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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第一部:乱世と反董卓連合
11/145

09




「敵勢を止めろぉぉ!!」


「これ以上通すなぁぁ!!」


いやがるいやがる。


二個小隊60名プラス俺と相棒に対して、進路を塞ぐ敵軍約2千。


…コイツはちょいと面倒だな。


「突撃する、備えろ!!」


『応ッ!!』


号令で総員が各々の武器を抜いたが、銃器は誰一人として構えていない。


…そこまでの相手ではない、と判断したのだろう。


既に部下達は先頭を征く俺達に続き突撃陣形である鋒矢の陣になっている。


これは先鋒以下を鏃の形にし、前方への突進力に集中する為、小勢で大軍に立ち向かう際に使用される陣形だ。


…兵力差はかなりあるんだがな。


ここから見る限り、敵軍の防衛線は三つ。


いずれも騎兵の突撃を防ぐ為に槍を構えている。



俺の最大の失敗は華雄の暴走を未然に防げなかった事もあるが、それ以上に騎馬の調教が充分ではなかった事だ。


馬という動物は臆病なのだ。


本来は戦いには向かないのだが、それを調教によって克服させている。


もちろん俺達が騎乗している馬もそうなのだが、それでも足りない点があるのだ。


それは銃声。


爆発音なんて縁が無くて当たり前なのだから、馬が怯えてしまっては意味がない。


騎馬用の耳栓というのもあるにはあるのだが、今回の暴走で調達には至らなかった。


…まったく…誤算続きだ。


突進力を殺してしまうのは心苦しいが…仕方ない。


「命令撤回!総員、馬から飛び降りろ!!」


叫ぶと鐙を蹴り黒馗から飛び降りた。


それに続き部下達も騎乗していた馬から飛び降りる。


「隊長、いきなりですね!?」


「あぁまったく!…面白ぇプランでもあるんですかい!!」


口々に俺への悪態を付きやがるが、何処となく口調は楽しみにしているらしい。


「近接戦闘、銃火器の使用を許可する!!」


「待ってました!!」


「ここんところ、腕が鈍ってないか心配だったんだ!!」


部下達の一部は持っていた武器を収め、代わりに背中からAK-74を取り出した。


状況を判断し、武装の交換が必要か否か、それを見極めてくれるのは嬉しい限りだ。


接近戦−特に白兵戦においては飛び道具なんぞより刃物の方が即応に長けている為だ。


今回は、敵軍の殲滅が目的ではない。


あくまで、突出した華雄隊に追い付き、指揮官である彼女を確保すること。


「行くぞ野郎共!!」


『応ッ!!』


俺が突っ込むと同時に援護射撃が始まる。


「なっなんだ!?」


「味方が倒れ−ガハッ!?」


「馬を落ち着かせろ!!」


正体不明の攻撃で殺られる気分はどうだ?


部下達の銃撃の援護を受け、崩れた防衛線を突破すると担いできた大太刀の鞘を払い、背負い紐で括った鞘は背中に預ける。


隣に居る相棒も同じく大太刀と刀を手にしていた。


「野郎共!俺達の攻撃範囲には入るなよ!!」


「自殺志願者は別だけどなぁ!!」


『遠慮します!!』


軽口を叩き合うと大太刀を振りかぶり遠心力を利用して、それを振り抜いた。


予想に反して、この大太刀は叩き潰す為の武器ではないようだ。


本来はそれなのだが、俺達の大太刀は切れ味が凄まじい。


刃が触れた瞬間、面白いように敵兵の首、腕、上半身が飛び、血飛沫が舞い上がる。



密集していたのが運の尽きだったな。


一振りで、約10人を殺った。



そのまま突き進み大太刀を振るいつつ、懐に入りそうになった敵兵を逆手に持った刀で斬り殺していく。


後方や周囲で上がる悲鳴や怒号は部下達が殺している敵兵共のそれだろう。


「野郎共、まだ生きてるか!?」


「応ッ、生きてますよ!!」


「まだ誰も逝っちゃいません!!」


「オラオラ退け退け!!泣く子もまた泣き出す黒狼隊のお通りだ!!」


…まぁ確かに。


変な掛け声が聞こえたが…存命中でなによりだ。



視線を縦横無尽に戦場へ向けていると、イヤな部隊が視界に入った。


「方位280、距離60に弓隊、誰か潰せ!!」


命令すると部下の数人がすかさず、サスペンダーのリングに吊した破片手榴弾を手に取って安全ピンを引き抜くと投擲する。


数秒後、それらが爆発した瞬間に血飛沫が巻き上がる。


遠距離からの攻撃は一時的に排除完了。


向かって来る敵兵共を斬り殺しつつ進撃していると、いつの間にか全ての防衛線を突破していたらしく前方に華雄隊を視認。


「見えた!!」


「相棒、お前が行−話の邪魔だぁぁぁ!!」


将司が咆哮し大太刀を振るうと敵兵の群れが倒れ付した。


なんと言いかけたのかは判っている為、遠慮なく華雄の下へ向かう事にする。



既に華雄隊は退路を絶たれているようで、このままではジリジリと包囲殲滅されるのを待つだけになっている。


「華雄、いるか!?」


叫びながら剣を振りかぶった敵兵を蹴り飛ばすと、飛んだ先にいた数人の敵兵を巻き添えにして倒れた。


「韓甲将軍、何故こちらに!?」


「どうでも良い、とにかく彼女は!?」


「将軍は先に行ってしまいました!現在は敵将と交戦中です!!」


…猪武者もいい加減にしろって話だ。


「判った、お前達は先に関へ戻れ!俺の隊が援護する!!」


「いいえ、我々も将軍を助けに参ります!!」


「…勝手にしろ。野郎共、道を切り開け!!」


『応ッ!!』


華雄隊の大半は騎兵の為、間近での発砲はマズイと判断した部下達が手にした武器で敵兵群を薙ぎ払う。


そして華雄本人を見付けたのだが…。


「銃を貸せ!!」


「はっ!!」


両手に持った刀を投げ捨てると、近くにいた部下のAK-74を受け取った。


華雄は負傷しているのか血を流しながら地面に倒れ、関羽と思しき少女が薙刀状の武器を振りかぶっている。


「董卓軍の将 華雄!この関雲長が討ち取った!!」


まだゲームセットには早いんじゃないかね?


照準を関羽に合わせたかったが、構えた時の銃口の先にあったのは彼女の武器。


照準を変える時間は無い。


距離は80m、楽勝だ。


構わず銃爪を引き銃口から火が噴いた瞬間、関羽が持っていた武器が弾かれ何処かへと飛ぶ。


「なっ!?貴様、何者だ!?」


衝撃で痺れたのだろう腕を庇いながら関羽が俺に問い掛ける。


それには答えず小銃を部下に返すと地面に捨てた武器を両手に持ち、華雄の下へ走る。


「おい大丈夫か?」


「韓甲!?何故ここに!?」


「自分の胸に聞いてみろ。馬を持って来い!」


命令すると華雄隊の兵が馬を連れて来た。


「乗れるか?」


「フッ、馬鹿にするな。この程度の傷などたいしたウゥ…」


「痩せ我慢しないで、さっさと関へ戻れ」


「済まない…」


「華雄隊を援護しつつ退却する!!」


「隊長!?」


判ってるから大声を出すな。


振り向かず、刀で背中を庇うと衝撃が走った。


「止められ−ガハッ!?」


そのまま蹴ると確かな手応えを感じた。


背後を振り向きつつ背中にある鞘に大太刀を納刀すると、残った刀を構える。


俺を襲ったのは、やはり黒髪サイドテールの少女−関羽だった。


「貴様は何者だ名乗れ!」


「お嬢さん、相手に名乗らせる前に先ずは自分が名乗れ、とは教えられなかったかな?」


「クッ…。私は公孫賛殿が客将 劉備様配下の将 関雲長である!!」


この少女が名高い関羽である事は間違いないようだ。


「俺は董卓軍が客将 韓狼牙だ」


「韓…見知らぬ牙門旗があったが、貴様なのか!?」


「さぁてね。取り敢えず、韓と狼の旗は俺のだが」


「…ここまで強いとは…」


…それほど、お話している暇は無さそうだ。


新たな牙門旗が近付いてくる。


張、趙、それに孫…多勢に無勢だな。


「そろそろ退かせてもらうぞ」


「させると思っているのかぁぁ!!」


薙刀状…関羽が使っているのだから青龍偃月刀なのだろうが。


それが振り下ろされるが愛刀で受け止めると、手の平で氣を練り関羽の身体に叩き付ける。


すると青龍偃月刀を掴む彼女の力が徐々に抜け始め、それを落とすと同時に膝も追従して地面に落ちた。


「きっ貴様、一体なにをした!?」


「…やってみると出来るモンだな。安心しろ、氣を身体に入れただけだ。少し休めば動けるようになる」


…たぶん、だがね。実験台になってもらって悪いんだが。


背中を向けて走り出し、退却を始めた部隊に追い付いたと思うと、俺達の横を馬の群れが駆けている。


よく見ると見慣れた黒い毛並みの馬−黒馗がいた。


…関に戻っているかと思っていたんだが。


黒馗が俺の隣に駆けてくると、走りつつ鞍に跨がる。


どうやら部下全員の馬が残って各々の主人を待っていたようだ。


「退却を急げ、交戦は最小限に!!」


『応ッ!!』


進行方向にいる敵兵は恐れをなしたのか、抵抗らしい抵抗を受けずに俺達は関へ到達した。



開門した城門をくぐり抜けると、そこには霞が待っていた。


「和樹、将司、華雄、無事やったんか!!」


「あぁ五体満足で」


「相棒、悪いが華雄の傷を診てやってくれ」


「あいよ」


兵達の助けを借りて華雄が馬から降りると、先に降りた将司は既に医療用ゴム手袋を両手に付けていた。


相棒は兵達に華雄をその場に寝かせるよう伝えると、赤十字のマークが入ったバッグを漁り必要な器具を取り出している。


「…さぁて、お嬢さん」


「おっお嬢さん!?」


「まぁ気にすんな。麻酔っていう痛みを消す薬があるんだけど、部分麻酔にするから、しばらく肩の感覚が無いかもだが…どうする?」


「フン!そんな得体の知れない物には頼らん!!」


「はいよ−。んじゃ麻酔無しで逝きますか」


…この部隊で一番恐いのは…相棒の治療なんだがな…。


部下達全員がなんとも言えない表情で消毒を受けている華雄を見ていたが、それは直ぐに反らされる事となった。


「おっおい、なんだその針は!?」


「尖端恐怖症か?大丈夫大丈夫、直ぐに恐くなくなるからな」


「なっ何を言ってるんだ!?」


「は−い、チクッとするよ−」


「ッアアァァァア!?」


「ほぉら、痛みで恐く無くなっただろう?」


まぁ慣れない奴は痛いか。


…というか華雄が涙目になってるぞ。


「勘違いするなよ−?俺はお前の暴走が頭にきて、わざと痛い治療をしてる訳じゃないからな−」


「ぼっ暴走−アァァァ!?」


…その割には随分と乱暴な治療だな。


まぁ…腕は確かだから、出来るだけ傷痕は残らないように処置するだろう。


「隊長!!」


点呼が終わったのか部下の一人が駆けてくる。


「全員いたか?」


「それが…」


「どうした?」


「欠員が一人…伍長がいません!!」


「「なに!?」」


「ア゛アアァアアッ!?」


「あっ悪い」


驚いた拍子に誤って傷口に針を刺してしまったのだろう。


「どういう事だ、もう一度確認しろ!」


「何回もしました!!伍長がいません!!」


なんてこった…。


伍長とは、俺と相棒が着ているコートを渡してくれた奴の事だ。


「少佐、伍長を発見!!」


城壁から部下が叫んだ。


階段を駆け上がり、部下が指差す方向へ双眼鏡を向ける。


確かにいた。


だが、既に満身創痍で周囲を幾多の敵兵に囲まれている。


「和樹、どないしたんや!?」


「…部下が一人、敵中に孤立した」


「ほな助けに行かんと!!」


「………」


「かっ和樹?」


「…救助はしない」


「なにを言うてるんや!?和樹の部下やろ!?」


「…こういう状況になった場合の対処は全員が把握している」









Others side



(あぁもう全くツイてないっすね)


そう心中で呟いた伍長は手にした槍で自分に斬り掛かった敵兵を突き刺す。


「殺ったぁぁ!!」


背後からの殺気。


回り込まれた事に気付いた伍長は槍を離し、腰から銃剣を抜くと襲い掛かってきた敵兵の首を掻き切った。


(皆と離れ過ぎたのが運の尽きだったっすかねぇ…)


銃を使用しても良いが、それは伍長を包囲する敵兵群が許さない。


休む暇を与えないつもりなのか代わる代わる襲い掛かる敵兵。


それは着実に彼の体力を消耗している。


再び敵兵に襲い掛かられたが、それに妙な既視感を抱いた伍長はナイフを使わず格闘術を使って羽交い締めにした。


「…隊長達に伝言をよろしくっす…曹長」


その敵兵だけに聞こえる声で囁くと、その人物は微かにだが頷いた。


「そこだぁぁぁ!!」


敵兵の咆哮に触発され、伍長は羽交い締めにしていた敵兵を突き飛ばすと、隙を見付け背後から襲ってきた敵兵が突き出した槍を掴み、兵士の股間を蹴り上げる。


弛緩した敵兵の手から槍を奪うと穂先を身体に突き刺した。


「一人で掛かるな、三人で一気に仕留めろ!!」


「あの隊の兵だ、首を取ったら名が上がるぞ!!」


先程の進撃で黒狼隊の名は連合軍に広まっている。


その精強な部隊の兵を一人でも倒せば名が上がるという事なのだろう。


今度は三人の敵兵が一気に襲い掛かる。


それを伍長は迎え撃とうとしたが、脚に力が入らなくなっている。


流石に疲れ始めたのだ。


それでも槍で敵兵の一人を突き刺すと、それを引き抜き反対側から向かってくる兵の顔面に石突を見舞う。


顔が陥没した敵兵に構う事なく、三人目を仕留めようとする。


「ガハッ!?」


「殺った!!」


ついに敵の槍が伍長の脇腹を突き刺した。


確かな手応えに、にやける敵兵だが、その顔に槍が突き刺さり兵は地面に倒れ付した。


「ハァハァ…」


伍長の脇腹から蛇口を捻ったように血が溢れ出している。


(参ったっすね…視界が霞んできたっすよ…)


正に満身創痍。


身体はフラフラとなっているが、彼の顔には状況に似合わない笑顔が浮かんでいる。


「通してくれ!!」


「御遣い様!?それに関羽将軍に張飛将軍!?」


戦場に響き渡った驚愕の声。


並み居る兵士達の間を縫うように現れたのは“天の御遣い”に祭り上げられた青年 北郷一刀と彼を慕う関羽と張飛である。


「御遣い様、危険ですのでお下がりを!!」


「あの人と話をさせてくれ!!」


(…一体、なんなんっすか?)


突然現れた三人に伍長は困惑している。


「今だ、放て!!」


油断している伍長を好機と見たのか弓隊が矢を射かける。


何百本もの矢を捌く事は出来ず、彼の身体には数本の矢が突き刺った。


その内の一本の鏃が肺にでも到ったのだろう。


彼の口の端からは血が零れ、呼吸音もおかしくなり始めた。


「止めろ!攻撃するな!!」


「…ハァ…ハァ…」


脇腹からの出血は止まらず、負傷もした。


これ以上の戦闘継続は無理に近い。


「貴方…いや、貴方達は未来から来たのか!?」


一刀が叫んだ台詞に伍長はゆるゆると頭を上げる。


「…ハァ…そんな事を聞いて…どうするんっすか?」


「もし未来から…俺と同じ世界から来たのなら、貴方を助けます!!だから、俺達の所へ来て下さい!そして一緒に−」


「寝ぼけるなよ小僧!!」


伍長の激昂に周囲は息を飲んだ。


これほどの傷を負った人間がここまでの声と威圧感を出せるものかと。


「何処の馬の骨とも知れない人間に助けてもらう道理はない!」


「でっでも、このままだと死んでしまう!!」


そう言われると伍長は彼に向かって至上の微笑を浮かべる。


「死ぬ?それがどうした?」


吐き気が込み上げ、咳込むと彼の口から血が零れ出した。


「ハァ…。とっくの昔に…隊長達に拾って貰った時に俺は命をあの人に預けた!!」


伍長の脳裏に色褪せる事なき記憶が蘇る。


かつて所属していた軍で馬鹿をやり解雇処分にされ、なし崩し的に傭兵となった彼を拾い上げてくれた和樹と将司を。


「あの人達が俺を拾ってくれた!あの人達が俺に居場所をくれた!あの人達が俺に戦う理由をくれた!!」


そう叫ぶと伍長は最後の力を振り絞り、腰の弾帯へ手を伸ばす。


「あの人達の…部隊の皆の為に死ねるなら本望!これからは地獄の淵から見守りながら拠点を確保して皆が来るのを待つ!!」


彼の言動から何かを察したのか一刀は驚愕する。


「皆、身体を低く!!」


「お兄ちゃん!?」


「ご主人様!?」


伍長は上手く動かなくなった身体を捻って泗水関に視線を向ける。


「…また先に逝ってるっすよ…」


そう呟くと彼は弾帯に取り付けられた装置のスイッチを押した。


微かな電子音の後に爆発が。


それと共に四散した伍長の肉片、内臓、血が辺りに降り注ぐ。


「ひっ人が!?」


「ア゛ァァ゛ァァ!?」


「血!?血がぁぁぁ!?」


突然の事に兵士達は大混乱に陥った。


思わず噎せるような臭いが漂う。


伏せた身体を一刀が起こすと、周りには伍長の血液が飛び散っていた。


「ウッ……!!」


吐きたくなる衝動に襲われたが、それをなんとか抑えると彼はふらつきながら立ち上がる。


「ご主人様、大丈夫ですか!?」


「あぁ大丈夫…そうだ鈴々は!?」


「…驚いて気絶してます」


一刀が張飛をみると彼女は目を回していた。


どうやら爆発の衝撃に堪えられなかったらしい。


「…あの部隊は…なんなのでしょう?」


「…分からないよ。取り敢えず、皆を落ち着かせないと」


「そうですね」


兵の動揺を鎮める為に向かう関羽を見送る一刀の足元で何かが鳴る。


それに気付いた彼が視線を落とすと、そこには金属で作られ、血に塗れたドッグタグがあった。


「…ドッグタグ?」


それを拾い上げ、気持ち悪いながらも血を拭いプレスされた項目を読んだ彼の表情は驚愕だった。










敵中で爆発が起こったのが、ここからでも視認できた。


「なっなんや今のは!?」


「…部下が自爆…自害したんだよ」


部隊全員−俺と相棒も含め、全員が自爆用のプラスチック爆弾を弾帯に仕掛けている。


爆弾と言っても大きさは、縦横10cmにも満たない。


だが人ひとりを殺すには充分な破壊力を持っている。


「…傭兵っていうのはな、敵に捕まると言葉に言い表せない拷問を受けるんだ」


「なんやて!?」


「傭兵に対する条約…決まりみたいな物が存在しないからな。どんな扱いをされたって文句は言えないんだよ」


どの戦場でも共通の事だ。


国際条約には傭兵の存在自体を認めないと表記されている。


だからこそ…敵の捕虜になりそうな時は、自爆の道を選ぶしかない。


「…俺が救助に行かなかったのはな、一人の為に全員を危険にさらす訳にはいかなかったからだ」


…言い訳にしか聞こえないとは思うが…事実だ。


「和樹…」


「………」


「和樹は…良くも悪くも将に向いとるな」


「…かも、知れんな」


部下が死ぬのを見るのは…久しぶりだ。


なのに…感慨が湧かない。


「隊長…」


呼ばれた方向に視線を向けると、城壁には部下達全員が集合していた。


「…相棒」


「…処置、終わったのか?」


「あぁ気絶してるが」


「そうか…」


そう言って口を閉ざすと、心持ち姿勢を正した。


「総員、用意!」


将司が隣で号令を掛けると、部下達が背中から小銃を取り一列に並ぶ。


「気を付け!戦友の魂に対し、捧げ…銃!!」


部下達は小銃を両手で持ち地面と垂直になるよう立て、俺と相棒は鞘から払った刀の切っ先を戦場に向けた。


…弔銃発射は…もう少し後で、だな。





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