き回る将兵の間を縫って歩いていると、彼方からヘリの爆音が聞こえて来た。


「…戻ったみてぇだな」


「あぁ」


劉備軍の後続を護衛する為に派遣した2機のヘリが帰還したようだ。


緊急の通信が無かった事を考えると、特に問題はなかったのだろう。


「……向こう岸も魚油作んのに必死だな。見ろよ、今日も今日で煙がモクモクだぜ」


「考える事は同じという事だ。いずれにせよ、戦端が開かれるのは強風の時だろう」


ナパーム弾を落としてしまえば、こっちのモノ……ではある。


そう上層部へ具申したのだ。


返答は−−


“傭兵如きの愚策で決戦を汚すな!!"


−−だそうだ。


……まぁ、どうだって良い。


「今日の昼飯は、なぁにかなぁ〜っと♪」


「そろそろ魚料理は食傷気味だ。ここ一週間ずっと…魚ばかりだからな」


「美味いから良いじゃねぇか」


「味があっさりし過ぎだ。脂滴る肉が喰いたい」


「肉が大好き、アルコールも大好き…お前、良く痛風にならねぇよなぁ…身体どうなってんの?俺なんか最近、歳の所為か脂っこいのは胃が受け付けなくなって来たぜ。尿酸値、大丈夫か?」


「…まだ20代だろう。そっちこそ大丈夫か?…尿酸値?…お前の方が良く知ってるだろうが。正常値だ」


「お前よりはマシだよ。三十路手前の今の内に食生活の改善とかカロリー計算とか、やれる事はやった方が良いぜ。直ぐ太るようになっちまう」


「ふん…なら安心だな。しばらく傭兵を辞める予定はない」


「そりゃ俺もだよ」


他愛もない会話を交わし、銜えた煙草に火を点けながら陣地へ向かい歩き続ける。



黒狼隊陣地へ到着した瞬間、俺達の姿を認めたヘリ部隊の中尉が駆け寄り、敬礼してくる。


「報告!!ヘリ01、02並びに第一歩兵小隊第一分隊、護衛任務を終え、ただいま帰投致しました!!」


「御苦労、中尉」


ラフに彼へ答礼すると腕を下ろす。


すると中尉は堅苦しい口調を一変させ、普段通りの軽薄なそれへ戻した。


「しっかし…まぁ随分と向こうは掻き集めたモンだ。上空から見たら輪を掛けて凄かったですよ。もう人、人、人の山」


「だろうな。なにせ80万だ。あんな大兵力、御目に掛かった例しがない」


「そいつは俺も同じですよ」


「俺も同じく。…どうやって掻き集めたんだか」


三人で対岸の曹操軍の陣容を眺めていると、視界の端で中尉がパイロット用のヘルメットを脇へ抱えつつ葉巻を銜えて火を点ける姿が見えた。


「…演義の話は知ってましたけど…まさか現実になるとは…」


「俺としては、あの大兵力を養うだけの資金力が脅威に思える。…徴収か?」


「アレとドンパチやるのは骨が折れますよ。さっさと孫策軍を見限った方が良いように思えてきました」


「俺も勝ち目の薄い賭けに乗るのはゴメンだな」


「ですね。んじゃ、俺は整備に戻ります」


「了解した」


「う〜い、お疲れ〜」


葉巻を燻らせつつ立ち去る中尉を見送り、俺達は設営したテントへ向かい歩き始める。


「…で、いつ裏切んの?」


「…しばらくは様子見だ」


「ん、りょ−かい」


いつもの軽薄な口調で物騒な事を尋ねてくる相棒へ素っ気なく返答しつつテントの布扉を上げる。


内部へ装備品を置き、上半身が裸のままで再び外へ出ると石を円形に並べただけの簡易な竈で焚火をしている場所へ近付く。


ぶら下げていた4匹の魚を笹から抜き取って地面へ並べた。


次いで腰の弾帯から銃剣を抜き、適当に選んだ魚の腹へ刃を宛がい、それを滑らせる。


全ての内臓を処理し終えると相棒が塩を魚へ振り、串に突き刺して焚火の周囲へ並べていく。


「……手伝ってなんだけどさ…お前、全部食うつもりなの?」


「あぁ」


「…あと二時間ちょっとで昼飯なのに?」


「あぁ…それが?」


「…お前…暗殺未遂から燃費悪くなったんじゃね?」


「………かもな」


そう返答すると相棒は溜息と紫煙を同時に吐き出した。


「お前、大丈夫かよ……まさか過食症に……」


「元々、食う方だったが最近は特にだな。…過食症なら食った後に嘔吐とかが伴うだろう。なら違うと思うぞ」


「…下剤とか使ったり過度の運動、絶食とかもしてないよな?」


「あぁ」


「……なら大丈夫……か?」


俺を見下ろしつつ相棒が顎に手を遣って考え込み始めた。


そう心配せずとも大丈夫だと思うのだが……。


「−−失礼します、隊長。お客様が参られましたが…お連れしても?」


部下が駆け寄って来て俺へ報告するが……それに疑問を覚える。


…今日は誰とも会う約束はしていない筈だが…。


「誰だ?」


「お美しい三人のレディーと小さなレディーが一人です。…どうします?」


「答えになっていないが……まぁ良い。お連れしろ」


「はっ、では直ちに」


部下は敬礼だけをし、場を辞した。


「…で、心当たりあんの?」


「いや今日は誰とも−−…なに膨れっ面してるんだ?」


「べっつに〜?な−んで、お前ばっかりが女にモテんのかな〜?って」


「俺が?女に?……まさか…冗談は休み休み言え」


「…お前…一度、身体にC4でも括り付けて爆ぜれば?むしろ爆ぜろ。氏ね」


相棒は不機嫌な声音と共にそっぽ向きつつ、とんでもない事をのたまった。



「−−どうぞ、こちらです」


「−−あっ!!おじちゃーーん!!!!」


「あん?」


「うん?」


なにやら懐かしい声が耳朶を打った。


その方向へ視線を向ければ−−紫色の髪をツインテールにした幼女が俺へ駆けて来る。


「−−おじちゃーーん!!璃々きたよ−−!!!」


銃剣突撃も真っ青な勢いで肉薄してきた幼女は俺の胸へ飛び込んだ。


それを受け止めて立ち上がると−−保護者達の姿が視界に入る。


「−−璃々、少し落ち着きなさい。…お久しぶりです、和樹殿。またお会い出来て嬉しいですわ」


「−−大胆じゃのう璃々は。…いやはや、久しいですな和樹殿。その姿だと…体調はすっかり良くなられたようだ」


「−−韓甲様…!!お会いしとうございました……!!」


………なにやら、隣の相棒から殺気に近い雰囲気を感じ−−……いや、これは陣地全体からだ。


部下共が揃いも揃って何故か俺へ殺気を注いでいる。


俺が何をしたというのだ。


……取り敢えず、首にぶら下がっている幼女−−もとい璃々嬢を地面へ下ろすと保護者達へ改めて視線を向ける。


「お久しぶりです、漢升殿、厳顔殿、本初殿。御健勝のようでなにより」


「我等が健勝……なのは良いとして。“例の報"が齎された時は心の臓が止まるかと思いましたぞ」


「…全くですわ。心配で文を送りましたのに…返って来たのは固い文面の文だけ…」


「えぇ…もし韓甲様の身になにかあったら私…!!」


「……それは大変申し訳なかった」


「…反省なさって頂けるなら構いませんわ。……ところで…そちらは?」


浴びせられる非難を甘んじて受け止めていると、漢升殿が隣に立っている相棒へ怪訝な視線を向けていた。


「あぁ。これは自分の副官で呂猛と申します」


「「「呂猛!!?」」」


告げた姓名に驚愕する面々を尻目に相棒は一礼する。


「自己紹介が遅れました。手前は呂猛、字を百鬼。皆様の事は韓甲より伺っております」


「これは御丁寧に。私は黄忠と申します」


「わしは厳顔。いやはや…呂猛殿の事は噂で聞いておりましたが…」


「わ、私は袁紹、字を本初ですわ」


……相棒を見る三人の顔は……なんというか…珍獣を見る目、とでも言えば良いだろうか。


おそらく曹操軍迎撃の際の単騎駆けが原因だろう。


…あの驚きよう…いったいどのような噂が益州へ届いたのだろうか。


−−不意にパンツが引っ張られる。


視線を下へ向ければ、璃々嬢が指先でパンツを摘まんだ状態のまま俺を見上げていた。


「なにかな?」


「これ、おじちゃんに!!」


「あん?……あぁ、そうだったな」


何故、母親の漢升殿が戦場になるだろう場所へ璃々嬢を伴って来たのか理解した。


「おじちゃんと約束したもん!!…んっ…はい!!」


「あぁ、ありがとう」


璃々嬢が首に巻いていた紐を引っ張ると服の中から一枚のドッグタグが姿を表した。


頭を通して紐を抜き取り、吊るされたドッグタグを差し出して来る。


膝を付いて璃々嬢から受け取ったそれの刻印された項目と俺の首に下げているタグを照らし合わせ…間違いなく自分のだと確認した。


首の後ろへ手を伸ばし、チェーンを頭から抜き取ると留め金を外す。


タグの片割れをチェーンへ通した後、再び留めて首に吊るした。


やっと二枚のタグが戻った。


これで……いつでも死ねる。


「……ありがとう」





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