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もうちょいで100話…!!
そして…もう少しで…!!!
−−乾いた一発の銃声が轟いた瞬間、慣れた反動を右肩に感じた。
「−−命中。次」
「−−応」
立射の姿勢を取ったままAK-74のセレクターを操作し、セミからフルオートへ。
横一線に並べられた紙製のマンターゲットへ照準を合わせる。
銃口でそれらをなぞり、照準が合った瞬間、銃爪を引いて行く。
銃声が止むと撃った空薬莢が地面に落ちた微かな音が耳朶を打った。
「−−命中。はい、次。想定、小銃のジャム。使用不能。拳銃での攻撃へ。始め」
「−−応」
小銃をその場で放棄し、拳銃のホルスターへ手を伸ばすと留め金を外す。
愛銃たるデザートイーグルをホルスターから抜きつつセイフティを解除し、片手のまま愛銃を保持すると照準を合わせ−−銃爪を引いて行く。
一発、二発、三発……七発目を撃ち終わった所で銃口を地面へ向けた。
「−−発砲七発、全弾命中。……普通、片手だとそんなに当たらねぇんだけどなぁ……」
「−−訓練してたら出来るようになっただけだ」
「……でも基本、拳銃は両手で保持だろ?ってか、野郎共、皆そうじゃん」
「そうは言うが……とどのつまり、当たれば良いんだ、当たれば」
腕組みをしながら呆れたような視線を向け、それと同様の口調で喋る相棒へ返事を送りつつ愛銃にセイフティを掛け、ホルスターへ納める。
「休むか?それとも続ける?」
「続ける。中尉を呼んでくれ」
「あいよ〜。んじゃ、奴とバトンタッチで俺は訓練に戻るわ」
「応…」
去って行く相棒が手を軽く振りつつ、新兵訓練中の部下達の下へ向かうのを見送る。
現在、俺がいるのは城の調練場だ。
本当なら駐屯地でリハビリを行う予定だったのだが……主治医の“どうせなら城でやったら?野郎共も来るし"の言葉で急遽、変更となった訳である。
容赦なく罵声を浴びている訓練中の新兵隊を何気なく見ていると相棒と少し話し込んでいた中尉が俺の下へ駆け寄って来る。
「−−お呼びでしょうか?」
「あぁ。呼び立てて済まんな。少し、格闘の相手をしてくれ」
「では、僭越ながら……」
そう告げると中尉は珍しく嬉々とした表情で装備を外し、上着を脱ぎ捨てた。
「ナイフは使いますか?」
「いや。徒手でやろう」
「了解しました」
放棄したままの小銃の傍らへ装備を置き、上着を脱ぐと上半身はシャツだけの格好になる。
その格好のまま中尉へ近付き、おもむろに構えを取った。
「…いつでも良いぞ」
「…では−−」
互いにジリジリと摺り足で間合いを計る。
さて……最初はどう繰り出して来るか…。
おそらくは−−
「−−ッ!!」
−−縦拳の面突。
予想通りに繰り出された突きを左手で捌き、右腕の肘打ちを中尉の喉へ喰らわせ−−
「−−フッ!!!」
−−そう簡単に喰らわせられる訳がなかったな。
空いていた腕を差し込んで直撃を避けた中尉が今度はお返しとばかりに頭突きをかます。
「−−グッ!!?」
−−…この…石頭め…容赦なしで仕掛けて来たな。
攻撃へ入られる前に距離を取る。
「隊長、今のはお返しです」
「まだ何もやっとらんだろう」
「いいえ。…あと少しで気道を潰され掛けました…から!!」
−−今度は金的狙いでの蹴り上げ。
両腕を交差させ腕を止めると押し返す。
「…いくらなんでも、それはないだろ?」
「…申し訳ありません。隊長だと…どうも加減が…」
「…嫌われてるんじゃないかと一瞬、考えてしまったんだが……」
「それはないので御安心を」
「なら良い……行くぞ」
「どうぞ」
彼我との距離を詰め、縦拳で中尉の顔面を狙い−−当然の如く阻止された。
腕を取られ、そのまま背後へ回り込まれた瞬間、首を締め上げられる。
その瞬間に両手を使って締め上げる腕を真下へ引っ張り、首と腕の間へ僅かな空間を作る。
「…降参…しますか…!!?」
「誰……が!!!」
「ウグッ!!?」
最初に足を踏み付け、今度は俺が後頭部で中尉の顔面へ頭突きを喰らわす。
腕が弛緩した隙に抜け出すと、中尉の脚を払い転ばせた。
そのまま黒革で作られた丈夫なブーツを持ち上げ−−中尉の顔面の間近へ踏み落とす。
「−−俺の勝ちだ」
「−−グッ…ウウッ…その…ようで…」
「……大丈夫か?」
「…大丈夫そうに…見えますか?」
鼻を押さえながら立ち上がる中尉は……鼻血をダラダラと流していた。
どうやら先程の頭突きは鼻に当たったようだ。
「……んんっ…!!」
中尉はおもむろに鼻を摘まみ、メキメキと音を立てて応急処置を始めた。
…どうやら折れていたらしい。
「どうだ?」
「…ふぅ……まぁ、なんとか」
指先で鼻筋の状態が元の形に戻った事を確認した中尉は鼻血を止める為、今度は鼻を押さえる。
「…連中にからかわれるかも知れませんな…」
「安心しろ。間違いなくからかわれるだろうよ」
「“良い物でも見たんですか〜?"ですかね…?」
「…そんな所だろうな」
呟きつつ上着を置いた場所へ戻るとポケットを漁り煙草を取り出す。
煙草を銜え、火を点けて紫煙を吐き出した。
「フー……」
唇の端へ煙草を銜えながら訓練中の新兵達へ視線を遣る。
ポケットへ手を突っ込んでいると鼻孔へテッシュを詰めた中尉が煙草を銜えつつ近寄って来た。
横に並び立った彼はやおらに紙片を俺へ差し出してくる。
「…これは?」
「本日、届きました。潜伏中の者からです」
「ほぅ」
「既に平文へ直しております」
中尉の言う通り、暗号文ではなく解読が容易な英文となっていた。
防諜の為、“何処に誰が、どの程度の規模で"潜伏しているかを述べなかった点から考え……間違いなく“あそこ"からだろう。
「Large scale movement of military power was not checked.(兵力の大規模移動は確認せず)
However, about 10,000 persons are expected to be reinforced within one month as new military power.(しかしながら、新規兵力約1万名が一ヶ月以内に増強される見通しである)」
ふむ……軍備の再編に躍起となっているようだ。
まぁ当然といえば当然だろう。
「…それには記載しませんでしたが…重ねて“申し訳なかった"とも」
「別に構わん。あの状況下で呉へ手紙を送れば怪しまれただろう」
「えぇ…確かに」
「他にニュースはないか?」
紫煙を吐き出し、視線を向ける事なく先を促す。
「…これは、あまり驚く程でもないと思いますが……再度の侵攻計画が持ち上がっているようです」
「何処からの情報だ?その信憑性は?」
「……お耳を」
「…ん」
中尉の言葉通り、確かに驚く程の情報ではない。
むしろ当然と思っていた程だ。
“あの王"は良くも悪くも俺に似ている。
特に“問題や目の上の瘤を後回しにしない"点などは。
導かれるまま僅かに身体を傾け、耳を中尉へ貸すと彼が耳打ちしてくる。
「−−−−−−−」
「−−−ほぅ…それはそれは…成程、確かな情報だ」
ほくそ笑みつつ身体を離すと手にした紙片を返す。
「潜伏中の奴に“現状維持"を命令しろ」
「了解しました」
中尉は煙草を銜えるとジッポで火を点け−−次いで紙片も焼却した。
「状況が動くのはいつ頃になるでしょうか?」
紙片が火に包まれ、地面へ落ちた。
火で炙られ、みるみる灰へ変わり、燃え尽きた頃を見計らいブーツで踏み潰す。
「今年中−−おそらく出兵は秋頃だろう」
一気に赤壁へ行こうか、それとも少し日常を書こうか悩むこの頃。
……っていうか、コスプレの件で皆様からの反響が凄い…。