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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第八部:日常という有り触れた日々
118/145

103



端折るに端折って次話からは−−

〜和樹side〜




休暇とはいえ……なにもする事がないのは暇で仕方ない。


屋敷の縁側で寝そべり、煙草を吹かしつつ、そんな事を考える。



だからといってトラブルが舞い込んで来て欲しいか、と問われれば……そんなモノは願い下げである。


せめて休暇ぐらいは静かに過ごさせて欲しいのだ。



……いや…しかし何もせぬというのも不健康だな…。



掃除……は徐盛達が普段からしている。


自室……いつでも出て行けるよう私物は余り置かず、整頓している為、今更の掃除は必要ない。


「………ふぅ…」


溜息を零し、銜え煙草のまま腹筋を使って上半身を起こすと後頭部へ手を遣り、ボリボリと掻く。


「……散歩でもするか」









一方その頃−−−






「−−そういや…お前等、聞いたか?」


「−−なにをだ楊?」


黒狼隊駐屯地では仲の良い各小隊の小隊長達が屯していた。


「少佐が華雄の姉御、振っちゃったって噂」


「あぁ……俺は副長から聞いたぞ」


「……というか、姉御の様子見れば…」


「あぁ…えぇ……」


チラッと彼等が彼方へ視線を遣れば、新兵訓練の要請書を提出に来ていた華雄が帰途に付こうと駐屯地を歩いていた。


なにやら表情に陰が差しているかのように見えるのは……おそらく気の所為ではない。


「……どんな振り方したら、あんな風になるんだか…」


「…隊長の事だから素っ気無かったんじゃ…」


「もしくは、かなりキツい事を……」


各々が喫煙しながら顔を寄せ合いヒソヒソと話す。


「例えば“お前みたいなガサツな女とは付き合えない"とかか?」


「それか“冗談は休み休み言え"とかですかね?」


「いやぁ…いくら少佐でもそこまでは言わねぇと思うぜ?」


「でも隊長ですよ?」


「「「……ありえる……」」」


彼等の部隊長に対する評価はかなり酷い。


特に異性関係については。


「……傭兵だから仕方ねぇってのもあるけどさぁ…女性が勇気を出して告ったんだから、それ相応の返事は必要だと思うぜ」


「…それには同意せざるを得ないが……俺達は所詮、どうしようもない畜生の傭兵だ。そんなのが他人を幸せに出来るか?」


「んなのはやってみなきゃ判らねぇ−−って言いたいけど……そういう奴は聞いた事ねぇなぁ…」


「それに、ここだけの話だが−−」


「ヤベッ!?ちょっ、姉御来ますよ!!」


「マジか!?」


出しかけの言葉を飲み込んだ朴中尉以下の小隊長達は慌てて−−それこそ携帯灰皿へ放り込む時間も惜しかったのか地面へ煙草を投げ捨て、ブーツで踏み潰した。


「……お前達。今、私の話をしてなかったか?」


「い、いいえ〜。気の所為じゃないですか〜?」


「えっえぇ!!なぁ、そうだよな!?」


「は?はっはい!!誰も姉御と隊長の事なんて−−ゴフッ!!?」


戦車隊を預かるバダウィ少尉は楊中尉からいきなり振られ、慌てて話したのがいけなかったのだろう。


彼は隣の上官から有り難い強烈な教育的指導を鳩尾に食らい、白目を剥いて崩れ落ちてしまう。


「…そうか……ここでも……」


(((ヤッベェ−−!!!)))


当然ながら隠し通せず、華雄が傍目にも落ち込み始めた。


地面でピクピクと微かに指を動かし、白目を剥く同僚の事を忘却の彼方へ追い遣り、彼等はどうするべきか必死に考え出す。


「…ふっ……どうせ私など……」


「(ちょっ!?世界中の不幸背負った人みたいになってるんですけど!!?)」


「(Broken heartした人をどうやって慰めろってんだ!?なんとかしろ楊!!)」


「(俺に振るなぁぁ!!流石の俺でも手詰まり−−−はっ!!?)」


ヒソヒソと早口で会話する彼等だったが、その内の一人−−楊中尉は妙案を思い付いたのか集団から離れ、一基のテントを目指して駆け出す。


尚もボソボソと暗いにも程がある表情で呟く華雄の下に“目当ての物"を持って楊中尉が戻って来た。


「−−姉御!!これをどうぞ!!!」


「−−だいたい……ん?…これは…?」


両手で差し出された物へ華雄は緩々と視線を向ける。


それは−−黒い半袖のTシャツ、戦闘服のパンツ、黒いベルト、靴下、ブーツ、そして彼女の姓名が刻印されたドッグタグ。


「「「−−って、なんじゃそりゃぁぁぁぁ!!!?」」」


「しゃ−−ないだろ!!?これしか思い付かなかったんだから!!」


「なにを意図したんだ!!?全く意味が判らん!!」


「ドッグタグは前からプレゼントしようって決まってましたけど、そのチョイスはなんなんですか!!?」


「なら黄!!お前、なにか考えあったのかよ!!?」


何をトチ狂ったのか楊中尉が苦し紛れに華雄へ贈呈した品々に非難が飛ぶ。


色気もクソもない−−むしろ慰めの要素が何処にも見当たらないのは気の所為ではない筈だ。


「しかも…ブーツちっさ!?どうやって調達したんです!!?」


「小隊で間違って6.0(24cm)とかサイズの小さい服とかをリストアップしちゃったんだよ!!良いだろ、誰も使わないんだから!!」


「要は備品整理ですか!?」


どうでも良い事だが、和樹のブーツのサイズは10.5(28.5cm)、将司は11.0(29cm)である。


尚も止まない喧噪を無視し華雄は差し出した品々を両手で掴み、繁々と見詰める。


「……なぁ、本当に貰って良いのか?」


「だから−−−へっ?」


「貰って…良いのか?」


「は?え、えぇ!!どうぞどうぞ!!」


「ありがとう……大切にする」


「「「えぇぇぇ!!!?」」」


まさか受け取るとは思っていなかったのか小隊長達が驚愕した。


「じ、じゃあ…ちょっと着てみますか?」


「…?…まぁ…構わんが…。お前達のように着れば良いのか?」


「あっはい、そうですね。あ、ブーツの結び方ですけど−−」


「あぁ、教えてくれ」


服の着用に比べ、難解なブーツの靴紐の結び方を教えられた後、華雄は空いているテントの中へ消える。


「……まさか…受け取って貰えるとは……」


「…本人が言うのもなんだけど……俺もビックリしてる」


「…まさか…隊長が着てるから真似したかった、なんて事は……」


「まさか………で、お前はいつまで寝てんだ。さっさと…起きろ!!」


いまだ地面で白目を剥き、呻くように唇を微かに動かすバダウィ少尉の脇腹へ楊中尉は硬いブーツの爪先で無慈悲な蹴りを喰らわせる。


「グホッ!!?−−え!?いっ今、死んじまった伍長が川の向こう岸で俺に“早く戻ってぇぇぇ!!"って叫びながら頭に角を生やして虎皮の腰布巻いた、無駄に図体デカい変な化け物共を撃ちまくって…!!!?」


「「「…………」」」


「……いや……悪かった…」


どうやら気絶した彼の意識はとんでもない所へ飛んでいたらしい。


各小隊長達の非難混じりの視線を浴び、楊中尉は素直に謝罪してしまう。


「…アイツ、向こうでも絶好調みたいだな」


「まさか…拠点確保してるとか……」


久々に聞いた同僚の近況は、どうやら現在、戦闘の真っ只中のようだった。


もっとも真実かは判らないが。


「−−あ〜…ところで…あの後、どうなったんですか?」


起き上がりつつ埃を払う少尉は同僚達へ問い掛ける。


「姉御なら衣装チェンジしてるぞ」


「衣装チェンジ?」


「えっとな−−」


「−−着替えたぞ」


彼等の話の腰を折ったのは、背後から聞こえた声。


彼等は振り向くと−−


「−−−−ッ!!?」


−−その光景に絶句した。



慎ましいとはいえ確かに盛り上がっている胸の双丘でTシャツは丈が短くなり、薄く割れている腹筋と共にヘソが垣間見える。


首に通したドッグタグのボールチェーンは白い肌とマッチし、二枚のタグはシャツの中−−つまり胸の谷間へ仕舞われていた。


そして、しなやかで美しい脚線美は無骨なパンツとブーツによって隠されてしまっているが、逆にその下にある美しいラインを想像しようと妄想が逞しくなる。


短く整えられた銀髪と鍛え上げられた美しくも逞しい肉体は−−−


「どうだろう、おかしくないか?」


そうまるで−−−


「きっ……」


「…ん?どうした?」


「「「教官殿ォォォォ!!!」」」


彼等が現役軍人時代、夢にまで見た美人教官の妄想を具現化したモノだった。


「き、教官!?」


「「「教官殿ォォォ!!自分達は蛆虫でありまぁぁぁす!!!」」」


「な、なにを言っているんだ!!?」


「「「是非とも懲罰(お仕置き)をォォォ!!!教官殿ォォォォ!!!!」」」


駐屯地全体に響き渡る歓喜と狂喜の絶叫。


なんだ、どうした、と隊員達が続々と絶叫の発生源へ辿り着けば−−


「「「ウオォォォ!!!教官殿ォォォォ!!!!」」」


「一体なんなのだぁぁぁ!!?」


−−小隊長達に混ざり歓喜の絶叫を奏で上げるのだった。








一方その頃、朴念仁&唐変木の和樹は−−





「…む?」


なにやら彼方で聞き覚えのある絶叫が聞こえ………気の所為か。


まぁ良いと思い至り、ふと足下へ視線を落とす。


「…今更だが…お前と散歩するのは初めてだな、萌々」


−−ワウッ−−


最近になって灰色の首輪を巻かせた萌々が同意するかのように小さく吠えた。


しかし……ここが三国時代で良かった。


いくら萌々が大人しい犬だとはいえ、リードを付けずに散歩しているのだ。


しかも往来の激しい大通りを。


……向こうの世界だったら、まず罰金だろうな。


まぁ…犬を散歩させたのは初めてなのだが。


「−−あらぁ、韓将軍じゃありませんか」


「む?…応、女将か」


店の軒先から声を掛けて来たのは茶屋の女店主。


「今日は徐盛ちゃんと一緒じゃないんですねぇ」


「ふっ…こんな男と一緒に歩くより新しく入った美人、美少女な使用人と仕事をしていた方が良いんだとさ」


「はははっ、またまたぁ!」


冗談を言ってみれば女店主は手を叩いて朗らかに笑い始める。


「あぁそうだ。新しいお茶の葉が入ったんですよ。良かったら一杯どうです?」


「…そうだな……ふむ、頂こう。…あぁ…それと手数だが、コイツに水をやってくれ」


「ワンちゃんにもですね。はい、畏まりました」


微笑みながら萌々の頭を撫でた女店主は立ち上がると俺へ礼をし、店の奥へ消えて行く。


それを見届けると帯から二本の愛刀を鞘ごと抜き、毛氈を敷いた長椅子へ立て掛けた後、腰を下ろす。


「−−はい、ワンちゃんに水ですよ。お茶はもう少しお待ち下さい」


水を満たした器を萌々の眼前へ置くと女店主は再び店の奥へ消えた。


萌々が舌を使いピチャピチャと水を飲む微かな音が大通りの喧噪に混ざる。


人の往来を何気なく見詰めていると−−人々の間を縫い、こちらへ歩いて来る人影に気付いた。


「−−失礼。犬を拝見しても宜しいでしょうか?」


「−−…構わんが」


開口一番、俺へ歩み寄った商人風の格好をした若い男はそう告げた。


承諾すると俺へ礼をし、次いで膝を付き萌々を撫で始める。


「…可愛らしい…それでいて逞しい身体だ…。いやはや素晴らしい…」


独り言を呟きつつ萌々の身体を撫でていた男は立ち上がり、俺へ視線を滑らせる。


…確かに笑顔を浮かべているが……眼は笑っていない所を見ると…。


「お隣宜しいでしょうか?」


無言で腰を動かし、席を空けてやると男はそのスペースへ座った。


「……細作だな」


「やはり、お判りになりますか?」


「いずれの者だ?」


眼が笑っていない笑顔を浮かべつつ男は無言で懐へ手を突っ込む。


反射的に刀へ手が伸びるが、それを押し止めるかのように男は空いている掌を見せ付けた。


「御安心を。書状を取り出すだけにございます」


とは言うが、武器から手を離す理由にはならない。


やがて差し出された書状を刀を掴んでいる左手とは逆の手で受け取り、それを開いた。


「………ふん…貴様、曹魏からか」


「はっ」


「孫策を裏切り、鞍替えせよ…随分と直球だな。もう少し捻りが欲しい所だ」


「……………」


「……判った、考えておこう。孟徳殿へ伝えろ。互いに期待していると」


「…互いに期待、とは?」


「こちらは裏切りに見合う報酬、そちらは大陸一ともいえる戦闘集団を手に入れる事をだ」


「…畏まりました。良き土産を持ち帰る事が出来る」


「その内、その土産がそっくり手中に入るだろう」


「左様にて……では」


声だけの礼をした男が大通りへ戻って行き、視界から消え失せた。


書状を畳み、懐へ突っ込んだ瞬間、女将が店の奥から姿を表す。


「お待たせしました。さぁどうぞ」


「あぁ、頂こう」


湯呑を受け取り、茶を啜る。


「…ほぉ…美味いな」


芳醇な風味を素直に称賛すると女将は顔を綻ばせた。







この数ヵ月後、曹魏は70万の兵力を動員し挙兵。


まず目指すは荊州。


その報を受け、蜀から使者が建業へ到着。


呉を支援する為、主力15万の派兵が決定し、既に挙兵したとの報がもたらされた。



そして伯符殿直々に黒狼隊へ参戦の要請が下る。



決戦場は−−−赤壁。






平穏な日々に終わりを告げ、遂に物語は決戦場へ−−−




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