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冒頭“THE☆キャラ崩壊祭”続行中!!
……右頬が痛い。とにかく痛い。滅茶苦茶痛い。途方もなく痛い。半端なく痛い。
……あぁ…華雄の胸を……まぁ…その…なんだ…揉−−もとい触れてしまい平手で打ち抜かれたんだった。
…存外、柔らかかったな。
ふむ……感触と目測では……約84cmと約71cm−−いずれも誤差が±1cmの範囲でトップとアンダーの差が約13cm…つまりはBだと推測した。
補正機能が付いている下着などが無いならば、ほぼ確定だろう。
覚えている事が確かなら…Aが10cm、Bは12.5cm、Cが15cm、Dは17.5cm、Eは−−(以下略)。
ちなみにアメリカ人の成人女性の平均サイズはDであると言われ−−(以下略)
個人的な女性の好みに身体的特徴−−特に胸の大小は入っていないが……無いよりは有った方が良いと思うのは健全な証拠であると信じたい。
敢えて言えば−−俺の“一応”の好みに限りなく近いサイズは……ちょうど霞ぐらいの−−(以下略)
いや…だが、呉勢の伯符殿や公瑾殿、そして公覆殿、蜀勢ならば漢升殿と厳顔殿のような豊かで抱擁力のあるサイズも捨てがた−−(以下略)
ついでに目測での伯符殿達のサイズは−−−……っと何を考えているんだか。
…勝手に考えておいてなんだが、俺は断じて変態ではない。
むしろ正常な男子ならば当然かつ健全な証拠だ。
−−まぁ“そんな事なんぞ”果てしなくどうでも良い。
それにしても……頭がグラグラする……平手の衝撃で脳が揺れたか?
しかも口内を切ったのか血の味がする。
…張られた右頬の状態が気になってしまう。
おそらく腫れ上がっている事だろう。
…一体、どのくらい気を失っていたのだろう。
取り敢えず眼を開けて−−
「−−……起きたか?」
−−みたら、眼の前に華雄の顔があった。
おまけに天井が見えるのも考えると……間違いなく膝枕されているな。
「…どのくらい気絶してた?」
「……四半刻といった所だ」
「……そうか」
「…………」
……随分、不機嫌そうだ。
必要最低限の事しか話したくないと見える。
俺の顔を覗いたのは最初だけで後は見向きもしていない。
…まぁ当然と言えば当然だが。
ならば要望に応えて、さっさと起き−−
「−−駄目だ、寝ていろ」
−−ようとしたら無理矢理、華雄に膝へ押し戻される。
「…オイ」
「…ふん…」
実に不機嫌そうに華雄が鼻をひとつ鳴らした。
次いで傍らから水面へ落ちる水の音が聞こえる。
すると水で冷やされた手拭いらしき物が右頬へ当てられた。
「ほら、押さえてろ」
「……ん」
右手を掴まれ、導かれた先には少し水気のある布が確かにあった。
それへ手を添えると掴んでいた華雄の手が離れる。
「……痛ェ…」
「ふん…当然だな。…だが…乙女の胸を揉んだ代償にしては軽いモノだ」
「“乙女”?一体何処にいるんだ?」
「…張り倒すぞ貴様…!!」
「言われ放題なのは性に合わ−−痛っ」
今度は頭をベシリと叩かれた。
「……あぁ…悪かった、悪かったよ。素直に謝る。この通りだ」
「誠意がない謝罪など、こちらから願い下げだ」
「やれやれ…くくっ…随分な御言葉だ…」
一刀の下に斬り伏せられてしまった。
思わず苦笑を零す。
「何を笑っている莫迦者」
態度が気に障ったのか再び頭をベシリと叩かれた。
「…叩くな。俺の頭は楽器じゃないぞ」
「知っている。腹が立っただけだ」
また華雄が不機嫌そうに鼻を鳴らした。
それだけ不機嫌ならば膝など貸さねば良いだろうに。
抜け出すのは簡単だろう。
額と胸へやんわりと手を添えられているだけだ。
だが……何故か、その手を振り払う気になれない。
「…あぁ…そういえば聞くのを忘れてたな」
「…なんだ?」
「何故、“あんな事”を?」
問い掛けた瞬間、ピクリと華雄が身動ぎしたのが判った。
そして−−彼女の全身から再び殺気が溢れ出す。
……あっ、ヤバい。
これを…俗に藪蛇と言うのだろうか。
「…何故…何故だと?」
「……応」
「……こんの−−!!!」
「−−痛ひゃひゃっ!!ヘフェ、にゃひひやがふ!!?」
−−額に添えられていた手が唐突に離れ、次いで口の端を引っ張られた。
「この口か!?この口が、そんな戯れ言を抜かすのか!!?」
「はにゃふぇ!!!−−…あぁ〜…痛って……」
振りほどいたが地味に痛む。
しかも狙ってやったのか平手で張った右側を引っ張りやがった。
「…なにしやがる…!?」
「…貴様ぁ、知らんとは言わせんぞ…!!?」
「……なにを…?」
涙目になった双眸を恨みを込めて向ければ、華雄が今にも唾棄しそうな表情で俺を見下ろしていた。
「貴様…徐盛を利用して女を二人も連れ込んだそうだな…?」
「………はぁ?」
「あまつさえ、そのまま複数で事に及ぼうとは…!!見下げ果てたぞ!!」
「………はぁ?」
……コイツは……何を言っているんだ?
言葉は判るのだが…言っている意味が全く判らん。
「なにをポカンとしている!!?」
「なにもクソも……お前、なに言ってんだ?」
「貴様ァ…!!此の頃に及んで、まだ白を切るつもりか…!!?」
「いや…本当になにを言ってるのか全く判らん」
「………判った」
…やっと理解してくれたか。
猪女などと言ってしまったが、やはりコイツは話し合えば判る女−−
「−−ならば、拳で思い出させてやろう…!!!」
−−では無かったな。
俺へ見せ付けるように片手の関節をバキボキと鳴らし、脅しを掛けて来た。
これは、とても本人曰く“乙女”がする所作ではない。
「待て。頼むから待て。今、喰らったら間違いなく死ぬぞ。むしろ死ねる自信がある」
「結構…そのつもりだ…!!」
「…はぁ……なにを見聞きしたかは知らんが……まぁ良い。白状しよう。だから拳は下ろせ。恐くて舌が回らん」
「…ふんっ…ならば言い訳ぐらいは聞いてやろう」
拳だけは下ろした華雄だが……双眸は三白眼のままだ。
さて……自分の命を自分で拾うとしよう。
−−−−
−−−−−
−−−−−−
−−−−−−−
「−−と、まぁそんな訳なんだが……」
「……ほぉ……あの袁術と張勲がなぁ…。まさか生きていたとは思わんかった」
「…俺は今日の昼頃まで存在自体、忘れていたがな」
「お前も大概だな……」
「良く言われる。…で、だ」
「うん?」
「最初に門を破壊。続いて、こっちの制止を聞かず斬り掛かって来た。終いに平手−−は俺が悪いが…病み上がりにアレはキツい」
「…うっ…」
見ていて面白いな。
落ち着かない様子で視線をあちこちへ向けている。
「……まぁ、それほど気にしちゃいないがな」
「……え?」
呟きつつ温くなった手拭いを裏返し、頬へ当てる。
「今更だからな。どうって事はない」
「…“今更”?」
僅かに頷くと着物の襟を開け、胸を露にする。
「俺の基準で悪いんだが、突然の襲撃に奇襲なんか戦場じゃ当たり前だからな。そいつを考えれば腹も立たんよ」
「…………」
無言で華雄が露になった胸板へ手を置き、こそばゆいほど優しく撫で始める。
お陰で思わず身震いしてしまう。
「…所々、肌が盛り上がっているな……古傷か?」
「…あぁ。銃創、切創、刺創…まぁ色々だ。…言っとくが何処で受けたのかは聞くなよ。いちいち覚えてなんぞいない」
「お前の性格だ。そうだと思ったよ」
「だが……ひとつだけ良く覚えてる傷はあるぞ」
「ほぅ?」
興味を持ったのか華雄が“どれだ?”と言いたそうな顔をしている。
答える為、胸に添えられた手を取り、その箇所へ導いてやれば−−また表情が固まった。
「−−ここだ」
「……オイ…お前なぁ…」
「…ククッ…」
非難するような視線を向ける華雄へ唇の端を歪めての笑顔をプレゼントしてやる。
「…本当は根に持っているのか?」
「…フフッ…さてな?」
少なくとも嘘は言っていない筈だ。
打ち抜かれ、まだ痛む右頬。
それを忘れるほど、記憶力は悪くない。
それに−−久方振りに“完膚なきまで”の惨敗を喫したのだ。
忘れるなど“勿体無い”。
「…痛むか?」
「あぁ」
頷いてみせると華雄は冷していた手拭いを退け、直に頬へ手を添えて撫で始める。
「…その……なんだ…済まん…」
「気にしちゃいない、と言っただろう」
「…いや…済まなかった…」
「ククッ…まぁ…受け取っておくとしよう」
微苦笑を華雄へ贈ると……不意に疑問が頭の片隅を掠めた。
「……さっきまで、ずっと聞かれる側だったからな。少し、こっちの質問に答えてくれ」
「……あぁ、なんだ?」
気になっていた事を尋ねる為、質問の許可を促すと、華雄は首を縦に振った。
「お前が勘違いしたのは判った。判ったが……それで、お前が“怒る理由が判らない”」
「−−−」
尋ねた瞬間、華雄がまた固まった。
今までの比ではないくらいに固まった。
まぁ、そんな事はどうでも良いとして。
華雄の行動には理解できない点がある。
華雄の話を総括すると−−
まず誰が目撃したのか判らないが(後日、犯人の捜索をしよう)、とにかく誰かが徐盛が屋敷へあの二人を連れ込む姿を見た。
次いで、面白半分に警邏中の部下達へ通信を入れた(今日の警邏担当は…第二歩兵の第一分隊だった筈だ)。
そして、野郎共が交信中だった時に華雄は居合わせた。
最後に華雄は……何を誤解したのか“俺が徐盛へ命令し、女二人を屋敷に連れ込んだ”と盛大な勘違いをしてしまった。
−−というような感じだろう。
まぁそれは理解した。
理解したが……何故、あそこまで激怒する必要があったのだ?
まるで……例えるならば…亭主の浮気を知った女房のように。
「複数の女を連れ込んでってのは可能性としては零じゃない。……が、まず無いだろう。んな事するくらいなら妓楼にでも行って、適当にしてくる」
「………」
「……悪い。女性にする話じゃなかったな」
華雄の顔が苦々しく歪んだのを見て、すかさず謝罪する。
女ってのは扱い難い、と内心で溜息を零す。
「……あまり詳しくはないんだが…その…娼妓を買うというのは…なんだ…やはり金が掛かるのか?」
「“そういう接待”を受けるんだ。当然だろう」
「…ちなみに聞くが…お前はどれほど行っていた…?」
……まさか食い付いて来るとは…意外だったな。
「“こんな事”になる前だと…そうさな…一ヶ月で平均して二回ぐらいだな」
「一ヶ月に二回も知らぬ女を抱いていたと…!?」
「知らないって訳じゃない。俺の場合は、気に入っていた娼妓がいたからな。その娘と寝てた」
「…どんな女だ?」
「…あん?」
「どんな女なのかと聞いている…!」
……やけに食らい付いて来るな。
妙に気になるが……まぁ良い。
「…そうさなぁ……綺麗な黒髪が長く、少し吊り眼で、出るとこは出て引っ込むとこは引っ込んで……あとは…朗らかに笑う。とにかく良い女だった」
「…その女…お前の情婦か何かか?」
「情婦?…んな訳ないだろう」
見当違いも良い所だ。
大体“情婦”というのは妻以外の愛人、または内縁関係の女の事だ。。
妻を娶る気が無い俺が、そんな大層な関係を持つ訳がない。
「まぁ…もう終わった事だがな」
「……なに?」
「去年の派兵から帰還した後、馴染みの妓楼へ行ったんだが……落籍されていた。建業に戻る一ヶ月前の事だったそうだ」
「…誰にだ?」
「知らんし知りたいとも思わんよ」
寝そべりつつ肩を竦めてみせると華雄が眼を細め、俺を睨んでくる。
「薄情な男だな」
「だろうな。良く言われるし自覚もしてる」
「……私は、その娼妓が不憫でならんよ」
「ふん。それを言うなら−−」
「−−混ぜっ返すな、莫迦者。今は皮肉なぞ聞きたくない」
「………」
有無を言わせぬ口調で言葉を遮られた。
それを行った張本人は、いまだに俺を睨んでいる。
「……私は、お前が懇意にしていたという娼妓の気持ちがなんとなく判る」
「へぇ…なら後学の為に聞かせてくれ」
華雄へ先を促すモノの余り興味がないのと言うのが本音だ。
“気持ちがなんとなく判る”とは言ったが、それは奴の主観が多かれ少なかれ入っている。
結局は華雄という個人が手前勝手な価値観の下に考えた“気持ちがなんとなく判る”だ。
それでは薄弱−−と言いたいが、人間の考えには多少なり主観が入って当然。
完全かつ完璧な客観は難しい−−むしろ有り得ないと言っても過言ではない。
ならば仕方ないと思い至り、一応は傾注する姿勢を取る。
「韓甲、女というモノはな…例え娼妓に堕ちようと身体を許す男を選ぶ心は失わないのだ」
「へぇ…」
「それは金銭的なモノである事が往々としているだろうが……結局の所、抱かれる男は自分で決めている」
確かに、金が無ければ抱けんな。
資金不足で叩き出されている客を何回か見た事がある。
…まさか漫画みたいな状況に出会すとは思いもよらなかったが。
上位の娼妓の場合、例え、金があったとしても気に入らない客の接待では茶だけ出してサヨナラなんて事もザラにあるとか。
「なら俺は、涼鈴に少しでも気に入られてた…って事か」
「…お前の馴染みという娼妓の名前か?」
「間違えるな。“だった”が正しい」
「…そうだな。……お前は良かったのか?」
「あん?」
「その女が他の者に落籍されて、という事だ」
「…所詮、その晩だけの関係だ。そこまで大層な感情は抱かないし、そこまで大層な関係じゃない」
「…お前なら、もっと早く落籍させるだけの資金は工面できただろうに…」
「…だとしても“そうはならなかった”。それが結果であり全てだ」
痛みは大分、引いた。
腹筋を使って上半身を起こし、華雄の手から抜け出す。
その場で胡座を掻き、袂を漁ると煙草を取り出し、ジッポで火を点ける。
「…女子供の前では吸わないようにしているのではなかったのか?」
「一本ぐらいは見逃せ。吸わんとやってられん」
「……判った。今だけ見逃そう」
………どうしようもなく不味い一服だな。
今になって思うと……妓楼通いとかの話を出せば良かったと後悔…!!
でも三国時代の性風俗業のシステムって…どんなんだ!!?
というか、江戸時代の吉原みたいな店舗型のはあったのだろうか!!?