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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第八部:日常という有り触れた日々
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ふぅ……やっとだ。







「−−…むぅ…」


「−−…どうした?」


「色々とツッコミたいんだがな…」


「だからなんだ?」


「……何故、お前まで一緒に来るんだ−−華雄?」


建業の城門を潜り、駐屯地へ向けて互いの愛馬の馬上で揺られながら進んでいるのは−−俺と華雄だ。


やっと復帰できる−−その為、俺は駐屯地で指揮権返上を受けるのだが……何故、こいつまでもが一緒に来ているのだか。


「別に構わんだろ?」


「……まぁな」


短く素っ気ない承諾をし、互いの馬を進める。


「…身体の療養に一月、鈍った身体を元へ戻すのに一月。…長かった」


「私は短く感じたぞ。大体、死の淵を彷徨った人間が僅か二月弱で職務へ復帰できる方が異常だ」


「…そういうモンか?」


「そういうモノだ。…まぁ…私の一撃を軽くいなせるお前が戻ってくれて嬉しいがな」


隣で馬を進める華雄はそう言うと俺へ向かい穏やかな笑顔を浮かべた。


「……鈍ってたからな…“あの時は"お前の一撃が余計に重く感じて仕方なかった」


「あの時は結構、持っただろうに」


「…俺が終始、守勢に徹するとはな…それと皮肉に気付け阿呆」


「それを平然と出来るのもお前の才能だな。普通なら焦れて遮二無二、掛かって来るモノさ。誰が阿呆だ莫迦者」


「…どの口が言う。この猪が」


「そのまま返そう。この狼め」


「無謀」


「鈍感」


「向こう見ず」


「朴念仁」


「酒乱」


「鬼畜」


「……………………………」


「……………………………」


「……止めよう。あまりにも不毛だ」


「……そうだな……済まん」


−−互いが駆る愛馬達が呆れたかのような嘶きを軽く発した。








「−−付けぃ!!!」


正門で三名の部下達が号令と共に姿勢を正し−−


「部隊長に敬礼!!」


−−彼等は一斉に捧げ銃と最敬礼で俺を出迎えた。


黒馗の鞍から飛び降り、その手綱を部下へ預けると自由になった左手で腰へ吊り下げた二本の愛刀を押さえつつ歩き出す。


「−−…お前が復帰して嬉しそうだったな」


「あん?…まぁ…そうみたいだな」


当たり障りなく返したが……俺には通常通りに見えたぞ。


「……今、自分の眼には普通に見えた、などと思わなかったか?」


……コイツは時折、妙に鋭いな。


その洞察力をもっと別の事へ活用すれば良いだろうに。


「……隊長」


「…少佐…」


「隊長…!!」


「隊長…お帰りなさい」


駐屯地の指揮所を目指して歩くと、行く先々で部下達が俺へ敬礼をしてくる。


ラフに答礼して行き、指揮所の前へ辿り着く。


「−−少佐」


「応」


待ち構えていた砲兵小隊長の少尉が敬礼し、指揮所の布扉を捲り上げた。


「部隊長、参られました」


捲られた布扉を潜り抜けるとほぼ同時−−


「−−総員、気を付け!!部隊長に敬礼!!」


−−相棒と全小隊長達が踵を鳴らし、俺へ敬礼を送った。


それに軽く答礼すると用意されていた折り畳み椅子へ歩み寄り、腰を下ろす。


「…姿勢を楽に」


「休めぇ!!」


相棒の号令一下、小隊長達が腰へ後ろ手を回した。


「…まずは自分の不在中、苦労を掛けたな。皆、御苦労だった。長かったが本日より復帰だ。……まぁ、死に損ないで悪いが…また、宜しく頼む。自分からは以上だ」


「−−では、指揮権をお返し致します。…どうぞ」


「応」


中尉から几帳面に畳まれた漆黒のコートを受け取り、眼前にある長机の上へ置いた。


「…各員、持ち場へ戻れ。解散だ」


「総員、気を付け!!敬礼!!!」


答礼すると小隊長達は指揮所を後にし、残ったのは俺と相棒、そして見守っていた華雄だけとなった。


「…しかし…こうも仰々しくするとは思わんかった」


「まぁまぁ。野郎共に言わせると、ケジメみてぇなモンなんだとさ」


「ケジメ、ねぇ…」


溜息とも嘆息とも言えない微妙な息を吐き出し、腰掛ける折り畳み椅子の上で足を組む。


「おっと…そうだ。晩飯のリクエストあるか?って烹炊長が言ってたぜ」


「…何故だ?」


「お前の復帰祝いのパーチー」


「そんな事をする必要性が見付からないんだが…」


苦虫を噛み潰すように顔を顰めるが、それに反して相棒の奴はカラカラと笑い出す。


「ハハハッ。んなモン建前に決まってんだろ。要は理由付けて騒ぎてぇだけさ」


だと思ったよ。


…そんな事を考えてしまう俺も大概かもしれんが。


「で結局、ある?それともない?」


「……シュヴァイネブラーテン。それとパン」


「小麦?それともライ麦?」


「ライ麦」


「あいよ、伝えとく。華雄は晩飯の注文あるか?」


「む…私か?」


入り口で腕を組み立っていた華雄へ相棒が視線を向ける。


彼女は顎へ手を遣って考え込む仕草をするが……まさか誘うとは思わなかった。


「…特にないが……というか良いのか?」


「“特にない"ってのが一番困ると思うんだけどなぁ…。…あぁ平気平気。ってか、お前、ぼっち飯が好みか?」


「ぼっち…?」


「一人寂しく飯を食う事だよ」


「…呂猛…流石に私もそんな趣味はないぞ。出来るなら大勢で食事を楽しみ−−」


「大丈夫!!俺と相棒も学生ん時は、ぼっち飯大好きだったからさ!!」


「−−聞け、莫迦者」


……相棒はいつも余計な一言が多いな。


一応、俺と相棒の為に言っておくが、ぼっち飯が好きだった訳ではない。


高校時代、俺と相棒はクラスが別であり、しかも昼飯は原則、クラス内でしか食べられないという校則が存在した。



お陰で昼は窓際の席で一人寂しく食事を摂るのが恒例のティーンエージャーだったのだ。


…ふっ…懐かしいな…安い菓子パン一個と小さい紙パックの牛乳ひとつの昼飯……“懐かしくて涙が出そうだ"。


早朝に新聞配達のバイトが終わったら道場へ。


学校が終わったら道場へ。


……なんというか……あの頃、マトモな食事は道場主の師匠の下で摂った記憶しかない。


師匠…月並みだが、どうか長生きしてくれ。


師匠孝行はどうか考えないで頂きたい……あぁ…そういや前世に匿名で師匠へ送金したな。


日本円で…いくらだったろうか……確か…400万だったか?


食費分には多いかも知れんが受け取ってくれてると良いが……。


「−−なにを黄昏ておるのだ?」


「−−あん?……あぁ悪い」


気付けば華雄が傍らで俺を見下ろしていた。


「…それで結局は何を注文したんだ?」


「…勝手が判らんからな。お前と同じ物を頼んだ」


「……まぁ良いが…」


俺に付き合って、太らなければ良いが。


なにせ今日の晩飯は肉ばかり食べる予定だからな。


「あぁそういえば…徐盛に伝えなくて良いのか?」


華雄が放った言葉で思い出してしまう。


…こちらで食事を摂るという事を伝えていなかった。


「…そうだな。華雄、悪いが徐盛に伝えてくれるか?」


「判った。…お前の作る食事など口に合わん、と伝えれば良いのだな?」


「…何故そうなる」


何処をどう曲解すれば、そんな答えに至るのか。


非難混じりの視線を彼女へ向ければ−−唇の端を歪め、俺を見下ろす女がひとり。


「ふっ…冗談だ」










「−−んじゃま、取り敢えず……かんぱ〜い♪」


『かんぱ〜い♪』


…ヘリ部隊の中尉が乾杯の音頭を取ると、そこかしこで挙がるグラスの数々。


「っしゃあ!!食うぞ−−!!!」


「あっテメッ!!勝手に取んな畜生!!!」


「ボトルは一人二本までな〜。樽ならいくらでも呑んで良いから〜」


「ほれ飯だ。一品残らず食えよ」


『烹炊長、あざ〜っす!!』


−−次の瞬間には駐屯地全体が阿鼻叫喚の戦場と化した。


食事は結局、ビュッフェ形式。


いくつかの長机の机上には多くの料理が並べられている。


当然ながら、好きに食えということだ。


群れる飢えた狼の如き部下達の間を縫い、皿の上へ乗せた料理と片手に掴む酒のボトルを持ちつつ席(という名の地面)へ向かう。


「−−あ、これ美味しいわね♪」


「−−…肉料理ばかりなのが残念だな…もう少し軽い物はないか?」


「−−…料理は美味いが…酒が足りんなぁ」


「−−美味しい!!美味しいです!!」


「−−明命、喉に詰まりますよ?」


「−−はしたないぞ。もっと落ち着いて食わんか…」


「−−そういう思春ちゃんだって、ちゃっかりご飯を沢山確保してますね〜♪」


「−−む〜…お肉ばっかりぃ……太っちゃうよ〜」


−−何故、こうなったのだろう。


…華雄。徐盛には夕餉は要らないとだけ伝えれば良かった筈だ。


ならばと徐盛を含めた使用人達も駐屯地で食事を摂れば良いと彼女が思い付いたのは理解できる。


それは良い。


理解も出来るし納得もしよう。


だが……何処をどうすれば呉の主要な武将達までもが食事を摂っているのだ?


地面へ胡坐を掻いて座り込むとヤケ気味にボトルの封を開け、注ぎ口を銜えるとボトルを傾けた。


「……っはぁ」


アルコール臭い息を吐き出しつつボトルを手元の地面へゴトリと音を鳴らして置く。


「はっはは!!和樹、良い呑みっぷりじゃのう!!」


「…どうも」


形だけの礼をする。


…どうせならビールでも出してやるか。


そして炭酸で噎せれば良い。


シートの上で車座になって腰掛ける方々の中心に置かれたバスケットからリクエストしたライ麦パンを取り、烹炊長謹製のホールチーズの切れ端を乗せて齧る。


堅いチーズを口の中で咀嚼しつつ溶かしていると、使用人になった美羽がそそくさと俺へ近寄ってきた。


そして……俺の背後へ座り込む。


「…どうした?」


「うみゅ……しょしょ…しょんしゃくが…!」


「あん?……あぁ、成程」


俺の服を握る手がビクビクと震えている。


しかも……次いで七乃までもが近寄ってきた。


「だっ旦那様……?」


「…お前もか…」


「あはは…」


冷や汗を流しつつ七乃も俺の背後にちょこんと座り込んだ。


「…伯符殿の何処が怖いんだ?」


「だっ旦那様は怖くないのかの!?」


「…怖いか、怖くないかで聞かれたら……まぁ怖くはないか」


「まっまぁ付き合いが長い旦那様ならそうでしょうけどねぇ…」


「斬られそうなのじゃ…」


「………」


まぁ…なんとなくだが、酒が回り、余興がてらに剣を振り回しそうではあるがな。


「旦那様には抑止力になって貰いたいんですぅ…」


「…核抑止論が通用する相手とも思えんが……」


「はい?」


「なんでもない。……というか少し離れろ。暑苦しい」


皿に盛ったスライスした豚肉−−シュヴァイネブラーテンをフォークで突き刺し、口へ運びつつ苦言を背後へ放つ。


肉を口へ放り込み、次いでチーズを乗せたパンを齧り、噛み砕きつつ酒で流し込む。


「……ところで口に合うか?」


「…うむ…美味なのじゃが…」


「…どうした?」


振り向くと美羽は春巻を食べながら俯いていた。


「…あ〜〜……甘い物−−ハチミツが無いのがお気に召さないようでして…」


「ハチミツ?…お前、ハチミツ好きなのか?」


「…うむ」


ボトルを傾け、酒を胃へ流し込みながら問い掛ければ美羽は小さく頷いた。


……そういえば、長机のいずれにも甘味と呼べる料理は無かったな。


強いて挙げれば果物ぐらいだ。


「…なら作ってもらえ」


「出来るのかの?」


「…向こうに熊みたいに体格が良い奴がいる。直ぐ判るだろう。そいつが担当だ」


「熊…?」


「あぁ、頼んでみると良い」


「判りました。美羽様、行ってみましょう?」


「うむ…」


体良く追っ払うと食事を再開−−したかったのだが…今度は狼達が駆け寄ってきた。


−−グルルッ……−−


「−−ひぃぃぃぃぃ!!?」


……付近から悲鳴が聞こえて来たが……無視しよう。


尻尾を振り、まとわりついてくる姿は犬にしか見えないが、喉の奥から発する唸りは猛獣そのもの。初見の人間はこれが“甘えている"とは思わんだろう


胡座を掻いた脚の上へ身を預けてくる赤色の首輪を巻いた狼に触発され、残りの狼達は背中へ張り付き、または側面から頬を舐め、あるいは身体を俺へ擦り付けてくる。


「かっ和樹…ぷふっ♪毛むくじゃらになってるわよ♪」


「和樹。ここは呉じゃぞ?しかも初夏が近いというに防寒着は必要か?」


マズい…酔っ払いに眼を付けられた。


「……退けろ」


苛立ちを含めて殺気を飛ばせば、こちらの意図通りに離れる狼達。


自由になった手でボトルを掴み、喉の奥へ酒を流し込む。


「…絶好調になっちゃったわねぇ…」


「医者の自分が言うのもなんですが…コイツ、もう少し大人しくさせておいた方が良かったんじゃないかと考え始めました」


殺気を少し拡散させてしまった所為か、彼女達が肌を擦るのが視界に入る。


だが、我関せず。


気にせず食事を続ける。



叶うならば、もう少しだけ静かに食事を続けたい−−










−−と45分24秒前まで俺は思っていたのだが、そんな希望は結局のところ無理だったようだ。


「−−うぅ…ぐすっ…隊長ぉぉ…」


「……なんだ中尉…?」


「…俺……隊長がやられたって聞いた時…本当に心配だったんっすよぉ…」


「あぁ…そう。…俺の記憶が確かなら、それ話すの5回目じゃなかったか…?」


「しかも…しかもっすよ!?俺が副長の代行って…荷が重すぎるっすよぉ…!!…アイツら…揃いも揃って危ない奴等ばっかり…隊長はどうやって手綱握ってんすかぁ!?」


いつの間にか中尉の奴が俺の隣で涙ながらに愚痴を零し始めた。


コイツ、酔っ払うと泣き上戸になるのをすっかり忘れていたな。


「あぁ…まぁなんだ…とにかく御苦労だったな。ほら呑め」


「ぐすっ…あり…ありがとうございます…ううっ」


そしてさっさと潰れろ。


…これが祖国の陸軍で将来を嘱望されていたエリート将校だとは誰も思わんだろう。


頑張れ、中間管理職。月並みだが応援しているぞ。


「…将司ぃ…もう一杯……」


「…公瑾殿、そろそろ止められては…?」


「はぁ?呑め呑め言ったのは将司だろう!?それとも何かぁ…?お前は私より、もっと若い娘と呑む方が良いのかぁ…!?」


「…Oh…これは黄巾の乱ならぬ“公瑾の酒乱"だな…」


「五月蝿い!!さっさと注げ!!」


…まさか公瑾殿までもが普段の雰囲気を放り投げて管を巻くとは…。


しかも何処ぞの女王の如く、相棒を侍らせ、酌をさせている。


「(−−ッ!オイ、助けてくれ!!)」


「(−−…頑張れ)」


「(−−薄情者ォォォォ!!!)」


アイコンタクトのみで会話を交わすが……耐え切れず相棒の切羽詰まった視線から顔を背けた。


だが顔を背けた先には−−


「おうおう…元服したのじゃ。酒の一杯くらい呑めるようにならなくてはのぉ…」


「あははっ♪祭、私も手伝うわよ〜♪」


「祭!!姉様もお止め下さい!!」


「むぐぐっ!!?」


−−徐盛が公覆殿に羽交い締めされ、伯符殿が酒を注いだグラスを口へ押し付けていた。


急性のアル中で死なれては困るが……ストッパーの仲謀殿がなんとか抑えてくれると信じよう。


「一番!!前田宗治一曹、歌いま〜す♪」


「良いぞ〜!!!」


「お〜い!!誰かマイクと俺のギター持って来てくれ〜!!」


一曹の奴が料理が無くなった長机をお立ち台宜しく占拠し、ハイテンションで歌唱の申告を始めている。


…これどうしたら良いのだろう。


もはや収拾がつかない。



……面倒臭いな。


もう勝手にして−−


「隊長〜聞いてんすかぁ〜!?」


−−本っ当…面倒臭ェな、オイ。






“公瑾の酒乱"


>アニメ“真・恋姫†無双〜乙女大乱〜"より


…酔っ払いの絡みほど面倒臭いモノはない。




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