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内容が稀薄(いつもの事か)ですが連投してみる。
リハビリは長くなりそう……と肩を落としつつ逝ってみましょう。
……ってか、分ける必要あったのか?
「−−旦那様にお手伝いは要らないか、お伺いするくらいは出来ますが……あまり期待しないで下さい」
「−−…徐盛くんは本当に使用人なんですか?」
「−−…むぅ…御曹司の方がしっくり来ると思うんじゃがのぅ…」
「−−それはともかく…旦那様はこの先の茶店に居りますので顔合わせだけでもしましょう。御案内致します」
「−−宜しくお願いしま〜す♪」
「−−うむ、苦しゅうないのじゃ」
〜和樹side〜
ふむ……。
「−−おおおおおおおじおじお嬢ささささお嬢様ぁぁぁ……!!?」
「−−……なななななななな七ののの七乃ぉぉぉ……!!?」
……あの互いに抱き合っている二人、見覚えはあるのだが……名前が思い出せんな。
「−−約束したわよねぇ?…“二度と姿を見せない”って…」
「−−しょしょしょしょしょんしゃ…そそそっ孫策…!!?」
「−−そそそっそっちはかかかかかっかんかん韓こここかっ韓甲さんっ…!!?」
「−−おっお二人共、どうかなさったんですか!!?」
…どうやら二人は俺の事を知っているようだが……こちとらさっぱり思い出せん。
「…伯符殿」
「……なに?」
…話し掛けただけなのに…何故、俺へ向かって絶対零度の雰囲気を醸し出すのですか?
「…あの二人、名前はなんでしたか?申し訳ないのですが思い出せない」
「…貴方も戦った事があるわ」
「ほぅ」
それで覚えていないという事は……余程、“記憶するに値しない敵”だったのだな。
「…本当に思い出せない?」
「生憎と」
「…袁術、それに側近の張勲よ」
「…この小娘が?……ふむぅ……?」
「ちょっ!?お嬢様と私を殺そうとしたのに覚えていないんですか!!?」
「………おぉっ、思い出した思い出した」
「よりにもよって“殺そうとした”で思い出しちゃうんですか!!?」
「だっ旦那様、お二人を殺そうとしたんですか!!?…袁術に張勲って…あの有名な…」
「あら…徐盛も知ってるのね」
「はっはい。あの有名な−−“馬鹿君主”ですよね?」
「おおおお主も大概じゃのう!!?」
「最初の好印象が一気に崩れましたよ!!?貴方も本人の前で躊躇いなく毒を吐く人なんですか!!?」
「えぇっ!!?」
「…あのさぁ…盛り上がってるとこ悪いんだけど…」
彼女達の前で仁王立ちになった伯符殿が絶対零度の雰囲気のまま、やおらに愛剣を鞘から抜き放った。
「…そろそろ、この世からのお別れの時間よ。命乞いの言葉は考えたかしら?」
「ぴぃぃぃぃ−−!!!」
「まままっ待って下さい!!ほほっ本当に待って下さい!!まだ心の準備が…!!!」
泣き叫び、一層強く互いを抱き締める腕へ力が籠もる二人へ向かい伯符殿が剣を携えたまま歩き出す。
……市井で王自ら処断するというのは少々、マズいな。
席から立ち上がると二本の愛刀を帯へ差し込み、数歩先を歩く伯符殿の背中へ声を掛ける。
「伯符殿」
「……なに?」
「私にお任せを」
「…必要ないわ」
「そのような者共の血で孫家の宝剣を汚す必要こそありませぬ。どうぞ私に」
振り向いた伯符殿が俺の双眸へ向け、冷やかな視線を注いで来る。
数十秒ほど対峙していたが、不意に彼女は地面で縮こまっている二人へ視線を向け−−興味を失ったかのように剣を納め、俺へ近付く。
「−−…任せるわ」
「−−はっ」
命令を聞き、愛刀の鯉口を切った。
鞘から抜き放たれた刀身が陽光で一瞬、閃く。
「…さて、遺言は考えたか?」
「まままままっ待ってたも…!!!」
「こここっ此処の人達は無抵抗の人間を斬っちゃうんですか!!?」
「誰に向かって物を言ってるんだ?こちとら傭兵だぞ。一体、何人殺してきたと思ってる」
今度こそ二人の顔面から血の気が失せた。
「俺は女子供だろうが雑作もなく殺せる。そして、お前達は雑作もなく死ぬ。安心しろ」
「あっあああ安心する要素が何処に……!!?」
「少なくとも痛みを感じる暇はない。一振りで頚を落とすからな」
「…………!!?」
張勲の方はまだ軽口を叩く余裕はあるらしいが、袁術の方は既に死人の如き面相をしている。
「…一応、ジタバタしないでくれよ。人を斬るのは久しぶりなんだ。手元が狂うのはそっちも本意じゃない筈だ」
「むしろ斬られる事自体が本意じゃありませんよぅ!!?」
「…ふむ…それが遺言か。墓に刻むには良いな。覚えておくとしよう」
「ちっ違いますってば!!」
「…好い加減に口を閉じろ。黄泉路への旅立ちは静かであるべきだ」
「…………!!!?」
愛刀を八双に構え、最初は……袁術を包み込むように抱き締めている張勲の頚へ狙いを定めた。
そして頚を斬り落とすべく刃を振るおうとした刹那−−眼前に人影が立ち塞がった。
「……なんの真似だ?」
立ち塞がったのは−−徐盛。
二人を庇うように両腕を広げ、視線は揺るぎ無く俺を見上げている。
「邪魔だ徐盛。それとも一緒に斬られたいか?」
「………!!」
少しばかり言葉に殺気を込めると徐盛の身体が震え始める。
「邪魔立てするならば容赦せんぞ。俺がどういう性格かは良く判っている筈だ」
「…存じ上げています」
「恐いのだろう?膝が笑っている」
「……はい。とても…恐いです」
膝がガクガクと震え、食い縛る筈の歯がガチガチと鳴る無様な様子を見下ろしつつ冷やかな視線と言葉をぶつけるが、徐盛は退く事は無かった。
「…こうして向かい合う旦那様は本当に恐いです。でも−−」
身体全体が震え、涙が溜まり始めた双眸を押し開いた徐盛が呼吸を整えた。
「−−でも、目の前で人が殺されようとしているのに、助けられるかもしれないのに黙って見ている事の方がもっと恐いんです!!」
「−−−−」
−−その言葉に一瞬、呼吸すら忘れてしまった。
「−−もし、殺されるのを傍観していたら僕は一生後悔する。きっと安眠なんか出来なくなる。なにより−−自分が自分で無くなってしまうような気がするんです!!!」
…屁理屈や詭弁の類は頭で考えても口にしない奴だと思っていたが……いや、この場合は“言うようになった”が適切なのか…。
いや、それとも−−−
「“男になった”が正しいのか…」
「…え…?」
「…ふん…」
鼻をひとつ鳴らし、抜き放った愛刀を鞘へ納めると背を向けた。
「…興醒めしました」
差し込んだ二本の愛刀を鞘ごと抜くと伯符殿が座る席の向かいへ深く腰掛ける。
「…ふぅ…私もなんだか斬る気なくしちゃったわ。…疲れてんのかしらね?」
「…いつも仕事を抜け出す伯符殿が言う台詞ではありませんな」
「何気に酷〜い」
一通り、軽口を済ませると卓へ両手で頬杖をつく彼女へ改めて向き直る。
「伯符殿」
「ん、なに?」
「二人の身柄、一先ずは私に預けて頂きたい」
「ん〜〜?」
すると彼女は片目だけを開け、怪訝な表情と声音を発する。
「…使用人を増やしたいと思っていたのですよ。丁度良い」
「…良いの、あんなので?」
実に気怠げに指先で二人を指す伯符殿へ首を振って肯定する。
「……得意の気紛れかしら?」
「8割方は」
「……そ、判ったわ。なにかあれば構わず斬って良いからね」
「御心配なく、そのつもりです」
「え?…あ…あの…旦那様…?」
唐突な事に立ち尽くす徐盛へ視線を向けると−−、何故か再び身体を震わせた。
「…二人を屋敷に案内しろ」
「え!?よっ宜しいのですか!!?」
「二度も言わせる気か?…早く案内してやれ。俺の気が変わらん内にな」
「は、はい!!ありがとうございます!!!ほら、お二人も!!」
「えっ…あっ…ありがとうございます…」
「……あっああああ……ありがとう……なのじゃ……」
「……ふん」
鬱陶しい犬猫を追い払うが如く手だけを軽く振り、暗に失せろと伝えると徐盛を先頭に三人は大通りの彼方−−屋敷がある方角へ消えて行った。
「…“雑作もなく殺せる”んじゃなかったの?」
不意に耳を打った声。
視線を向ければ伯符殿が瞑目したまま俺へ問い掛けていた。
「えぇ。そう自覚していますし自信もあります」
「…意外だったわ。“あの”韓狼牙が一度は振り上げた刃を納めるなんて、まず有り得ないと思ってたから」
「……ふぅ……」
溜息を零すと卓へ置いたままだった湯呑を取り茶を啜る−−が、すっかり温くなっていた。
「…私も殺人に一瞬でも躊躇いを覚えたのは意外でした。…全く…こんなのは久しぶりにも程がある…」
「へぇ…」
今の発言が彼女の興味の琴線に触れたのか伯符殿が面白げに視線を向けてきた。
「なら徐盛は凄いわね。あの子、身ひとつで“あの”韓甲を思い止まらせたんだから」
「………」
それは素直に認めよう。
彼女の言う通り、身ひとつだけで俺を止めた。
……いつからあんな顔と眼が出来るようになったんだか。
全く……洟垂れの分際で、嘴が黄色く尻が青い小僧の分際で腹立たしい。
……だが−−
「……ふっ……」
「あっ。和樹、笑ったわね。何か面白い事でも思い出したの?」
「…いえ、別に何も」
−−あの姿は息を飲む程、美しかった。
ってな訳で採用−−!!!
現実も、こういう感じで就職できれば良いんですがねぇ…(到底無理ですが)。
今回のネタは−−
「誰に向かって物を言っている?俺は傭兵だぞ。一体、何人殺して来たと思ってる」
「俺は女子供でも雑作もなく殺せる。そしてお前達は雑作もなく死ぬ」
−−ですかね。
いずれもHELLSINGからです。
ヒラコーの書く作品の独特な台詞回しは世界一だと思っていたり。