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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第八部:日常という有り触れた日々
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「−−−…ふぅ…」


携えた荷物を床へ置くと深い溜息を零し、寝台に腰掛ける。


傷が癒えた俺はやっとの事で“苦痛”から解放された。


屋敷に帰っては来れたが……早い所、勘を取り戻さなくては。


心置きなく吸えるようになった煙草を着物の袂から取り出し、ジッポで火を点け−−深く吸い込み、紫煙を吐き出す。


−−唐突に忙しなく廊下を駆けて来る足音が響いてきた。


「−−旦那様!!」


「−−…なんだ?」


障子の向こうには小柄な人影が映り、その人物が声を掛けて来る。


「夕餉に食べたい物はありますか!!?今から買い出しに行って参ります!!」


「……別になんでも構わんが……強いて言えば−−」


「−−判りました、お肉ですね?」


「−−……まだ何も言っとらんぞ」


「旦那様の好物は存じ上げていますから。買い出しに行って参ります」


足音を響かせ、廊下を走り去る使用人の気配を感じつつ天井を仰ぎ−−紫煙を吐き出した。


「……居るか?」


「「「−−御前に」」」


傍らに降り立ったのは黒い装束を纏った三人の細作だ。


「…大儀だったな」


「勿体なき御言葉です」


「将軍の御回復を嬉しく思います」


「これからも宜しくお願い申し上げまする」


片膝をつき、俺へ礼を取る細作達へ横目で視線を向けながら吸い込んだ紫煙を吐き出した。


「宜しく頼む。……下がって構わんぞ」


「はっ」


「御用の時はなんなりとお申し付け下さい」


「では−−」


−−挨拶が終わると細作達が消え失せた。


……以前から思っている事だが……あんな動きが出来る人間を人間と呼ぶべきではないと思う。


……まぁ星の数ほどいるであろう細作の中でも優秀な人材である事は疑いようがない。


大多数の細作は大抵の場合、地味で普通−−噛み砕けば“何処にでも居る人間”だ。


だからこそ周囲に違和感なく溶け込み、有益な情報を送って来る。


……まぁ逆の人間も居たりするのだが−−…それは限られた者だけだろう。


少なくとも俺は聞いた事がない−−フィクション以外では。


「−−旦那様、行って参ります!!」


「…気を付けてな」


「はい!!萌々、留守番と旦那様の護衛を頼んだよ?」


これから買い出しに行く徐盛へ返事はしたが……その台詞はないだろう。


煙草を寝台の傍らにある卓上の灰皿へ押し潰してから溜息を零し、腰を上げると部屋の障子を開け放ち、縁側へ進み出る。


「…………」


−ハッハッハッ−


敷石の上で座り、舌を出しながら俺を見上げる萌々と視線がかち合った。


縁側で胡坐を掻き、萌々を見詰め−−自分の膝を叩く。


−?−


「…来い」


俺と縁側へ順繰りに視線を遣り、どうするか逡巡している萌々だったが−−やがて飛び乗り、膝へ自身の身体を預ける。


「……はぁ……」


−……………−


茶と黒が混ざった毛並みを撫でながら溜息を吐き出す。


寝そべる萌々は俺にされるがまま−−尻尾を振っていた。


「…まだそんな歳じゃねぇが…こりゃまるで隠居した爺みてぇだな…」


−クゥン?−


「……なんでもない。忘れてくれ」


……俺自身も“隠居”という言葉が口から出た事に些か驚いている。


そんな事には無縁の人種だと思っていたんだがな…。









Other side




「−−和樹の復帰は叶いそうか?」


「−−それは奴自身が判っているでしょう。奴が二度と戦えないと判断したのならば……いの一番に自分で脳幹をブチ抜いています」


「やはり…そういうモノか…」


「えぇ。我々はそんな人間の集まりです」


将司、亞莎、そして華雄が書類仕事に没頭する執務室を訪れたのは冥琳だ。


彼女は将司が仕事をこなす机へ素早く近寄り、唐突に彼に尋ねる。


それを聞いた彼は掛けていた眼鏡を外し、軽く目頭を揉みつつも当然の答えを返した。


「戦えなくなった傭兵…お話にならない。私も万が一、そうなるとしたら……間違いなく“コイツ”で脳幹をブチ抜いて始末をつけるでしょう」


「…将司様、そんなこと仰らないで下さい…」


「仕方ないさ。事実だからね」


「………」


腰の弾帯にある革のホルスターを軽く叩きつつ将司が語ると、それを快く思わぬ亞莎が苦言を放つ。


それに将司は彼女へ微笑を向けながら緩々と首を横へ振った。


「……戦えなくなった傭兵…戦えなくなったお前達……本当に“価値”がないのか?」


「…“価値”というモノが貴女にとって、どのような意味合いを持ち、どのような基準なのかは判りませんが少なくとも−−」


将司は筆を置くと椅子から立ち上がり、窓辺へ歩み寄る。


徐に軍服のスラックスから煙草を取り出し、ジッポで火を点け、吸い込んだ紫煙を外へ向けて吐き出した。


「−−…少なくとも……我々の基準では戦えなくなった傭兵には“一片の価値もない”」


「それが和樹だとしても……お前はそう言うのか?」


背中を向け、冷酷に断言する将司へ冥琳がその背を見詰めつつ尋ねる。


「−−無論、そのつもりです」


「…私が言うのもなんだと思うが……自分の主君の事を良くそこまで言えるな?」


「…貴殿も同じでは?」


「…ふっ……違いない…」

将司の言葉に彼女は苦笑を漏らし、腕を胸の下で組む。


「…然れども…今回はそのような事にならないようだ…」


「……安堵したか?」


取り出した携帯灰皿へ溜まった灰を落とし、彼は再び煙草を銜える。


「−−えぇ…この上なく…」


その言葉に彼女は微笑を浮かべた。


「−−…なぁ呂蒙…(ボソッ)」


「−−なんでしょう?(ボソッ)」


「……私が言うのもなんだと思うんだが…あの二人って……その…“アレ”か?(ボソッ)」


「…“アレ”…と申しますと?(ボソッ)」


「だからその……なんというか…その……“男女の仲”のというか…(ボソッ)」


「−−−……へっ?だっだだだ…男女の仲と申しますと…つまり…その…“アレ”ですか!!?(ボソッ)」


「声が大きい!!」


「「…二人共、さっきから煩いぞ」」




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