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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第八部:日常という有り触れた日々
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〜Other side〜



「−−You should die(テメェは死ぬべきなんだ)〜♪

No. you have to die rather(いんや。むしろ死ぬべきなんだよ)〜♪

It's for the world(それが世界の為なんだからな)〜♪−−」


即興の歌−−と呼ぶには些かマズいのを口ずさみながら家路を進む一人の青年。


「−−You should die〜♪

No, you have to die rather〜♪

It's for the world〜♪」


−−何故か繰り返している。


そして何故か英語。


どうせなら仏語の方が少しは優雅に聞こえそうな気がする、と彼は思ったが…面倒臭いから翻訳するのは諦めた。


「−−Shall I kill(なんなら殺してやろうか)?〜♪……ん?」


口ずさみつつ歩いていると彼の眼に飛び込んで来た光景。


−−良く知る使用人の少年が屋敷へ少女と妙齢の女性を連れ込んでいる光景だ。


「……………」


呼吸をするのも忘れている間−−屋敷の門が閉まった。


「…………」


彼は無言で“ニタァ…”と底意地悪く口角を吊り上げると、何を思ったかトランシーバーを取り出した。


チャンネルを操作すると送信ボタンを押し込む。


「……応、俺だ俺。今さ、すっげぇ面白ぇモン見たぜ。徐盛の奴が相棒の屋敷に女、連れ込んでたんだよ。しかも二人−−」


−−こうして、とある傭兵部隊副長の手により、その日の内に噂話は“一部の間で”広がって行ったのだという。









〜和樹side〜




屋敷までの道程を愛刀を杖代わりにして只管、歩く。


「……はぁ…」


少しばかりの疲れを感じ、溜息を零すモノの歩みは止めない。


まぁ…今の溜息は疲れから来るモノだけではないだろう。


厄介な荷物を背負い込んでしまった……主に気紛れが原因で。



だがまぁ…“厄介な荷物”を背負うのは今更ではないから特に問題ない。


なにせ身近にヘタをすれば“あれら”よりも問題満載の連中が100名以上いるのだ。


…そういえば…伯符殿からも“生殺与奪”の御墨付きを貰ったな。


万が一、あれらを斬る事になるとしたら………ふむ……屋敷で斬るのは止めておこう。


掃除が面倒臭くなること請け合いだ。


ならば何処か広い所……荒野かどこかで斬って死体はカラス共の餌にでもするか…。


処置を考えつつ袂へ手を突っ込み、煙草とジッポを取り出すと一本を銜え、火を点ける。


…斬る事に固執していたようだが、別に銃殺でも良い気がしてきたな。


……だが、待てよ。


何を以て“生殺与奪”の権限を行使すれば良いモノやら……。


−−命令違反……は、即銃殺or即斬殺で構わないだろう。


問題はその他だ。


−−逃亡も…大丈夫だな。


では……他は?


…………


……………


………………


−−……駄目だ。思い付かん。


そもそも俺の基準で考えると殺害理由は“命令違反”か“敵前逃亡”ぐらいしかない。



……まぁ…追々、考えるとしよう。


短くなった煙草を携帯灰皿へ放り込み、視線を上げ−−た時、既に俺は屋敷の門前へ着いていた事に気付いた。


「−−…帰ったぞ」


握り拳を作り、門を数度叩き、暫く待つ。


走って来る足音が門を挟んだ傍らで止まり、次いで閂を外す音が響き−−ややあって開門。


「−−おっお帰りなさいませ!!」


「…今、帰った」


出迎えたのは徐盛。


だが、様子がおかしい。


……怯えた雰囲気を鑑みるに……少々、脅しすぎたか。


溜息を零し、出迎えた徐盛の脇を通り抜け様、軽く肩を叩く。


「…無用な心配はせんで良い」


「はっはい…」


縁側へ進み、敷石の上で草履を脱いでいると水の入った桶、そして手拭いが差し出された。


「どうぞ♪」


「どっどうぞ…なのじゃ」


「…済まん」


差し出して来たのは袁術と張勲。


それに礼を言うと手で掬った水を足へ掛けた。


「…旦那様、ひとつ御相談があるのですが…」


「なんだ?」


水で足を洗いつつ徐盛へ声を掛ける。


「…お二人が使う部屋なのですが…」


「あぁ」


「空いている部屋が…その…客室だけでして…失念しておりました…」


「………そうだったな」


徐盛、安心しろ。


俺も言われるまで、すっかり忘れていた。


「…ふむ…部屋がないか…」


「えぇ、どうすれば良いかな〜って徐盛くんと話してましてぇ」


「どうすれば良いかの…?」


「…要は雨露が凌げれば良いだけの話だ」


両足が洗い終わり、仕上げに手拭いで水気を拭いつつ顎をしゃくり、背後を向くよう促す。


「−−なら“あそこ”で良いだろう」


「……あれぇ?…あの…私には馬小屋しか見えないんですけど…」


「……!!?」


「だっ旦那様!!?」


しゃくった先にあるのは−−既に居住者が“二頭”ほど入っている場所。


雨露を凌げ、しかも可愛い友達が居て淋しくない。


難点は少しばかり獣臭い所だろうが…些末な事だ。


「−−まぁ冗談だがな」


「じ、冗談!!?」


「……妾、本気じゃと思ったぞ」


「…旦那様…僕も本気だと思いました…」


……揃いも揃って随分な言い方だな。


思わず苦い顔をしてしまうが、意に介さず縁側で胡坐を掻く。


「……なら物置小屋で良いだろう。少し片付ければ、二人ぐらいは寝れる」


厩舎の後ろにある物置小屋の中には鍬などの器具しか置いていない。


それらを出して軒下にでも置き、内部を少し掃除すれば布団くらいは並べられる。


「一応、聞いておこう。異論は?」


「…さっきよりも好条件になりましたので大丈夫です」


「…うむ」


……あっさりと飲んだな。


伯符殿に聞いた話を総括すると、もっと我が儘な性格だと思っていたのだが…。


「……まぁ良い」


「…はい?なにがですか?」


「ふん…なんでもない−−ほら」


「わわっ!?」


鼻をひとつ鳴らし、着物の袂から取り出した巾着を張勲へ放り投げた。


張勲が投げ付けられた物を訝しみつつも巾着の口を開ければ−−


「−−えっえぇ!!?」


「七乃、どうしたのじゃ?」


金が入った財布を丸ごとやったが……そこまで驚く程ではないだろう。


「…仕度金だ。必要な物を揃えて−−あぁ、服も変えておけ。あまり目立たないような物にな」


「服も…ですか?」


「何故じゃ?」


「……そんな目立つ格好で界隈を歩いてみろ。色々と勘繰られるぞ」


「…あ〜…はい判りました」


溜息を零しつつ、再び袂を漁り、ジッポと煙草を取り出す。


「あぁ、それと−−」


「まっまだ何か?」


煙草へ火を点けようとする刹那、思い出した事を告げる為、視線を向ける。


「−−偽名も考えておけ。…取り敢えずは以上だ。徐盛」


「はっはい!!」


「…案内をして来い」


「はい、判りました。行って参ります」


「応」


今度こそ煙草へ火を点けていると徐盛が俺に一礼し、二人を連れて屋敷の外へ出て行った。


「……ふぅ…」


溜息と紫煙を同時に吐き出す。


<……クゥ−ン…>


「…あん?」


寂しげな鳴き声が聞こえ、その方向へ視線を向けてみると−−


<…クゥン…>


−−萌々が器を銜えて近付いて来る。


間近まで歩み寄った萌々は銜えていた器を地面へ置き、俺を見上げた。


「……判った判った。今、やるよ」


腰を上げ、置かれた木の器を取ると台所へ向かう。


そこの隅に置かれた紙袋の中に詰められたドッグフードの粒を掬い上げ、縁側へ戻れば−−尻尾を盛大に振り、期待の眼差しを俺へ向ける萌々が待っていた。


草履を履き、萌々の正面へ器を置き−−


「萌々、待て」


−−食事前の命令をする。


すると萌々は尻尾を振るのを止め、大人しく座りつつ俺を見上げた。


「お手」


次いでの命令にも素直に従い、差し出した手へ足を乗せて来る。


「おかわり」


再びの命令にも従い、今度は逆の足を乗せた。


「−−良し、食べろ」


許可を下せば、一心不乱に食事を始める。


さて…水もやらねばならんか…。


萌々が食事をしている間に黒馗の餌もやらなければならない。


最近は徐盛に任せきりだったが……まぁ良いリハビリになるだろう。


まずは井戸へ行き、水を汲もうとした時−−


<−−−>


−−突然、萌々が食事を止め、明後日の方角を向いた。


「…どうした?」


奇妙に思い、俺も視線を向けると−−彼方から駆けて来る馬の蹄の音が耳を打つ。


「−−ごっ御前を失礼します将軍!!」


急に現れた護衛の細作に内心、驚いていると−−例の蹄の音が門の前で止まった。


「−−くっ…遅かったか…!!」


なにが?、と細作へ尋ねようとした瞬間−−


「韓甲ォォォォォ!!!」


−−聞き慣れた気合いの入った絶叫と共に……門が文字通り“吹き飛んだ”。


…そりゃもう見事なまでに…木っ端微塵に吹き飛んでしまった。


戦車砲弾の直撃を喰らっても、こうはいかないと思うくらいにだ。


感心していると−−衝撃で舞い上がった土埃の向こうから見慣れた人影が重々しく歩いて来る。


「…韓甲ォォォ…」


砕けた門の残骸を踏み付けながら愛用の戦斧を担ぎ、低い声で威圧するのは−−華雄だ。


「…随分な挨拶だな」


素直な感想を漏らしながら、こうも考えた。


…あの門、誰が直すのだろうと。





冒頭の歌は文字通り、即興で考えてみました。


特に意味はありませんので悪しからず。



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