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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第八部:日常という有り触れた日々
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仕事辞めたぜ〜〜!!(イエーイ)


ってな訳で…退職後、最初の投稿。


まだ感想への返信が出来ておらず、大変申し訳ありません……。






「−−むぅ〜〜!!」


「−−……良い加減、諦められたら如何ですか?」


「ヤダッ!!」


「…………」


嘆息しながら、卓上に鎮座する店から借りた碁盤を睥睨するが……もはや戦局は覆し難い。


「−−っ!!あ〜〜もう!!和樹、強すぎ!!!少し手加減してよ〜〜!!」


「……“手加減は無用”と仰ったのは何処のどなたでしたか?」


「むぅ…ホント融通きかないなぁ……」


「…誉め言葉と受け取っておきましょう」


「……まっ、そこが和樹らしいんだけどね〜。−−良し、白もーらい!!」


「はい、ありがとうございます」


「……あ゛」


パチンと碁盤へ白い碁石を置けば、彼女の口から気の抜けた声が漏れる。


序盤こそ彼女の“神憑り的な勘”に苦しめられたが−−


「伯符殿、恐れながら貴軍の撤退を具申します」


「うわっ…その余裕ムカつく。う〜〜…あ〜もうっ!!判ったわよぉ!!私の負けよ、負・け!!」


椅子の背凭れへ盛大に寄り掛かりつつ自棄な声を張り上げる伯符殿に苦笑を送りながら碁石を片付け始める。


「…今度は負けるように命令しちゃうんだから」


「クソも面白くない対局になるのが目に見えますな」


「まっ冗談だけどね〜♪」


朗らかに俺へ視線を向けて笑顔を浮かべる彼女だが……さっきの声音は8割方は本気のそれだった。



片付けが終わった碁盤等を卓の端へ追い遣ると、すっかり(ぬる)くなった茶を啜り……顔を僅かに顰める。


半端に冷めた茶は、世辞にも美味いとは言えない。


軽く挙手すると店員が“戦場でも通用しそうな動き”で肉薄して来る。


「御注文でしょうか!!?」


「…茶を頼む。温くなってしまった」


「畏まりました!!」


湯呑を受け取った店員は慇懃に礼をすると一陣の風となり店内へ消えた。


「−−……ねぇ、和樹」


「はい?」


声を掛けてきた伯符殿へ視線を向けると彼女は口元へ盃を寄せつつ俺を見ていた。


「…いきなりで悪いんだけど…和樹って人から“つまらない”って言われない?」


「………は?」


本当に突然、この御仁は何を仰るのだろうか。


「和樹ってさ〜基本的に自分から話を振らないじゃない?ほとんど聞いてるだけな感じがしてね〜」


「あぁ…良く言われますね」


「しかも途中で“結局はどうしたいんだ?”とか“だから?”とか結論を要求してきそうな感じがする」


「…………」


良く判らんが……何故か自分でも容易に想像できてしまった。


「……まぁ…確かに…」


「逆に将司とかは適当に聞き流して、適当に相槌打ちそう」


…あぁ…確かにそんな感じがしてならない−−……ちょっと待て。


何故、そんな話題が出て来たのだ?


というか、そんな話題に到る切っ掛けなんかあったか?


……まぁ……眼前の御仁なら当たり前か。


唐突に話題がコロコロと変わるのが常の彼女だ。


タマにある事だが、ついさっきまで「良い天気ね〜♪」と天気の話をしていたのに、次の瞬間には「そういえばこの前の戦ね〜♪」といった具合でベクトルが全く違う話題を全く同じ笑顔と口調で話すのが眼前の御仁だ。


それを部下連中に話すと……何故か…“何故”か俺の顔を注視してくる。


なんというか……まるで……「アンタが言うなよアンタが」って感じの視線を向けてくるのだ。



「……どしたの和樹?なんか、すっごく苦い顔してるけど」


「…いえ…なんでもありません…」


…気付いてしまった。今更ながら気付いてしまった。


俺もかなりの頻度でベクトルが全く違う話題を全く同じ口調で展開している事に……。


「−−良し!!和樹、もっかいやるわよ!!」


「…またですか?」


「ほら、そんな顔しない♪」


笑顔を浮かべながら彼女は俺の額へ手を伸ばすと細い指先で突いて来る。


「…はぁ…了解しました。お付き合い致します、我が主」










〜徐盛side〜




建業の、とある一画にある大衆食堂。


その店内の一画の卓上には美味そうな湯気と香りがする料理が盛られた皿と料理が無くなり汚れた大量の皿が積み上げられている。


「「……ッ!!!」」


「…………」


その様子を呆然と見遣るのは徐文嚮。


料理をまるで獣の如く食べる二人の少女と女性に圧倒されながら茶を啜る。


(…いつから食べてないんだろう?……っていうか…なんだか懐かしいような…)


そんな事を考えてしまうのは彼が似たりよったりな経験をしたからだろう。


(…旦那様もこんな感じで僕を見てたのかな…?)


行き倒れ寸前−−というよりそのものの彼を招き入れた和樹が最初にしたのは徐盛へ食事を与えたこと。


夜中だった為、握り飯しか作れなかったが、それを頬張った彼の双眸からはボロボロと涙が止まる事なく流れ落ちた。


−−まぁ“そんな事はどうでも良い”として、現在の状況を整理してみよう。


1:徐盛は金髪の女の子を連れて食堂に来た。

2:注文を取っていると何処からか青い髪の女性が現れ、二人で抱き合い「やっと見付けましたよ、お嬢様!!」、「七乃〜!!」と再会を喜んでいた。

3:同席して食事を始めた。

4:そして現在の状況に到る。



……うん、さっぱり整理出来ていない。


(……まぁ良いか。今更になってから考える事の方が阿呆らしい)


徐盛は自分に悪態をつきつつ湯呑を傾け、茶を啜った。






「美味かったのじゃ−−!!」


「ホントですねぇ、お嬢様ぁ。…マトモな食事が出来たのって…かれこれ一ヶ月振りです…」


食事が終わり、食堂を出た三人は大通りを歩く。


「…それは難儀でしたね。…ところで−−」


不意に徐盛が立ち止まり、背後を振り向く。


「−−何故、付いて来られるのでしょうか?」


彼は素直に疑問を口にし、背後から付いて来る二人へ視線を向けた。


彼の善意からの食事の提供は既に終わっている。


それなのに…態々、付いて来る理由が判らない。


「ほら、私達って御飯が食べられないほど、お金に困ってるじゃないですか」


「えぇ、御察し致します」


「だから……えっと……お名前なんでしたっけ…?」


「…私の名前も判らず付いて来ないで頂きたい。…徐盛と申します。字は文嚮」


普通は付いて来ないだろう、と徐盛は溜息を漏らしつつも丁寧に名乗った。


「御丁寧にありがとうございます♪私は…“張謙(ちょうけん)”、こちらは“袁陽(えんよう)”様と申し−−」


「うみゅ?七乃、何を申しておるのじゃ?妾の名前は−−」


「お嬢様、し−−っ!!」


「……………」


その遣り取りで徐盛は確信してしまった。


間違いなく偽名を使っていると。


「そっそういえば…徐盛くんに御礼を言わないと駄目ですね、お嬢様」


「ん?…おぉっそうじゃな。大儀であったの……えっと……」


「…徐盛です。先程、名乗ったでしょうに」


どうすれば、つい先程の事を忘れられるのかと疑問に思ってしまう彼は決して悪くない筈だ。


「うむ、徐盛じゃったな。それにしても凄いの、お主」


「…なにがでしょうか?」


突然の称賛の言葉に徐盛は訝しみ、聞き返してしまう。


「妾は気を失っておったが、お主は下郎共を倒したのじゃろう?…身体の大きさも違うのに大したものじゃ…」


「−−−」


−−“倒した”という少女の言葉に徐盛の身体が一瞬、痙攣した。


それに気付いた“張謙”は眼を細めつつ、視線を彼へ向ける。


「…“体格等に差があるならば、それを利用しろ”と師に言われておりますので、どうと言う事はなく。…それと礼は無用です。どうかお気になさらず」


動揺を悟られぬよう徐盛は冷静な言動に努めながら返答した。


「ほぉ〜…凄いのぅ……」


「凄いなど…御過分な評価です。私なぞ、まだまだ師の足元に及びません」


「…徐盛くん。失礼ですが…御歳は?」


「12ですが…それが何か…?」


「いえ、なんでもありません。ちょっと気になっただけでして♪」


「はぁ……」


どうも調子が狂う、と徐盛は考えながら咳払いをひとつし、話を元に戻すべく口を開く。


「…え〜…普通に食事が出来ない程、金に困っているというのは理解しましたが……それがどうして私に付いて来る事に繋がるのですか?」


徐盛は素直かつ率直な疑問を口にするが、一方の“張謙”は意外な表情をする。


「いえ、お仕事貰えないかな〜って思いましてね」


その返事を聞いた徐盛は−−


「………………は?」


−−唐突な事に眼を白黒させてしまう。


「え?だって徐盛くんって、何処かの御曹司か何かじゃないんですか?」


「………………え?」


「服やお腰の物も立派ですし、言葉遣いや身の熟しも洗練されている。相応の財産があり、文武の教育も受けている様子から判断したんですが……」


“張謙”の推理は、この時代の常識から考えれば当然と言える。


もっとも徐盛本人は主人である和樹から渡された物を着て、教えられた事を実践しているだけに過ぎない。


だが、ある特定の人間が見れば、名門の御曹司ないし、それに準ずる者−−と誤解してしまう要素が多い。


ちなみに最近は座学で孫子を和樹から教えて貰っているとか。


「……大変、申し訳ないのですが…私はそんな大層な者ではありません」


「えっ、違うんですか?」


“張謙”の意外そうな声に徐盛は苦笑しつつ首を振って肯定する。


「……私はただの使用人ですよ」


徐盛は偽りのない真実を語ったのだが−−


「……………え?」


−−“張謙”は呆気に取られたのか、おかしな声を発した。




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